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デザイナー阿部隆史氏に聞く,ジェネラル・サポート次回作「グロス・ドイッチュラント2」の全貌

Text by Guevarista,Photo by 市原達也 

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今回の取材では,開発途上のゲームの動作も,一部見せてもらえた

 5月18日に公式サイトにバナーが掲載されて以来,昨日(6月26日)初めてゲームの情報が公表された,ジェネラル・サポートの次回作「グロス・ドイッチュラント2」。4Gamerではこの間にジェネラル・サポートにお邪魔し,ゲームデザイナーである阿部隆史氏に,同作品の新機軸や魅力について聞いてみた。
 前作である「グロス・ドイッチュラント」は,MS-DOS用ゲームソフトとして1992年に発売された。プレイヤーはドイツ第三帝国を率い,イギリス,ソ連,アメリカなど各国を敵に回して第二次世界大戦を戦い抜く。航空機やAFVは1機/1両単位,歩兵は分隊単位で数値化され,燃料や弾薬など各種物資も最小1t単位の数値で再現,科学技術開発や治安の要素も持つというビッグゲームだった。グロス・ドイッチュラント2はその後継となるが,阿部氏の説明によって明かされるとおり,外交要素を核として,実にさまざまな部分が強化されるようだ。
 発売は2006年秋が予定されている。今回,実際にゲームが一部動作している様子も見せてもらったが,阿部氏の談話とともに公表されたスクリーンショットを確認しつつ,まずはゲームのイメージを掴んでみてほしい。

 さて,いささか唐突だった今回の告知であるが,まずは開発が決定した時期について,阿部氏に聞いてみた。前作からどの程度変貌しているかにもよるが,戦略級ストラテジーである以上,かなりの制作期間が取られていたはずだ。阿部氏の回答は,

 

 一昨年,ですかね。「空母戦記2」の開発途上段階で決まったことですから。空母戦記2を出したのが昨年(2005年)5月,開発開始は一昨年の後半ということになります。

 

 

というものだった。つまり公式サイトでのバナー掲載は,開発にある程度目途がついた段階でアナウンスに踏み切ったということなのだろう。
 このところ,旧作に大幅に手を入れた続編を,続けてリリースしているジェネラル・サポートだけに,グロス・ドイッチュラント2の話題のみならず,それを含めた大枠でのプロダクトスケジュールの考え方が気になるところだ。阿部氏は以下のように,プロダクトスケジュール全体とグロス・ドイッチュラント2の関わりを説明する。

 

 僕が今まで作ってきた作品は,大きく二つに分類できます。一つが戦略級ビッグゲーム,もう一つが戦術級です。戦略級ビッグゲームの開発には,リサーチ期間も含めて3年とか5年とかいった時間がかかります。そうなると,立て続けに戦略級ばかり作っているわけにもいかないので,戦術級ゲームの制作を織り交ぜて計画を立てるわけです。
 「鋼鉄の騎士II」で陸戦関係のリサーチデータを蓄積し,空母戦記2で艦艇のデータを集積していく。その間(初代グロス・ドイッチュラントから現在までの間)には太平洋戦記が1,2と出ていて,システム面の工夫も重ねられた。そして,人物と外交を重視した戦略級ゲーム「日露戦争」も作っている。これらの成果を結集する形で,戦略級ビッグゲームのグロス・ドイッチュラント2を作ろうというわけです。前作が出たのが1992年。前作と異なるものを作れるだけの材料が,揃ってきた時期なんですね。
 空母戦記2とどちらを先に出すかは悩んだのですが,まず空母戦記2に新しい戦闘解決システムを導入し,それを十分に試したうえで,グロス・ドイッチュラント2に盛り込みたい,という方向でまとまりました。爆撃機の旋回機銃による防御火力と,戦闘機の発揮火力との違いなどが,その具体例ですが。

 

 では,ここまでのリサーチや試行錯誤の成果を盛り込んだグロス・ドイッチュラント2は,前作からどう変わるのだろうか? 阿部氏は以下のように要点を整理する。キーになるのは外交で,それも講和の達成のみならず,対中立国外交や,講和に当たっての条件交渉が極めて重要な要素となるようだ。

 

