― 特集 ―

特別インタビュー:オンラインレース「とぅいんくる」で王道のゲーム作りに挑む

Text by TeT / Photo by 新井邦彦 

 ガイアックスのゲームポータル「ムポー」で,国産タイトルとしては最初にサービスされる予定の,オンラインレーシングゲーム「とぅいんくる」。レースとは言いながら,出てくるのは車ではなく,星形の乗り物と可愛らしいキャラクターという異色作だ。開発元のリヴィール ラボラトリは,一体何を意図してこのようなゲームを作っているのか。リヴィール ラボラトリは,一体どこを目指しているのか。
 代表取締役社長COOの田中泰生氏とディレクターの小林真由美氏に話を聞いてみた。

“ふわふわ感”+“カートゲームの面白さ”の高い融合を目指す

4Gamer
 先ほどのムポーの発表会では,ロビー画面を見せていただいたんですが,正直,どんなレースゲームなのか,よく分かりませんでした……。

 

リヴィール ラボラトリ 代表取締役社長COO 田中泰生氏
 ロビー画面じゃ分からないですよね(笑)。じゃあ,ちょっと実際に開発途中のバージョンをやってみてください。

 

プレイ後

 

4Gamer
 なるほど,画面は比較的オーソドックスなんですね。キャラクターが可愛いですねぇ。

 

田中氏
 そこには力を入れてますから。

 

リヴィール ラボラトリ リヴィールゲームズ ディレクター 小林真由美氏
 基本操作はカーソルキーと「Z」「X」「Space」だけでできます。

 

4Gamer
 キーボードでゲームをするのが初めてという人でも,比較的遊びやすそうな感じですね。
 だいたい,雰囲気は分かりました。それでは,お話を聞かせてください。まず,このゲームを開発することになった動機を教えていただけますか。

 

田中氏
 先ほど発表会でも話したんですが,私自身,mixi(ソーシャル・ネットワーキングサイト)がすごい好きなんですよ。仕事の合間にちらちら覗くような感じで。そういうノリのゲームを作りたかったんですね。

 

4Gamer
 暇つぶし気分で手軽にやれるよな感じですね。

 

田中氏
 一部では今,カジュアルゲームブームなんて言われていますしね。そこに乗っかってみようかなぁ,と。

 

4Gamer
 なるほど(笑)。

 

田中氏
 それでですね,ここにいる小林が……,まだ大学3年生なんですけどね,たまたま2005年に,僕がゲーム開発者向けのイベントで「(それまで勤めていた)テクモを辞めて,大学生とゲームを作り始めます」と話したら,「私も大学生なんですけどゲーム作りたいんです」なんて言ってきましてね。企画やプランナーをやりたいということだったんで,じゃあってことで企画を持ってこさせたわけです。

 

4Gamer
 それが今回のとぅいんくるですか?

 

田中氏
 そういうわけでもないんですが,この子らしい柔らかくてぷわ〜んとした感じのものだったんですね。それで,ずっとこの子の企画を形にしたいという思いがずっとありまして……。
 同時にレースゲームなんかも作っていたんですよ。だけどその時点で,韓国なんかにはレースゲームはあったし,実際に触ってみたりもしたんですが,ゲーム性はわりとシビアな感じで。それよりももっと,「マリオカート」みたいなものの方がいいなぁ,と。

 

4Gamer
 マ,マリオカート……ですか。

 

田中氏
 でもやっぱり,僕らが開発する以上は,“Something Different”な,ユニークものにしないと意味がないわけで,そこにこの子の感性を載っけてみようかなぁ,という流れですね。

 

4Gamer
 ただのレースゲームやカートゲームにしないためのエッセンスとして,小林さんのアイデアが載ったというような形なんですね。

 

田中氏
 そうですね。ただ,最初のプロトタイプだと,今よりももっとふわふわしていて,雲みたいなところにぶつかるとバンバン跳ね返りながら,コースアウトすることなく突き進む感じだったんですね。マリオカートっていうよりも,この子の感性をそのまま実装していったら,そうなったんですけど。

 

4Gamer
 結構,思い切ったというか,振り切れた感じだったんですね。

 

田中氏
 ええ,でも……2005年11月に任天堂から「マリオカートDS」が出たじゃないですか。あれをやってて,「あぁ,やっぱりカートは面白いな」と思って,僕ら自身がカートの持つ魅力に引き戻されたんですよ。そこで,従来のふわふわ感と,カートゲームの面白さの,一番高い融合点を目指そうという形になった次第です。同時に“世界一可愛いレースゲーム”を目指そうと。

 

4Gamer
 決して,足して2で割るっていうわけではなく。

 

田中氏
 そうですそうです。

“世界観とキャラクター,王道のゲーム作りがポイント

4Gamer
 先ほど,キャラクターの可愛さに力を入れているとおっしゃっていましたが,もう少し具体的に教えていただけますか?

