Canvasさん作 「パレドゥレーヌ」
2007年8月10日
※レビューコンテストの性質上,エントリー原稿をそのまま掲載します。ただし,諸般の事情により4Gamer編集部で,必要最低限の修正を行っている場合がありますので,ご了承ください
4Gamer読者である紳士淑女の皆様は,「乙女ゲー」と呼ばれるジャンルをご存知だろうか。一般的な「ギャルゲー」とは逆に,女性主人公と麗しき男性キャラクタの恋愛を物語の中心に据えたジャンルである。少女漫画のようなテイストを強く有したものだと言えば分かりやすいだろうか。家庭用ゲームでは「遙かなる時空の中で」シリーズや「ときめきメモリアルGirlsSide」などに代表され,近年急速に発展してきているジャンルであるが,PCゲーム業界においてその数はまだまだ少ないのが現状だ。
そこに飛び込んだのが,老舗ブランドの工画堂スタジオ。キャラクタ性とゲーム性を両立させたソフトを多数発売する同社は,本作を「乙女ゲー+戦略シミュレーション(以下戦略SLG)」と位置づけている。
舞台となるのは,中世を彷彿とさせる文化を持つターブルロンド王国。かつて栄華を誇ったこの国も,近年は凶作や周辺蛮族の侵入により,序々に国力が衰え始めていた。不幸は重なるもので,そんな折に国王が死去。国難に当たるため,早急に時期国王を決めることとなるが,正統なる後継者である王子は行方不明,残されたのは政治とは無縁の世界で,箱入り娘として育てられた王女ただ1人…。そんな人間に王が務まるのか,不安を抱く諸侯につけこみ,王位を狙う宰相は,政治経験の豊富な自分が王女と結婚し,王国を治めるのが適切だと主張。議論が紛糾する中,ある一つの提案がなされる。
「王女と宰相,どちらがこの国を治めるに相応しいか。1年間で両者の能力を見極め,より多くの諸侯の信任を得た者を王と認めるのはどうだろうか」
こうして王女は1年の間に,国内に良政を敷き,宰相よりも多くの諸侯の信任(過半数以上)を集めて王位に就くことを目指すことになる。
前述したように,本作のゲーム部分は戦略SLGに区分される。プレイ経験のない方にはとかく敬遠されがちなジャンルであるが,本作ではその様な方でもすんなりゲームに入っていけるよう,多くの工夫がなされている。
「わかりやすさ」の追求
本作でまず考慮されているのが,フェイズの簡略化である。「信長の野望」や「三国志」シリーズなどに代表される一般的な戦略SLGにおいては,フェイズは主に4つに分けることが出来るだろう。商工業や農業を発展させ自国の国力を付ける「内政」,周辺諸国との関係を自国に有利なものとする「外交」,自国の軍備を増強し,敵国の国力や戦力を落とす「工作と戦争準備」,実際に戦闘を仕掛け領地を奪う「戦争」である。簡単に解説したが,実際にはこの各フェイズでとれる行動はさらに細分化されており,プレイヤーは常にこれらのバランスに気を配り,状況に応じて臨機応変な対応を迫られることになる。
それに対し本作では,いわゆる内政の部分を,一ヶ月に一度行う税率変更と,資金を各分野に対してどの程度投資するか,という2点のみに絞っている。しかも,税率は通常,軽微,重課,の3つからの選択。投資についても,10段階のうち,どの段階まで投資するか選択するだけで,実際に数値を入力して細かく指示する必要はないのだ。
内政が終了すると,いよいよ戦略フェイズに移る。ここでは,王女と配下騎士が,それぞれ別の種類の行動をとることになる。王女は諸侯に対して,贈物や資金提供によって懐柔を行ったり,お気に入りの騎士を呼び出して親交を深めるといった,いわば表の政務を執ることになる。逆に騎士達は,各諸侯の領地で王女の良い噂を広めたり,役に立つアイテムの探索,時には王女の名代として,諸侯達に正々堂々の決闘を申し込んで勝利し,王女支持の約束を取り付けるといった,工作行動を担当することになる。
つまり,1ターンで可能な行動は,「王女+配下騎士の人数」分だといえる。指示可能な数が明確に決まっていることは,プレイを容易にする一因となっているのだ。
真の信頼は数値ではなく,行動で示すもの!
