「プロサッカークラブをつくろう!ONLINE」(以下,サカつくONLINE)の正式サービスが,2007年4月24日に始まった。今回,プロデューサーであるセガ スポーツデザイン研究開発部 椎野真光氏とチーフゲームデザイナーの瀧井雄二氏にインタビューを行い,サカつくONLINEが生まれた経緯や,サービス開始より3週間近くが経過した現状についてなど,さまざまな話を聞いてみた。
※お話を伺ったのは,椎野氏と瀧井氏の2名ですが,諸事情により写真の掲載は椎野氏のみとなっております
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。早速ですが,まずは,お二人の経歴を教えてください。
椎野氏:
携わった主な作品は,携帯アプリ「サカつくモバイル」「野球つくモバイル」などです。入社試験を受けたときに「オンラインゲームを作りたい」と言ったせいか,オンラインゲームを中心にゲーム制作に携わってきました。
瀧井氏:
ジャンルを問わず,いろんなタイトルに関わってきており,ドリームキャスト版「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!」にも携わっていました。また携帯ゲームを担当したこともあり,そのときに椎野と一緒に仕事をして,今に至るという感じです。
4Gamer:
ありがとうございます。ではサカつくONLINEの始まりについてお聞きします。企画がスタートしたのはいつ頃なのでしょうか。
セガ スポーツデザイン研究開発部
プロデューサー
椎野真光氏
椎野氏:
構想を始めたのが約3年前ですね。「サカつくモバイル」が終わり,「野球つくモバイル」を作ってるところで,そろそろ「つくろう」シリーズで新しい展開がほしい,というミッションがあったときに出てきたのが,コンシューマ/PC版「つくろう」シリーズのオンライン化です。
4Gamer:
「サカつくのオンライン版を作ろう」という話が先にあったわけではなく,新しいサカつくを模索している中で,オンライン化が選択肢の一つとして出てきたのですね。
椎野氏:
最初はリアルタイムの試合エンジンで,「World Club Champion Football」(以下,WCCF)みたいに,試合を見ながら微調整し,ほかのプレイヤーと対戦するというスタイルのゲームにしようと思っていたんです。
4Gamer:
それがなぜサーバー自動進行型になったのでしょうか。
椎野氏:
企画時は,MMORPGが非常に盛り上がり始めていて,周りにどっぷりハマっている友人が大勢いたんですよ。寝食を削ってオンラインゲームで遊んでいる彼らのライフスタイルを聞いて,そういうのは少しおかしいなと(笑)。私も「エバークエスト」「ウルティマ オンライン」「Diablo」などを遊んでハマった経験があるので,そうなってしまう感覚は分かるのですが,客観的に見ると,やっぱり普通じゃないよね,と思ったんです。しかも,社会人になるとゲーム以外で大切なことも増えてきますし。
4Gamer:
まあ,文字通り寝食を削っている人は,あまり多くないと思いますが,確かにのめり込んでしまう要素は多いですね。そういった遊び方とは違うものを目指したというわけですね。
椎野氏:
ええ,そうなります。MMORPGだと,時間があるプレイヤーがどんどん強くなる傾向があるじゃないですか。それをなんとかできないのかと考えている中で,自動進行型というスタイルが出てきたのです。
ゆっくり遊べる,プロモーション的には「生活に溶け込む」という言い方をしているんですが,そういった形のオンラインゲームがあったら面白いんじゃないかと。長いスパンでゆっくりと遊んでいける,“コミュニケーションツール兼ゲーム”にしようと思ったのです。
4Gamer:
つまり,サカつくONLINEは“ゲームに割く時間がない人”をメインターゲットとして開発が始まったということですか。
椎野氏:
そうですね,時間のあまりない大人でも十分に楽しめる作りにしたいと考えていました。というのも,サカつくの第1作は1996年に発売されて,学生を中心に人気を集めたんですね。それから10年が経ち,今オフライン版のサカつくプレイヤーの年齢比率を見ると,一番多いのが20代後半から30代前半なんです。とくにコアと呼ばれる人達は30代の前半,ちょうど私らくらいの世代ですね。
4Gamer:
なるほど,そこをピンポイントで攻めたんですね。
椎野氏:
ええ,そうなります。サカつくは,もの凄く簡単にいってしまうと,いろんな手を使ってクラブを育てて最強を目指すゲームで,時間さえかければ誰でも強いクラブを作れます。経営シミュレーションと表現されますが,RPGに近いと思うんですよ。ただし,100時間くらい遊ばないと理想のクラブは完成しないですけど。
ゲームショップでサカつくの新作を見つけると,考えるわけですよ,「これを買うと楽しいんだけど,100時間がなくなってしまう」って(笑)。そうすると,なかなか手を出せなくなる。ボリュームがあるせいで,尻込みしてしまうんですよね。
4Gamer:
確かに歳を重ねるにつれて,そういう感覚は増している気がします。
椎野氏:
サカつくやサッカーの面白さは十分知っているんだけど,そこに100時間は費やせない,という大人の判断をしちゃった人達がいるわけですよ。それを私達は,“サカつくの卒業生”と呼んでいるわけですが,彼らでもできるサカつくってどういうものだろう,ということを念頭において作ったのがサカつくONLINEなんです。
ですから,時間が使えるプレイヤーがやたらと強くなったりしないように,バランスを気にしながら開発したつもりです。
4Gamer:
初期の段階で決めたそのコンセプトが揺らぐことはなかったですか?
