― レビュー ―
SF FPS「SiN」が,Steam配信となって8年ぶりに帰ってきた
シン エピソード1
Text by 松本隆一
2006年7月21日

 

隠れた名作の続編はエピソディックスタイルで登場

 

1998年に初登場したFPS「SiN」が,エピソディック形式で復活した。「シン エピソード1」(原題 SiN Episodes:Emergence)は,前作と同様,主人公であるジョン・ブレード大佐が,セクシーなマッドサイエンティスト,シンクレアの野望を打ち砕くために戦いを挑んでいくというストーリー。Sourceエンジンによる美しいグラフィックスと,撃って進んで撃って進むシンプルなゲーム性が特徴だ

 5月30日にSteamでのネット配信が開始され,その後,6月16日にサイバーフロントからパッケージ販売が開始された「シン エピソード1」(原題 SiN Episodes: Emergence。以下,SiN)は,1998年に発売されたFPS「SiN」(以下,SiN1)の約8年ぶりの続編だ。
 1本のゲームを複数のエピソードに分けた「エピソディック形式」で販売される本作は,これから続いていくシリーズの最初のエピソードになる。そのため,本作は一般的なFPSの数分の一といったボリュームで,物語的にも「いよいよこれから」といったところで一旦終わる。

 

 舞台となるのは悪徳はびこる町,フリーポートだ。時は2027年,慢性的な財政難から多発する犯罪に十分対処できなくなった政府は,やむなく私設警察の存在を認めることになった。プレイヤーは,そんな私設警察の一つ,HardCORPSを率いるジョン・ブレード大佐となって,巨大な悪に立ち向かっていくのだ。
 折しも,ストリートには“U4”と呼ばれる謎のドラッグが蔓延し,人々を蝕み始めている。このドラッグの背後に,巨大化学企業シンテック・インダストリーと,それを率いるマッド・サイエンティスト,エレクシス・シンクレアの影を認めたブレードは,単身で彼女らの本拠地に殴り込むが,逆に捕らえられてしまう……,というところから物語が始まる。

 

 本作は基本的に「撃って倒して進む」,ランボースタイルのFPSだ。スニーク的な要素はほとんどなく,敵はほぼ間違いなくこちらを発見し,必ず戦闘になる。また,ブレードは常に一人で戦い,誰かと協調してミッションを進めるといったシーンはあまりない。ときおり,職場の同僚ジェシカ・キャノンが現れ,ブレードを車に乗せて移動したり,一緒に戦ったり,開かないドアを開けてくれたりするが,彼女は完全なNPCで,命令を下すことはできないのだ。

 

 初代のSiN1では,当時,なかなかの評判を取った優秀なAIを実装していたが,今回のSiNではさほどのスゴさは感じられず,撃ち倒されるまでぼんやり立っていたり,こちらにまっすぐ走ってきたりと,FPSに慣れたプレイヤーなら比較的簡単に対処できるだろう。もっとも,これは“主人公の強さ”を強調するための演出の一つともいえる。
 ゲーム全体の雰囲気はSFだが,それより強く感じるのは「アクション映画」のテイストなのだ。それも,「A級」よりはやや下,何も考えずにスカッと楽しめるアクション映画のムードである。主人公が苦労してザコを倒してはいけない。彼はあくまで強く,群がる悪いやつらを次々に戦場の露にしていくのだ。正義は勝つ! とはいえ,正直,序盤には登場する敵の種類も少なく,やや単調な印象。

 

 ゲーム前半こそ敵は弱いものの,中盤から後半にかけてはさまざまな強敵が次々出現するので,安心してほしい(?)。U4によってミュータント化した(と思われる)不気味な生き物や,ミニガンを抱えた強力なシンテック兵,警備用の飛行ロボット,そして2度ほどあるボス戦では,巨大で敏捷で気持ちの悪いモンスターがお相手となる。ゲームが進むにつれ,どんどん難度が上昇し,ストーリーが盛り上がってくるのだ。それだけに,序盤のあまりの単調さはちょっと惜しい。

 

HardCORPSの隊員でブレードの部下,ジェシカ・キャノン。ときどき現れてブレードを助けたり,一緒に戦ったりする。やる気まんまんの優秀な兵士だが,「女の子走り」をする 巨大企業シンテックの社長にして,世界征服の野望を抱くシンクレア。過去,ブレードと何があったのかは謎。この素晴らしいシーンは,ぜひゲームで動くところを見てほしい シンクレアの右腕でカルテルのボス,ラディック(右の人物)。プレイタイムはトータルで5〜7時間といったところで,エピソディック形式としては妥当なボリュームだろう

 

