レビュー : イース・オリジン

シリーズファンならずとも押さえておきたいARPGの秀作

イース・オリジン

Text by 大路政志
2007年1月12日

 

この場面を見てしびれないイースファンは,まずいないだろう。アドルは登場しないが,双子の女神,黒真珠,クレリア,そして「塔」など,シリーズを象徴する要素が盛りだくさんである

 日本ファルコムの看板アクションRPG,イースシリーズの最新作である「イース・オリジン」が,2006年12月21日に発売された。そのタイトルが示しているように,本作ではイースシリーズの起源ともいえるストーリーが展開される。時間軸としては,ファンにはおなじみの主人公“赤毛の剣士”アドル=クリスティンが活躍した時代の,約700年前という設定だ。
 「アドルが登場しないイース」とはいえ,「イースI」「イースII」へと連なる重要度の高い(そしてファンにとってはどこか懐かしい)ストーリー展開や,軽快なアクション,一筋縄ではいかないボスモンスターとのバトルなどなど,その内容はまごうことなき“イース”。あえて先に結論を述べるなら,本作は,3Dグラフィックスが採用された「イースVI−ナピシュテムの匣−」「イース−フェルガナの誓い−」が苦手ではないという人に,声を大にしてオススメしたい秀作である。
 なお,当レビューには,一部「ネタバレ」につながる文章/スクリーンショットが掲載されているので,これから本作をプレイしようと考えている人は,ゲームを購入し,ある程度話を進めてから目を通したほうがいいかもしれない。その点はご注意を。また,本作についての基礎知識をチェックしたいという人は「こちら」を,対ボス戦の雰囲気をムービーで確認したいという人は,「こちら」を併せてチェックしてほしい。

 

 

ゲームの舞台は古代イース王国末期の「塔」
まさに“起源”を知るためのストーリー

 

イース・オリジンは,最終的に3人の主人公でゲームが楽しめる。それぞれストーリー展開やキャラクター特性が異なるので,リプレイアビリティは非常に高いといえよう

 イース・オリジンの舞台は,シリーズを通じての主人公であるアドルが活躍した時代から約700年前の,古代イース王国末期。双子の女神フィーナ/レアと,その側近である六神官に導かれ,イースは“理想郷”と呼ばれるほどの栄華を誇っていた。
 そこでは,女神の至宝たる“黒真珠”と,魔力を増幅する金属“クレリア”によって,人々は豊かな生活を送っていたが,突如多数の魔物が出現し,地上を蹂躙し始めた。人々は,女神の住むサルモンの神殿にまで追い詰められるが,女神と六神官は黒真珠の力を用い,神殿を浮上させることに成功した。
 最悪の事態は免れたものの,問題は解決しなかった。魔物達は天空の神殿に迫るほどの「塔」を築き,神殿からは,イースの象徴たる双子の女神が姿を消したのである。イースの民は再び絶望の淵に立たされた。
 そんな中,六神官は神官/騎士/魔道師から精鋭を選りすぐり,女神捜索隊を編成。女神失踪の秘密が隠されていると思われる「塔」へ,彼らを送り込んだのである。

