― レビュー ―

レビューコンテスト特別賞作品

gingerさん作 「蒼い空のネオスフィア」

2006年3月1日

※レビューコンテストという性質上,4Gamer編集部では最低限の校正しか行っていません。ご了承ください。

 「蒼い空のネオスフィア」は,前作「蒼い海のトリスティア」に続く工画堂スタジオの街発展アドベンチャーゲームの第二弾だ。かつて天空の十字路と呼ばれ,栄えてきた空中王国ネオスフィア。だが統一戦争後の復興に立ちおくれ,いまだ街路にその傷跡を残している。王国内では,政治の実権を握っている貴族主義的な元老院と,その元老院から政治の実権を取り戻し,ネオスフィアの復興を目指す王権派とが水面下で争っている状況だ。
 さて,こうした状況の中で,元老院側は仮即位したばかりの女王エリンシエを牽制すべく,帝都から伝説の工房士プロスペロ・フランカをネオスフィア復興のため(というより,自らの権力基盤の強化のため)招聘したのだが,やってきたのはまたしても孫娘のナノカであった。となると大方の予想どおり,ナノカはプロスペロ本人が来なかったことに激怒した,分かりやすいほどに悪人顔ぞろいの元老院に追い回される立場となり,偶然ナノカの才能を直感したエリンシエ女王自らによってネオスフィアの復興を委任されることになるのだった。元の依頼人から不興を買って追い回される(追い返される)のは,もはやこのシリーズのお約束といっていい展開だろう。
 こうしてナノカは,仮即位したエリンシエ女王が本即位するまでの一年間,ネオスフィアの復興に取り組むことになる。

 

 

 本作でも前作の流れと同様,発明工房士であるナノカがさまざまなアイテムや都市プランを「発明」し,それらを売り込むことによって徐々に街が復興していく。シムシティシリーズのように自ら道路やインフラを敷設し,区画整理を行って「直接的に」街づくりを行うのではなく,商品(パテント)を売り込むことによって産業を活性化し,それによっていわば「間接的に」街を復興させていくのが本作の特徴だ。
 商品となるアイテムを発明/作成し,それらの売り込みによって街を復興させる開発パートと,その合間に挟まれるさまざまなイベントをこなしていくアドベンチャーパートを繰り返してゲームを進めていくのが本作の大きな流れだ。したがってまずは,売り込むための商品を作成しなくてはならない。ここではそれらの商品をすべてまとめてアイテムと呼ぶことにする。

研究は発明の母。まずは発明がんばるよ!

 あるアイテムを作成するためには,まず設計図ともいえるレシピを「発明」する必要がある。レシピは素材となるアイテムを「研究」したり,街中を歩いているときに発生するイベントによってひらめいたりするが,基本的には素材の「研究」がメインとなる。そうやって得たレシピをもとに新しいアイテムを「作成」し,さらにそれを「研究」することによって新しいアイテムを作れるようになっていく。
 ナノカが作成できるアイテムは,食料品や雑貨,機械類といったいわゆる工業製品から,品種改良した牛や豚,公共施設の建設計画書や書物の執筆まで非常に多彩だ。挙げ句の果ては非合法治安活動用ゴーレム(!)やらバンジージャンプセットやら,もはやネオスフィアの復興のためなのか,単なる本人の趣味なのか分からない(多分,いや間違いなく後者)予想外のアイテムが次から次へと登場する。この突拍子のなさが,次にどんなアイテムが出来るのか期待を高めてくれ,プレイヤーを飽きさせない本作の魅力となっている。
 二つの素材を使った「組み合わせ研究」も本作から導入され,これによってイベント進行に非常に重要なアイテムを作成できるようになるので,忘れずに実行したい。発明済みのアイテムはタイトル画面から選択できる「図鑑」に記録されるので,これをすべて埋めることを目標にするのもプレイの励みになるだろう。

 

けだるい徹夜明けにはカレーパンを。
複数の炉を使い分けて乗り切ろう!

