― 特集 ―

「東方」制作者インタビュー「シューティングの方法論」第1回

Interview and text by 八重垣那智

 2005年10月にレビューを掲載した「東方花映塚 〜Phantasmagoria of Flower View.」(以下花映塚)は,対戦弾幕シューティングという特殊なジャンルながら多くのファンを抱えるタイトルだ。統一された世界観を持ち,完成度が高く,かつ(テスト版とはいえ)リアルタイムのインターネット対戦を実現するというアプローチは,商業流通に乗っていない,いわゆる同人ソフトでありながら,各方面から高い注目を集めている。
 また花映塚は,「東方」とカテゴライズされる一連の作品群の一つとして位置づけられており,東方の名を冠したシューティングゲームはここ数年,定期的に登場し続けている。

 実はこれは,非常に重要なことだ。4Gamer読者には釈迦に説法かもしれないが,現実的な話として,(FPSを除くと)PC専用シューティングの商業作品というのは,ほとんど存在しないし,また発売もされない。PCというプラットフォームにおいて,本気でシューティングを楽しみたい場合には,アーケードからまれに移植されてくるタイトルを待つか,同人,あるいはフリーウェアといった,アマチュアの作品に頼るしかないのが現状である。
 4Gamerが先に花映塚を取り上げたのは――もちろん,オンライン対戦を実現した先進性,ゲームそのもののデキのよさもあるが――これが理由だ。待っていれば新作が出てくるMMORPGなどのファンからすれば,PCは明るいゲームの将来の象徴かもしれないが,シューティング好きにとってはそうではない。これは由々しき事態といえる。

 花映塚は,上海アリス幻樂団という同人サークルの作品だが,実際にはプログラム,音楽,(エンディングを除く)グラフィックのすべてが,制作者のZUN氏,一人の手によって作られている。一連の作品群についてもほぼ同様だ。では氏はなぜ,こう言ってはなんだが,商業作品のほとんどない,つまり売れない市場に向けて,同人という立ち位置からPC専用のシューティングを作り続けているのだろうか? 今回ZUN氏から直接話を聞くことができたので,開発の背景からゲーム観まで,じっくりと楽しんでいただければ幸いである。

ZONE K(KAEIDUKA)

■東方花映塚はファンサービス

4Gamer:
 今日はお忙しいところ本当にありがとうございます。最初は花映塚の話から伺いたいと考えています。まず,花映塚を開発することになった,直接のきっかけは何でしたか?

ZUN氏。顔出しNGゆえ,背後からの写真で失礼させていただきたい

ZUN氏(以下ZUN):
 実は,2005年の夏に新作を作るつもりはなくて,「今年は休むかな……」と思っていたんですよ。でも,よく考えてみると,今年って僕が東方を始めて10年目。10周年だったので,ちょっと記念に,ファンサービス的に出したものです。

4Gamer:
 花映塚の制作に当たって,最も注意したポイントはどこになりますか?

ZUN:
 プレイ時間です。プレイ時間から逆算して色々なものを作っています。プレイヤー同士の対戦だと,1ラウンドが1分から2分ぐらいで必ず決着するように調整したり。コンピュータ戦も同じというか,むしろ,コンピュータ戦はもっと顕著で,ある意味“時間だけ”のようにしてあります。

4Gamer:
 確かにリプレイを見ていると,コンピュータは,最後はやたらとあっさりやられてしまいますね。

ZUN:
 対戦ゲームで,一番何がイヤかって,コンピュータが強すぎたり弱すぎたりすることなんですね。強すぎればムカつくし,弱すぎてもなめられているような感じがする。
 あと,コンピュータを強くしていくと,決まったパターンでしか倒せなくなってしまうんです。例えば花映塚のコンピュータ戦で「こちらからの攻撃の送り具合でダメージが増減する」ようにしますよね。こうなると,「この攻撃をこうやる」といった感じになってしまう。分からなかったら一生倒せない。だから,まずそれだけは避けなきゃいけないなと。
 一定時間が経過するとコンピュータがあっさりやられるのは,時間というものの道しるべみたいなものです。ただ,それだけだとプレイヤーに気づいてもらえないかもしれないと思ったので,分かりやすくするため,Extraモードでは最初からタイマー出しておきました。そういうのが個人的には一番納得がいくので。

4Gamer:
 その意味で,一人プレイは対戦のおまけなんでしょうか?