ずっと登場するシンテックのガードマン。強くはないし,撃つと,物理エンジンで派手にぶっ飛んでくれる。「あー」とか「ギャー」とか,悲鳴も派手でちょっと愉快である 中盤以降出てくるのが,このミニガンを持った連中。数が出てきて手強いうえ,倒しても何も落としてくれないが,やられるときは大爆発。まるでショッ○ーの怪人のようである 途中,中ボス扱いの巨大なモンスターとの戦いがある。弱点を探し戦略を練り……,というスタイルではない。逃げ回りつつ,手持ちの弾丸をありったけ撃ち込むだけだ

 

 

面倒なことを考える必要のないシンプルなFPS

 

マッドサイエンティストの美女。遺伝子操作によって作り出されたモンスター。やられるために出てきたような敵兵達や,大がかりな秘密基地……。誤解を恐れずに言ってしまえば,SiNには「愛すべきB級感覚」が横溢しているのだ。最近,仕掛けが増え,妙に難しくなってきたFPSというジャンルに一石を投じるタイトルになるかもしれない。ならないかもしれないが

 ブレードの武器は,銃やショットガン,軽機関銃とおなじみのものが多く,約20年後の未来だが,それほど奇抜なガジェットは登場しない。それぞれの武器にはプライマリのほかにセカンダリ攻撃が存在し,例えばハンドガンのセカンダリは空気を切り裂いて飛ぶミサイル,ショットガンのセカンダリは壁に何度も反射してそのへんの敵をまとめてなぎ倒す散弾だ。
 セカンダリがそれなりに強力なおかげで,ハンドガンなどが序盤以外でも使い途のある武器になってるのは頭がいい。個人的には,サブマシンガンのセカンダリがお好みである(爆発好き)。

 

 銃弾はマップの中に比較的多く散らばっており,また,敵を倒すことでも弾丸を得られるため,序盤から中盤にかけて弾不足に悩むことは少ないはず。だが,モンスターやミニガン兵が登場し始めると(基本的にヤツらは何も落としてくれないので)ちとやっかいだ。固い敵を相手に調子に乗って撃ちこんでいると,すぐに弾が尽きてしまう。セカンダリとグレネード,そして撃つと爆発したりU4を撒き散らすドラム缶を適宜使って,効率よく戦闘を進めていかなくてはならない。

 

 マップは基本的に一本道で,パズルを解いてルートを開拓していくという場面は少なく,次にどこへ行っていいのか分からなくなることはないだろう。マップ中には,懐かしの「シークレットエリア」がいくつか用意されている。トラックの荷台や,普段開かないドア,積み上がった段ボール箱をちょっと移動させてフェンスを飛び越えた向こう側などが怪しい場所だ。シークレットエリアには,銃弾や救急ボンベなどのアイテムが置いてあるだけでなく,なんだかよく分からない生物やオブジェクトがあったりして,遊び心は十分。ゲーム進行上,シークレットエリアを探し回る必要性はあまりないのだが,怪しい場所を見つけると,つい長居してしまう。

 

 SiN1での防御力は,ヘルスとアーマーの2本立てで,しかもアーマーは部位別に装着されるという凝りようだったが,最新作のSiNでは逆にシンプルに,ヘルスのみとなった。
 そのヘルスをリチャージする救急ボンベだが,使い方がちょっと変わっている。銃で撃っても作動するが,回復のためのガス(だろうと思う)がすぐに拡散して,回復力は不十分。できるなら,壁に取り付けられたステーションにボンベを装着し,ジワジワと使っていくのが最も効率が良いのだ。ヘルスにはもう一種類,兵士達がパラパラ落としていく酸素吸入器みたいなものあり,それはただ上を駆け抜けるだけでオッケー。ただし,回復力はそれほどでもない。
 グラフィックスエンジンには,Valveの「Source」を使用しており,救急ボンベだけでなく,さまざまなものを持ち上げたり,破壊したりできる。もっとも,「Half-Life 2」のような物理エンジンを使ったパズルや,グラビティガンのようなアイテムは登場せず,そこはちょっと残念だ。前作には,スナイパーライフルやパルス砲みたいなものもあったので,おそらく続くエピソードで使えるようになると期待したい。

 

登場する銃器は,それぞれにセカンダリの攻撃が可能だ。例えばこのハンドガンは,劣化ウランを弾芯にしたペネトレータの発射が可能。あまり町の中で撃ってほしくないぞ こちら,M590アサルトライフルのセカンダリは,便利なロケットグレネード。あまり近距離で発射すると,爆風でこちらもダメージを食らってしまう,というのはFPS界のお約束 シンテック・リサーチ・センターの地下には研究所から逃げ出した多数のモンスターが。服装を見てもらえば分かるが,多くは生体実験された兵士達の成れの果てだ

 

敵兵士の注意力はかなり散漫。走って背後に回り,ズドン! なんてこともしばしば。とはいえ,スニークで切り抜ける場面はない。ゴア表現は割とキツめなので,ご注意を いくつか乗り物も登場するが,残念ながら自分で運転するシーンはない。「さあ,乗って」と言うジェシカだが,動くんかい,これ。ボンネットから煙出てるし,ドアないし ジェットパックを背負った敵も出現。思わぬ方向からやってくるので不意を突かれるが,背中のギアは被弾するとすぐに爆発してしまう。これって,欠陥商品じゃないのかね?