以上が,ゲームの基本的な流れである。プレイしやすいものとなっていることは分かってもらえたと思うが,本作にはさらに大きな工夫がある。それは,徹底的な数値の排除がされている点,キャラクタ性を重視したイベントによってゲームが進行するという点だ。情報が全て数値によって厳格に管理される一般的な戦略SLGとは違い,本作では,具体的な数値として表示されるのは資金のみ。自領や相手領の発展具合や,各騎士達のステータスといった必要最低限な情報も,画面右上のグラフでのみ表示されるようになっている。
諸侯の支持を得ること,キャラクタと仲良くなることが目的なのに,好感度や支持率といった数値さえないなんて!筆者もプレイ開始当初はとまどったが,ゲームを進めていくうちに,「王女のとった行動に対して,シナリオとして相手の反応が返ってくるのだ」ということに気づくことが出来る。例えば,贈物をする→御礼に領地に招待される→その招待イベントで諸侯の悩みを知る→その悩みを解決するために適当な騎士を送る,といった流れである。これにより,親交が深まっていく過程がダイレクトに伝わってくる。数値パラメータを排除し,代わりにイベントで反応を返す。煩雑さをなくして,乙女ゲーとしてキャラクタ面も重視することが出来る,いわば一石二鳥のシステムに仕上がっているといえるだろう。
物語を彩るキャラクタとイベント
前述した通り,本作ではキャラクタのイベントが最も重視される。じゃあ,その肝心のキャラクタ達に魅力はあるの? …という心配はご無用。男性の心を鷲づかみにする,多数の女の子萌えキャラクタを生み出してきた工画堂スタジオは,女性の心を掴む男性萌えキャラクタを生み出すことにも成功している。男である筆者でも,こんなにもカッコよくて,爽やかで,頼りになるなら間違いなく惚れて…いやいや,是非親友になって欲しいと思ってしまうのだから,女性にとってはそれ以上に破壊力抜群だろう。
そして,イベントの量も膨大なのだ。男性キャラとの恋愛イベントはもちろん,騎士や諸侯達同士の意外な関係が分かるイベント,シナリオの根幹に関わるような王国の秘密を垣間見ることの出来るイベントまで存在する。中には発生条件が厳しいものもあるが,何度もプレイしてキャラクタの立場や性格を理解するようになれば,おのずと条件も見えてくるはずだ。
また本作には,太ったヒゲ面貴族の坊ちゃまや偏屈なジジイ,ヒーロー気取りの変わったおじさんといった,乙女ゲーにあるまじき変な奴らも登場する。彼らは甘いお菓子に効くちょっとした酸味のように,時にシナリオを盛り上げ,笑いを提供してくれる愉快な要素となっているのだ。是非彼らの行動にも注目してみて欲しい。
特筆すべき点は,登場する全てのキャラクタにエンディングが用意されていること。どうしてあのキャラにエンディングがないの!といった不満を持った経験は誰しもあるだろう。しかし本作においてはその点は心配する必要はないのだ。必ずしも恋愛関係となるエンディングばかりではないが,通常の感覚において,恋愛対象となりそうな男性達には,甘いエンディングが用意されているので安心して欲しい。
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お姫さまだって物欲はあるのよ
最後に,「コレクション」についても述べておこう。王女には自領の発展に応じて,内政資金とは別に,自由に使用できるお金,いわばお小遣いが与えられる。このお小遣いは,商人から「秘密」や「衣装」,「家具」といったものを購入するために使用する。「秘密」を購入すれば,各キャラクタのプロフィールを知ることができるし,「衣装」や「家具」は,主人公の着せ替えや自室の模様替えに使用すること出来るのだ。プロフィールは,そのキャラクタの信頼を得るためのヒントが記載されていることもあるため,積極的に購入していきたい。一方で,衣装や家具は完全におまけ要素。購入して身に付けたり部屋の模様替えをしても,本編のCGに反映されるわけではない。しかし,購入品目は全てリスト化されるので,リストを埋めていく楽しみを見出すこともできるのだ。
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戦略SLGとシナリオによるキャラ萌え。両者は油と水のように,相容れないジャンルに思える。しかし本作は,敢えてそれぞれの特徴と面白さを取り入れた上で,工画堂らしいテイストで簡略化を行った,いいとこ取りの贅沢な作品である。一方で,従来の戦略SLGゲームに慣れている方にとって,とまどいや物足りなさを感じる面があることは否めない。キャラクタとのイベントを楽しみたい,お手軽に戦略SLGを遊んでみたい。そのような方には男女問わずお勧めできる,本作はそんなゲームに仕上がっているのである。












