レビュー : Razer Tarantula

多機能がウリ,Razer初の“ゲーマー向け”キーボード

Razer Tarantula

Text by 米田聡
2006年11月21日

 

 E3 2006での展示から約5か月を経てようやく発売となった,Razer初のキーボード「Razer Tarantula」。タランチュラという,ある意味なじみ深い名前に,インパクトのある外観を覚えている人もいるだろう。今回は,実機をじっくりと検証する機会を得たので,果たしてゲーマーに勧められる製品なのかどうかを,明らかにしてみたい。

 

 

英語103キーをベースに機能を拡張した製品
キーの品質はいまひとつ。仕上げは人を選ぶ

 

 Razer Tarantulaを一言で説明するのは難しいが,誤解を恐れず,外観だけについて言及するのであれば,一般的な英語103キーボードに,カスタマイズ可能なキー10個とマルチメディアボタンを追加した製品,といったところになる。

 

Razer Tarantula
メーカー:Razer 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:1万2500円前後(2006年11月21日現在)

 

 キースイッチはよくあるメンブレンで,打鍵感のないタイプだ。キーストロークは実測約4mm,キーが反応する深さは2mm程度で,浅くも深くもない,ごくごく一般的なもの。もっといってしまえば,PCショップで普通に販売されている,実勢価格1000〜2000円前後のキーボードと大差ない。

 

 キー配置が階段状のいわゆるステップスカルプチャーでなく,のっぺりと平らにキーが並べられている点は,やや気になった。本体底面のチルトスタンドを立てて傾斜を付けないと,テキストチャットなどにおける文字入力はしづらい印象だ。

 

 また,“103キーボード”の両サイドに機能が追加されているため,本体サイズが実測で530(W)×220(D)×28(H)mmと,非常に横幅が大きいことは,指摘しておく必要があると感じた。筆者のように机の上が散らかっている人や,そもそもそれほど広くない机を使っている人には厳しいサイズである。
 キーボード本体の光沢仕上げも,好みが分かれそうだ。テカテカとしたピアノブラック仕上げが好きという人もいるだろうから,あくまで筆者の個人的な感想と断ってから述べるが,Razer Tarantulaでは,指紋やホコリ,傷が非常に目立つ。実際,撮影時にもホコリの完全除去を諦めたほど。日々使うものだけに,落ち着いたマット仕上げにしたほうがよかったのではと思う。

 

 

ギミックはかなり豊富
BattleDockの使い途は?

 

交換用キー×10とキーリムーバー

 もう少し細かく見てみよう。まず,103キーを挟み込むように左右5個ずつ用意されている「Gaming Macro Keys」についてだが,これはその名のとおり,マクロの設定が可能なキー群である。設定および利用方法は後述する。
 キートップは,左が[L1]〜[L5],右は[R1]〜[R5]だが,交換用のキーが用意されており,付属するキーリムーバーで,簡単にキーを外し,交換用キーに差し替えられるのはなかなかユニーク。交換用キーのキートップには,手榴弾や弾薬などのイラストが描かれており,どことなくミリタリー系FPSをイメージさせるが,イラストはあくまでイラストであり,特定のゲーム専用というわけではない。RazerのWebサイトによれば,MMORPGなど,別のジャンルに向けた別売りキートップを投入する予定があるようだが……。

 

 なお,Gaming Macro Keysと関連したキーとしては,[Home/End]キーのすぐ近くに「PROFILE」と印字された[Profile]キーがある。これはGaming Macro Keysと深く関わってくるので,後ほど説明することにしよう。

 

キーリムーバーをキーの真上から挿し,カチっという音がしたら引き抜くと,キーを取り外せる。外してみると,メンブレンスイッチの近くに青色LEDが用意されているのを確認できる

 

