2006年も,9月に入ったところで残暑はまだまだ厳しく,日中の温度が30℃を越える日も少なくない。CPUや電源ユニット,HDD,グラフィックスカードといったように,閉じた空間に“熱源”が集中するPCの場合,熱源(=デバイス)自体が熱に弱いという問題を抱えているため,故障に直結しかねないという現実がある。
とくにゲーム用PCの場合,一般的なPCと比べて,グラフィックスカードが搭載するGPU(グラフィックスチップ)の性能は高い傾向にある。性能が高ければ発熱も大きくなるため,その冷却は非常に重要になるが,結果としてカード標準のクーラーは一般に高回転のファンを搭載することになり,風切り音やベアリングの音は,PCケースの外でも耳障りに感じられるほどになるのだ。
そして,主にこの問題へ対処すべく,グラフィックスカード用の交換用クーラーというものが販売されている。本稿では以下,これをGPUクーラーと呼ぶが,こういったGPUクーラーは,大型のファンやヒートシンクなどからなり,カード標準のクーラーよりも,小さな駆動音と高い冷却能力を期待できる。
そこで,今回は入手しやすい,あるいは世界的に注目されているGPUクーラーを5製品用意。使い勝手や冷却能力を,横並びで評価してみたいと思う。
なお,最初に注意しておくが,GPUクーラーの交換作業は,カードメーカーやショップの保証外となる。交換に高度なPC自作スキルが求められるわけではなく,よほどのことがない限り,交換作業によってグラフィックスカードが壊れるようなこともないはずだが,万が一交換によって問題が生じても,筆者や4Gamer編集部は一切の責任を取らないので,この点はくれぐれも注意してほしい。
ケース内運用時の温度を計測
今回は秋葉原のPCパーツショップ,高速電脳の協力で,以下に挙げる5製品を用意した。形状や取り付けやすさは,それぞれかなり異なるので,そのあたりは各製品についてのコメントを参照してほしい。なお,製品名の後ろにある丸括弧内にあるのはメーカー名である。
KuFormula VF1 Plus(Sytrin)
高速電脳店頭価格(2006年9月8日現在):4980円(税込)
クロスフロータイプのユニークなファンを備えるのがKuFormula VF1 Plusだ。部品点数はやや多め(左上)だが,ヒートシンクの取り付けは容易である。ヒートシンク自体にファンは用意されておらず(右上),付属の金具を用いて,グラフィックスカードの横からクロスフローファンで風を送るスタイルになる(左下)。
ファンの回転数はHigh(回転数3150rpm/公称騒音レベル32dB),Middle(同2400rpm/28dB),Low(同1550rpm/24dB)の3段階に変更可能。また,スペースの限られたPC用として,クロスフローファンの代わりに120/90/80mm各ファンを装着可能にする金具も付属する(右下,ファンは別売)。ただし,ファンを金具に固定するための付属ネジはかなり使いづらい。ネジは別途用意するほうが賢明だろう。
V1 ULTRA(Thermalright)
高速電脳店頭価格(2006年9月8日現在):5980円(税込)※完売
V1 ULTRAは,GPU側に大きなヒートシンクを配し,3本のヒートパイプでカード裏面側の放熱フィンへ熱を送るという仕組みだ(右上)。対応するGPUが多いのは魅力なのだが,その分部品点数は多く(左上),しかも,マニュアルのデキが悪く,どの部品をどこで使えばいいか分からないなど,かなり不親切なのはいただけない。さらに,マニュアルだと,GPUのリテンションをカードに固定する2本のアームを,ワッシャーを一つ挟んでネジ留めするよう指示されているのに対し,実際には二つ挟まないと高さが合わないなど(左下),不備も目立つ。
なお,ヒートパイプが通る部分に位置するメモリチップに関しては,熱伝導シート&銅板で熱を逃がす仕様だ(右下)。
VF900-Cu(Zalman Tech)
高速電脳店頭価格(2006年9月8日現在):4980円(税込)
GPUに接する銅ベースから,2本のヒートパイプがファンを囲むように伸びている形状が特徴のVF900-Cu(左上)。ファンの回転数は付属のコントローラにより1350rpm(公称騒音レベル18.5dB)から2400rpm(同25.0dB)まで調節できる(右上)。取り付けが非常に容易になっており,作業は,銅ベースから伸びる4本のアームそれぞれに,スペーサーをかませつつ,カード裏からネジ留めするだけだ。なお,グラフィックスメモリの冷却はヒートシンクを利用することになるが,GPUクーラー本体のフィン構造上,ヒートシンクに対しても風はまんべんなく送られることになる。
