― 連載 ―

松本隆一の海外新作ゲームインプレッション

個人的に期待のアドベンチャー。テーマは"連続猟奇殺人事件"

Still Life

テーマは連続猟奇殺人,主人公はミニスカ女性捜査官
しかも実は私の好きなあの作品の関連作だった


FBIの女性捜査官ビクトリア・マクファーソンと,彼女の祖父のガスが,長い歳月を隔てて起きる,よく似た連続殺人事件を追うミステリーアドベンチャー「Still Life」。"シベリア"シリーズで,日本のゲーマーにもおなじみのMicroidsが贈る新作ゲームだ。ダークかつシリアスな雰囲気の漂うグラフィックスとストーリーが,プレイヤーを異様な世界に誘う

 私は連続猟奇殺人が好きである。いや,もちろんあくまで,そういった作品を「読んだり観たりプレイしたり」するのが好きなので,そのへん誤解なきよう。一般的にこうした嗜好は「下世話」と呼ばれ,こうした事柄をテーマにした映画や小説などはだいたい「B級」と思われる。私自身,人間がB級だとよく言われる。えへへ。うるさいな!
 重要なのは,そんなB級作品が,ときとして「A級」や「傑作」になることだ。下世話でキワモノなテーマを扱いながらも,それが現代人が持つ心の闇を図らずも浮き彫りにしていたり,社会の不条理を鋭く描いていたりして,作者が意図していたかどうかはともかく,歴史的エポックな作品になるケースさえある。実例は枚挙にいとまがない。

 さて,今回紹介する「Still Life」は,猟奇的な連続殺人事件を描いたアドベンチャーゲームで,テーマ的には,どう考えてもファミリー向けではないし,文部省推薦になることもない(と思う)。しかし,これが名作アドベンチャーゲーム「シベリア」シリーズを作ったMicroidsの手になるもので,しかもデモ版,トレイラームービーとも,なんちゅうか妙にグッとくるものがあった。もともと前述のように,私はこの手の作品に目がないことでもあり,「もしかしたらオレ的ビッグヒットかもしれない」と,こっそり期待していたのである。さあ,果たして,そのデキはどうだろうか?

 主人公の一人となるのは,気鋭のFBI女性捜査官ビクトリア・マクファーソン。シカゴ市内で起きた連続女性殺人事件の犯人を追っている。だが,捜査は一向に進展しないうえに,無理解な上司にも少々疲れた彼女は,「クリスマスも近いことでもあるし」と,市内にある父親の家に向かう。そして,屋根裏で祖父のトランクを見つける。開けてみると,私立探偵だった祖父がかつてチェコで扱った事件の記録が入っており,そこには,現在シカゴで自分が追っている事件と,そっくりな連続殺人事件が書かれていた……というのが物語の発端だ。

現代編の主人公であるビクトリア。大人しそうな見かけと違い,なかなかタフな捜査官だ。上司に向かっても言いたいことはズケズケと言う。実家はお金持ちで,画廊を経営するリチャードというボーイフレンドがいる

 というわけで,ゲームは現代のシカゴと,祖父が事件を追った1920年代のプラハを行き交いながら進み,プレイヤーはビクトリアと,彼女の祖父の二人を交互に操作しつつ,80年近い時を隔てた二つのよく似た奇怪な事件の謎に迫っていく,というのがユニークポイントの一つ。まあ,主人公が複数,というのはそんなに珍しくはないけど。

 ちなみに,祖父の名はグスタフ,通称ガス。元ニューヨークの探偵。画家になろうとパリへ渡るが,奇妙な成り行きで探偵稼業を続けることになり(絵のほうはサッパリ),以降,ヨーロッパ各地を転々としている……。この設定と名前を聞いて「おお,そうだったのか!」と驚いてくれる人が日本全国に30人ぐらいいると嬉しいのだけど,どうでしょうか?
 実は,ガス・マクファーソンとはMicroidsが初代「シベリア」のヒットの直後に発表したアドベンチャー「Post Mortem」(ラテン語で「死後」の意味)の主人公なのだ。ハートウォーミングな「シベリア」とは違って,デカダンスな雰囲気の漂う'20年代のパリを舞台に,陰惨な連続首切り事件を追うというダークな内容が,その筋の人(含筆者)にけっこう受けたのだが,中ヒットぐらいで終わってしまったようだ。当然,日本語版などはない。
 そのガスが帰ってきたわけで,つまり,この「Still Life」は「Post Mortem」の一ひねりした続編,ということになるのだ。余人は知らねど,個人的には懐かしい。


1920年代のプラハを受け持つガス。「Post Mortem」に続いての登場だが,知ってました? ビクトリアのパパの話によると,プラハの事件については息子にさえ話そうとしなかったとか。何が起きたのか?

