■Take-Two Interactiveが冬季オリンピックをライセンス
Torino 2006では,8種目15競技がフィーチャーされている。アルプス山脈を眼下に,雪を切って時速135kmで疾走する気分はなかなかのもの |
大会終盤になっても日本の獲得メダルがなく,いつもより盛り上がりに欠けると言われるトリノ・冬季オリンピック。せめて,ゲームの中だけでもがんばってもらいたいものだと思っているゲーマーなら,「Torino 2006」をプレイしてみるといいかもしれない。
このゲームの販売元は,Grand Theft AutoシリーズのRockstar Gamesや「Sid Meier's Civilization IV」の2K Gamesなどのブランドを持つTake-Two Interactiveだ。2005年1月に,“2K”(ESPN)シリーズというスポーツゲームを開発していたVisual ConceptsやKush Gamesをセガから買収し,Electronic Artsの牙城とも言われるスポーツジャンルへの参入を果たしている。その成果が,2K SportsというTake-Two Interactiveの新ブランドの立ち上げで,電撃的にMLB(メジャーリーグ)の独占ライセンス契約を勝ち取るなどして,3DOやセガのなし得なかった牙城の突き崩しを図っている。そして,この2K Sportsの新たな独占ライセンスが,オリンピックというわけである。
オリンピック系スポーツのゲームで世界的にヒットしたものといえば,コナミが1983年にリリースした「Track & Field」(ハイパーオリンピック)というアーケードゲームを覚えている人もいるかもしれない。しかし,多岐にわたるスポーツ種目を一つのゲームにまとめるのは困難であり,とくにボタンの連打だけではすぐに飽きられてしまう昨今のゲームでは,それぞれの種目の特徴や面白さを再現するのは非常に難しいはず。このあたりで,Torino 2006の評価も決まってくるだろう。
Torino 2006を開発するのは,ドイツの49 Games社。本国以外ではあまり知られていない開発チームだが,ここ2年ほどSki Alpenシリーズなどスキー系のゲームばかり4作をリリースしていたようだ。本作は,PCのほかにもXboxやPlayStation 2でもリリースされており,彼らにとっては初の本格的な世界デビューとなった。
お馴染みトリノ五輪のロゴ。苦戦している日本の選手団だが,せめてゲームの中だけでも勝利を味わってほしい | スピード感がたまらないアルペンスキー・ダウンヒル。日本選手はヘルメットのてっぺんに日の丸をつけている | 左右のバランスを整えながら,タイミング良いジャンプと着地を決めることがすべて,と言えるスキージャンプ |
スピードスケートでは前進するためのキーを押す必要はなく,代わりにリズム良い左右カーソルキー押下が重要だ | クロスカントリー種目では,青いゲージの範囲内でスプリントを留めておかないと,赤が増えてスタミナ切れを起こす | クロスカントリーが基本のバイアスロンだが,キャラクターはライフルを背負い,射撃を迅速,的確に行う必要もある |
■8種目15競技で世界の名だたるプレイヤーと対戦!?
さて,今期冬季オリンピック唯一の公式タイトルであるTorino 2006のパッケージを見てみると,「8種目15競技がフィーチャーされ,世界の名だたるアスリートと対戦して,プレイヤーの好みの国を金メダル獲得に導くことができる」といったことが書かれている。
実際に,ゲームに登場するのは以下のとおりとなっている。
- ●アルペンスキー (ダウンヒル,スーパー大回転,大回転,回転)
- ●スキージャンプ (ノーマルヒル,ラージヒル)
- ●スピードスケート (500m,1000m,1500m)
- ●クロスカントリー
- ●バイアスロン
- ●ボブスレー (4人乗り,2人乗り)
- ●リュージュ
- ●ノルディック複合
中央がドイツ,左がイタリアで右が日本。公式ゲームだが,ユニフォームは実際のものとは異なるし,表彰台で国歌が流れたりしないのも少し残念だ |
こうやって見ると,確かに15競技存在するが,スキージャンプやスピードスケート,ボブスレーなど距離や人数が違っていても,基本的なゲームプレイに変化はない。ボブスレーとリュージュも外観とコースが違うだけだし,ノルマディック複合はクロスカントリーとスキージャンプが組み合わさっただけで,これも変化はない。バイアスロンも,ライフルで的を撃つという特殊なモードはあるが,基本的にはクロスカントリーと同じである。
つまり,8種目15競技に分かれているとはいうものの,ゲームメカニックはアルペンスキー,スキージャンプ,スピードスケート,クロスカントリー,そしてソリ系の五つということになってしまう。スポーツゲームとしては人気のカテゴリであるスノーボードやホッケーはなく,オリンピックの華と呼ばれるフィギュアスケートも含まれていない。