ZUN:
 コンピュータ戦は,いわゆる対戦ではなく,わざと反撃を誘って点数を稼いでみたりってところを楽しんでもらうのが一番かな。コンピュータって,どうやっても納得のいく死に方はしてくれないような気がするので。

4Gamer:
 やはり理解として,コンピュータ戦は対戦ではないのですね。

ZUN:
 ですね。花映塚だと,弾は消せますけど,基本的な防御手段は避けるだけじゃないですか。ゲームそのものを,格闘ゲームのように攻撃と防御を一体化させたようなものに作り替え,「プレイヤーの攻撃に対応を選択して反撃する」仕組みにしないと,おそらく“コンピュータとの対戦”は実現できないでしょう。
 いろいろと悩んだんですけどね。コンピュータ戦は,どちらかといえばストーリー読んでてください,ぐらいの感じです。

4Gamer:
 では,それなのになぜ形式が対戦なのでしょう?

ZUN:
 対戦自体が,一番のファンサービスだからです。周囲を見ていて,ファン同士が集まる機会が増えてきたと思ったからですね。オフ会とか何らかのイベントとかで,みんなでちょっと遊んでもらえればいいなと。でも,対戦だけ出してみてもファンサービスじゃないので,一人のときでも遊べるように,いろいろとストーリーを入れて。
 だからといって遊び自体がつまんないかというと,そうではなくて,何も考えずに遊んでいれば,楽しいかなってぐらいに。一人でも気楽に遊べるぐらいにはなったと思うんですが。

4Gamer:
 対戦ゲームがいくつかある中で,システムを「ティンクルスタースプライツ」(以下ティンクル)方式にした理由を教えてください。

ZUN:
 いろいろありますよね,今年ティンクルが出たとか(筆者注:プレイステーション2版「ティンクルスタースプライツ - La Petite Princesse -」のこと)。
 ただ根本は,僕がティンクルを好きだってところにありますね。同人というカテゴリのいいところは,商業作品と違って,好きなモノを作れるってことなので。
 商業じゃ花映塚の存在は許されない。ある意味同人の甘いところであり,あえて甘えているところかもしれません。

4Gamer:
 その割には,ティンクルの「相手との駆け引きに当たって,連爆で組み立てていく厳しさ」のようなものが,花映塚では追求されていない気がします。

ZUN:
 ティンクルのそこが面白いかどうかというと,個人的には微妙で,ティンクルは好きですけど,「そこが本当に面白かったか?」って思いますね。むしろ,ティンクル式で弾幕ゲームってのも面白そうというのは,開発当初から当然考えていました。
 それに,ティンクルが好きでティンクルをマネているのに,ティンクルにする必要がないのも同人のいいところです。もし花映塚がティンクルの続編だったら許されないですが。

 ティンクルを意図しながら,ティンクルが持つ駆け引きのシステムにこだわらない。このことに,まず驚かされた。そのまま話は脱線して,ティンクルのプレイステーション2版がどう,やはり元祖NEO-GEO版こそ最高なのでは,などという方向に行ってしまったので,本記事では割愛。さらに「閃光の輪舞」(2005年,グレフ)や「チェンジ・エア・ブレード」(1999年,サミー)という,シューティングで直接対戦の要素が強いゲームの話で脱線が続く。
 面白いと感じたのは,花映塚では直接攻撃で対戦するこうしたゲームよりも,逃げることを優先し,結果として相手に攻撃がいくシステムを理想にしたという話だ。ZUN氏いわく「シューティングで一番好きなのは受け身の部分」とのこと。与えられたものに対処することでより難しい新しい課題が与えられる。敵は倒しに行くのではなく,迎え撃つ,というのがZUN氏のシューティング観のようである。

■花映塚におけるネット対戦の立ち位置

4Gamer:
 最終的に花映塚のプレイヤーには,ネット通信対戦で楽しんでほしいということなんでしょうか?