 

田中氏
 ビジネス的な部分,プレイヤーへのサービスという部分,二つの側面があるんですが,世界観にはこだわっています。カジュアルゲームって,一回のプレイが5分とかじゃないですか。だけど当然,5分でゲームができあがるわけではない。
 5分以上,このゲームの世界にとどまってもらうには,どうすればいいのかということを考えていった結果,やっぱりキャラクターだよなぁ,と。キャラクターデザインはウチの桂というのが手がけているんですが……。

 

4Gamer
 プレイヤーが基本無料で遊べる分,どうつなぎ止めるかが重要になるわけですよね。

 

田中氏
 ええ,そういうことです。そのためには,キャラクターが可愛いだけではダメですよね。もっとキャラクターの背景とか,感情移入できる設定がほしい。そこであれこれ話し合って生まれたのが,各キャラクターは着道楽で,家はお金持ちだったんだけれどある事件が起きて没落してしまって,お家再興のためにレースで賞金稼ぎをしよう,という設定なんです。もちろん,それぞれ人間関係も錯綜しているんでね,一つの世界になっているという。ビジネス的な話でいうと,可愛いアイテムやコスチュームを用意するから,買ってください! ってなるんですけどね。
 でもまあ,そういう世界を用意するので,ただ単にふわっとしたゲームを5分遊んでもらうっていう以上の喜びを味わっていただけたらなぁ,と。

 

4Gamer
 5分なら5分の中で凝縮した楽しみを味わえたり,そしてそれ以上の時間遊んでもらったりするために,世界観に力を入れているということなんですね。

 

田中氏
 ええ,だからそのあたりにはむちゃくちゃ力を入れてます。プロトタイプのときは,このキャラクターじゃなかったんですよ,普通の男の子と女の子で。ただやっぱり,我々としても思い入れが持てないなぁというのがあって。小林と桂との三人で,どういう世界観だったら,どういうキャラクターだったら「オレらははまれるんだろう?」っていう話をじっくりしてきたんです。

 

4Gamer
 商業的な狙いっていうより,皆さんの好みが基準なんですか(笑)。

 

田中氏
 やっぱりそれは基本ですよ(笑)。キャラクターを作っているうちに,だんだん命が吹き込まれていくというか,この子だったらこういうことをするんじゃない? っていう感じで,どんどん世界が広がっていったんですね。で,その広がった世界っていうのをどうやって表現していくかを考えて,小説やコミックにしたりもしています。それを読めば,キャラクター同士の人間関係も分かるし,そっちはそっちで萌えられるような感じになるといいですね。
 サービスが動き出したら,小説とかコミックの展開から,本編にキャラクターやアイテムを追加させたりとかもしていきたいな,と。

 

 

4Gamer
 小説やコミックというのは,もう具体的に動いているんでしょうか。

 

小林氏
 ええ,小説はハロルド餅羽田さんにお願いして,今日(2月14日)に第一話が公式サイトに掲載されました。全6回,隔週で更新していきます。

 

田中氏
 この全6回っていうのが,とりあえず1クールめで。

 

小林氏
 オープンβテストに合わせて,現在いるキャラクターの人間関係が一通り分かるようになっています。

 

4Gamer
 じゃあ,オープンβテストに参加したい人は,まず小説を読んで人間関係を頭にたたき込んでおくと,より楽しめるぞ! ということですね。

 

小林氏
 はい,そうです(笑)。

 

4Gamer
 なるほど,よく分かりました。でも,やっぱりゲーム自体の面白さっていうのも重要ですね。とくにほかのゲームと差別化できる部分は,どこにあるのでしょうか。

 

小林氏
 そうですねぇ……。
 私自身,あまりレースゲームはやってきていないんですよ。壁とかにガリガリぶつかったりするので,ストレスが溜まっちゃって。なので,壁にぶつかってもぽーんと跳ね返ってきて,そのまま進められるようにすれば,いろんな人達がストレスなく遊べるんじゃないかなと思って作っています。
 ほかのゲームとの差別化というのは,こういう部分をいかに作り込めるかっていうことで,出てくるんじゃないかなぁと思っています。

 

