お話はこのようにして始まる。
ある日,UFOが郊外に不時着したことで有名な町,ストレンジタウンに一人の野心満々の男が引っ越してくる。彼の名前は“ベンチャー・リュウイチ”。なんというか,この時点でもうダメかなこの人? という雰囲気が無きにしもあらずだが,ヘンテコな名字の彼の野心とはもちろん「商売で一旗あげること」だ。ショッピング街である“ブルーウォータ村”に小粋なショップを開き,人々の評判を上げて大繁盛し,やがてはチェーン店に発展させて,ついには雑誌「フォーブス」の億万長者リストに12年連続で載り,なんだったら,世界一のお金持ちと呼ばれてもいいかな,という感じである。うらやましい。いや,オレがやらせてんだけど,その心意気やよし!
というわけで,去る3月16日に発売された「ザ・シムズ2」の最新拡張パック「ザ・シムズ2 ハッピーショップライフ! データパック」のリプレイ記事を,この私,停滞した日本経済界の兜町に風穴を開ける想定外の風雲児のヒルズ族こと松本が手短に経済的にお贈りしようという魂胆である。ええ,知ってる単語を並べているだけです。
いつものようにベンチャー・リュウイチを「キャラクターの作成」で作ったため,彼は成人の独身男だ。独身なのは私の趣味だが,実はその前に私の長年の夢である「夫婦共稼ぎ」を実現するため,初めて夫婦者のキャラクターを作成して実験していたのは秘密だ。しかし,円満な夫婦生活に忙しく,つい子供なんか出来ちゃったり浮気がバレたりなんかして,ぶっちゃけ,商売どころではなくなってしまったのだ。うーむ,慣れないことはやるものではない。いや,ビジネスを浮ついた気持ちでやっちゃダメなのだ。違う?
さて,商売を始めるといっても,“元手”がなければにっちもさっちも行かない。町に引っ越してくるとき幾ばくかの資金を持っているが,それで生活に必要な家具を買い,商売用の新アイテム「レジスター」や「営業中/閉店の看板」,あるいは商品陳列用の「棚」などを買ってしまうともう一文無し。仕方がないので,家具に値段をつけて販売するが,すると寝るところもなくなってしまうし,冷蔵庫を売っちゃったので食事も出来ん! こりゃ,儲かった金で家具を買わねばならないなあ。で,お金がなくなるので家具を売るしまない。それでまた儲かった金で家具を買う,と,なんだか「タコが自分の足を食べる」ような風情だ。控えめに言っても明らかに失敗である。
公共区画に店を構える資金もないので商品を庭に並べておいたら,レジ係(本人)が寝ている間に勝手に商品を持ってっちゃうヤツもいて,まさにシム人達の暗い側面を見た,という感じだが,それはこっちが悪いのかいな?
仕方がないので,また方針転換である。まず彼にはちゃんと就職してもらおう。「リュウイチ! いつまでもフラフラしてないで,ちゃんと就職して金を稼げ!」というわけである。自分で書いてて目頭が熱くなってくるのはいいとして,彼は「科学キャリア」を選び「被験者」として働き始めた。すごい仕事。被験者だってさ。つまり,まずちゃんとお金を貯めて元手を作ることにしたのだ。銀行とかベンチャー・キャピタリストとかがいればいいのになあ。
で,スキルを上げて出世し,給料を増やし,たまには家の掃除をしたり,食事を作ったり,町で見かけたあの子に電話して友好度を高めたり,デートしたり,望遠鏡で……。いかん,これじゃ普通の暮らしではないか! あのビル・ゲイ○が詰まった便器の掃除をしていたとはとても思えない。うーむ。
ビジネスとはひらめきである(みつを)。
リュウイチはひらめいた。新アイテム「チケットマシン」を玄関先に置いてみたのだ。これは,ショップにやってきたカスタマー(お客のことだね)から自動的に入場料を徴収するという夢のマシン。普通はゲーセンだとか,美術館,ディスコなど人の集まりそうな施設に置くべきものなのだが,これを普通の民家に設置するという斬新かつ革命的なアイデアである。などと,偉そうなことを言っても,まあ,常識で考えてダメっぽいので,「値段の設定」をうんと低めにした。
ところが,シム人とはこちらの予想を上回るヘンな人物が多いので,これが大成功だ。まるで,誘蛾灯に集まる虫のように,何の変哲もない民家に人々が集まってくるではないか。そして,リュウイチがご飯を作って食べるところとか,シャワーを掃除するところとか,椅子に座って「技術の勉強」するところとかを眺めるのである。不気味である。何を考えているのだろう,この人達?
そのへんにいるお若い女性に声をかければ,たちまちお友達。わざわざダウンタウンなどへ出かけなくてもガールフレンドがどんどん出来て,一石二鳥でさえある。チケットマシンの前で迷っている人には「セールス」だ。「お客さん,ここはね,すごく普通の民家なんですよ」とかなんとか言っているのだろうか? いずれにせよ,セールスを繰り返せば,スキルが上がり,「才能バッジ」までもらえてしまう。す,す,素晴らしい!