 Gaming Macro Keysのさらに外側に用意されているのは,多機能キーボードにありがちな,特定用途のショートカットボタンだ。左サイドにはInternet Explorerの「ホーム」ボタンやPCのスリープボタン,画像閲覧時に拡大/縮小などが可能なボタンが用意され,一方右はメディアプレイヤーの操作ボタンと,見事なまでにゲームとは無関係。他社の同じようなボタンと比べると対応アプリケーションの面で融通が利かないのはマイナスポイントだ。しかし,キーボード本体よりも低い位置にボタン類が用意されており,スイッチも硬めのため,ゲーム中に誤って押してしまい,ゲームが誤動作するような困った事態は起こりにくい。これは,まずまず評価してよさそうである。

 

左にはInternet Explorerやスリープ,Windows XP標準の画像ビューワや「Adobe Photoshop/Illustrator/Reader」,「ACDSee」対応の拡大縮小/回転/全画面表示ボタンを用意。右は「Windows Media Player」「iTunes」「RealPlayer」「WinAmp」対応の操作ボタンだ。ミュートのみゲーム中でも利用できたが,ボリュームコントロールは使えなかった

 

BattleDock。デジタルカメラなどで一般的に使われる小型のUSBコネクタが見える

 ところで,そんなRazer Tarantulaのウリの一つであり,同時に最大の不可解ポイントでもあるのが,キーボード中央部に設けられた「BattleDock」だ。出荷状態で取り付けられているフタをキーリムーバーで引っかけて取り外すと凹みがあり,その底には,標準タイプBのUSBコネクタがぽつんと用意されている。

 

 RazerはBattleDockの用途として,キーボードを照らす専用照明ユニット「BattleLight」やWebカメラ「BattleEye」といった,別売りのアイテムを提案しているが,2006年11月21日時点で,これらは発売されていない。現時点でBattleDockに関しては,宝の持ち腐れということになりそうだ。BattleDockのサイズからすると,ポータブルプレイヤー「iPod」用のドックとして使ったりすると便利そうな気がしなくもないが,現時点では,そういった話もとくにない。

 

 ただ,BattleDockに関して一つ指摘しておかなければならないのは,“BattleDockのせい”で,PCとの接続ケーブルが多くなっていることだ。キーボード背面にマイク入力とヘッドフォン出力,USB 1.1ハブを用意するため,その分のケーブルがあるのは構わないのだが,Razer Tarantulaでは,なぜかBattleDock用にUSB 2.0ケーブルが別系統で用意されている。内蔵のUSBハブをUSB 2.0対応にすれば,こんな不自然な仕様にはならかなったわけで,「もう一歩頑張れ」といったところである。

 

本体にマイク入力とヘッドフォン出力を引き出して,ボイスチャットに対応しやすくなっているのはいいが,USB周りはその意図がよく分からない。ちなみにマニュアルだと「すべてのケーブルをPCと接続するように」と書かれているが,USB 1.1ケーブルを接続しさえすれば,とりあえずキーボードとして利用できる

 

 

かなり強力なキーカスタマイズ
&プロファイル変更機能

 

 以上,ハードウェア的な概要をまとめてみたが,Razer Tarantulaの特徴は,むしろ強力なドライバソフトウェア周りにある。
 専用のドライバソフトをインストールすると,「Driver Control」というツールがセットアップされ,タスクトレイに格納されたランチャーから利用できるようになるので,これについて少し掘り下げてみたい。

 

右上の画面で示したランチャーから「Load Customizer」を選択すると,Driver Controlが開く。これがそのウィンドウだ。なかなか凝った作りだが,凝りすぎていて分かりづらいかも?

 

 さて,Razer Tarantulaのキーカスタマイズを理解するには,プロファイルについての知識が前提として必要だ。
 Driver Control中央下部にある「Synapse Profile Selection」というバーをクリックすると,下に示したとおり,「Profile Selection Menu」というメニューウィンドウが開く。ここでは,設定可能なプロファイルとして,1〜100のスロットが用意されているのだが,1〜5と,6〜100では,利用できる機能が異なっているのである。

 

100個のプロファイルを設定できるProfile Selection Menu。プロファイルの保存(=バックアップ)や読み出しも行える(※クリックすると全体を表示します)

 