ZAV-Accelero X1(Zaward)
高速電脳店頭価格(2006年9月8日現在):4410円(税込)
GeForce 6800/7800シリーズ向けのZAV-Accelero X1。3本のヒートパイプを持ち,負荷に応じて回転数が500〜2000rpmの間で変化する60mm角相当のファンを内蔵するのが特徴だ。カード裏面にグラフィックスメモリが装着されている製品の場合は,付属のアルミ製パネルをヒートシンク的に用いることになる。同製品に限らず,ZAVシリーズは対応カードを絞ることで部品点数が少なくなっている(左上)が,GeForce 7900 GTXのリファレンスカードにも,そのまま取り付けられた(右上)。リファレンスクーラーと同じネジ穴を利用してネジ留めする仕様なので,取り付けも容易だ(左下)。ただし,カードから30mm弱はみ出るため,ケースの幅には要注意。また,短いデザインのGeForce 7900 GTリファレンスカードには,カード上のデバイスが干渉して取り付けられなかった。
ZAV-Accelero X2(Zaward)
高速電脳店頭価格(2006年9月8日現在):4410円(税込)
こちらはRadeon X1800/X1900シリーズ用となるZAV-Accelero X2。対応するグラフィックスカードが異なるだけで,冷却機構や取り付けの容易さはZAV-Accelero X1と同じだ。唯一異なるのは,ファンの回転数は2000rpm固定となっている点。放熱フィンにはダクトが被せてあるので,カード下ならびにレギュレータ部から60mm角ファンへと風が抜ける構造になっている。
5製品それぞれの取り付けやすさについては,製品説明でも触れているが,V1 ULTRA以外は十分に容易だ。リファレンスクーラーとネジ穴が同じため,いい意味で何も考えなくていいZAV-Acceleroの2製品はかなり楽といえ,また,KuFormula VF1 PlusにVF900-Cuも,特別に難しいところはない。この4製品について,取り付け時に悩むようなことはそうそうないだろう。
実際にケース内で運用するときの温度を計測
ここからは冷却能力の検証に入っていきたい。
まず,表1に示した評価用システムを,Cooler Master製のスチール製ミドルタワーケース「Centurion 530」に組み込んだ。この状態で,ForceWareに付属するユーティリティ「nTune」,あるいはCatalystの「Catalys Control Center」からGPU温度をチェックし,さらに,横河M&Cのデジタル放射温度計「53005」を用いて,カード各部の温度を計測することにしている。
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| 左は計測のイメージ。分かりやすいよう,ここでは電源ユニットなどを取り外している。実際の測定環境は右の図を参考にしてほしいが,ケース前面の120mm角ファン(回転数1200rpm)で吸気された風が,底面120mm角ファン×1(自動変速)という仕様のSkyHawk製の定格600W電源「GM-600WP-R」から排気されるという,一方通行的な配置とした。ケース背面ファンは用意していないので,一般的なPCケースよりはやや厳しい温度環境になる。簡単な模式図を右に示したので,参考にしてほしい。図中,灰色の楕円はファン,青い矢印はエアフローを示している。 |
グラフィックスカードのどこを測定するかだが,今回はポイントを5点6か所に絞ってみた。具体的には以下のとおりだ。
- GPUの真上に当たる部分
- カード裏面,GPUの真裏に当たる部分
- GPUクーラーの放熱フィン
- カードのレギュレータ部
- 外部インタフェースに近い場所にあるメモリチップの真上に当たる部分
- レギュレータに近い場所にあるメモリチップの真上に当たる部分
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| KuFormula VF1 Plusの温度測定ポイント
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| V1 ULTRAの温度測定ポイント