とはいえ,そこはしょせんただの普通の家。「カスタマーロイヤルティ」の星の数もなかなか集まらないし,「商売パネル」から「キャッシュフロー」を見ると,一週間がかりで本人の一日の給料ほども儲かっていない。トイレが一つしかないせいか「おもらし」していくお客さんも多く,掃除が面倒。それに,第一,つまんないし。
リュウイチはまたひらめいた。
邪魔な家具を全部売り払い,家の真ん中に「愛のバスタブ」をデンと置いたのである。これで女性客と必要以上に仲良くできるうえ,水着姿も見られ,しかも愛のバスタブは「願望の報酬」なので,設備に元手さえかかっていない。しかしまあ,それだけじゃ味気ないので,ミラーボールを取り付け,壁をタイル張りにしてみたところ,なんちゅうか,場末感覚漂う妖しいお店チックになってしまったが,これだ,これしかない! てなもんで,優雅に風呂につかりながら,客を待つリュウイチだが,好事魔多しというか坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというか,こんなときに限って,やってくるのは男の客ばかり。どんどん水着になるが,最高にしょんぼりだ。
しかも,一度に入れるのが4人で,どいつもこいつも長湯なため,客の回転率が悪いのなんの。そこで,ちょっと思案して,いささか値は張るが,普通のバスタブを購入/設置した。いわゆる男湯である。これでどうだ,と思ったが,今度は家が狭すぎることに気づいた。だいたい,安い家の居間にバスタブ二つは無理がある。お客さんはチケットマシンの前に長い行列を作り,セールスのためにお客さんに近寄ることもできず,電話の位置が悪くて鳴っても取れず,食事も立って取り,ああ,ちくしょう,狭い!
リュウイチは,風呂屋をやめて,ディスコを開店することにした。
この変わり身の早さこそ,ビジネス成功の要諦だ。私が言うのだから間違いない。ただ単にミラーボールが気に入ったから,という噂もあるが,違うぞ。ディスコなら,必要なのは「DJブース」と床だけ。壁を真っ赤に塗り直し,派手な絨毯を敷くと,ついさっきまでのあやしい風呂屋がたちまちディスコに早変わり。昼間は研究所で働く発明家だが,家に帰るとDJとなり,イェー,エビバディ乗ってるかーい! である。けっこう給料が貯まってきたので,ぐっと奮発して「巨大なゴリラの置物」(ピンク色)を購入して家の前に置いてみた。世間の皆様には「ゴリラのディスコ」と呼んでもらいたいのだが,シム語なので,いかんともしがたい。残念。
で,ここまで書いてきて気がついたのだが,このディスコ,「ザ・シムズ2」とハッピーショップライフ! だけをインストールしたプレイヤーには使えない作戦。というのも,DJブースは,前データセット「ザ・シムズ2 ホットナイト! データセット」のアイテムだからだ。
いやもう,書いている私もかなりの混乱に陥っているのだが,えーと,自家用車はホットナイト! のアイテムね。それからデート機能は? あ,それもホットナイトか。お客さんを友達にしてカリスマレベルを……,あ,それは「ザ・シムズ2 キャンパスライフ! データセット」の機能だなあ。といった具合に,どれが素のシムズ2のアイテム/機能で,どれが拡張パックのそれなのか,だんだん分かんなくなってきた。したがって,今回のハッピーショップライフ! だけでディスコはやれないのだが,いやもう,申し訳ない。
私は謝っているが,ゴリラのディスコは繁盛している。そろそろ仕事も辞め時かな,と思いつつキャッシュフローを見ると,な,なんと大赤字ではないか。カスタマーロイヤルティも向上し,地元の評判もきわめて上々なのだが,調子に乗って「ギターセット」(ああ,これはキャンパスライフ! のアイテムだ)とかゴリラとか,物品を買い揃え過ぎた。しかも,入場料は相変わらずたったの5シムオリオンなのだから,赤字で当然。ううう。
こりゃあ,当分仕事を続けなきゃだわ。
時間がないので,仕方なくDJを雇ったが,雇ったのは気持ちよいほど無能な男。まあ,最も時給が安く,したがって何のスキルも才能バッジも持たないヤツなので,当然っちゃ当然なのだが,ディスコの仕事はこいつに任せて本人は仕事に精を出す,という算段は見事に崩れた。ちょっと働かせるだけで「従業員インジケータ」はすぐ真っ赤になって,やる気なし。仕方なく休憩を取らせると,庭のバスタブで女の子は口説くは,ギターを弾きまくりで戻ってこないわ,で従業員の「管理」も大変な騒ぎである。いっそ「クビ」にしてやろうかと何度も思ったが,ほかの従業員候補者はもっと高給取りなので,貧乏ディスコ(ピンクのゴリラが目印)にはまだ無理だ。おらおら,キリキリ働け,この坊主!
ことほどさように,ビジネスの成功とは難儀なものである。知らなかったなあ。よく考えると,このところ,家と職場の往復ばかりだ。公共区画なんか行きたくても行けない。ああ,ダウンタウンにデートに行きたいなあ。結婚もしたいなあ。妻と「ウフフな事」をして子供を作りたいなあ,と,またしても筆者のことかリュウイチのことか分かんない状況に陥っている今日この頃のストレンジタウン。
意を決して,ブルーウォーター村にこれ以上考えられない,というほど小さな店舗を買い,おもちゃ屋を開店したのだが,またしても目の回るような忙しさだ。しかも,ディスコ経営で培った商売スキルは新店舗では通用しない(うっそー!)という非情のゲームシステム。新しい店を出せば,また一からやり直しなので,リュウイチは今日も店の外でおもちゃ作りに精を出すのである。いつかは,何十人もの従業員が右往左往するレストランとか,出入り口にお客が列を作るヘアサロンとか,夢は枯野を駆け巡りつつ,一日「ミスターレンガ」が2個売れて70シムオリオンの利益,みたいな日々を送っているのである。
がんばれリュウイチ。なんかゲームのやり方がどっか間違ってるのかなあ,という気はするが,寿命の続く限り,彼は尊い労働の汗を流し続けるのである。たぶんないと思うが,続きはいずれまた。