 具体的に説明しよう。プロファイル1〜5は,「Razer Synapse」という機能に対応する。Razer Synapseでは,Razer Tarantulaが内蔵する容量32KBのフラッシュメモリに,設定したプロファイルの内容を直接保存するのだ。このため,プロファイル1〜5に設定した内容は,特別なドライバなしに利用可能。あるPCから別のPCにRazer Tarantulaを接続し直しても,あらかじめプロファイル1〜5に設定しておいた内容はそのまま利用できる。

 

 一方,プロファイル6〜100はRazer Tarantulaのデバイスドライバをインストールしなければ利用できないが,その代わり,指定したゲーム(など)の実行ファイルが起動させると自動的に読み込まれる「Auto Switching」という機能に対応する。例えば,先ほど示したProfile Selection Menuで,プロファイル6に「Quake 4」の実行ファイルを割り当てているが,このように設定しておけば,Quake 4が起動するたび,自動的にプロファイルが読み出されるのだ。
 また,プロファイル6〜100では,1プロファイル当たりA/B二つのキーマップを設定でき,[Profile]キーを押すごとにA/Bを切り替えられる。

 

 要するに,Razer Tarantulaでキーアサインの設定を行うには,まずProfile Selection Menuからプロファイル1〜5でRazer Synapseを利用するかプロファイル6〜100でAuto Switchingを利用するか選択。後者を選んだ場合は,Driver Control下部にある「Keymap Selector」からA/Bのキーマップを指定する必要があるというわけである。

 

Assign A Macro / Launch Programウィンドウ。ちなみに「Select Profile」は,プロファイルを選択したいときに利用する項目だが,後述する方法で同じことができるため,あまり使い途はなさそう

 というわけで,ここからはキーアサインについて見ていきたい。
 まずはGaming Macro Keysからだが,この10個のキーは前述したようにキーマクロを設定できるほか,特定のプログラムを起動するランチャーとしても利用できる。いずれの場合もDriver Controlの両サイドに5個ずつ用意されている,Gaming Macro Keysに対応したスペースをクリックすると,当該キーに対して設定が可能な「Assign A Macro / Launch Program」というウィンドウが開く仕組みだ。

 

 マクロの入力方法はシンプルで,認識されるのはキーの押下,押上(=戻り)だけ。これに“長さ”を50/100/150/200msから選択して挿入することで,一つのマクロを完成させるようになっている。一方,「Launch Program」欄に任意の実行ファイルを指定すれば,そのアプリケーションを起動できるようになる。ゲーム以外のWindows操作を行っているときは,Gaming Macro Keysをランチャーとして設定しておくと,けっこう便利である。

 

上がファンクションキー用,下が一般キー用の設定ユーティリティ。いずれもDriver Controlから設定したいキーを直接クリックして呼び出す

 次に12個のファンクションキー。これは一般的な用途とは別に,[Profile]キーとの同時押しで,最大12のプロファイルを切り替えるスイッチとしても利用できる。[F6]〜[F12]には任意のプロファイルを割り当てられるが,[F1]〜[F5]はRazer Synapseの切り替えキーになっているため,ドライバがインストールされていない状態でも利用可能だ。

 

 最後に一般のキーだが,Razer Tarantulaでは,英語103キー部分のうち,Driver Controlのランチャーとなる[Razer]キーとファンクションキーを除く,残る90個すべての配置を変更可能だ。マクロではないので,純粋に“入れ替える”ものと理解しておくといいだろう。
 ゲームですぐにでも使えそうなのは,定番だが,[Windows]キーなど,ゲーム中に誤って触れてしまうと困るようなキーに,ゲームではまず使用しないキーを割り当ててあらかじめ無効化しておくこと。こういった用途にはアリだ。

 

Show changes on screenを有効にして,デスクトップにプロファイル情報をオンスクリーン表示させたところ。デスクトップなら十分視認できる

 以上,キー設定の詳細を説明してきた。プロファイルはゲーム中であっても[Profile]キー+ファンクションキーから変更できるうえ,[Profile]キー単独でキーマップA/Bの切り替えも行える。Driver Controlで,「Show changes on screen」にチェックを入れておくと,プロファイルが切り替わるとき,画面左下隅に「(プロファイル番号)/(プロファイル名)/(対応する実行ファイル)/(キーマップ)」という形で情報がオンスクリーン表示され,選択したプロファイルを確認できるのも特徴だ。