 以上が,イース・オリジンのオープニングストーリーである。イースシリーズのファンならば,軽く目を通しただけでグッと引き込まれてしまうような,実に興味深い舞台設定といえるだろう。
 基本的に,ゲームのストーリーは,女神捜索隊の一員である天真爛漫な騎士見習いユニカ=トバと,“ファクトの眼”と呼ばれる強力な魔法具を使いこなすユーゴ=ファクトの視点で進展していく。「塔」を舞台に,突如姿を消した双子の女神を捜す冒険を繰り広げる彼らの前には,女神達を捕らえようとする「闇」と名乗る勢力が現れるのだが,「闇」のメンバーの中には,ユニカの父であるサウル=トバを討ち取った“戦鬼”キシュガルや,なにかとユーゴに絡んでくる憎めない女戦士 エポナ,そして,後に(ユニカとユーゴでゲームをクリアすると使用可能になる)第三の主人公となる「鉤爪の男」などが登場し,ストーリーを盛り上げる。また,さまざまな魔物を召喚する妖艶な女魔道士ザバや,「闇」を率いる黒衣の魔道士ダレスなども,ゲームの要所で登場し,物語の核心に迫る言葉を発する。
 女神はなぜ,サルモンの神殿から姿を消したのか。「闇」の目的は何なのか。そして「鉤爪の男」は何者で,なぜ「闇」の軍門に下ったのか。そういった数々の謎が,複数の主人公の視点を通じて,「黒真珠」「クレリア」を軸に解きほぐされていく。ストーリー展開は至ってシンプルではあるが,その正調ともいえるイース節には,多くのプレイヤーがのめり込んでしまうはずだ。
 なお,ゲームの難度設定にもよるが,ゲームクリアに要するプレイ時間は,主人公一人あたり9時間前後といったところ。3キャラクター分の視点で物語が楽しめるとはいえ,ストーリーのボリュームには若干物足りなさを感じる人もいるかもしれない。しかし,ゲームの難度がEasy/Normal/Hardの3種類から選べたり,ゲームをクリアすれば(使用キャラクターの)タイムアタックモードが遊べるようになったりと,さまざまな遊び方が用意されている点は,嬉しいかぎりである。

 

ストーリーはシンプルだが,シンプルゆえの力強さが感じられる。アクションRPGながらも,個性豊かなキャラクター達が多数登場し,物語を盛り上げてくれる点もうれしい

 

 

アクションゲームとしての出来は抜群
戦闘の楽しさを思いっきり満喫しよう

 

本作で追加されたブーストモードの発展形であるシステム,「バーストモード」。発動すれば強力な範囲攻撃が発生するので,ここぞという場面で使用したい

 冒頭でも触れたように,イース・オリジンは3Dグラフィックスが採用されたアクションRPGだ。ナピシュテム/フェルガナと同様のゲームエンジンをベースに開発されているようで,基本的な操作系統や表現方法は,それらと大差ない。移動,攻撃,ジャンプ,ダッシュといったアクションを組み合わせて敵と戦い,塔の仕掛けを突破して突き進んでいくこととなる。
 しかし,ナピシュテム/フェルガナとは異なるゲームシステムや,新たなアクション性なども盛り込まれているため,そのプレイフィールにはかなりの違いがある。ここでは,そういった点について紹介していこう。

 前2タイトルとの最も大きな違いは,操作する主人公によって,攻撃手段とその特徴が異なることだろう。ユニカは戦斧/大剣,ユーゴは杖/ファクトの眼,鉤爪の男は鉤爪による通常攻撃が可能となっており,それぞれ攻撃回数や有効範囲が異なっている。
 また各主人公は,敵にスタン効果/防御力低下効果を与えることがある「下突き」/「特殊攻撃」も繰り出せる(ユーゴは魔法弾を射出して戦うため,下突きは使えない)ほか,風/雷/炎の力を秘める神器を入手することで,それぞれに対応したスキルを発動することも可能だ。スキルは,従来作でいう魔法のようなもので,いわゆるタメ撃ちも可能となっている。
 ちなみに,風の神器には滞空時間や移動距離を伸ばす効果が,雷の神器にはもろい壁を壊す効果が,火の神器には燭台などに火を灯す効果があり,隠されたアイテムを入手するためや,通常の手段では突破できない難所をクリアするためにも活用することになる。
 本作には,特別難しい謎解きは用意されていないものの,さまざまな仕掛けを突破するために,あれこれと試行錯誤するのは楽しいものだ。