 

 

早くもエピソード2が気になってくる出来栄え

 

美しいグラフィックスと畳みかけるようなアクション。シリアスなようでいて微妙にユーモラスな世界観。“エピソード1”としては十分に合格点なのではないだろうか。エピソード2に関しては,今のところごくわずかな情報しか出ていないが,この点はもちっと積極的にしてほしいところだ。マルチプレイのいち早い実装なども期待されているし

 ゲーム全体のグラフィックスレベルはかなり高く,とくにSourceエンジン固有部分,例えば海面のうねりや光の反射,夕日の輝きなどが非常に美しい。キャラクターのアニメーション技術も相変わらずで,敵のボスであるシンクレアの過剰なお色気ぶりなどは,Sourceエンジンの実力を改めて深く思い知らせてくれる。アリックスにも,あのくらいのことをしてほしい,と思うのは筆者だけではあるまい。ジェシカだって揺れるし。
 壁や床のテクスチャには,ちょっと粗い部分が散見できるし,オブジェクトの使い回しも多いが,2006年に登場したFPSとしては十分に合格点だろう。ちなみに,サイバーフロントのパッケージ版には,初代の「SiN1」と「SiN1 Multplayer」が同梱されているので,見比べるのも一興だろう。

 

 SiN1,およびSiNのデベロッパであるRitual Entertainmentは,ちょっと風変わりな開発会社で,クリエイター達のゆるやかな集合体という形態を取っている。プロジェクトごとに人が集まり,作品を仕上げていくらしい。Valveとは「Counter-Strike: Condition Zero」(2002年)の開発を担当して以来のお付き合いだ。
 彼らが1989年に発表したSiN1は,プレイヤーの取った行動によって変化するマップや,さっきも書いたように,部位ごとのアーマー,そして,ちょっと込み入ったストーリーなどが特徴だった。新しいSiNは,そういった部分をすべて取り払い,いい意味で“ごく単純なFPS”に仕上げている。マッドサインティストの美女,可愛い部下,ミュータント,謎のドラッグなど,道具立ても揃っており,エピソード1として「つかみはオッケー」といったところだろう。ストーリーもシンプルで,英語力はほとんど要求されない。
 今のところ,本作はシングルプレイモードだけで,マルチプレイは今後行われるアップデート,もしくは「エピソード2」で実装されるとアナウンスされている。
 謎の組織や新たな人物が登場するとの情報もあり,なによりジェシカがどうな……,おっとっと,もう言えない。まあ,シンクレアのいろんな意味での暴走なども期待しつつ,続きを楽しみにしていたい。

 

マップのあちこちにシークレットエリアがある。中に入ると……,うーん,なんじゃこりゃ? あんまり苦労して探し当てる必要性はないような気も。お好きな人だけどうぞ 工場のあちこちにある張り紙の一つ(右)。よほど飲み込みの悪い従業員ばかりなのだろう。また,変テコな日本語ポスターも散見でき,日本人だけのお楽しみも味わえる ジェシカとシンクレア(ホログラフ)。ゲームのロケーションはけっこう豊富で,クライマックスは「Supremacy Tower」と呼ばれるシンテックの超高層本社ビルでの追跡劇だ

 

研究所の中で作り出されるミュータント。果たしてシンクレアの野望とは?(まあ,だいたい分かるが)。フリーポート・シティの安全はブレードの活躍にかかっているのだ 何発か食らわせば警備ロボットは簡単にぶっ飛ぶ。これに限らず,それぞれの敵はさほど強くはない。とはいえ,ときどき一山いくらでゾロゾロ出てくるから始末が悪い 初代SiNで人気となった,ブレードとCJのコミカルな掛け合いだが,今回はごく普通の会話しか交わさず,ちょっと残念。エピソード2では彼にもたっぷり活躍してほしい

 

タイトル シン エピソード1
開発元 Ritual Entertainment 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/16 価格 4200円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/2000/NT/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1.20GHz以上[Pentium 4/2.40GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:DirectX 7対応以上[DirectX 9.0対応以上推奨]

(C)2005 Ritual Entertainment. All Rights Reserved. Ritual Entertainment, the Ritual logo, SiN and the SiN logo are trademarks of Ritual Entertainment. Valve, the Valve logo, Source, the Source logo, Steam and the Steam logo are trademarks of Valve Corporation. All other trademarks are property of their respective owners.

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