 

 ただし,ゲーム中は,この表示が一瞬で消えてしまい,ほとんど見えない。おそらく,ゲーム画面書き換えの影響を受けているのだろう。ハードウェア的には,プロファイルやキーマップの状況を確認できるような仕組みが一切用意されていないので,オンスクリーン表示時間については,さらなる改善が望まれる。

 

 

多機能キーボードを求めている人向けの製品で
ゲーム用キーボードとしては微妙

 

キーの同時押しは6個まで認識された

 Quake 4のほか,FPS「Battlefield 2142」,RTS「Microsoft Age of Empires III」,MMORPG「ネオスチーム」の計4タイトルでプレイしてみたが,フルキーボードということもあり,ゲームプレイに当たって違和感はない。
 マクロ機能に関していうと,複雑な組み合わせを登録できるわけではないため,ケースバイケース,といったところだろうか。例えば,FPSやRTSといった,アクション性の高いゲームだと,片手はマウスを持つので,使えるキーは事実上[L1]〜[L5]の5個になる。しかも,この5個は「小指ならなんとか届く」というレベルなので,頻繁に使うアクションを割り当てるわけにも行かず,チャット用の定型文を割り当てるくらいしか使い途はなかったりする。
 キーアサインの入れ替え機能も同様の印象だ。ネオスチームはゲーム側に設定がないので,例えば左手側に主なコマンドで使うキーを集中させたプロファイルを用意して,(両手で処理することになる)チャットやスラッシュコマンド用と切り替えて使うというのは悪くない。

 

 ちなみにRazerは,Razer Tarantulaのウリの一つとして,キーボードが押下されたときの反応速度のよさをウリにしている。具体的には,一般的なキーボードよりも50〜60倍高速とされる5msの反応速度を謳い,「Hyperresponse Game Keys」と名付けているのだが,少なくとも今回試したゲームタイトルでは,この反応速度はメリットとして体感できなかったことを述べておきたい。むしろ,反応速度が速すぎるのか,チャットで文字入力を行っているとき,同じ文字が2回連続で入力されることが――決して頻発したわけではなく,たまにだが――あったのは,少々気になった。

 

製品ボックス

 Razer Tarantulaの実勢価格は1万2500円前後。価格と完成度,使い勝手を総合的に勘案するに,ゲーマー向けキーボードとしては,微妙な製品と言わざるを得ない。1万円前後の予算があれば,シンプルな仕様でより上質のスイッチを持った,より使いやすいキーボードを選択できる。そのなかにあって,Razer Tarantulaを選ぶ積極的な理由が見当たらないのだ。

 

 もちろん,映像や画像編集用に,キーボードを徹底的にカスタマイズして用いたいという人にとって,プロファイルだけで100ものスロットを持ち,そのうちの5個はドライバ不要で切り替えられるという強力なカスタマイズ機能は,きっと魅力的に違いない。押し間違えにくいマルチメディアボタンなども,対応アプリケーションで音楽やビデオを楽しむ向きには便利と思われる。また,キーをDVORAK配列にしたいというマニアックな要望に応えられるという意味でも,Razer Tarantulaは貴重な存在といえる。そういう用途を考えているなら,お勧めできる製品といえるかもしれない。

 

 だが,残念ながら,これらの機能はゲームには無関係か,あっても,実勢価格を納得させるほどのメリットに欠けている。Razerは開発に当たってゲーマーの意見を取り入れることを高らかに謳っているが,キーボードの開発において,それはどこまで機能しただろうか?
 率直に述べよう。Razer Tarantulaはコンテンツ制作現場向けブランド「Razer Pro|Solutions」で投入されるべき製品である。Razerには,ゲーマーに必要なものを再考したうえで,改めて優れたゲーマー向けキーボードを開発してほしいと,願ってやまない。

 

タイトル キーボード
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


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