― 特集 ―
コーエー松原氏に聞く,2005年のオンラインゲーム市場と,これからのオンラインゲーム戦略

Text by TAITAI,Photo by kiki 

 オンラインゲームを主題とした講演会であるアジア オンライン ゲーム カンファレンス 2006(以下,AOGC 2006)の開催も間近に迫った2006年1月末。日本のオンラインゲーム業界ではお馴染みのコーエーの松原健二氏に,インタビューをする機会を得ることができた。
 多くの企業の参入や上場,アイテム課金モデルのタイトルの隆盛など,何かと話題の多かった2005年の日本のオンラインゲーム業界だが,コーエーにとって2005年とはどんな1年だったのだろうか。また「真・三國無双 BB」や「三國志 Online(仮)」といった新作オンラインゲームの動向はどうなっているのだろうか。

 

海外展開を主眼においた2005年のコーエー

4Gamer:

 本日は宜しくお願いします。国内のオンラインゲーム業界にとって2005年はいろいろなことがあった1年でしたが,コーエーとしては,2005年をどう振り返りますか?

松原健二氏:

 そうですね。コーエーにとっても2005年は,確実に変化もしたし,成長もあった一年だったと思いますが,正直に言ってしまうと「もっと行きたかった」というのが本音になりますね。

4Gamer:

 と言いますと?

松原健二氏:

 昨年のAOGCなどでお話しした通り,2005年度のコーエー(のオンラインゲーム部門)は,「海外展開」にまつわる活動にかなりのリソースを割いていました。
 具体的には,2005年度は,台湾で2タイトル,韓国で1タイトルをサービスインさせていて,そこに関しては割と順調という雰囲気なのですが,ただ中国に関しては,結局βテストまでしか行うことができず,ここが「もっと行きたかった」と感じる一番の部分になります。

4Gamer:

 やはり中国展開は難しさを感じますか。

松原健二氏:

 そうですね。やはり中国で展開するにあたっては,中国政府からの認可を待つということがあって……開発の上でのことであれば自分たちで解決できるので,いくらでも頑張るのですが,そうもいかないですからね。結果的に,ほかの地域と比べてスケジュールが遅れてしまっている。ここは非常に残念だった部分ですね。

4Gamer:

 ふむふむ。

松原健二氏:

 あとそういう手続き的な面とは別の面でも,海外のオンラインゲームが中国の市場に入っていくのは段々難しくなっているという印象がありますね。とくに中国産のタイトルが質/量共に充実し,力を付けてきたというのをひしひしと感じます。KINGSOFTさんであれ,網易(ネットイーズ)さんであれ,見るとゲームランキングの上位に中国産のタイトルが目立つようになって来ている。非常に頑張っているな,と。

4Gamer:

 9CityとかShanda(盛大)などもそうですが,パブリッシャーとして韓国産のタイトルなどを運営していたところが,デベロップメントも兼ねるようになってきていますね。

松原健二氏:

 ええ。我々日本のデベロッパとしては「負けていられないな」と感じますよ。現在中国でβテストを行っている「信長の野望 Online」も,まずは順調と言える推移なのですが,韓国,台湾,そして中国のメーカーと競争していかなければいけないわけですからね。もっとしっかり現地のユーザーの方々のニーズを汲み取って,楽しんで頂けるように努力していきたいですね。

4Gamer:

 なるほど。では翻って,日本国内のオンラインゲーム市場の印象はどうでしたか?

松原健二氏:

 まず国内のオンラインゲーム市場に関していえば,とにかく参入してくる企業やタイトルが多かったな,というのは印象的ですね。去年の初めの頃なんて,国内でサービスインされているオンラインゲームは30タイトルあるかないかという数だったと思いますが,正確な数値は数えてないですけど,今ってそれどころじゃないじゃないですか。

4Gamer:

 年末の時点で調べた限りだと,日本国内でも50は優に超えてましたね,全体で。

松原健二氏:

 それくらいはありますよね。また去年のオンランゲーム業界をほかの側面から見ると,それはガンホーさんやゲームポットさんの上場が,業界にとっての大きなポイントだったと思うんですよね。
 それぞれ一時期の時価総額が数千億円,数百億円といった状況を見ていると,オンラインゲームというものが多くの人から注目されているな,またこれから伸びていく市場なんだな,ということを再認識させられました。と同時に,いよいよ競争が激しくなってきたなと。どんどん新しい戦略を考えていかないといけないと思いますね。

4Gamer:

 あと去年の大きな流れとしては,「アイテム課金制」の隆盛というものがあると思うのですが,これについての印象はどうですか?