 ユニカは戦斧/大剣を用いた白兵戦を得意としており,ナピシュテム/フェルガナでのアドル=クリスティンに近いプレイフィールが味わえる。風のスキルは回転斬り,雷のスキルは地面に叩きつけた武器を中心とする範囲攻撃,火のスキルは剣先から炎を飛ばす射出攻撃となっており,状況に応じてさまざまな戦法がとれるようになっている。
 ユーゴは杖/ファクトの眼から魔法弾を射出して戦う。キャラの向きを固定する機能がないため,敵の攻撃を回避しつつ火力を集中することは難しいが,敵に接近しなくても攻撃できるので,シューティングゲーム感覚で戦える。遠距離から一方的に攻撃できる機会が多いし,細かな操作が苦手な人でも遊びやすい主人公といえるだろう。風のスキルはバリアー効果のある結界,雷のスキルは設置式の爆雷,火のスキルは自分を中心に回転する火球(タメ撃ちで火球のコアであるファクトの眼から炎を射出できる)となっており,攻守のバランスがいい。そういった意味でも,アクションゲームが不得手だという人に向いている印象がある。
 鉤爪の男は,ユニカと同様白兵戦を得意とするが,特殊攻撃がスライディング(防御力低下効果があるほか,狭い場所をすり抜けることもできる)だったり,移動が速かったりと,よりスピーディなプレイフィールが味わえる。風のスキルは目にもとまらぬダッシュ攻撃,雷のスキルは敵の生命力を吸い取る範囲攻撃,火のスキルは炎を纏っての回転上昇攻撃となっており,若干トリッキー。しかし,ユニカ/ユーゴ編をクリアした人ならば,さほど苦労することなく操作できるだろう。風のスキルは消費MPが低めなので,通常のダッシュと組み合わせて移動すれば,非常にテンポよく冒険を進められる点にも,日本ファルコムによるバランシングの妙を感じさせられる。

 それ以外では,フェルガナにも導入されていたブーストモード(一定時間,キャラの能力が上昇する)の発展形であるバーストモードも導入された。これはブーストモード中に使用可能なシステムで,主人公によって強力な攻撃や結界が発動できる。ブーストゲージは時間の経過とともに溜まっていくほか,ドロップアイテムや被ダメージによっても増えていくので,使いどころを見極めつつ,ここぞという場面で繰り出すといいだろう。

 なおキャラクターの強化は,敵を倒して経験値を稼ぐレベルアップや,冒険中に入手したアイテムを装備することのほかに,“SP”による強化も用意されている。SPは,倒した敵がドロップするお金のようなアイテムで,女神像(鉤爪の男は邪神像)を通じて,さまざまな加護を買うことができる。
 女神の加護には,防具の強化やSPドロップ率の上昇,消費MPの低減といったさまざまな効果が用意されており,それぞれに設定されたSP量を消費することで,その効果が身につく。イース・オリジンにはアイテムショップが存在しないので,「アイテムを買うためのお金稼ぎが好きだ」という人には,ちょっと物足りない面もあるかもしれない。そういう人は,女神の加護をコンプリートするために,じっくりとSP稼ぎをするといいだろう。

 

主人公によって,攻撃方法やモーションが大きく異なる。当然攻略法も変わってくるので,ぜひ3人の主人公でゲームをクリアしてほしい

 

各種スキルは,戦闘だけでなく,謎解きや移動にも役立つ。ユニカとユーゴでは,火のスキルの利用価値が比較的高いので,練習しておきたいところだ 敵を倒した際に得られるSPを消費して,さまざまな特殊能力が「購入」できる。いわゆるアイテムショップは存在しないものの,利用方法は似たようなものだ

 

 

イースシリーズの醍醐味は対ボス戦にあり
タイムアタックモードで終わりなき決戦を

 

