田場私道さん ガジェット トライアル
2006年11月2日
※レビューコンテストの性質上,エントリー原稿をそのまま掲載します。ただし,諸般の事情により4Gamer編集部で,必要最低限の修正を行っている場合がありますので,ご了承ください。
工画堂スタジオといえば,PCゲーマーにとってはおなじみの,国内PCゲームメーカーの老舗である。その作風を一言で示すなら……“アメとムチ”であろうか。
- キャラクターは美少女。パッと見は軟派
- しかし中身の難度は高い。ゲーム性は硬派
工画堂スタジオのゲームに登場する美少女達は,とんがった中身を覆い隠すオブラートなのだ。
読者の中にも,工画堂スタジオのゲームの見た目(美少女)に引き寄せられて,その難度に痛い目を見た経験のある人がいるのではないだろうか? いや,かくいう私も何度も経験しているのだが。しかし,だんだんこれがクセになっていくのだから,恐ろしいものである。
そんな工画堂が放つ,見た目はもう完全にギャルゲーライクな「ガジェット トライアル」は,一体どうなのだろうか?
いままでの工画堂スタジオ製ストラテジーゲームでは,見目麗しいキャラクター達がいても実際のゲームパートでプレイヤーが扱うのは人型兵器であったり生体装甲であったりしたわけである。イベント色,ストーリーはそこまで濃くはなく,淡々と戦況が語られ作戦目標などが示唆されるだけでキャラクターはオマケ程度という,あっさりしたものが多かった。
しかし,ガジェット トライアルに兵器として登場する「Eシリーズ」は,ゲームパートにおいて活躍するユニットでありながら,物語を盛り上げていく登場人物でもあるという,工画堂スタジオ製ストラテジーの中では異色の存在となっている。
Eシリーズは,全員が女性型をした(!)兵器なのだが,彼女らは調整方法で,人間に近い「タイプホワイト」と機械的な「タイプブラック」に分かれており,それぞれの兵器としての優劣をトライアルで決める,というのがこのゲームのストーリーの主軸となっている。
そしてプレイヤー側であるタイプホワイトは人間に近いといいながら,どのように教育したらこうなるのか少し疑問に感じてしまうような,非常にクセの強いキャラクター揃いなのである。
ストーリーそのものは極めて王道というか,大活躍する試作兵器という点でちょっと昔のロボットアニメのような感じである。
タイプホワイトの個性的な面々と彼女達の指揮官であるミハラ少佐との漫才のような掛け合いや,ときおりのぞく世界情勢や日本の国防に対するシニカルなギャグ,さらに序盤のタイプブラックとその指揮官ワカバヤシや物語中盤から登場するクセの強い敵「大陸軍」などがストーリー上のアクセントとしてうまく作用して,非常にテンポ良く物語は進行していく。
一応(?)ミリタリーものということで,軍事・歴史ネタがところどころに織り込まれてはいるが,それらにとくに詳しくなくても,シナリオやキャラクターの持つ勢いで十分楽しめるように配慮されている。無論,それらを少しでも理解できれば,さらに楽しめること請け合いだ。筆者はプレイしながら何度も吹き出してしまった。
また,各ユニット(キャラ?)ごとにそれぞれ2着ずつ追加コスチュームが用意されているのも,本作のキャラクター性の向上に一役買っている。各キャラともなかなかマニアックにツボを押さえたモノが用意されており,微妙なオトコ心(?)を否が応にも刺激してくれるだろう。
これらのコスチュームは戦闘シーンでの見た目だけでなく,着用するユニットの能力値や生産コストにも影響を与えるので,戦闘が有利に進むように着せ替えていこう。……もちろん好みで選んで,能力的なハンデは戦闘指揮でカバーするというのもアリだ。実に男らしいプレイといえるだろう。
本作での兵器の扱いはかなり大胆にデフォルメが施されており,ほかのミリタリー系ストラテジーとは大きく異なる。