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| VF900-Cuの温度測定ポイント
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| ZAV-Accelero X1/X2の温度測定ポイント(※写真はRadeon X1900 XTXリファレンスカード&ZAV-Accelero X2)
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なぜGPU以外にもいろいろ計測するのか。それは,グラフィックスカード上の熱源が大きく分けて三つあるからだ。具体的には,GPUとレギュレータ,メモリチップである。
レギュレータはカード上のデバイスが利用する電圧の変圧を行う装置で,簡単にいえば電力供給が担当。消費電力の大きなグラフィックスカードにおいて,レギュレータにかかる負荷は大きく,勢い温度も高くなりがちだ。温度が高くなれば,それだけ故障の確率は上がるので,実は非常に重要なポイントである。
メモリチップに関しても同様だ。GPUクーラーを換装することによって,GPUの冷却効果は期待できるわけだが,「GPUだけ冷えればいい」のではなく,GPU以外の熱源に関しても,十分に気を配る必要があることを理解しておきたい。
さて,温度測定に当たっては,OSが起動してから30分間経過した時点を「アイドル時」,一方「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のリピート実行30分後を「高負荷時」として,そのときの温度をスコアをとした。テスト時の室温は26〜27℃だ。側板を閉じた状態で直前まで放置し,アイドル時,もしくは高負荷時における対象ポイントを測定するという手段をとっている。極めてアナログな手法のため,測定結果には,ある程度の誤差が含まれる点を,あらかじめ了解しておいてほしい。
なお,手動ファンコントロールに対応しているKuFormula VF1 Plusの場合,High/Middle/Lowの3段階すべてでテストを行った。また,ボリュームコントロール方式による無段階切り替えが可能なVF900-Cuでは,最高回転数と最低回転数の両方でテストを行い,順にHigh/Lowとする。
意外にも(?)はっきりついた優劣
ポイントごと,GPUごとに見ていくことにしよう。まずグラフ1,2は,ドライバの機能で計測したGPUの温度である。今回試用した製品はすべて,冷却能力でGeForce 7900 GTXあるいはRadeon X1900 XTXのリテールクーラーを下回っていないのが分かる。なかでもVF900-Cuは,GeForce 7900 GTXを最低回転数(Low)でも高負荷時に52℃まで抑え込んでおり,これは優秀といっていい。
GeForce 7900 GTXでアイドル時にZAV-Accelero X1はリテールクーラーより温度が高くなってしまっているが,これは,自動制御により回転数が500rpmまで下がるためだ。アイドル時ではより静音性が重視されているわけで,それほど発熱を気にする必要のないアイドル時に静かというのは,高く評価できるポイントである。
クロスフローファンを持つKuFormula VF1 Plusは,回転数設定をLowにすると冷却能力がいま一つ。冷却能力を求めるなら,MiddleかHighに設定すべきだ。ただし,High設定における風切り音はすさまじいので,運用上はMiddleが現実的ではなかろうか。同製品については,以後,Middleのスコアを中心に見ることをお勧めする。
続いて,放射温度計を利用した各ポイントの温度を見ていく。
まずグラフ3,4は,GPUの真上に当たる部分(A)の温度である。この部分の温度が高いと,それは「フィンなどの放熱部に熱をうまく伝えられていない」ことになり,GPUにとってはあまり好ましい状態ではない。
細かく見てみると,グラフ3ではどれも大きな差がないのに対して,グラフ4では高負荷時にZAV-Accelero X2が48.3℃とかなり高い温度を示した。GeForce 7900 GTXよりも発熱が大きいRadeon X1900 XTXを前に,ZAV-Accelero X2の冷却能力は一歩及ばない印象を受ける。