上に書いたように,パッケージには「世界の名だたるアスリートと対戦」(win Gold for your country against the best athletes the world has to offer)というようなことが書かれてはいるものの,実際のゲームに実名の選手は登場せず,プレイヤーは自分の思いどおりの選手名を入力し,どこの誰だか分からないドイツ系のファーストネームだけの選手達とプレイすることになる。
さらに,ゲームで選択できるのは25か国のみとなっており,すべての参加国でプレイできるわけではない。例えばボブスレー競技に選手を送り込んでいない韓国でも選手を選べるなど,結構曖昧に作られている。せっかくオリンピックの公式ゲームなのに,もったいないことだ。
ゲームとして面白いかどうかは置いといて,スピード感のある滑走がちょっと楽しい“氷上のF1”ことボブスレー | リュージュのゲームプレイは基本的にボブスレーと同じ。側面にこすり過ぎると,赤い衝撃波で教えてくれる | ノルディック複合は,スキージャンプとクロスカントリーを1回ずつ行った総合得点で順位が決まる |
メインメニュー画面。15競技,9競技を通して行うコンペティションと,一つ一つを個別にプレイするシングルイベントがある | 回転で壁に激突し,ラグドール効果であり得ないほど背骨を曲げながら転げ落ちていくプレイヤーキャラクター | 樹木やオブジェクトが適度に配置されたコース周辺の3D環境は美しい。観客は,7パターンくらいのモデルの使いまわし |
■連打に頼らない操作性には工夫も見られるが……
リュージュでは,画面下の黄色いバーが満タンになるのに合わせてEnterキーを押すことで,スタートダッシュの良し悪しが決まる |
Torino 2006は,斜面を滑降するアルペンスキーやボブスレーはともかく,ほかはかなりユニークな作りになっており,興味深い。ゲームは,ほとんどカーソルキーとEnterキーだけで操作できるほど簡単だが,それぞれに違った仕様になっているのだ。
例えば,スピードスケートでは前進するためのキー操作が必要なく,レースが始まると画面下に表示される左右のバーの増減に合わせて,リズム良くカーソルキーの「←」と「→」を押すことになる。直線ではバーの動きが遅く,カーブでは速くなっており,タイミングを見計らってマックスに近い部分でキーを押せばキャラクターのスピードが上がるし,リズムが狂ってバーの最大値と離れた場所で押してしまえばスピードに乗らないのである。
一方,クロスカントリーでスピードアップするためには「↑」を押すことになるが,この種目でのゲージは円形になっており,あまり長い間加速していると,スタミナがなくなって減速状態がしばらく続くことになる。このスタミナの限界点は,円形インタフェースの外側についている緑色の矢印で表示されており,斜面の傾斜などで上下するので,常にどこまでスピードアップさせるかを見極めてコントロールすることが重要になる。
さらに,スキージャンプは,左右のカーソルキーを使ってボディのバランスを取りつつ,ジャンプと着地の瞬間に,それぞれタイミング良く「↑」を押す必要がある。このようにTorino 2006は,キーの連打ではなく,ゲーム画面とにらめっこしながらタイミングを計るというマネジメントに重点が置かれたゲーム性になっているわけだ。
問題は,そのマネジメント的な操作自体が,あまりエキサイティングではないということである。往年のアーケードゲームと比較しても仕方ないが,どこか「必死でスポーツしている」という迫力に欠けてしまっているのだ。どの競技も慣れればゴールドメダルを取ることは難しくないが,せっかく勝っても国歌が演奏されないためか,本来のオリンピックらしい,感情的な盛り上がりに欠けているのも残念だ。
とはいえ,そもそも4年に一度の祭典のためのオマケとして発売されたゲームと考えれば,Torino 2006を細かく批判しても仕方ないだろう。急斜面を滑走するのは楽しいし,日本をメダルレースで勝利に導くというファンタジーを達成することができるのは,(たぶん)このゲームだけなのである。
PC版はアメリカで20ドル程度とお買い得な設定になっており,オリンピックが終了すればさらに安くなることも考えられる。お祭り気分で購入してみるのもいいかもしれない。
小気味良くポールを跳ね除けながら進んでいく回転。リズムに乗れないと,脱線して苦戦することに | スプリントのかけ過ぎで体力が消費され,Critical Staminaの状態に。スピードが急激に落ちたプレイヤーを尻目にライバルが追い抜いていく | "マルチプレイは4人まで"だそうだが,オンラインモードではなく順番に操作していくだけ。パッケージにミスリードが多い |
チーム・ニッポンの選手がジャンプで大手柄。体重超過による失格などのシミュレーションはないので安心? | スタート地点でのプッシュが大切なボブスレーは,上から下へ流れる絵に合わせてキーを押すことで表現 | 9競技コンペティションにおいて,金4銅2を獲得して堂々の総合1位に輝いたチーム・ニッポン。よくがんばった! |