 こうして日夜,アイテムの研究と開発に明け暮れるナノカだが,本作ではそれらの作業効率に影響を与える「ひらめき」と「体力」の2種類のパラメータが追加された。
 「ひらめき」は研究の進捗率に,「体力」はアイテム作成の成功率に影響を与えるため,非常に重要だ。これらのパラメータは長時間連続して作業を行うことによって低下していく。寝ることによって一定値まで回復するが,本作では一年間という制限期間に加え,短期的には三日から一週間程度の納期を持ったアイテム作成依頼が頻繁に発生するため寝てばかりもいられない。パラメータの管理には,“カレーパン”などの回復アイテムを使用することになるだろう。
 アイテムの使用によってターンが進むことはないので,どんどん使用して常に「ぎんぎん」で「びんびん」な状態(パラメータがマックスな状態)をキープしておきたい。アイテムの使用回数に一切の制限がなく,常にマックス状態を維持できてしまうので,実質的にはゲームの難度を大きく左右するわけではないが,ナノカの(やや偏った)食生活の一端が垣間見える部分ではある。

 

 また本作からは,アイテムを作成する際に「手作り」「太陽炉」「高速炉」「増殖炉」の四つの中から選択できるようになった。「手作り」は燃料費がかからない一方,作成に必要なターン数が最も多い。炉を使う場合には材料とは別に燃料が必要になるが,機械類などは手作りできないアイテムが多く,同じアイテムでも炉の使用によって作成にかかるターン数を短縮できるため,効率良くゲームを進めていくために欠かせない要素だ。
 炉そのものも自分で作成しなければならず,徐々にグレードアップしていくのを実感できるのは素直に嬉しい。高い燃料を消費する代わりに作成に必要なターン数が半分になる「高速炉」や,ターン数はそのままに倍の数のアイテムが作成できる「増殖炉」などを状況に応じて使い分けていきたい。たとえそれが“ボンサイ”であろうと,“モノレール建設計画書”であろうと,炉を使って制作してしまうというあたりは突っ込んではいけないところだろう。

 

ほのぼのとした日常を吹き飛ばす,怒濤の展開は本作でも健在!

 本作のもう一つのメインパートであるアドベンチャーパートも,序盤から次から次へと発生する。もはやイベントの合間を縫って開発を行っているのか,開発の合間にイベントをこなしているのか分からなくなるほどの頻度といってもいい。ゲームに慣れない序盤はキリキリ舞いだろう。
 無視して進めることもできるが,このイベントの達成度はのちのストーリー展開に影響してくるので,できる限りこなしていきたい。イベントは自動的に発生するもの以外に,ある条件を満たしたときにのみ発生するものもあるため,一度のプレイですべてを見ることはできないだろう。また本作ではマルチエンディングを採用しており,全体的なボリュームとやりごたえは十分だ。

 

 序盤から中盤にかけてのほのぼのとしたイベントから,徐々にネオスフィアに渦巻く陰謀が明かされていき,終盤の息もつかせぬ怒濤の展開で決着をつける緩急の利いた(お約束ながらも)熱いストーリーは,本作でも健在だ。本作から登場したキャラクター達に加え,前作「蒼い海のトリスティア」や,そのファンディスクである「トリスティア どきどきおぺれーしょん」からのキャラクターも要所で活躍を見せてくれるのも,従来のファンにとって嬉しいだろう。新旧それぞれのキャラクター達に見せ場を持たせつつ,どのキャラクターも非常に魅力的に仕上がっているのはさすがだ。
 もちろん本作からのプレイヤーでも,きちんとしたフォローがなされているので,問題なく楽しむことができる。本作は,前作での不満点を改良しつつ,プレイヤーの求めるテイストをさらに昇華した形でまとめあげた良作といえよう。ナノカ達の次の活躍をぜひ期待したい。

 

 

 

タイトル 蒼い空のネオスフィア
開発元 工画堂スタジオ くまさんちーむ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2005/03/25 価格 9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上,メインメモリ:128MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 8.1以上に対応,HDD空き容量:600MB以上

(C)2005 KOGADO STUDIO,INC./KUMASAN TEAM,INC.

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