ヨーロッパ全域と中東,北アフリカの一部が1枚のマップに収められ,根拠地数は合計348にものぼる

 一番大きく変わったのは,外交です。前作ではとにかく根拠地の軍事占領を目指すしかなかったわけですが,太平洋戦記,日露戦争で外交機能が強化されていきました。グロス・ドイッチュラント2では日露戦争と同じく,戦争は外交交渉を経た講和で終わります。フランスとの講和,ソ連との講和,イギリスとの講和。どういった条件を突きつけたら相手が飲むか。合法的に矛を収めたうえで,領土を拡張したり,そのほかの条件を通したり。どの条件を手にするのが有益かは,プレイの進め方で大きく変わります。
 例えば「大型艦船の接収/譲渡」という条件があります。フランスを屈服させるに当たって「無条件降伏せよ」と言い出すこともできますが,「フランス全土の領有」ないし「南部フランスの領有」をそれぞれ認めるとか認めないとか,出せる条件はいろいろ用意されています。史実では南部フランスの領有のみ認めた(ヴィシー・フランス政府)わけですが,その代わり,ドイツはフランス海軍の艦艇を手に入れられなかったのです。3分の1ほどが自由フランス政府の下に逃げ,残りはヴィシー・フランス政府の手元に留まりました。
 なぜそうなったかというと,イギリスが,ドイツのフランス艦艇接収を嫌ったのです。ドイツが大量の艦艇を手にすれば,ゼーレーヴェ(イギリス本土上陸作戦)に使うに決まっています。それゆえ,フランスの単独講和を認める代わりに,フランスからドイツへの艦艇譲渡は認めなかったのです。

 

 結果がどうなるかは分かりませんが,グロス・ドイッチュラント2では例えばフランスを事実上屈服に追い込んだら,ドイツはペタン政権(ヴィシー・フランス政権。理屈では政府所在地も変わるので,ここでは首班の名前を基準にしている)と交渉して,例えばフランス全土の領有を認める代わりに大型艦を接収するといった提案ができるようにします。もちろん,ドイツが占領した根拠地の規模で交渉結果は変わってきますし,外洋に出ている船にまで強制力を及ぼすことはできません。ただし,交渉結果次第でかなりの数の艦艇を,ドイツは手にすることができるのです。
 同じことはソ連との交渉でも提示可能ですから,極端な話ドイツはH型戦艦など完成させなくても,フランスのダンケルクやリシュリュー,ソ連のマラートなどに自国のシャルンホルストなどを交え,一大連合艦隊を編成してゼーレーヴェに臨むこともできます。

 

 史実の中に含まれていた可能性を考慮したうえで,講和オプションがゲーム展開を大きく変える可能性に言及しつつ,阿部氏はさらに外交に盛り込む別の意義にも触れる。第二次世界大戦,とくに枢軸側にとってのそれを語るに当たって,避けては通れない資源問題との関係だ。

 

 外交面でもう一つ大きく変わるのは,前作で出てこなかったトルコとスウェーデン,出てきたけれどあまり意味がなかったスペインといった国々が,大きな役割を果たすことです。キーになるのはドイツの資源問題。ドイツはノルウェーを攻め,デンマークを占領したのに,なぜスウェーデンを攻めなかったか? どうしてトルコと戦端を開かなかったのか。スペインを攻撃して,イギリス軍のジブラルタル根拠地を占領する計画は,ギセラ作戦などいくつか立案されていますが,結局それは実施されません。ジブラルタルを陥とせば地中海のイギリス軍が干上がることは分かっていたのに,なぜそれをやらなかったのか。それは資源問題ゆえだったのです。

 

 先ほど挙げた国々は,戦争中に鉄をはじめ,さまざまなものをドイツに輸出しています。スイスにしてもそうですが,中立義務とは,交戦国に物を売っちゃいけないということではありません。交戦両陣営の国々を平等に扱え,ということなのです。つまり両方に売るのであれば,中立に違反していないわけですね。スイスの場合は周囲がすべて枢軸側の国々になってしまいますけれど,来てくれれば売るよ,という態度であれば一応かまわないわけで。まあ1944年以降,スイスはかなりアメリカに責められてはいますが。
 ドイツの場合,石炭は売るほどあるけど,鉄鉱石は必要量の7〜8割。残りの2〜3割はスペインとスウェーデンから手に入れています。これらの国々に攻め込めば好きに掘れるけれども,治安の維持にどれだけの部隊を割かねばならないか,という計算になります。そんな事態になるくらいなら,仲のよい中立国として資源を売ってくれるほうがありがたいわけです。

 

 そして,中立国の果たす役割として,必然的に出てくるのが緩衝地帯,壁としての機能だ。史実においてドイツがデンマークに期待したように,中立国はときに敵の侵攻正面を限定するための障壁として利用可能だ。阿部氏は続いて,グロス・ドイッチュラント2でそれがどういった意味を持つかを語る。

 