ZUN:
 いや,通信対戦の最大の目的って何かというと,僕の勉強だったりするんです。ネットワークプログラムを試しにやってみたかった。一度やってみれば,先の新しいことが考えられるかなと。
 もちろん,ネットワークプログラムを組んだのも初めてです。しかもあれに要した時間って,1週間か2週間ぐらいですよ。その後が,試すので結構大変でした。遠くの友達を探して試して,色んなバージョンを出してチクチクと。

4Gamer:
 現状(編注:2005年12月上旬現在)でそのネット対戦はテストバージョンなのですが,これから完成版としてリリースされる予定はありますか?

ZUN:
 完成って感じにはならないかもしれないです。一応バージョンアップや,バグを取ったのは用意してある状態なんですけどね。ただ,正式にリリースすると,正式である以上,どんな人でも遊べないといけない。それは,ハードルがかなり高いです。

家庭用の,いわゆるブロードバンドルーターから,花映塚の対戦で要求される17723番ポートを開けている例

4Gamer:
 「とりあえずこのポートを開けてね」というのが,初心者層にとって高いハードルになっているのは,商業のオンラインタイトルにもついて回っている問題です。

ZUN:
 ええ。ネットワークに対しての知識とか。ポートを開けるとか,プレイヤーにそのあたりを全部求めてしまっていいのかといえば,かなり難しいですね。

4Gamer:
 では,用意できていると仰った新バージョンの対戦パッチについて聞かせてください。懸案の,同期ズレの改善は行われますか?

ZUN:
 同期ズレを完全になくすのは難しいですね。次のパッチではかなり改善していますが,100%は無理だと思います。絶対ズレないと保証することは,たぶんできません。「もしズレてしまったら,タイトル画面に戻ってくれれば,もう一回きちんと同期を取れることは保証しますよ」くらいが限界かなと思います。

4Gamer:
 だとすると,同期ズレが目で見て分かるようになるとかできるようにするとか,そういった対処をする予定が?

ZUN:
 同期ズレを目で見て分かるようにするのは簡単ですね。「おかしくなりました」って画面に出すのはきっとできる。確かに,そういう対処の仕方をするかもしれないですね。

4Gamer:
 それはいつくらいのリリースになりそうですか?

ZUN:
 パッチ自体は一応作ってあるんですけど,リリースは年末とか来年とかになると思います。簡単に対処できる不具合を直したものは出るでしょうね。最終的には,ちゃんとうちのサークルのWebサイトからダウンロードできるようにしたいとは考えています(編注:2005年12月上旬時点で,ネット対戦パッチは,上海アリス幻樂団からではなく,ZUN氏の日記からダウンロードするようになっている)。

■「スコア」という楽しみ方

4Gamer:
 花映塚全体として,プレイヤーからの反応はどうなんでしょう。難しい,簡単でいうと,簡単のほうが多いんですか?

ZUN:
 簡単という意見は,花映塚に限らずあまり来ないんですよ。反対に,どんなゲーム作ったときでも必ず「難し過ぎる」というメールが来ます。花映塚でも結構多くて。
 簡単な人は何も言わないんでしょうね。むしろ「ちょっと物足りないな」「これじゃすぐ飽きちゃうな」って考えるくらいで,わざわざ「すぐ飽きました」とメール送る人はいない。だから「難しくてクリアできねえよ」という怒りがメールとして届くんでしょう。

4Gamer:
 花映塚に「飽きた」と言っている人は,一人プレイに言及していることが多いように感じます。

ZUN:

 今回は一人プレイをそんなに考えていませんからね。一人プレイは対人戦とは違うもので,先ほどもお話したように,時間内でどれだけ稼げるかになりますから。それをやり出すと,結構面白いですよ。

4Gamer:
 確かにプレイしていると感じますけど,プレイのやり方をちょっと変えただけで,だいぶスコアが変わってきます。

ZUN:
 スコアを稼ぐには,敵に反撃させるように,自分からわざと攻撃を送っていくのがコツですね。ちょっと難度が上がって面白いくらいです。
 時間だけがコンピュータを倒せる条件だから,最初のうちに攻撃を送ると絶対に反撃される。そういう仕組みが分かってると,また面白くなってきて。対戦シューティングなのに,そんな遊び方でいいのかというと,自分でもちょっと疑問ですけど。

4Gamer:
 スコアが伸びるのを楽しんでほしいというところに,ゲーム性のキモを置いているということなんでしょうか?

ZUN:
 ゲーム性は色々なことが考えられるし,色々なことが言えるんですが,ゲーム性の原点というのは――変かもしれないですけど――スコアだと思うんです。何かをやった結果として,これは良かった悪かったって明示的に分からせる。それがゲーム性なんじゃないかと。
 弾を射つ爽快感があるとか,避けるときの技術とか,そういうのはそのゲーム固有のテクニックだったり個性だったり,それに近いものだと思うんですよ。コレをやったから何点で,アレをやらなかったから何点低い。そういうことで「点数を高めるためにはどうすればいいんだ?」と考えることが,ゲームの原点のような気がするんですね。
 別に花映塚だけに限った話でも,シューティングに限った話でもなくて,スコアを稼ぐと「あなたは素晴らしい」って称えられる。数字で出ていなくてもいいんですけど,それがいわゆるスコアじゃないかと。ゲームをプレイしていて「ああ,これが正解なんだ」と分からせるものがスコアだと考えています。

4Gamer:
 ただ,ゲームの本来の目的とちょっと違う,普通はやらないようなベクトルに進むと,スコアを多く稼げるようなゲームが多いと思うのですが。

ZUN:
 そうですね。スコアがゲームとあまりにも離れてしまっていて,敵を倒さないほうが点数が高いとか,もう本末転倒なんですよ。
 それをなくしたいっていうか,スコアを上げるのがいいんだということを,もうちょっと分からせてあげたいですね。今のゲームって,どうしてもそういうわけにいかなくなってて,それがプレイヤーをゲームから遠ざけるというか,理解しにくくなって,みんな投げ出したくなってる。スコアなんてどうでもいいよ,って話になってしまう原因だと思うんですよね。

4Gamer:
 スコアによる評価の信頼性が高いものが,良いゲーム足り得るということでしょうか。

ZUN:
 今,携帯ゲーム機で頭脳パズルのようなゲームが出ているじゃないですか。あれってものすごく単純なゲームで,ちょっとしたミニゲームみたいなものをやると,スコアが出ます。100点とか300点とか。あれは点数が高いほうがいいわけですよ。
 だから,スコアを高めるためにちゃんと答える。テストに近い状態ですけど,あれはあれでスコアを競うゲームになってるんです。あれはもう,スコアを稼ぐにはどうすればいいか,スコアが高いのはなぜかすぐ分かるから,普通の人でもすんなり入れる。何の説明がなくても,スコアが出て納得いけてますよね。花映塚だと,コンボボックスがちょっと複雑だったかなと反省もしてるので,ああいう,単純なところに戻ってもいいのかなと考えています。

 

タイトル 東方花映塚 〜Phantasmagoria of Flower View.
開発元 上海アリス幻樂団 発売元 上海アリス幻樂団
発売日 2005/08/14 価格 1000〜1500円程度
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 8.0),CPU:Pentium以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 8.0以上に対応,グラフィックスメモリ:32MB以上,パッドコントローラ推奨

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