田中氏
 まあ,端的に言ってしまうと,キャラの魅力,世界観の魅力,ゲームとしての気持ち良さっていうのが,差別化のポイントでありウリであると。細かい部分ですと,キャラクターの乗り物である「とぅいんくる」を育成する要素があるんですね。キャラクターのアバター要素に加えて,育成要素もあるっていうのは,ウリになるかもしれません。
 あとはまだ,どの程度まで実現できるか分からないんですけど,マップエディタをリリースして,プレイヤーさん達自身がコースを作って,そこでレースを楽しめるようなものも考えています。

 

4Gamer
 この手のゲームって,対戦の面白さがポイントだと思うのですが……。

 

田中氏
 ええ。そこのバランスは,かなり重要ですね。どうやって団子感を作り出すかっていうのが,今後の課題です。結構触れるパラメータは多いんで,それだけにバランス取りは大変だと思うんですが,遊んでいて最後の最後まで気が抜けないようなゲームにしたいです。レースゲームって,スタートダッシュを決めると勝負が終わっちゃうような部分があるじゃないですか。そうならないように,実力と運のバランスをうまく取っていきたいですね。

 

4Gamer
 そのあたりは,それこそマリオカートDSなんかはよくできていますよね。

 

田中氏
 ねー,あれはすごい。カジュアルゲームに関しては,任天堂さんみたいな,王道のゲーム作りをしたいんですよ。まだ若いチームなんで,どこまで追いつけるかは未知数ですが。王道のゲーム作りをしていくということが,一番の差別化ポイントになるのかもしれません。

“次作では,オンラインゲームに新たな定番を作り出したい

4Gamer

 そろそろ時間ということなので,最後に今後のスケジュールを教えてください。クローズドβテストは,いつ頃になりそうですか?

 

田中氏
 んー,時期的なことはちょっとまだ。

 

4Gamer
 では,期間はどれぐらいを想定していますか? 4月オープンβテストというのから逆算してみようかと(笑)。

 

田中氏
 それもちょっと(笑)。ただ,この手のゲームってMMORPGなんかとは違って,面白いかどうかは触って5分で判別されちゃうと思うんですよ。当然面白かったら,口コミなんかで一斉に広まっていくでしょうし。
 なので,イメージ的には垂直立ち上げみたいなものを目指しています。コンシューマゲームみたいにぱっと売れて,また次のゲームに……っていう具合に,ゲームのライフサイクルが短くなっちゃう部分も出てきそうなので,痛し痒しなんですけどね。

 

4Gamer
 短いライフサイクルということですと,ゲームの作り方も変わるものなんでしょうか。

 

田中氏
 もちろんそうですね。オンラインゲームって,イコールMMORPGみたいな部分があるじゃないですか。だけどカジュアルゲームっていうのは,PCゲームっていうジャンルにくくられるんじゃなくて,それこそニンテンドーDSとかそういう数あるプラットフォームの中の一つとして選ばれていくんじゃないかなぁと思うんですね。だからやっぱり,それに向けた作り方を考えていかないといけないな,と。

 

4Gamer
 このゲームの企画は,いつ頃立ち上がったものなんですか?

 

田中氏
 2005年の7月か8月頃ですね。実質的に開発を始めたのは,10月ぐらいのことです。

 

4Gamer
 まだ半年ぐらいなんですねぇ……。

 

田中氏
 そうなんですよね,考えてみれば。先ほども言いましたように,商品のライフサイクルが短くなると,開発のサイクルも速くしないといけないなぁというのもあって。
 余談ですけど,開発のエンジン化というか,スクリプトを使いながら,こういうゲームをいかに早く,いかにクォリティ高く作っていけるかということをチームとして意識しているんです。これがうまく回っていけば,この手のゲームをチャカチャカ作って,チューニングの時間をたっぷりとれると思うんですよね。そうなると,任天堂のような王道のゲーム作りに一歩近づけるんじゃないかと考えています。

 

4Gamer
 それでは,当面はこういうカジュアルゲームに注力していくということですか?

 

田中氏
 いや,そういうわけではないんです。僕らは欲張りなんで。
 ただ,リヴィールゲームズとしては,このとぅいんくるで王道のゲームを作って,それとは別にオンラインならではの遊び,MMORPG以外のオンラインゲームの定番を作り出したいんです。

 

4Gamer
 新しい定番,というと……?

