4Gamer:
ちょっと話は戻ってしまいますけど,国内のオンラインゲーム市場の状況をどう判断なされますか? 先ほど話題にもなったように,アイテム課金などを始め,いろいろと動きが激しくなっていると思いますが。
松原健二氏:
まず端的に分析すると,いわゆる定額課金をベースとしたオーソドックスなタイトルと,アイテム課金をベースにしたカジュアルなタイトル……,オーソドックス/カジュアルという表現はちょっと違うかもしれないですけど,この二つの二極化が進んでいるのかな,という感じかと思います。
また双方のタイトル群を見てみると,オーソドックスは古いゲーム(そしてブランド力のあるゲーム)がメインになっていて,後者は新しいタイトルが多い。
4Gamer:
確かにそうですね。
松原健二氏:
これはなぜかなって考えてみると,定額課金制のタイトルというのは,毎月1000〜2000円程度のお金を払うというユーザーから見たパッケージゲームとの違いだけではなくて,開発する方にとってビジネス的な参入障壁が高い分野/ジャンルなんだろうなって思うんですよね。というのも,ガンホーさん然り,スクウェア・エニックスさん然り,そしてコーエーと,非常に"強いタイトル"が既に存在していますよね。これらのタイトルに対抗していくのは,大変なことです。
その点で考えると,基本無料/アイテム課金制のタイトルというのは,マーケティング的にも新しい分野だと思うんですよね。定額課金制のタイトル群との差別化という意味でも,アイテム課金モデルのタイトルの隆盛は必然だったのかなと。
4Gamer:
なるほど。
松原健二氏:
ただ我々コンテンツ制作側としては,やはりゲームの内容の良し悪しを重要視しています。ビジネスモデルの選択は「いつどのようにお客さんにお金をお支払いいただくか」であって,お金を払うモチベーションの発生自体は,ゲームの面白さに依存するんじゃないかなと。ずっと前からゲームを作ってきている我々としては,やっぱりそこで勝負していきたいとは思いますね。
とはいえ,オンラインゲームが盛り上がってきている現状を見ると,新規のユーザーさんが増えてきて,市場が多様化してきているのは間違いない。アイテム課金モデルの検討も含めて,それに対応していく努力はしていかなければならないでしょう。
4Gamer:
ちょっとPCのオンラインゲームからは離れますが,市場の多様化という意味では,ニンテンドーDSのWi-Fiなどはどう思われますか?
松原健二氏:
発売当初から売れ行き好調なのは把握していましたけど,去年末の「マリオカートDS」「おいでよ どうぶつの森」がバーンと売れて凄いですよね。これまで任天堂の岩田社長が言ってきたこがちゃんと実現できているんだな,ということを改めて感じさせられました。
ニンテンドーDSのWi-Fiでいうと,なんといっても「手軽さ」が素晴らしいですね。オンラインゲームというと,インターネットに接続するということが,テクニカルにも,遊ぶ感覚からも,パッケージゲームに馴染んでいるユーザにとっては,まだ多少のつっつきの悪さを感じさせているのじゃないでしょうか。でも「マリオカートDS」が出てきて,これまでオンラインゲームというものを知らなかった新しいお客さんがWi-Fiにワッと集まってる。オンラインゲーム市場全体にとって,これは非常に意味のあることだと思います。
4Gamer:
コーエーとしては,Wi-Fiを使ったオンラインゲームというのは考えているのでしょうか?
松原健二氏:
非常に興味を持っていますよ。ただDSはハードディスクがないなどやっぱりMMORPGみたいなゲームは相性が良いとは言えませんから,どういう形のゲームだと面白いのかという部分は,制作の我々側が良く考える必要があるでしょうね。
先の「市場の多様化」という話とかぶりますが,カジュアル/ライトゲーマー向けへの取り組みは,弊社にとっても大きな課題です。これまであまりゲームをしなかったユーザー層を惹きつけて,新しい市場を開拓することを目指しています。
4Gamer:
そういう意味だと,御社のゲームサイトであるGAMECITYをポータルサイト化させるという方向もあり得るのでしょうか? 最近の大きな流れで言うと,大手のオンラインゲームメーカーのほとんどがポータルサービスを志向していますよね。
松原健二氏:
現在のGAMECITYは,コーエーのユーザーさんに向けてサービスを展開するという雰囲気がまだ大きいと理解しています。今後は,もっと広いユーザー層の獲得,新しいサービスへ向けて内容を充実させる,これは我々の目指す方向です。これをポータルサイト化と呼ぶかどうか分りませんが,伝えたいのは,ただ既存にあるサービスを追いかけるのではありません,ということです。コーエーとしての独自性,新規性をどう出していくかが課題だと思います。
アバター系のポータルサイトなどを見ていると,お客さんを繋ぎ止める要素ってコミュニティですよね。SNSや掲示板やBlogや。もちろん,そういう方向性もありだとは思いますけど,さらにサービスを工夫して差別化し,ユーザーさんにどう楽しんでもらうかがポイントだと思います。GAMECITY自体もっともっと良く出来る要素は多いと思いますが,ほかのポータルサービスと上手く連携して,お客さんへのリーチ力を高めていくことも,その一つとして可能性はあるでしょう。
4Gamer:
では,そろそろ時間も差し迫ってきたので,最後に。2006年は,コーエーにとってどんな1年にしたいですか?
松原健二氏:
そうですね。ガンホーさんなどの上場の例でも分るように,2005年はオンラインゲームというものが,市場的にも経済的にも大きく認められたターニングポイントだったと思います。
とはいえ,やはりデベロッパである我々としては,ユーザーさんに楽しく遊んで頂くことで評価を高めていくことが最も重要ではないかと思います。そしてそうした支持をベースにして,コーエーの市場的な価値をもっと高めていきたいと思ってます。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
海外展開の話から国内のオンラインゲーム市場の考察まで,多岐にわたる内容となった今回のインタビューだが,その内容を振り返ってみても,「オンラインゲーム」の市場的/ビジネス的な範囲が,飛躍的に広がりつつあるのがよく分かるのが印象的だ。
韓国/日本のパブリッシャー各社のポータルサービスの立ち上げや課金モデルの変遷など,ビジネスモデルが目まぐるしく変わるオンラインゲーム市場において,高い開発能力を誇るコーエーがどうポジショニングしていくのか,非常に興味深いところである。
今回のインタビューでは,流石に「真・三國無双 BB」「三國志 Online(仮)」の両タイトルの情報はそれほど得られなかったが,松原氏の話しぶりでは,「真・三國無双 BB」に関しては,そろそろ表に出てきそうな雰囲気。今年出てくるであろう新作の中でも相当の注目作であるだけに,その正否が市場に与える影響も大きいことだろう。プレイヤーとしては,まずどんなゲームに仕上がっているのかが気になるわけだが,なんにしても,松原氏の言う「そろそろβが見えてきた」という言葉に期待したいところ。
昨年は,「大航海時代 Online」以降日本国内では表立って大きな動きのなかったコーエーだが,今年の動向には,俄然注目しておきたい。