松原健二氏:

 去年の後半からアイテム課金制に移ったタイトルは本当に多かったですね。いまや,定額課金制の方が少数派になってしまったというか(笑)。
 アイテム課金というと,ご存じのように韓国で生まれたビジネスモデルをそのまま踏襲して来ているというのが現状ですよね。実はコーエーでも「信長の野望 Online」を開発していた頃から,アイテム課金モデルを調べていました。3年くらい前ですかね。ただいろいろと調べてみたつもりなのですけれど,その当時は,正直日本でこのモデルが定着する雰囲気が感じられませんでした。

4Gamer:

 確かに,当時はちょっと違和感があるモデルでしたよね。

松原健二氏:

 ええ。アイテム課金制に限っていえば,おっしゃるとおり,去年がまさに日本でのターニングポイントだったかな,と。去年一年で一気に広まっていった。

4Gamer:

 単刀直入に聞いてしまいますけれど,コーエーがアイテム課金制を採用するということは?

松原健二氏:

 これから新しく出てくるタイトルに関しては,十分に検討したいと思います。ただ現在サービス中の「信長の野望 Online」や「大航海時代 Online」などに関しては,ゲームの作り自体――ゲーム性のデザインなど含めての話です――が定額課金制を前提にした内容になっているので,これらのタイトルをアイテム課金制に移行させるというのは,非常に難しいかなと考えています。これらのタイトルに関しては,とりあえずは定額制をキープしつつ,活性化/サービスの充実を図っていくという方向になると思います。
 あと,携帯電話を使った新しいサービスなどをオプションとして用意することで,収益性を高めていくというやり方は進めていきたいなと思っています。携帯電話に関しては,「大航海時代 Online@モバイル」のβテストを去年からずっとやってきておりますので,2006年のできるだけ早い時期に有料サービスを開始したいと考えています。

新作オンラインゲームに関して:真・三國無双 BB

4Gamer:

 新しいタイトルという話がありましたが,新作というと「真・三國無双 BB」や「三國志 Online(仮)」がやはり気になります。開発状況を聞いてもよいですか?

松原健二氏:

 そうですね。ではまず「真・三國無双 BB」ですが,春くらいまでには詳しい話をお伝えできると思いますが,今はまだ辛抱して頂ければ……と。こう言ってしまうと言い訳がましくなってしまうのですが,やはり「真・三國無双」というブランドを背負っていることは大きなプレッシャーにもなっていて,サービススケジュールや体制/システム面,そしてゲーム性などを含めて,慎重にやらなければ,という思いは強いですね。
 真・三國無双は多くのファンに支持されているブランドだと思いますし,オンライン化することで,より多くのユーザーを獲得したいと考えています。

4Gamer:

 でも内容的にもかなりチャレンジャブルなものになりそうですよね。例えば,「真・三國無双 BB」はかなりのアクション性を持たせているようですが,いわゆる遅延の問題などに関しては,すでに解決されているのでしょうか。

松原健二氏:

 今はまだ詳しくお話できないのが残念ですが,社内でテストを行っている限りでは,なかなかのレベルに来ているかな,と手応えを感じている状態です。開発は順調に進んでいますよ。もちろん,もっとパケット量を減らしたいだとか遅延を短くしたいだとか,欲を言えばキリがないのですが,そろそろ「βテストが見えてきた」というところです。

4Gamer:

 ついに見えてきましたか,βテスト。とはいえ,時期とかはまだ言えないですよね。

松原健二氏:

 ええ。ただいずれにせよ,真・三國無双 BBについては,とても近いうちに詳しくお話できると思います。期待していてください。

4Gamer:

 期待しています。

新作オンラインゲームに関して:三國志 Online(仮)

4Gamer:

 「三國志 Online(仮)」の進捗はどうでしょうか。シンガポールで開発,という情報以外はまだほとんど無い状態ですが。

松原健二氏:

 こちらの方は,本格的な開発は昨年から始まっていて,社内では,「真・三國無双 BB」の次,という位置づけで開発を進めています。「真・三國無双 BB」はオンラインアクションゲームというジャンルで開発を進めていますけど,こちらはいわゆるMMORPGになります。
 これほど大規模なタイトルを海外で開発を行う……という部分は,やはり我々としても大きな挑戦になりますね。ご存じの通り本作はシンガポールで開発を行っていて,現地のスタッフも非常に優秀な人が集まってきてくれているんですけれども,シンガポールにはゲーム産業自体がまだ始まったばかりという状態ですから,いろいろと苦労する面は多いですね。CGデザイナーにしても,アニメなどの仕事をしてきた方は結構いるのですが,ゲームCGというのを作った経験はないとか。

4Gamer:

 なるほど。でも純粋に疑問に思うのですけれど,なぜシンガポールで開発を行おうと思ったのでしょうか? 日本のスタッフだけで開発を行ったほうが,意思疎通の面からしても絶対に楽なのではないですか?

