― 特集 ―

さくらインターネット代表取締役 笹田亮氏インタビュー

Text by Kazuhisa/大路政志,photo by kiki 

 
「D&D Online」を選んだ理由と,その勝算

4Gamer
 しかし数あるMMORPGの中からDDOとは,ずいぶんと渋いところを選びましたね。

 

笹田亮氏
 Turbineのエージェントからイクスフェイズに,本格的に日本進出するにあたり,ローカライズを任せられるパートナーを探していると話がきたんです。そこで,さくらインターネットをプッシュしてくれたわけです。
 で,Turbineの直近のゲームがDDOだったので,今回の契約でまずはDDOの日本展開をしよう,ということになりました。D&Dというと,ちょうどわたしの年代が中心だとおもうんですけれど……。

 

4Gamer
 ちなみにおいくつなんですか?

 

笹田亮氏
 33才です。

 

4Gamer
 あら,意外とお若いんですね。さくらインターネットの社長で,EverQuestを8年間続けていてたということだったので,もう少し上の年代かと思いましたが。

 

笹田亮氏
 僕が中学生から高校生くらいの頃に,日本でもD&Dがちょっと流行りまして。当時,テーブルトークRPG版をプレイしたこともあります。
 今回のDDOに関しても,タイトル名で反応してくれるのは,だいたい30代前後の人だと思うんですが,その辺の層を中心に,多くの人に遊んでもらえればなと考えています。

 

4Gamer
 数十万人の会員を集めて,アイテム課金で……,という,現在流行しているビジネスモデルとは,まったく別の方向で展開していくんですか?

 

笹田亮氏
 そうですね。DDOに関しては,完全に月額固定制で考えています。アイテム課金というビジネスモデルは,DDOに関しては向いていないと思うのです。
 DDOは,一般的なMMORPGとはかなり仕組みが違います。敵を倒しまくってレベルアップとか,そういうゲームではなく,クエストをクリアしてキャラクターを成長させていくゲームですからね。

 

4Gamer
 そもそもベースがD&Dだから,新しいアイテムを乱発するわけにもいきませんしね。その方式だとゲームバランスが崩壊するうえ,そもそも権利元から許可が出ない。

 

笹田亮氏
 そうですね。ご存じのように,DDOに採用されているのはエベロンという世界観なのですが,日本ではホビージャパンが,夏から秋にかけて設定資料集をリリースするという,世界的に見ても「新しい世界」なんです。
 DDOは,エベロンという世界観を全世界で共有し,その設定の中でみんなで遊ぼう,という趣旨のゲームなので,そういう意味でも,勝手にアイテムを作って販売するということは,できないんですよ。

 

4Gamer
 仮にアイテム課金を採用したくても,DDOに関しては,最初からその選択肢はないというわけですね。

 

笹田亮氏
 そういうことになりますね。

 

4Gamer
 先ほどDiabloの名前が挙がりましたが,それだけ古い時代からオンラインゲームをプレイしてきて,ここ最近のMMORPG業界の市場性についても重々承知だと思うんですが,それを踏まえた上で,DDOの勝算というのはどの辺にあると考えていますか。

 

笹田亮氏
 今日本で流行っているオンラインゲームというのは,二極化していると思うんです。一つは,カジュアルゲームに代表されるようなライトなゲーム。もう一つは,月額課金中心で,レベルMAXまで非常に時間がかかるタイトルですね。
 DDOは,比較的アクション性が高いので,プレイにメリハリがある。クエスト単位でのゲーム進行が基本だから,あまり時間がない人でも遊びやすい。もちろんD&Dをベースとする作品なので,システムや世界観の深さも最上級です。従来のMMORPGと重複する部分の少ない作品なんじゃないかと考えています。

 

4Gamer
 DDOは,重厚な印象とは裏腹に,いわゆるMOタイプのゲームプレイが基本ですからね。最近だと「ギルド ウォーズ」が同様にMOタイプで,短時間でもプレイできる点が高評価です。
 しかしD&Dの世界観はかなり濃いので,ライトユーザーにはちょっとハードルが高かったりしませんかね?

 

笹田亮氏
 基本的なゲーム部分は,エベロンの世界観を理解していなくても十分遊べるタイトルですし,ゲーム性に関してもアクション要素が高いので,日本のゲーマーには親しみやすいと思いますよ。

 

4Gamer
 実際に遊んでみると,結構「忙しい」ゲームですからね。何となく,コンシューマ機のアクションゲームを彷彿とさせるプレイフィールが楽しい。

 

笹田亮氏
 そうですね。回避行動も自分の操作で行うし,攻撃もクリックで繰り出すので,そういう意味では忙しいですよね。とくにコンシューマ機では,アクションRPGの人気が高いですし,そういった意味では,日本のゲーマーに向いているタイトルだと思うんですよね。
 あとはコミュニケーション面でも,大作MMORPGのように大規模なコミュニティを形成しなくても遊べるので,仲間同士の気軽なプレイが楽しめます。また,ボイスチャットに標準対応している点にも注目してもらいたいです。

 

4Gamer
 確かに。まだまだボイスチャット対応を謳うMMORPGは少ないですし,それは魅力かも。

 

笹田亮氏
 アクション性が高いゲームなので,戦いながらチャットするのはかなり厳しいですからね。ボイスチャットを積極的に活用するという,新しいコミュニケーションの形を提案できるんじゃないかと考えています。

さくらインターネットの強みを生かした販売/コミュニティ展開で勝負

4Gamer
 最近ではEverQuest IIの日本運営の中止が決定し,「コア向けのMMORPG市場は厳しいんじゃないか」という雰囲気も漂いつつありますが,その点についてはどうお考えですか?