椎野氏:
途中でいろいろと考えたり悩んだりすることは多かったですが,そこは揺らがなかったですね。最初にコンセプトワーク,何が重要なのか,というツリーを作るのですが,常にその頂点に君臨したのが,時間がない人でも遊べるようにするにはどうすればいいか,ということでした。
4Gamer:
そのコンセプトを中心においたことで,開発で苦労したことなどはありましたか?
瀧井氏:
実は,一番大変だったのが「サカつくコミュニティ」です。あれはハヤリで作ったと思われがちですが,実はそうじゃないんですよ。
オンラインゲームに欠かせない要素にプレイヤー同士のコミュニケーションがあるじゃないですか。通常のMMORPGだと同時接続でパーティを組んでいるので問題はないんです。チャットしながら遊べますので。しかし一日の接続時間が短いサカつくONLINEだと,ゲーム中に「同盟」仲間や友人と同じタイミングでログインする可能性は相対的に低いんですね。その解決策として,リアルタイムではないコミュニケーションツールが絶対に必要だったんです。
4Gamer:
サカつくコミュニティは,私の周囲でも好評ですが,もっといろいろな情報を参照できればいいのに,という声もあります。
椎野氏:
もちろん,機能は増えていきますよ。2007年4月の発表会でも述べたとおり,ブラウザ上からクラブの操作ができるようにするという構想もあります。ですが,サーバー負荷の問題などもあって,今はまだ様子見ですが。
4Gamer:
自分のマシン以外でも遊びたい人達のためにも,ぜひ実装してください。話は変わりますが,選手のデータはどのように収集しているのでしょうか。
椎野氏:
サカつくONLINEや「プロ野球チームをつくろうONLINE!」などを開発している,スポーツデザイン研究開発部に,データを一括で管理しているチームがあるんですよ。我々はそれを利用して,各ゲームに使っていきます。セガで出しているサッカー,野球などのスポーツゲームのデータは,そこで作っているんです。
4Gamer:
選手のパラメータは,今後更新されていくのでしょうか?