松原健二氏:

 開発の難度だけでいったら,日本人オンリーのスタッフはこれまでの豊富な経験があるわけでして,その差は明らかです。三國志シリーズにしても,これまでに10作以上作ってきているわけですし,そこのスタッフで制作に取りかかれば,意思疎通もスムーズにいくと思います。
 ただ,そうやって作った,ある種"日本テイストの強い三國志オンラインゲーム"が,果たして中国,台湾,韓国を初めとした各地域でそのまま受け入れられるか……というと,そこはパッケージゲームとは違う部分があると思うんです。
 とくに昨年は,実際に各地域でオンラインゲームをサービスインさせてきたわけですけれど,それぞれの地域独自の趣向というのはかなりあって,やっぱり日本のそれとは全然違う。パッケージゲームでは日本が先行していますが,オンラインゲームではアジアのそれぞれの地域のこだわりは相当に強いと思います。
 そういったアジア各地域国の趣向/空気みたいなものに応えていけないと,レベルの高いサービスを提供するのは難しいのではないかなと。これまでは日本で開発した後,それをベースにアジア地域に展開してきましたが,これからは日本はもちろんですが,初めからアジアそして世界をも意識した開発をしたいということなんです。

4Gamer:

 なるほど。そういう意味でシンガポール。

松原健二氏:

 ええ。シンガポールというのは,いろいろな文化が入り交じっている国ですよね。中華系もいればインド系もいるし,欧米系のライフスタイルも定着している。そういう東西の文化が融合しているような地域で開発を行うことによって,よりグローバルな作品にしていけるんじゃないかなと。
 またシンガポールって,ゲーム産業が始まったばかりとはいえ,オンラインゲーム自体はかなり流行っているところなんですよね。だから,スタッフからのアイデアはもの凄く集まる。開発のマイルストーンごとのバージョンなんかを見ていても,インタフェースなんかはもうかなり洗練されていますよ。システム的にも,かなり先進的な内容になるのではないでしょうか。

4Gamer:

 おぉ,それは楽しみですね。

松原健二氏:

 あとシンガポールで開発を行うと決定した部分に関しては,シンガポール政府が,これからデジタルコンテンツ産業に入れていくという姿勢を非常に強く見せていたというのも大きいですね。シンガポール政府話を重ねていくうちに,コーエーもシンガポールに進出するか,となりました。
 まぁ「三國志 Online」も,詳しい情報はもう少しお待ちいただければ,というところです。

4Gamer:

 分かりました。

国内のオンラインゲーム市場について

4Gamer:

 ちょっと話は戻ってしまいますけど,国内のオンラインゲーム市場の状況をどう判断なされますか? 先ほど話題にもなったように,アイテム課金などを始め,いろいろと動きが激しくなっていると思いますが。

松原健二氏:

 まず端的に分析すると,いわゆる定額課金をベースとしたオーソドックスなタイトルと,アイテム課金をベースにしたカジュアルなタイトル……,オーソドックス/カジュアルという表現はちょっと違うかもしれないですけど,この二つの二極化が進んでいるのかな,という感じかと思います。
 また双方のタイトル群を見てみると,オーソドックスは古いゲーム(そしてブランド力のあるゲーム)がメインになっていて,後者は新しいタイトルが多い。

4Gamer:

 確かにそうですね。

松原健二氏:

 これはなぜかなって考えてみると,定額課金制のタイトルというのは,毎月1000〜2000円程度のお金を払うというユーザーから見たパッケージゲームとの違いだけではなくて,開発する方にとってビジネス的な参入障壁が高い分野/ジャンルなんだろうなって思うんですよね。というのも,ガンホーさん然り,スクウェア・エニックスさん然り,そしてコーエーと,非常に"強いタイトル"が既に存在していますよね。これらのタイトルに対抗していくのは,大変なことです。
 その点で考えると,基本無料/アイテム課金制のタイトルというのは,マーケティング的にも新しい分野だと思うんですよね。定額課金制のタイトル群との差別化という意味でも,アイテム課金モデルのタイトルの隆盛は必然だったのかなと。

4Gamer:

 なるほど。

松原健二氏:

 ただ我々コンテンツ制作側としては,やはりゲームの内容の良し悪しを重要視しています。ビジネスモデルの選択は「いつどのようにお客さんにお金をお支払いいただくか」であって,お金を払うモチベーションの発生自体は,ゲームの面白さに依存するんじゃないかなと。ずっと前からゲームを作ってきている我々としては,やっぱりそこで勝負していきたいとは思いますね。
 とはいえ,オンラインゲームが盛り上がってきている現状を見ると,新規のユーザーさんが増えてきて,市場が多様化してきているのは間違いない。アイテム課金モデルの検討も含めて,それに対応していく努力はしていかなければならないでしょう。

4Gamer:

 ちょっとPCのオンラインゲームからは離れますが,市場の多様化という意味では,ニンテンドーDSのWi-Fiなどはどう思われますか?