 

笹田亮氏
 パッケージ販売に頼ったPCゲームというのは,日本のPCゲーム市場には向かないと思います。実際,PCゲーム市場における,日本のPCゲーム売り場の棚には,仮にそのスペースを全部独り占めしても,5万本しかおけないんですよ。

 

4Gamer
 そう言われてますね。

 

笹田亮氏
 で,ゲームをプレイしたい人すべてが,秋葉原や大阪の日本橋に行けるわけではない。首都圏以外に住んでいる人は,通販などを利用し,送料を別途負担しなければならないわけですね。
 じゃあどうするか? 当社は非常に大きなバックボーンを持っている,ネットワークを中心とした会社ですから,やはりダウンロード販売を中心に作品を流通させたいと考えています。
 パッケージが欲しいという人もいるので,もちろんパッケージも作りますが,ゲームを流通させるときには,ダウンロードとパッケージ,複数の流通を用意するつもりです。

 

4Gamer
 なるほど,さくらインターネットの強みがそこで爆発するわけですね。

 

笹田亮氏
 ええ。国内最強のFTPサイトを作ろうと考えています。

 

4Gamer
 DDOレベルの大作海外ゲームで,ダウンロード販売というのは,あまり例を見ないですよね。

 

笹田亮氏
 本国ではパッケージ販売のみとなっているし,ヨーロッパでもパッケージ販売を前提に話が進んでいたようでした。
 ただ,日本に関しては,公式サイトからダウンロードできるという仕組みは絶対に必要だろうということで,Turbineと交渉しました。さらに,本国での価格は50ドル前後ですが,日本ではもう少し低価格で販売したいという話もしています。

 

4Gamer
 それはかなり特例ですね。アメリカのデベロッパはダウンロード販売に理解がないような印象を受けるのですが。

 

 

笹田亮氏
 そうですね。本国としては,「DVDを郵送すればいいじゃん」で話が済んでしまうところでしょう。しかし,日本に関してはそれは違うと。基本プレイ料金無料のMMORPGがいくらでもある環境で,パッケージ版は8000円ですといわれても,普通手を出さないですよね。
 ダウンロード販売ならば,思い立ったが吉日でプレイできる気安さもある。

 

4Gamer
 ダウンロード版に関して,どれくらいの無料プレイ期間を想定していますか?

 

笹田亮氏
 ダウンロードしてから2週間程度を,無料体験期間として考えています。ダウンロードして2週間プレイするまでは,とにかく無料でプレイできます。遊んでみて,ゲームの魅力を体感してもらって,はじめてパッケージ料金と月額料金を払っていただく形です。

 

4Gamer
 なるほど。

 

笹田亮氏
 通常,ダウンロードモデルをストレスなくやろうと思うと,10Gbpsくらいのバックボーンを用意して,ダウンロードサーバーを複数ならべなければなりません。通常だと,それだけでゲームの損益分岐点をかなり圧迫するんですが,当社に関しては,そういった部分で強みが発揮できます。
 また,それ以外にも,雑誌の付録にクライアントを収録したりと,さまざまなソリューションを用意する予定です。

 

4Gamer
 ちなみに,クライアントのサイズはどれくらいになりそうですか?

 

笹田亮氏
 約2GBのクライアントと,約1GBのクライアントの2種類を用意する予定ことになると思います。購入者の使っているPCスペックに応じて,ハイエンドPC用/ロースペックPC用を選べるような感じですね。

 

4Gamer
 例えば,ローグレード版を購入した人が,あとからハイグレード版にしたいと考えた場合はどうなるのですか?

 

笹田亮氏
 もちろん,ハイグレード版をダウンロードするだけで対応できます。基本的に,パッケージ版にはハイグレード版が収録されているので,ハイグレード/ローグレード版の選択は,あくまでダウンロード購入する人への配慮なんです。ハイグレード版を導入してもらえば,オプション設定でローグレード版に変更できますしね。

 

4Gamer
 なるほど,要は,単にクライアントに収録されているグラフィックスデータの差が,ハイグレード/ローグレード版の違いということなんですね。

 

 

笹田亮氏
 はい,そのとおりです。ハイグレード版の設定で遊ぶつもりがない人なら,ダウンロードが早く済んだほうがいいよねと,そういうことです。

 

4Gamer
 まぁ,学校や会社へ行く前にダウンロードを開始しておけば,帰宅したときにはダウンロードが終了しているでしょうけどね。

 

笹田亮氏
 ですね。ダウンロードに30分かかるか,1時間かかるかくらいの差ですから,多くの人はハイグレード版をダウンロードすると思います。

 

4Gamer
 30分ときましたか。バックボーンにはかなりの自信があるようで(笑)。その点には,ユーザーさんも大いに期待しているでしょうね。

 

 

 

 

タイトル ダンジョンズ&ドラゴンズオンライン:ストームリーチ
開発元 Turbine 発売元 さくらインターネット
発売日 2006/08/10 価格 ダウンロード版 1500円(税込) 利用料金:1500円/1か月(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.60GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上,グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:3GB以上

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