― 連載 ―

松本隆一の海外新作ゲームインプレッション

今度はアメリカ海兵隊の訓練ソフトがゲームに

Close Combat:First to Fight

リアル系分隊ものFPSに変身したClose Combat


アメリカ海兵隊の訓練用ソフトがPCゲームに。もともと,第二次大戦モノのストラテジーだった"クロースコンバット"シリーズに,最新作として「Close Combat:First to Fight」が登場。今度はリアル系FPSに生まれ変わり,分隊指揮官として3人の兵士を率いつつ,戦火に燃えるベイルートで数々のミッションをこなしていく

 海兵隊の訓練といえば,「フルメタルジャケット」のハートマン軍曹のような訓練教官が出てきて「今のお前たちはアメーバ以下の生命体である! だが安心していいぞ。海兵隊がお前達を男にしてやる!」とかなんとかいって,哀れな新兵たちを鉄拳でガシガシしごく,というのが相場だった。しかし,このソフトでマイルドな時代に,そんなことはいっていられないらしく,いよいよ海兵隊もゲームを使って訓練することになったらしい。
 アメリカ軍がらみのタイトルといえば,陸軍の「America’s Army」「Full Spectrum Warrior」が知られているが,今回紹介する「Close Combat:First to Fight」(以下,FtF)も,もともとは海兵隊のトレーニングツールとして開発され,それを多少改良してゲームにした作品だ。リアリティと訓練の有効性を高めるため,40名の現役海兵隊員が制作に協力しているとのこと。
 もともと"クロースコンバット"シリーズ(CCシリーズ)といえば,第二次世界大戦を舞台にした見下ろし視点のストラテジーとして日本にもファンの多いタイトル(例えば「こちら」)。訓練シミュレータの開発に当たったDestineerが,CCシリーズの開発元であるAtomic Gamesを買収し,新作であるFtFにも知名度の高い「クロースコンバット」の名を冠したらしい。とはいえ,本作はFPSであり,ゲームの時代背景も現代に変わったため,従来のCCシリーズとはまったく関係がないといっていいだろう。

所持しているのはM-16A4突撃銃。グレネードランチャーおよびスコープ付ののハイテク銃だ。敵のAKも拾って使える
 2005年前半に登場した注目FPSとしては,「Brothers in Arms」「SWAT4」,そしてこのFtFがあり,見たところリアル系の分隊ものがちょっとしたブームのようだ。前2作はいずれも高い評価を受けているが,さて,このFtFはどうであろうか?
 ところで海外新作ゲームインプレッションと題しておきながら,一度も新作らしい新作のインプレッションをお伝えしたことがない当コーナー。今回紹介するのも4月発売のタイトルである。ううむ,おっかしいなぁ。

 ゲームの舞台は,2006年のベイルート。かつて「中東のパリ」と謳われた風光明媚な町だが,長い内戦ですっかり荒廃している。マニュアルには状況設定が非常に細かく書かれているのだが,現実には,今年始めにシリア軍がレバノンから段階的に撤退しているので,ちょっと状況が変化している。メーカーとしては「なんで28年も駐留していたのに,よりにもよって今年?」という気持ちかもしれないが,国際情勢はかくも複雑である。

部下は敵を発見すると自動的に攻撃を開始するので,手間いらず。敵の数はちょっとびっくりするほど多い 遠くの敵はスコープを使って着実に倒していく。だが,立ったままだと照準がふらつき,なかなか当たらない

 そんなことはどうでもいいが,プレイヤーは4人一組で編成される海兵隊の火力班(ファイアチーム)を率い,レバノン民兵,過激派,シリア兵,イラク兵などと戦い,数々のミッションをクリアしていくわけだ。訓練目的で開発されただけあって,部下に対する命令は分隊単位だけでなく各個人へも下せ,その種類も多い。また,兵士には「ヘルス」のほかに「士気」と「規律」のパラメータがあり,敵の攻撃を受けたり仲間が戦死したりすると,それらの数値が低下して,反応が鈍くなったり命令にすぐに従わなくなったりする。

 マルチプレイには,4人一組になってシングルミッションに挑むCoopと,8人が2組に分かれて戦う対戦モードが用意されているが,今のところ参加者はあまり多くないようだ。


扉に関しては「突入して制圧しろ」と命令できる。グレネードの併用も可。主な命令は右クリックで呼び出せる ストーリーは,各ミッションの前に挿入されるニュースムービーで表現。内容はあまり気にしなくてもよさげ ミッション終了後にこのような評価が下される。ただし,評価によってゲーム進行に変化があるわけではない

AIにちょっと難ありだが,リアル系の基本は押さえた作り


プレイヤーを含めて各兵士には役割があり,十分に把握しておかないと能率的な攻撃はできない。そのへんが実際の訓練の眼目になるのだろうが,もう海兵隊員にはなれない筆者(主に年齢的な理由)にすれば,ちょっと面倒。とはいえ,ただのFPSとしても十分遊べるので,マニュアルは絶対に読まないと誓ったあなたでも大丈夫である

 プレイヤーは海兵隊チームを率いるわけだが,残念ながら肝心のAIに,やや問題があるという印象を受けた。彼らはよく訓練されており,あれこれ命令しなくても勝手にマニュアルに従った行動を取ってくれるのだが,例えば間違えて敵の目の前に「移動」させてしまうと,銃を構えた敵の前まで一生懸命走り,反撃もせず各個に撃破されてしまう。あるいは,何もないところで「制圧射撃」を命じると,一生懸命地面をバリバリ撃ちまくるなど,まあ,間違えた命令を下した私が悪いのだが,もう少しなんとかしてほしい気もしないでもない。