とっつきやすいシステムと親切簡単インタフェースで
気丈なビクトリア女史を危険な現場に追いやるのだ


二つの事件のキーワードになっているのが「絵画」だ。全編を通じて数多くの絵画が登場し,それらが時として重要な役割を果たす。ミステリーなので登場人物も多く,ストーリーも複雑。それでいて,ゲームの操作は非常に簡単と,入り込みやすいゲームに仕上がっている。ただ,外人の名前を覚えるのが苦手な人(含筆者)は苦労しちゃうかも

 しかし操作性は大いに変わった。前作は一人称視点で,会話重視のゲーム展開など,ちょっとばかりとっつきくいシステムだった(そこが「今一歩」だった理由だろう)。今回は,あの「シベリア」をも上回る簡単操作を誇っている。必要なのはマウスだけで,会話の内容を選択する必要もないのだ。人としゃべる場合,必要な会話は左クリック,飛ばしていいなら右クリック。必要なオブジェクトや,作業できる場所に来るとカーソルが変形して教えてくれるし,会話以外で右クリックすれば持ち物画面などに飛んでくれる。といった具合で,私で10分,普通の人なら5分で覚えられる手間いらず,環境にやさしいシステムだ。

ビクトリアの相棒,ミラー刑事。事務仕事は得意だが,残酷な殺人現場で必ずゲロを吐いてしまうのが弱点
 ゲームの進み方もごくオーソドックスで,「必要なものは拾う」「話せる人とは話す」とアドベンチャーの基本をこなしていれば,物語はほぼ自動的に進行していく。もっとも,「次はどこへ行くべきか」については会話中にヒントがあるし,手に入る大量の文書の中にも事件の鍵となる情報があり,それがまたナゾナゾか判じ物みたいな書き方なので,ゲームを楽しむには,ちょっと英語力が求められる。アメリカで学生をやっている私は英語に達者なはずだが,非常に苦労した。
 また当然ながら,ところどころにパズルも出てくる。簡単なやつは簡単だが,長い時間試行錯誤し,偶然解けた,というのもあり,全体にやや難しめな印象。反射神経を要求されるアクション性の強いパズルもあり,これにもてこずらされた。残念なのは,いくつかのパズルが単にフラグ立てのためでしかなく,こんなに苦労したのにあんまり捜査が進展しない,というケースがままあること。鍵開けのパズルには半日かかったのになあ。

検死を担当する捜査官のクレア。クアンティコ(FBIアカデミー)で,ビクトリアを教えたことがあるらしい 容疑者の取り調べ。英語字幕は出せるものの,会話量は多く内容も複雑なので,個人的に日本語版を希望

 グラフィックスは非常に良く,ヨーロッパのくすんだ町並みや,現代のアメリカの大都市など,細かく描きこまれて美しい。さらに,画面には霧がかかり,雪が降り,壁のツタが風にそよめくなど,2Dの背景を立体的に見せるための細かな工夫があちこちにあって,雰囲気を盛り上げる。タイトルどおり,絵画や写真が事件の重要なキーワードになっており(Still Lifeとは「静止画」「静物画」の意),それらはいずれも美しく異様で,説得力大。

 しかし,殺人現場の描写は陰惨そのものだ。話の性質上,被害者の姿や検死解剖など,リアルでグロテスクなシーンがかなり多く出てきて,そういった映像に弱い人には辛いかもしれない。アメリカでのレイティングは成人向けの"M"指定で,これはまあ,当然だろう。だから,というわけでもないだろうが,ビクトリアをはじめ,登場人物は「ダーティワード」をガンガン連発する。とてもここには書けないが,事件から手を引けと言う上司に向かい,ビクトリアは,良い子にはとても聞かせられないようなことを言い放つのだ。いいぞ!


