― 特集 ―

 

 今年一年とその先のゲーム業界を先取りする世界最大のゲームショウ「Electronic Entertainment Expo」(以下,E3)が終わって,はや一週間超。プレイステーション3やXbox 360,そしてレボリューションなど,コンシューマゲーム機関連の話題が多かった2005年のE3だが,現地で取材した4Gamerスタッフからはどう見えたのだろうか。E3関連記事の総まとめとして,これから各スタッフのコメントを紹介していこう。

 

FPS,RPG,RTS,ACT……ジャンルが偏ることなく,期待できる作品が多く登場したといえる

Text by Kazuhisa

 どうせみなが書いているだろうし,わざわざここで書くのも気が引けるのだが,おそらくPCゲーム関係者は,今年のE3に対してあまり期待していなかったことだろう。なにせ昨年の「DOOM3」「ハーフライフ2」など"E3のPCゲーム"を引っ張ってくれる作品が存在しないことは想像がついていたし,オマケにコンシューマ機3種勢揃いという,PCゲーマーにとっての受難の年だったのだから。
 しかしフタを開けてみれば,きら星のごとく中堅どころの作品が乱立しており,記事を見ていただければ分かるように得るものが多いE3だった。FPS,RPG,RTS,ACT……ジャンルが偏ることなく,期待できる作品が多く登場したといえる。


この喧噪,この混雑。これこそがE3。東京ゲームショウのようなこじんまりしたお上品なショウではなく,とにかくやかましく,とにかく楽しい

 そんな中で私個人が注目したのは,やはり「エポックメイクたらん」「新しいものを提示せん」という意気込みの感じられる作品だ。非難を承知で言わせてもらえるならば,画面がキレイになるくらいしか進化の方向性が見いだせていない作品の多いFPSやRTS,世界の広さとゲームのバックグラウンドでしか差別化が図れなくなってきているMMORPG,そして「続編」にしか生き残る道の見いだせていないいくつかの大作シリーズなどは――その作品のそれぞれは十二分に面白いものだと思うし,私も期待してやまない作品達なのだが――業界全体の将来から言うと,あまり重要ではない。いわゆる"一流どころ"が手がける作品はその限りではないのだが,得てして大半の作品は,そういう方向に走っているようにしか見えない。
 むろん私とて,それらのファクターを全否定するものではない。美しい画面/新しい描画テクノロジーによって引き起こされる「新たな面白さ」があるのも分かっているし,続編にだって名作はある。続編になることによって,さらなる高みへと昇華される作品だってある。個人的にも「買うぞ」と決めた続編はいくつもあるし,例えばスクリプトによって作られる演出大好きな私としては,Call of Duty 2などは明日ROMをくれと言いたいくらいのものである。また理想はどうあれ,現実的には"続編"が売れるのだ。


なんだかんだ言っても個人的に好きな「Call of Duty」。スポーツFPSとはまったく違う方向性での"エンターテイメント"を提供してくれる
 新しいものはいつだって厳しい。セールスがダメかもしれないし,まったくユーザーに理解されないかもしれない。パブリッシャーが付かないかもしれないし,メディアにもこてんぱんに否定されるかもしれない。しかし誰かがそういう試みに挑戦して,固まりつつある業界をブレイクしてケモノ道を作っていかないと,縮小する一方のどこぞの国のゲーム市場みたいに,業界全体が悪い方向にシフトしていってしまう気がしてならない。絵とストーリーが変わっただけの"新作"ばかり続くと,誰も遊びたくないのである。そして,遊ばれてこそのゲームなのである。ぜひチャレンジャーには頑張っていただきたい。


 そんな観点から考えると,3人の重要人物の名が浮かんでくる。


 まず一人めは,"歩くオリジナリティ"Will Wright氏(Maxis)だ。残念ながら鉄壁の防御を誇るクローズドブースでのデモンストレーションに留まった新作「Spore」は,同氏のアイデアがフルに詰まった久々の新作で,氏の"らしさ"が存分に発揮されている作品だ。ゲームとして面白いのか,あまりにスケールが大きすぎてまとまらないんじゃないか,など色々な心配はあるが,純粋に「すげえ」と思える作品に仕上げてくることは,想像に難くない。Maxisが態度を軟化させて,今後情報公開をしてくれることに大いに期待したい。今年は「no, sorry」の一点張りだったが,来年こそは。


GDCでの一般公開以降(あれを一般公開と呼ぶのかどうか微妙だが)ほとんど情報の出ない「Spore」。自分の惑星をアップロードできる機能なども付くようで,心待ちの一作。いつ出るのかが悩ましいのだが……

 二人めは,こちらも言わずと知れたPeter Molyneux氏(Lionhead Studios)。氏が愛してやまない「Black&White2」はもちろんのこと,いまだ深く関わっているとされる「The Movies」が,やはり異彩を放っている。パーツを組み上げて映画を作って満足することがゲームなのかと言われると返答に窮してしまうわけだが,それを"ゲーム"として仕上げようとしているところに,実験的かつ大胆な発想を感じる。極論,単にAdobe PremiereやMicrosoft Movie Makerのようなソフトなのかもしれないが,その卓越したセンスで,一種のゴッドゲームである本作を,それらツールとは比較にならないほど面白いものにしてくれることを望んでやまない。


ゴッドゲームの大御所Molyneux氏が贈る,映画制作ゲーム「The Movies」。日本正式発売の話もキチンと動いているようなので,激しく期待している

 以上二人はクリエイターだが,3人めはちょっと趣向を変えてTJ Kim氏(NCsoft)。どう控えめに見ても,もはや世界のMMO市場にとって重要人物となっている氏は,Lineage/LineageIIの成功にまったく満足することなく,さらなる新天地を求めてアグレッシブな姿勢を取っている。
 すでにインタビューが「こちら」で掲載されたが,その断固とした姿勢/理念,首尾一貫した業界への姿勢,徹底的に先を見越した開発体制の構築など,そこらのMMOメーカーでは勝つ目が見当たらないといってもよい。正しいか間違っているかという問題は些末なことで,理念と主張が表に出てきて結果に結びついているという意味で,ぼんやりと"何かのコピー"に過ぎないMMOを作っている会社とは雲泥の差が生じている。
 以前から彼の願いであった「欧米市場での成功」が達成された今,韓国ばかりか,いずれは世界のMMO市場さえ席巻してもおかしくないかもしれない。今年こそ死滅寸前だったE3のMMOだが,欧米勢,日本勢にもがんばっていただきたい。


驚くほど多彩なラインナップで毎回アメリカに攻め込む,NCsoft。今回も,ロボット,SF,ファンタジー,クルマなど,よくもまぁ,と感心する大軍勢だ

 コンシューマ機に押されつつも,たくましく展示されていたPCゲーム達。おしなべて,すべての作品のクオリティは高く維持されており,まだまだPCゲームが健在なのを感じることができたのは,大きな成果だった。Xbox 360が出ても,プレイステーション3が出ても,PCゲームは揺るぎなき「最新ゲームの宝庫」として君臨できることだろう。
 今年でさえこれだけの作品が登場して盛り上がっていたのだから,来年は,さらにパワーアップした作品達が,我々の目を楽しませ,期待を持たせてくれるに違いない。これだけ疲労困憊して「二度と行くもんか」と思うE3も,これだからやめられない。