 ドアについては「突入してクリア」といった命令が下せて,彼らは巧みに行動して室内の敵を一掃してくれるが,マップにはオープンスペースも多く,どの命令を使えば効果的なのか迷ってしまう場面もしばしばだ。そんなわけで,ついつい「じゃあ,俺が行くよ。行けばいいんだろ」といった展開になりがちで,私個人に関していうなら,分隊システムがうまく機能しているとは思いにくい。

敵の拠点に向けて突入命令を下すと,部下達はまっすぐに走っていく。勝つときもあれば負けるときも。いいのかそれで
各兵士には,ヘルスのほかに士気,規律といったパラメータが用意されている。やる気あるね,あんた
 敵の出現位置は固定だが,中にはかなり積極的に移動して攻撃してくるやつもいるので,何度かやり直しても同じ展開にはならないのがよいところ。撃たれたときのレスポンスも多様で,足を引きずって逃げたり,戦意を喪失してふらついたり,息を荒くしたりと,けっこう面白い。
 敵に降伏を呼びかけることも可能で,ひざまずいて両手を上げた敵には手錠をかけられる。ただ,敵が投降することはあまりなく,呼びかけている間にこちらがダメージを食ってしまうことが多いので,ミッションの最後に出てくる評価値をよほど気にするプレイヤー以外,単純に撃ってしまうことになりそうだ。
 敵がこちらの存在を気にせず,我が分隊の中を通り抜けて行ったりたり,仲間が撃たれても気づかないなど,ちょっとおかしな点もある。また,逃げる敵が壁の中に消えるという超常現象も何度か目撃しているので,大したことではないと思うが,このへん,パッチでの対応がほしいところ。

 マップは,ちょっとした迂回路はあるが,基本的に一本道で,途中にあるいくつかのチェックポイントを通過しながら進んでいく形式。セーブもチェックポイント単位だ。リアル系らしく,「ジャンプなし。移動はゆっくりめ」だが,珍しいことに敵の落とした火器類を拾って使用可能だ。ダメージは食いやすく,移動が遅いので,敵がグレネードを使った場合,分かっているのに逃げ切れなくて悔しかったりする。
 グラフィックスは写真にもある通り,かなり美しく,ベイルートの町並みの雑然とした感じがいい。オブジェクトの作り込みもなかなかだし,「影生成」もちゃんとなされており,影を見て敵の位置を確認できるほど。とはいえ,ときどき壁を抜けて影が落ちたりもするので要注意かも。

夜間任務やトンネルの中など暗いロケーションも多いので,ナイトビジョンは重宝する。視野は極端に狭い トラックに機関銃を積んだ,おなじみ「テクニカル」。これ以外に,LAV8輪装甲車,戦車なども出てくる

 全体として,FPS部分と分隊を使ったストラテジー要素がうまく溶けあっていないという印象だ。部下の扱いがやっかいで,なかなか思ったとおりに動いてくれない。もっともこれは,私の熟練度が低いだけで,今後のやり込み次第では印象が変わるかもしれない。単純なリアル系FPSとして遊べば,緊張感もあり,ロケーションも面白い。また,戦闘もけっこう多彩だし,ヒットするプレイヤーも多いと思う。残念ながら,今のところデモ版は出ていないようだが,こういうジャンルがお好きな人はいっちょ購入してみるとよいだろう。


滅多にないんだけど,たまに傷ついた敵が投降することもある。手錠をかけて,安全を確保するのだ 部下が負傷して行動不能になった場合,衛生兵に回収してもらう。いついかなるときもやって来る頼りになるヤツ

戦闘は,こちらもダメージを食いやすく,かなり厳しい。最高難度のシミュレーションモードでは,一発でも当たるとほぼゲームオーバー。敵の数が多く,時間差で現れるので,油断は禁物である

ちょっと微妙なBGM

 ドアを指して部下に突入準備の命令を下した途端,なんちゅうか,文字で説明するのは難しいのだけど,ジャカジャンジャンジャンと非常に勇ましいBGM。そして,突入と同時に今度は盛り上げ系のメインテーマが高らかに響き渡る。という演出は,部下達がうまく敵を一掃してくれた場合は大いに嬉しいのだが,そうでない場合は比較的むなしい。

チュートリアルは一見の価値あり

 チュートリアルはムービーなのだが,このムービー,狙ったものなのかどうなのか「お役所が広報用の映画を作ったらこうなるだろうなあ」という雰囲気がたいへん良く出ていて面白い。ゲームの途中,例えばドアの前に初めて立つと,「さて,突入の方法だが……」と,突然ムービーが始まって驚く仕掛けだ。さすが訓練用ソフト,という感じがひしひし。


タイトル Close Combat: First to Fight
開発元 Destineer Studios 発売元 2K Games(Take-Two Interactive Software)
発売日 2005/04/18 価格 39.99ドル
 
動作環境 CPU:Pentium III/1.33GHzまたはAthlon 1.3GHz以上[Pentium 4/2GHz以上またはAthlon XP 2000+以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上[64MB以上推奨],HDD空き容量:2MB以上,サウンド:Sound Blaster Audigy以上推奨

Copyright 2004 by Destineer Studios, Inc. All rights reserved. PC version published by Destineer Publishing Corp. and Take-Two Interactive Software, Inc. First to Fight is a trademark of Destineer Publishing Corp. Close Combat is a registered trademark of Atomic Games, Inc., and is used by Destineer under license.