 

田中氏
 なんて言うんですかね,いわば「Web 2.0」的なゲームというか(笑)。現実にあるデータ自体をうまく使うゲームみたいなものを,すごく意識しているんですよ。今はオンラインゲームのジャンルって,MMORPGとカジュアルとその他の三つじゃないですか。だからその他から抜け出して,「●●」っぽいって言われるような,そういう定番を作るべく,二つぐらいアイデアを溜めています。
 ただね,そういう挑戦って,王道のゲームをきちっと作れてこそ,できるものだと思うんですよ。だからまずは,とぅいんくるでチームとしての物作りの哲学を確立していこうと思っています。

 

4Gamer
 じゃあまずは,王道のゲーム作りを目指して,カジュアルゲームに挑戦ということなんですね。でもカジュアルゲームって,最近日本だけではなく,韓国なんかでも増えていますよね。大作とカジュアルの二極化傾向があるように思うんですが,そんな中で今回,カジュアルゲームを選択した理由はどこにあるのでしょうか。

 

田中氏
 先ほどもお話ししたとおり,僕自身が,mixiとかと同じようなノリで遊べるものがほしかったんですよ。今って,皆さん忙しいじゃないですか。MMORPGは面白いんですし,時間に余裕があるときにはいいんですけど,忙しくなるとなかなか遊べなくなっちゃいますよね。

 

4Gamer
 なりますねぇ。しばらくログインできない間に,大幅なアップデートがあって,知らない世界になっていたり……。

 

田中氏
 でしょう。でも,コンシューマゲーム機を買ってきたり,複数台のゲーム機を持っていたらいちいちテレビにつなぎ変えたりするのも面倒になりますよね,忙しいと。

 

4Gamer
 電源入れるだけで遊べる状態でも,電源入れることが面倒だったりしますね,忙しい時期って。でもPCは立ち上げてメールのチェックは欠かさなかったり。

 

田中氏
 まさにそこなんですよ。そういう感じでPCを立ち上げたときに,ちょろっと遊べる,しかも面白い,そんなものを作りたかったんです。

 

4Gamer
 気負わず遊べる,いい意味での暇つぶしというとらえ方ですね。

 

田中氏
 ええ。ゲームってお菓子みたいなものだと思うんですよ。なくても本当は困らないんだけど,あるとちょっと嬉しいというか。もちろん,一日に12時間とかゲームばっかりやっている時期っていうのは,青春時代なんかにはあってもいいとは思うんですよ。

 

4Gamer
 MMORPGなんか,どれだけ時間を費やせるかの勝負みたいな部分もありますよね。

 

田中氏
 だけど,そういうことができない人もいっぱいいるわけです。限られた数の中に割って入って,さらにそこから時間を奪うよりも,これから面白いマーケットになっていきそうなカジュアルゲームの中でやっていくほうが,ビジネスとしても面白いっていうのはあります。

 

4Gamer
 仕事で忙しい人も,ゲームで忙しい人も,その合間にちょっと遊んでもらおうと?

 

田中氏
 実はそのあたり,ガイアックスさんに教わった部分でもあるんですけれど,人気のあるゲームがサーバーメンテナンスなんかをやっている時間に,コバンザメ的に食いついていくっていうのも戦略としてアリだなと(笑)。

 

4Gamer
 コバンザメ……ですか(笑)。

 

田中氏
 でももちろん,それだけじゃないですよ。まずは,今オンラインゲームで遊んでいる人達に興味を持ってもらうというのが前提ですが,それこそ昔はファミコンで遊んでいたけれど今はゲームをやっていないという人達なんかが,空き時間にPCで遊んでくれるような,そういう娯楽にカジュアルゲームのマーケットは育ってほしいんです。
 そうすると自然に裾野も広がるし,幅広い層から薄く広く課金とか,あるいは広告モデルみたいなものもできるかもしれない。そうなれば,僕らも,マーケットも,遊ぶ人も三者三様にハッピーじゃないですか。

 田中氏の発言で印象的だったのは,「王道のゲーム作り」という言葉。インタビュー中,何度となく任天堂の名前が挙がっているが,田中氏にとってはやはり,ファミコン以降の任天堂が作ってきたゲームが,大きな目標になっているようだ。
 田中氏は明言こそしなかったものの,オンラインゲームという分野では立ち後れている日本のゲーム業界が,今後巻き返していくためのカギになるものを,王道のゲーム作りの中に見いだしているのかもしれない。
 それがどのレベルで実現できるのか,まずはとぅいんくるの出来に注目したい。

 

タイトル とぅいんくる
開発元 リヴィールラボラトリ 発売元 ガイアックス
発売日 2007年内 価格 基本プレイ料金無料
 
動作環境 対応OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以降),Pentium III 1.2GHz以上[Pentium 4 1.5GHz以上推奨],HDD空き容量:1GB以上[1.5GB以上推奨],メモリ512M[768MB以上推奨],GeForce2MX(グラフィックスメモリ32MB)以上[グラフィックスメモリ64MB以上推奨],DirecX 9.0以降対応のサウンド環境,ADSL1.5Mbps以上の通信環境[ADSL 24Mbps以上推奨]

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(C)GTE. Reveal Games 2007

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