特集 : 切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

切込隊長 vs. 徳岡正肇。「ハーツ オブ アイアンII」お茶の間コアゲーマー対談

後編:歴史とストラテジーゲーム,その未来

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Text by Guevarista,Photo by 佐々山薫郁

 

コンピュータストラテジー市場の課題とは

 

4Gamer:

 ハーツ オブ アイアンIIについては,だいぶ話題も深まりましたが,このゲームがスマッシュヒットをマークした一方で,PCのストラテジーゲーム全般はというと,必ずしも楽観できる状況にありません。そうした市場を見ていま何が語れるかを,最後の話題にしたいと思います。

切込隊長:

 うーん,ファンの人がどういったものを求めているのかという,選球眼の問題になりますかねえ?

4Gamer:

 先ほどの,ボードゲームの遺産の負の側面といいますか,国内ストラテジーゲームベンダーのほとんどは,1990年代初頭までに飛ばしたヒットを大事に大事に守ることでビジネスを継続しています。

切込隊長:

 ええ。それはウォーシミュレーションに限らず,コンシューマゲームでも大枠でそうなっている気がします。現場で開発しているのはおおむね30代で,20代後半から下の開発人材は,あまり育ってきていない印象がありますし。
 昔遊んだゲームの焼き直しみたいな形で商品が提案されていて,なかなかブレイクスルーが出てこないですね。

4Gamer:

 そうしたなかでハーツ オブ アイアンIIは,割とフロックとしてセールスを伸ばした……。

切込隊長:

 もちろん「シヴィライゼーション」シリーズのように,コンスタントに売れている作品もありますけどね。私自身,ハーツ オブ アイアンIIはしばらく“積みゲー”にしていたあと,きちんと触ってみたら「たいしたもんじゃん」となったわけですし。

「シヴィライゼーション4」の画面。ちなみにこのゲームにおけるドイツは,ユニークユニット「パンツァー」の微妙さから,むしろ文化勝利向きではないかとの意見もある

 

徳岡正肇氏:

 ボードゲームの現状をめぐる話題とシンクロさせて述べるならば,「旧来の手法に乗っかっていることが,売れることだ」という構図にはまってしまうと,キツいなあと。ヘックスだとかZOCだとか,いろいろあるわけですが。
 機甲戦術を再現するヘックス制ゲームで,オーバーランを含む攻撃をかけている瞬間は間違いなく楽しい。しかし世の中には,ヘックスというだけでアウトな人もいる。

切込隊長:

 それは確かにそうですね。

徳岡正肇氏:

 旧来の方法でうまくやってきたことは,決して悪いことじゃない。ただしそれは最低保証であり,縮小再生産です。同じことはボードゲーム界でも起きていますが,そのなかでボードゲームは着実に変わってきています。

4Gamer:

 と,いいますと。

徳岡正肇氏:

 いま個人的に注目しているのが,「カードドリブン」(Card Driven)システムです。マジック:ザ・ギャザリングが持つ要素をうまく取り込んだようなものなのですが,現状のコンピュータゲームで,ここから学んでいる作品はないようです。
 その意味でボードゲーム界は十年一日ではない。旧来のコンポーネントにいつまでも固執しているわけではないのです。

切込隊長:

 なるほど……。カードドリブンシステム,ですか。

徳岡正肇氏:

 ええ。簡単にいうと,プレイヤーの行動をカードで縛るのです。通常ポイント・トゥ・ポイントないしエリア制のマップと組み合わせて使われますが,理論上はヘックスゲームにも応用可能です。
 例えばある軍隊を動かしたいときには,その指揮官の「指揮能力値」よりも小さな数字が書かれたカードを使う必要があります。各カードには数字だけでなくイベントも書かれていて,カードを使うとそのイベントが発生します。作品によっては,カードをコマンドとして使うか,イベントとして使うかを選べるものもあります。

切込隊長:

 ふむふむ。

徳岡正肇氏:

 このシステムのポイントは,相手が引き起こし得るイベントが完全には読めないことです。手持ちのプレイリソースで何ができるか考えると同時に,相手に何ができて,何をしようとするかを,考えなければならないわけです。
 従来のボードゲームにあった,アントライド(Un-tried)システムやブラインドサーチ(Blind Search)システムよりも抜本的なレベルで,相手の「手の内」が分からない。
 プレイアビリティを落とすことなく,相手の能力と意図を不明瞭にできたのが,このシステムのキモです。

切込隊長:

 まずは相手の手札を読む必要があると。

徳岡正肇氏:

 そうです。カウンティングができるようになると,より高度に楽しめるようになります。知らないなら知らないなりに,次々起こる歴史イベントに,二人して右往左往することになりますが。
 プレイヤーの行動を限定しつつも固定しない。このターン,相手に何ができるかは互いに分からない。それできちんと動くゲームを,ボードゲーム界は実現したわけです。

切込隊長:

 なるほど,そうなのかあ。

徳岡正肇氏:

 いまボードゲーム界で一番人気が高く,同時に一番バッシングを受けているのが,このカードドリブンシステム(以下,CDS)です。大方の予想どおり「こんなのはシミュレーションゲームじゃない!」と評する人も多いわけです。手札の良し悪しに勝敗が左右されるという点では,その意見もあながち間違ってはいません。

切込隊長:

 デッキを組んだりするものもあるんですか?

徳岡正肇氏:

 そう提案している人もいる,という段階ですね。

 

従来料理できなかったモチーフを扱えるCDS

 

徳岡正肇氏:

 CDS作品で現状,最高傑作といわれているのは第一次世界大戦モチーフの「Paths of the Glory」で,カードで補給をやりくりします。

切込隊長:

 それは分かりやすいですな。

徳岡正肇氏:

 第一次世界大戦の塹壕戦を,穴を掘って向き合っていただけでなく,互いに相手に無謀な突撃を強いていたのだ,と捉える発想でデザインされています。
 ものすごい勢いで兵力が損耗しますから,動員せねばなりません。しかし,動員に見合う戦果が上がらなければ,国内外でいろいろなことが起きるわけです。

切込隊長:

 なるほど,いいですねえ。

徳岡正肇氏:

 で,どのくらい動員できるか,どれだけ戦域を広げられるか,イタリアはいつ裏切るのかといった問題は,カードに書かれているわけです。

切込隊長:

 例えば手許のカードに「イタリアが裏切る」と書かれていたら……。

徳岡正肇氏:

 ドイツプレイヤーならば,自分が使わない以上,とりあえずこのターンに裏切られることはないとか,読めるわけです。このターンにロシアで革命が起こることはないはず,とか。

切込隊長:

 いろいろドキドキすることがカードに(笑)。

徳岡正肇氏:

 傑作だといわれる作品が三つくらいありまして,その一つは「Twilight Struggle」という冷戦モノです。「Doomsday」と聞いたときに,本来想像するとおりのゲーム内容がそこにあります。米ソが世界を舞台に軍拡競争を繰り広げ,「NATO結成!」などというカードが乱舞します。ものすごく良く出来ていますね。

切込隊長:

 それはかなり見てみたいですねえ。「Balance of Power」みたいな感じですか?

徳岡正肇氏:

 若干似ていますね。軍隊ユニットなんてないし。互いに「影響力マーカー」を置きあって,一定を超えたところで支配状態が変わります。
 クーデターというルールもあって,もともと不安定な地域に積み上げた支配は,クーデターであっけなくチャラになります。中東あたりが半ばホットウォーになるのは,ご想像のとおりです。
 中国カードをきるたびに,中国の政治的姿勢が反対になるというのも,実にそれらしいルールです。

切込隊長:

 「プラハの春」とかも?

徳岡正肇氏:

 もちろんあります。影響力を積み上げるためにカードをきった場合,イベントは強制発動です。「NATO結成」が記されたカードであれば,西側プレイヤーは嬉々として使います。ところがこれが東側プレイヤーの手に渡った場合,断じて使いたくない。そうしたときにカードを捨てられるのが「宇宙開発」スロットです(笑)。

切込隊長:

 うわ,いいですねえ(笑)。

徳岡正肇氏:

 残る1本の傑作はロシア革命をモチーフとしていますが,これもかなりうまく出来ています。

切込隊長:

 いや,素晴らしい。

4Gamer:

 発想の革新というのは,きちんと進んでいるわけですね。

徳岡正肇氏:

 死に絶えたジャンルと思われているフシがありますが,ボードストラテジーゲームはいま,一大転換期にあります。CDSはおそらく,この15,6年積み上げてきたことの,大きな成果として生まれてきたわけです。

切込隊長:

 それはいつごろ登場したんですか?

徳岡正肇氏:

 2000年前後,アバロンヒル社がまだあったころです。アバロンヒルが「We the People」という南北戦争のゲームを出したんですが,これがCDSの始めであるとかないとかいわれています。もっと古い例もあるのではないかという議論はありますが,CDSで商業的にモノになったのは,これが最初の例でしょう。

 

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タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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