イースシリーズ最大の魅力ともいえる,対ボスモンスター戦。アクションゲームとしての出来がよく,ボスの行動パターンも個性的なので,非常に楽しいバトルが味わえる

 イースシリーズ,とくに,3Dグラフィックスが採用されたことによりアクション性が高まったナピシュテム以降のタイトルでは,ゲームの随所で楽しめるボスモンスターとの戦闘が好評を博した。もちろん,手に汗握る対ボス戦の魅力は,イース・オリジンでも存分に味わえるようになっている。
 従来作と同様,本作の対ボス戦では,戦うボスによって攻略法が大きく異なる。単に「こちらのHPが尽きる前にボスのHPをゼロにする」という“我慢比べ”ではなく,巨大なモンスターの腕を駆け上って急所を攻撃したり,弱点に合わせてスキルを使い分けたり,相手の攻撃のスキを突いてタメ撃ちを叩き込んだりと,さまざまな戦い方が楽しめるのだ。
 対ボス戦の難度は,ナピシュテムやフェルガナより高くなっているということはなく,熱心なファンにとってはやや物足りないかもしれないが,そのあたりは,ゲームスタート時に選択できる難度で調整したり,あえて低レベル/低ランク装備クリアを目指したりすることで,各自対応できるはず。主人公が変われば攻略法も変わるので,対ボス戦自体のやり込み要素は,ナピシュテム/フェルガナよりも多いといえるかもしれない。
 やり込み要素といえば,ファンにはおなじみの「タイムアタックモード」も用意されている。ゲーム本編をクリアすると,クリアした主人公のタイムアタックモードがアンロックされるようになっており,クリアした難度にかかわらず,Easy/Normal/Hardでのプレイが楽しめる。
 タイムアタックモードでは,本編に登場したボスモンスター/中ボスとの戦闘が楽しめ,それを倒すまでの時間を競える。タイムは難度ごとに記録できるので,ついつい繰り返しチャレンジしてしまう魅力があるのだ。
 また,ボスとの一本勝負ではなく,すべてのボスモンスターと連続で戦い,完全勝利するまでのタイムを競う「BossRush」もプレイ可能。初心者なら,ゲーム本編では落ち着いて戦えなかったボスとの戦闘を,じっくりと楽しめるだろうし,中〜上級者ならば,テクニックを磨きつつタイムの限界に挑むというやり込みプレイが楽しめる。これは,本作の魅力が凝縮されたコンテンツともいえるので,ぜひ一度はプレイしてもらいたいものだ。

 

イース・オリジンには,「攻撃ボタンを連打していれば倒せる」ようなボスモンスターは存在しない。それぞれがユニークな攻撃手段をもっており,倒し方もさまざまだ。タイムアタックモードをアンロックすればいつでも楽しめるので,がんばって本編をクリアしてほしい

 

 

目新しさはないものの,誰もが楽しめる秀作
アクションゲームファンならぜひプレイを

 

物語の最重要人物である,双子の女神。本作をすべての主人公でクリアした人は,ぜひ直後に「イースI」「イースII」をプレイしてみよう。熱心なファンならば,オープニングを見ただけで感動してしまうかもしれない

 冒頭で述べたとおり,イース・オリジンは,ナピシュテム/フェルガナが苦手でないという人には,声を大にしてオススメできる秀作である。キャラクターをストレスなく,思いのままに操作できる楽しみや,シンプルだが感情移入しやすいストーリー展開,個性豊かなボスとのバトルなど,イースシリーズの最新作に相応しい完成度でファンを楽しませてくれる。新たに導入されたバーストモードや,女神像を通じたSPによる能力強化なども,ゲーム性の向上にうまく結びついているといえるだろう。

 ただ,「塔」という閉鎖空間がゲームの舞台になっているためか,ストーリー展開に関しては従来作よりもスケールダウンしているような印象も受けた。謎解きや対ボス戦の攻略法についても,プレイヤーがアッと驚くような新アイデアはさほど盛り込まれていないように思える。
 イースシリーズの起源を追体験できるタイトルということで,熱心なファンの中には,重厚長大なストーリー展開を期待していた人も,少なくはないだろう。ナピシュテム/フェルガナよりも,さらに新鮮で刺激的な何かを期待していた人もいるだろう。タイトルとしては遊びごたえもあり,十分面白いのだが……この物足りなさは,一部のコアなファンだけが抱いてしまう,ぜいたくな悩みなのかもしれない。
 ともあれ,本作が初心者でも上級者でも楽しめる優れたアクションRPGである,という感想に偽りはない。本作に対しては,プレイヤーそれぞれが,さまざまな想いを抱いているだろう。しかし,いまだ語られていないアドルの冒険譚や歴史は,数え切れないほど存在するはずなのだから,イース・オリジンにもうちょっと楽しませてもらいつつ,次なる「イース」を心待ちにしたいところだ。

 

 

タイトル イース・オリジン(Vista対応版)
開発元 日本ファルコム 発売元 日本ファルコム
発売日 2007/03/29 価格 7980円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1GHz以上[Pentium 4/1.3GHz以上推奨],メインメモリ:384MB以上[512MB以上推奨](Windows 98/Meでは256MB以上[384MB以上推奨]),グラフィックスチップ:GeForce 2またはRadeonシリーズ推奨,グラフィックスメモリ:32MB以上[64MB以上推奨]

(C)2006 Nihon Falcom Corporation.

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