 例えば北部フランスをドイツが占領しなかったらどうなるか。ドイツはゼーレーヴェを行えないわけです。つまりグレートブリテン島は占領できないけれど,向こうも向こうでノルマンディ上陸作戦という選択肢を失う。そうした状況を意図的に作り出すこともできるようになっています。そうなると連合国は“ヨーロッパの柔らかな下腹部”といわれるイタリア方面から攻め上るしかなく,八方ふさがりなわけですが,これもまた,最終的に外交的な決着を図るしかありません。
 中立国の話に戻すと,例えばスウェーデンに「鉄鉱石を○万tくれ」といった経済交渉が可能です。見返りは何千tかのアルミになるかもしれないし,相手がトルコならセメントが話題に上るでしょう。そういった形で,中立国との外交交渉が重要になります。
 また,完全な中立国と敵対陣営ばかりではありません。ハンガリーからはボーキサイト,ルーマニアからは原油。後に枢軸側になる国々とも経済交渉が行われますから,考えようによっては,ヘタにこちら側に立って参戦されるよりも,中立国に留まってくれたほうがありがたい,というシチュエーションもあり得ます。

 

 ドイツの仲間として躊躇なくケンカを売られ,そこを通って連合軍がドイツに向かうハメになるよりも,状況次第では,資源を売ってくれる中立国として障害物になってくれたほうがよい,ということだ。さて,そうした高度な外交に必要な要素として,阿部氏は次に活動ポイント制の概念に言及する。前作を知る人はポルシェ博士やゲッベルスに国家予算を投じた部分を,思い浮かべながら読んでほしい。

 

 外交活動を縦横無尽に行うためには,外交に「活動ポイント」を惜しげもなく割り振る必要があります。前作では,予算配分という形で10個の省庁を設定し,それぞれの分野への入れ込み方を再現しました。それに対して今回は,省庁を大きく二つに区分して,活動ポイントを必要とするところ,必要としないところを作ってみました。

 例えば陸軍省,海軍省,空軍省などには活動ポイントがいらない。「Me109を1000機作れ」とか「Uボートを何隻建造せよ」とか,そういった話になるだけです。
 それに対して,活動ポイントという形でルール化しなければならなかったのが,外交,諜報,治安,科学技術,宣伝の五つです。予算という言葉で呼んでしまうと,どうしても何万ライヒスマルクとかいった単位にしない限り,ピンと来ないので(笑)。表現したいのはあくまで力点の置きどころですから,シンプルにポイントでよいかと思いまして。

 

 前作と違って,どこでどれだけ労力を節約して,どこに投入するかといったことが,より妥当なバランスになっています。例えばゲッベルスの宣伝活動に何一つ割かず,国の労力をすべてリッベントロップの外交活動に投じる……などということは,実際できないわけです,恐らく。今作では減らすにしても,基本となる値の70%にまでしか下げられません。逆に増やすほうも,130%を限界に設定しています。物事の規模を急に拡大できるわけではありませんし,例えば外務省の職員を総勢50万人まで増やしたところで,それだけの力が振るえるわけではありませんから。
 各省庁から均等に差し引いて外務省に充ててもいいですし,1か所から30%まるまる抜いて,それを投じてもいいわけです。それは細かく設定できるようになります。

 

 活動ポイントの割り当て対象である科学技術とは別に,前作グロス・ドイッチュラントと今作グロス・ドイッチュラント2は,ともに兵器開発の要素を備えている。ドイツ第三帝国といえば,使えるものもそうでないものも含めて,高性能な兵器のバリエーションが一つの見どころだ。ではそこは,どのように変わるのだろうか?

 