なお,KuFormula VF1 PlusのLow設定で温度が高いのは,先ほど述べた理由によるものだろう。
GPUの真裏部分(B)を測定した結果をまとめているグラフ5,6は,基本的にグラフ1,2と同じ傾向を示している。そのため,VF900-Cuの温度が低い。とくにGeForce 7900 GTXの高負荷時において,Low設定でも50.1℃というのはかなり優秀だ。ただし,同じ条件でも,GPU側の発熱がより大きいRadeon X1900 XTXでは,冷却能力が足りないのか,温度は77℃まで上がってしまった。Radeon X1900 XTXで運用するには,回転数をある程度High寄りにする必要があるかもしれない。
グラフ7,8は実際に放熱を担当するフィン部(C)の温度をまとめたものだ。
ここで注意したいのは,「フィンの温度が高い=冷却能力が低い」ではないこと。もちろん,GeForce 7900 GTXにおけるKuFormula VF1 Plusの結果をもとに,冷却能力を語ることはできるが,GPU部の熱を,フィンにうまく伝えられているという部分もあるので,単独でこのグラフを評価すべきではない。このスコアは,参考程度に捉えるべきだろう。
次にチェックするのは,レギュレータ部に取り付けられているヒートシンク(D)の温度である。
先述したように,レギュレータ部の熱というのは看過できないわけだが,グラフ9を見ると,ファンがカード裏面に取り付けられ,レギュレータにファンが当たらない構造のV1 ULTRAで,温度が非常に高くなってしまっているのが分かる。また,KuFormula VF1 Plusではファンの回転数によりレギュレータに顕著な温度差が見られた。これは単純に,レギュレータに当たる風量の差と考えていいだろう。
グラフ10でも傾向は同じ。エアフローのないV1 ULTRAよりも,KuFormula VF1 PlusのLow設定のほうが温度が高い理由は断定できないが,V1 ULTRAの構造上,カード裏面全体に風が送られるようになっていることから説明が可能かもしれない。レギュレータ部が密集しているGeForce 7900 GTよりも,ある程度広がって配置されているRadeon X1900 XTXのほうが,有利だったということはありそうだ(もちろん,測定誤差が大きく出た可能性もある)。
最後に,グラフィックスメモリチップ2点の温度を順に見ていくが,その前に一つお断りを。ZAV-Accelero X1/X2およびリファレンスクーラーは,クーラー本体がメモリチップを覆う構造になり,今回の条件では温度を測定できない。そのため,スコアはN/Aとなるので,注意してほしい。
まずグラフ11,12は,外部インタフェースに近い部分のメモリチップに貼られたヒートシンク(E)を測定したものだ。ヒートシンクに対して,いかに風を当てるかが冷却能力を左右するため,エアフローの弱いKuFormula VF1 PlusのLow設定時における温度はかなり高めである。
V1 ULTRAはそもそもエアフローがないのでは? と思う人もいるだろうが,構造上,ちょうど(E)地点のメモリの真裏にファンが用意されることになるため,結構冷えていたりするのは興味深い。
レギュレータに近い部分のメモリチップに貼ったヒートシンク(F)の温度も,傾向自体は同じだ。ただし,熱源としてのレギュレータに近いこともあって,全体的に温度は高めである。
すべてにバランスの取れたVF900-Cu
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| VF900-Cuのパッケージ |
これからは涼しい季節になっていくとはいえ,より安定した動作を求めたり,より静かにゲーム用PCを運用したりしたいのであれば,GPUクーラーの交換というのは,一考の価値ありである。
では,今回取り上げた5製品のうち,どれがお勧めなのかといえば,取り付けも容易で,安定した冷却能力も光るZalman TechのVF900-Cuになるだろう。
また,無段階変速ファンが,High設定の最高速回転時でもさほどうるさくなかった点は特筆に値する。もちろん,駆動音に関しては筆者の主観が入るので,騒音に関して横並びの評価は難しいが,静かさで定評のあるGeForce 7900 GTXのリファレンスクーラーより静かなことは間違いない。
グラフィックスカードの発熱や騒音に困っているなら,VF900-Cuを試してみてはどうだろうか。