椎野氏:
随時更新していく予定です。例えば,実在の選手については実際の活躍などを見て調整することもあります。そのためデータ管理チームの人間が,試合中継を片っ端から録画して,毎日チェックしています(笑)。また,今後皆さんの意見を聞いてパラメータの調整を行うようなイベントを行う可能性もありますよ。
4Gamer:
では,ゲームシステムについておうかがいしていきます。サカつくシリーズといえば,基本的に舞台はJリーグですが,サカつくONLINEの舞台をヨーロッパにしたのはなぜでしょうか。
椎野氏:
プレイヤーごとの多様性がほしかったんです。MMORPGでいうなら,種族や職業みたいな形ですね。サカつくONLINEは,他人と“競争”するという基本軸があります。そこで舞台を一つのリーグ,例えばJリーグにしてしまうと,競争以外の部分がほとんど出てこなくなってしまう。選手の発掘に特化したオランダリーグがあり,育成が得意なフランスがあり,という具合に多様性があって直接的には争わない要素があるから,“協力”が生まれるわけです。
4Gamer:
RPGのパーティみたいな役割分担ができるわけですね。
椎野氏:
タテとヨコという考え方ですね。タテは同一リーグ内での争い。ヨコは6リーグをまたいだ,ほかのプレイヤーとの協力。そのタテとヨコを意識しながら,ゲームデザインをしていったんです。やっぱり,競争しかないゲームだと,勝てないと面白くないんですよ。試合という形で競う要素と,他リーグに所属しているプレイヤーと協力する要素,この二つを土台にサカつくシリーズ伝統のじっくり積み上げていく育成を合わせたんです。たとえ競争で勝てなくても楽しいゲームにしたかったんですよ。
4Gamer:
確かにリーグが一つだったら,協力は生まれづらかったかもしれませんね。
椎野氏:
ええ,みんなで協力しつつ競争して,6リーグすべてのディビジョン1で頂点に立つ,というのがサカつくONLINEの究極の目標だと思っています。それぞれのリーグはしっかり特徴づけをしているので,リーグごとに違ったプレイを楽しんでもらいたいです。
4Gamer:
どのリーグも個性が強いですよね。プレイしていると,どうしてもほかのリーグがよく見えてしまって,そっちに行きたくなります(笑)。
椎野氏:
“隣の芝が青く見える”というのは狙っていたところなんですよ。その点はうまくいったな,と。プレシーズントライアル(クローズドβテスト)の1回目と2回目で一番大きく変えたのは,各リーグの特徴をより顕著にしたことです。
4Gamer:
トライアル1stの時点でも,かなり特徴は出ていたように思いましたが,さらに強調していたんですね。
瀧井氏:
実は1stだと,一人でも十分遊べたんですよ。最初は苦しいけど,少しがまんすれば,なんとかなりました。今のバージョンは,あえて一人だとつらくなるようにしています。カードや選手をトレードしていかないと行き詰まりを感じると思いますよ。
4Gamer:
それで,ほかのプレイヤーに助けを求める形でコミュニケーションが生まれるわけですね。
では,カードの話が出たところでおうかがいしますが,サカつくONLINEでは,カードを使った育成システムが特徴的ですよね。このシステムを採用したきっかけはなんでしょうか。
椎野氏:
元々サカつくモバイルでも育成システムにカードを採用していたのですが,このときは単にゲームのハードルを下げるものとして使っていました。サッカーがよく分からない,どうすればクラブを強くできるか分からないという人でも,単純にいいカードを選手につければ大丈夫,という具合に。ですが,サカつくONLINEでは,カードの意味合いがちょっと違います。
基本的にサカつくシリーズはクラブの育成がメインで,あまり選手個人の育成にスポットは当てられていないんですよ。でも,サカつくONLINEでは,使うカードによって成長の仕方がドラスティックに変わるように,選手一人一人にちゃんとストーリーを作りたかったんです。例えば,デル・ピエロはちゃんと育てると“アーティスト”っていう異名がつくんですよ。
4Gamer:
異名がついた場合のメリットはどんなものですか。
椎野氏:
異名が付いた選手は引退したときにカードになるんです。デル・ピエロの場合は“アーティストカード”になるんですが,そのカードはかなり強いですよ。まあ,異名が付くように育てるのは難しいですが,そこはぜひがんばってもらいたいですね。
4Gamer:
そんな仕組みもあったんですね!
椎野氏:
それともう一つ重要なのが,カード制を採用するとトレードがしやすくなるということです。ほかのプレイヤーと交換できるのが選手だけだと,あまりトレード機能を使わないですからね。プレイヤー同士がコミュニケーションを取るきっかけを作るという意味でも,カードの存在は必須でした。
4Gamer:
カードの取得方法は独特ですよね。一試合ごとに,試合内容が評価されて,それが取得できるカードに影響するじゃないですか。あれは,出現するカードのレアリティが上がるのでしょうか。
瀧井氏:
レアリティとボーナスカードの枚数に影響します。
4Gamer:
試合内容はどのような基準で評価されるんでしょうか。
瀧井氏:
点差や両チームの統制値などが関わってきます。統制値が低いチームで高いチーム相手にいい試合ができれば,評価は良くなりますので,計画的に成長させた低ランク選手が揃う,いわゆる“玄人クラブ”の存在意義も出ます。