航空機を使って行える爆撃には,昼間爆撃,高高度爆撃,夜間爆撃,橋梁爆撃,ダム爆撃などの区分がある

 例えば航空機だと,以前は重爆撃機,軽爆撃機,重戦闘機,軽戦闘機といった分野別に開発の重点を指定していたわけですが,今回はメーカー別にします。メッサーシュミット系,ユンカース系,ハインケル系,フォッケウルフ系として,アラドなど小さなメーカーは,便宜上どれかの会社に要素として入れてしまいますが,とにかく全体としては,どのメーカーを可愛がるかという選択になります。
 陸戦兵器に関しては,メーカー別の区分にあまり意味がないので,まずは大きく重戦車系,軽戦車系という分け方になります。ただし,前作で対戦車,対歩兵などと分けていた部分を,今回はシャーシ別にします。III号系列の車両グループ,IV号系列などと。まあ,事実上ほぼメーカー別になりますね。V号戦車(パンター)ならMAN社ということですし。III号,IV号,V号,VI号の各グループと,軽戦車系列ということで,I号・II号・38tをまとめてグループにしてあります。このうち,どの系列に重点を置くか,という形で開発指示を出すのです。
 つまり,同じIV号系列でも,IV号戦車各型やら駆逐戦車型やら自走砲やらが順に開発されていくわけですが,プレイヤーとしてはある程度開発が進んだところで,不要な車種の開発を中止していけばよいだけですから,それほど難しく考える必要はありません。
 まあ,突飛なことにならないように,試作車両が完成するまでは,そのまま開発してもらうルールですが。ここでは,太平洋戦記で採用した方法を取り入れているわけです。試作車両の完成までに必要な開発ポイントは全過程の80%,開発中止にすると残り20%分が節約されて,次の開発を早められます。もっとも,プレイの環境設定次第では,もっと早く中止を決められるようにもなりますし,いきなりVI号戦車(ティーガー)の開発に,着手できるような設定も可能です。

 

 環境設定との関連で,気になるのが勝利条件の設定だ。太平洋戦記と日露戦争,とくに後者の経験を経たうえで外交を重視するグロス・ドイッチュラント2だけに,それが勝利条件と密接に関わってくるのは間違いないだろう。阿部氏によると,以下のような設定になっているそうだ。

 

 勝利条件のパターンAは「すべての国との関係を中立化させる」という終わらせ方です。これに対してパターンBは「すべての国と不戦条約を結ぶ」というもの。用意しているのは以上の二つで,どちらかを選べるようにしてあります。
 似たようなものに聞こえるかもしれないですが,だいぶ違います。不戦条約を結ぶというのは,一度は戦わねばならない,ということです。戦争して講和して,それで条約を結ぶわけですから。逆に中立関係でよいのなら,例えばソ連は最初から中立ですし,ソ連に手を出さずにイギリスを屈服させれば,あっという間にゲームを終わらせられるかもしれません。
 ただし,パターンBの例外としてアメリカがあります。アメリカが参戦する前にイギリスが屈服してしまえば,アメリカは不参戦声明を発して中立に留まり,そうなったときアメリカと不戦条約を結ぶ必要はありません。
 アメリカの参戦可能性は流動的ですが,真珠湾奇襲(1941年12月8日)を迎えると,自動的に参戦します。その前に参戦される可能性については,プレイヤーがコントロールすべき事柄となっているわけですね。

 

 勝利条件と長期的なプレイ方針の関わりは大まかに理解したとして,グランドキャンペーン以外のシナリオはどうなっているのだろうか。グランドキャンペーンは1939年9月,ポーランドへの侵攻から始まる。ではそのほかのシナリオは,何本あり,いつ始まってどこまでのプレイで勝敗を着けるのだろうか?

 

 ショートシナリオは,1939年から1945年まで,各年スタートのものを用意しています。ショートシナリオのプレイ期間は1年未満ですが,そのまま延長することも可能で,その場合勝利条件はグランドキャンペーンと同じになります。ここは,太平洋戦記の方法を踏襲したものですが,もともとはプレイヤーの要望をことごとく実現した結果なのです。自分が思いつかなかったことを要望として寄せてもらえるのは,ありがたいですね。
 連合国でプレイできるようにしてほしいという要望もすごく多いのですが,かなり大がかりなことになりますし,それでゲームの密度が下がるようだと本末転倒ですから,今回それは考慮していません。同じだけのプログラム開発力を投じるとしたら,プレイできる陣営を枢軸側に絞って密度を上げていきたい。そう考えています。とくに外交要素を含めて作るとなると,どちら側でもプレイ可能には,なかなかできません。

 

 そのほか,マップが1枚に統一されたこと(前作は西部,東部,南部戦線に分かれていた),装甲軍(装甲ユニットのみで編成され,装甲指揮能力を持つ司令官に率いられた部隊)による第二インパルスは健在であること,新たに空挺作戦が可能になったことなどが,グロス・ドイッチュラント2の特徴として挙げられた。

 

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タイトル グロス・ドイッチュラント2
開発元 ジェネラル・サポート 発売元 ジェネラル・サポート
発売日 2007/06/29 価格 1万3440円
 
動作環境 OS:Windows 98SE/Me/2000/XP/Vista(Windows Vistaは32bit版のみ),CPU:Pentium/200MHz以上[Pentium II/300MHz以上推奨],メインメモリ:96MB以上[128MB以上推奨],HDD空き容量:640MB以上(セーブデータ分は含まず),GM規格対応のMIDIデータが再生可能な音源推奨

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