各キャラクターは,ジェスチャー,表情とも豊富。ただ,移動中,オブジェクトに引っかかることがある シカゴとプラハ,グラフィックスの対比の妙も見どころの一つ。画面にはいつも霧がかかり,常に暗鬱だ 検死官が働く古い教会。ここで行われている解剖シーンなど,グロに弱い人は要注意の強烈なシーンも多い

裏町,地下道,廃屋,薄汚れたアパート,秘密クラブ……
私好みの場所を捜査できる喜びと興奮


 彼女はタフでクールなFBI捜査官であり,ムービーシーンでは派手なアクションもこなし,迫力ある追跡シーンを展開してくれる。ショートヘアでスレンダー,黒い髪に青い目の彼女はなかなか魅力的であり,キャラは十分に立っていると思うが,人によっては,「生意気」と感じてしまうかも知れない。私が一つ心配なのは,"風の町"シカゴの冬なのに,彼女がハーフコートとミニスカ姿だということだ。ヴィッキー,お尻冷えちゃうよ。

なんだかんだいって,2週間ほどプレイした筆者。必要以上に気合を入れることもなく,空いた時間に気軽に遊べるのがアドベンチャーのいいところだ。グラフィックスがキレイなのに,PCにそれほどのスペックを要求されないところもアドベンチャーのメリットの一つだろう。ミステリ好きにはぜひ遊んでもらいたいタイトルだ
 かくして,プレイヤーは「切り裂きジャック事件」を思わせる連続売春婦殺しを追って,古都プラハの裏町を,地下道を,廃屋を,そしてシカゴの薄汚れたアパートを,秘密クラブを,高層ビルの谷間を走る。登場人物は多彩で,ストーリーも起伏に富んでおり,ビジュアル的な満足度も高い。ただ,結末にはやや不満が残る。たぶん,続編を意識してのことだろうが,うーむ。そこらへん,まあ,よろしかったらご自分の目でご確認くださいませ。
 決して「超A級」「歴史に残る傑作」とはいえないかもしれないし,不満もいくつかあるが,私自身は「次はどうなる? 次はどうなる?」と,久々にアドベンチャーゲーム相手に楽しい時間を過ごせた。内容が内容だけにプレイヤーを選んでしまうかもしれないが,この手のアドベンチャーゲームがツボにはまる人なら,おすすめ度は80%以上だと思う。ローカライズにも大いに期待したところだ。


※風の町(Windy City)……シカゴの別名。ミシガン湖から吹き付ける季節風のため,冬はきわめて寒い。

※切り裂きジャック事件……1888年8月から11月まで,ロンドンのイーストエンドを中心にして起きた連続売春婦殺人事件。5人が残忍な手口で殺され,何人かの被害者からは内臓の一部が奪われていた。犯人は捕まっていない。


マップ上のポイントをクリックするだけで,行きたい場所にすぐ行ける。ロード時間はまったく気にならない パズルも数多く出てくる。ほとんどがトライアル&エラーで解けるだろうが,ものによって非常に難しい場合も 普段はハードな女で売っているが,実家の自分の部屋はご覧のとおり。履いているのはウサギのスリッパだ
コップに残った指紋を採取する。こういった小道具も多く出てきて,適宜使いこなさなければならない ガスは,警察が撮影した現場写真と実際の現場を見比べることで,警察が見逃した証拠を集める能力を持つ これが実際の現場。左の写真と比べて,どこかが変わっている。その場所を見つけてクリックするのだ

なんのためのスカートだ!

ビクトリアのミニスカ姿を見て「む。もしかして……」と思った読者も多いであろう。しかしプレイヤーが彼女に指示できるのは"あっち行け"と"こっち行け"だけで,アングル的にも引き気味のシーンが多い。早い話,ゲーム中は見えないのだ。残念。というわけで,見えていないこともないムービーシーンからどーぞ。ううむ,セーター胸も悪くないな

思わせぶりセクシーは多い

ビクトリアに対する性的な行為や描写(ちょっとパンツが見えるとか)は,結局のところ期待に応えてくれない本作であるが,基本的にテーマが娼婦連続猟奇殺人ということもあってか,単に制作者の趣味なのか,セクシー自体に関してはまんざらでもないようだ。一応,掲載を自粛した全裸女性の画像もあった。死体だったけど


タイトル Still Life
開発元 Microids 発売元 The Adventure Company
発売日 2005/04/14 価格 29.99ドル
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/750MHz以上[Pentium III/1.2GHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上,グラフィックスメモリ:32MB以上[64MB以上推奨]

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