松原健二氏:

 発売当初から売れ行き好調なのは把握していましたけど,去年末の「マリオカートDS」「おいでよ どうぶつの森」がバーンと売れて凄いですよね。これまで任天堂の岩田社長が言ってきたこがちゃんと実現できているんだな,ということを改めて感じさせられました。
 ニンテンドーDSのWi-Fiでいうと,なんといっても「手軽さ」が素晴らしいですね。オンラインゲームというと,インターネットに接続するということが,テクニカルにも,遊ぶ感覚からも,パッケージゲームに馴染んでいるユーザにとっては,まだ多少のつっつきの悪さを感じさせているのじゃないでしょうか。でも「マリオカートDS」が出てきて,これまでオンラインゲームというものを知らなかった新しいお客さんがWi-Fiにワッと集まってる。オンラインゲーム市場全体にとって,これは非常に意味のあることだと思います。

4Gamer:

 コーエーとしては,Wi-Fiを使ったオンラインゲームというのは考えているのでしょうか?

松原健二氏:

 非常に興味を持っていますよ。ただDSはハードディスクがないなどやっぱりMMORPGみたいなゲームは相性が良いとは言えませんから,どういう形のゲームだと面白いのかという部分は,制作の我々側が良く考える必要があるでしょうね。
 先の「市場の多様化」という話とかぶりますが,カジュアル/ライトゲーマー向けへの取り組みは,弊社にとっても大きな課題です。これまであまりゲームをしなかったユーザー層を惹きつけて,新しい市場を開拓することを目指しています。

4Gamer:

 そういう意味だと,御社のゲームサイトであるGAMECITYをポータルサイト化させるという方向もあり得るのでしょうか? 最近の大きな流れで言うと,大手のオンラインゲームメーカーのほとんどがポータルサービスを志向していますよね。

松原健二氏:

 現在のGAMECITYは,コーエーのユーザーさんに向けてサービスを展開するという雰囲気がまだ大きいと理解しています。今後は,もっと広いユーザー層の獲得,新しいサービスへ向けて内容を充実させる,これは我々の目指す方向です。これをポータルサイト化と呼ぶかどうか分りませんが,伝えたいのは,ただ既存にあるサービスを追いかけるのではありません,ということです。コーエーとしての独自性,新規性をどう出していくかが課題だと思います。
 アバター系のポータルサイトなどを見ていると,お客さんを繋ぎ止める要素ってコミュニティですよね。SNSや掲示板やBlogや。もちろん,そういう方向性もありだとは思いますけど,さらにサービスを工夫して差別化し,ユーザーさんにどう楽しんでもらうかがポイントだと思います。GAMECITY自体もっともっと良く出来る要素は多いと思いますが,ほかのポータルサービスと上手く連携して,お客さんへのリーチ力を高めていくことも,その一つとして可能性はあるでしょう。

4Gamer:

 では,そろそろ時間も差し迫ってきたので,最後に。2006年は,コーエーにとってどんな1年にしたいですか?

松原健二氏:

 そうですね。ガンホーさんなどの上場の例でも分るように,2005年はオンラインゲームというものが,市場的にも経済的にも大きく認められたターニングポイントだったと思います。
 とはいえ,やはりデベロッパである我々としては,ユーザーさんに楽しく遊んで頂くことで評価を高めていくことが最も重要ではないかと思います。そしてそうした支持をベースにして,コーエーの市場的な価値をもっと高めていきたいと思ってます。

4Gamer:

 本日はありがとうございました。


 海外展開の話から国内のオンラインゲーム市場の考察まで,多岐にわたる内容となった今回のインタビューだが,その内容を振り返ってみても,「オンラインゲーム」の市場的/ビジネス的な範囲が,飛躍的に広がりつつあるのがよく分かるのが印象的だ。
 韓国/日本のパブリッシャー各社のポータルサービスの立ち上げや課金モデルの変遷など,ビジネスモデルが目まぐるしく変わるオンラインゲーム市場において,高い開発能力を誇るコーエーがどうポジショニングしていくのか,非常に興味深いところである。
 今回のインタビューでは,流石に「真・三國無双 BB」「三國志 Online(仮)」の両タイトルの情報はそれほど得られなかったが,松原氏の話しぶりでは,「真・三國無双 BB」に関しては,そろそろ表に出てきそうな雰囲気。今年出てくるであろう新作の中でも相当の注目作であるだけに,その正否が市場に与える影響も大きいことだろう。プレイヤーとしては,まずどんなゲームに仕上がっているのかが気になるわけだが,なんにしても,松原氏の言う「そろそろβが見えてきた」という言葉に期待したいところ。
 昨年は,「大航海時代 Online」以降日本国内では表立って大きな動きのなかったコーエーだが,今年の動向には,俄然注目しておきたい。