本作の時代設定や兵器は(パラレルワールドではあるが)現代〜近未来であるにも関らず,爆撃機ユニットや戦艦ユニットが主戦力として存在すること,物語後半では重戦車が兵器として登場することでも分かるように,ゲーム内における戦争の雰囲気は第二次世界大戦のそれに近い。
また兵器そのものの特徴もかなり強調されており,戦車はまさに陸戦の王者としか形容できないほどの戦闘能力を誇るし,戦闘機は空対空戦闘,爆撃機は地上攻撃にそれぞれ特化している。ほかの兵科でも同様のデフォルメが見られるが,このあたり兵器=キャラクターである本作では,兵器の描写にもキャラクター性が入り込んだ形になったのだろうか。
また敵味方のユニットに性能的な差はなく,同種の兵器であれば同じ性能であるようだ。序盤の敵であるタイプブラックは基本的に同じEシリーズなので当然だが,中盤以降の敵である大陸軍が使用する通常兵器と最新鋭のEシリーズが同性能なのは……と,少々矛盾を含んでいる感もある。また,同じ兵器同士の戦いなら先に攻撃したほうが圧倒的に有利なのも,面白い点だろう。
いずれにしても,ユニットに関する能力値や搭載兵装などの設定は,かなりシンプルであまり軍事的知識は必要ない――というか,むしろ軍事的な知識が深い人のほうが戸惑ってしまうかも知れない。シナリオ面ではある程度の軍事的知識を求めているのだから多少チグハグな感じがしなくもないが,これらはゲームを複雑にしすぎないで,シナリオに集中させるための配慮と考えていいだろう。
ガジェット トライアルは少し特殊なシステムを搭載している。ターンベースでもリアルタイムでもない,”アクティブターン”だ。これは順番が回ってきたユニットから行動していくというシステムで,システムそのものはいままでも日本ファルコムのヴァンテージマスターシリーズや家庭用ゲーム機のRPGなどで似たモノを散見できる。
そのため,とくに目新しいというものでもないが,ターン制ストラテジーにつきものの「味方と敵が交互に行動する」という矛盾をうまく解消していて,個人的には気に入っている。画面下部のベルトに行動順にユニットが表示されるので,行動順は把握しやすく,作戦も立てやすい。
このシステムの採用により,ガジェット トライアルは敵味方の行動順を把握して先を読み,効率良く敵を撃破していく必要がある,いうなれば詰め将棋のようなゲーム性になっている。前述のようにユニットの性能差がないこと,同じ兵器同士なら先に攻撃したほうが絶対に有利であることも,この傾向に拍車をかけている。同性能のユニット同士がぶつかり合うなら,戦術の質が戦況にダイレクトに影響する,ということだ。
ただ,それだけに敵の思考が少し弱いように感じた。そのぶん敵に有利なマップの構成と初期の戦力差でバランスがとってあるので,決して難度が低いというわけではないのだが,いかんせん序盤から中盤にかけての敵のラッシュ――とくに攻撃力の高い爆撃機ラッシュはかなりキツイが――を乗り切って戦況をひっくり返してしまえば,あとはこちらのラッシュタイム,となることが多い。
ともあれ,マップ攻略よりもストーリーを読ませることに主眼を置いたゲームだと考えれば,ユニットのシンプルな扱いも含めて十分納得できるゲーム性であると思われる。
ガジェット トライアルは今までの工画堂スタジオ製ストラテジーとは違い,かなりライトな感じに仕上がっている,といって差し支えないだろう。キャラクター性もそうだし,システム面でもそうだ。過去の同社製品と比べればかなり取り組みやすいゲームとなっている。シナリオモードで全20ステージというボリュームが,多いか少ないかは人によって評価はまちまちだろうが,中だるみもなく個人的にはちょうど良い長さだと感じた。
本作は決して巷で言われているような初心者向け/入門用のストラテジーではない。不思議な世界観,あくのつよいキャラクター,洒落の効いたテキスト,あちこちに仕込まれたネタなどを楽しみながら,ゆっくりじっくりプレイするのがこのゲームの正しい楽しみ方だろう。初心者よりも,マニアックなゲームに少し疲れたストラテジーファンにこそ,勧められるゲームに仕上がっているのではないだろうか。