― レビュー ―
王女とその騎士達が織りなす,王位継承に向けた宮廷劇
パレドゥレーヌ
Text by Guevarista
2006年11月1日

 

物欲や噂話も盛り込んだ女性向け作品

 

 工画堂スタジオが11月10日の発売に向けて開発中の“プリンセスシミュレーション”こと「パレドゥレーヌ」は,同社初の試みとなる女性向けゲームだ。国王が崩御,王子もなぜか行方不明となった中世風の王国「ターブルロンド」で,たった一人残された王女がプレイヤーの役どころ。王女の即位を認めない有力領主達や,これを機に王女を娶って王権を簒奪しようとする宰相を向こうに回して力量をアピール,1年後に無事玉座に着くのがプレイ目標だ。今回開発途上版を入手したので,その概要と印象をお伝えしたい。

 

 このゲームのプレイ目標たる即位に必要なのは,総勢12人の有力領主のうち過半数を味方につけることだ。王女ことプレイヤーはそのために,プレゼント攻勢から暗殺まで,戦争以外のあらゆる手立てを尽くす。とはいえ,主人公は王女だけに荒事は苦手だ。権威を高め,関係を改善して諸侯を従わせるべく動くのは,王女に雇われた遍歴の騎士達である。
 騎士達を他領に派遣しては,その地で王女の評判を高める工作をしたり,そこの領主の要望をかなえたり。また,蛮族の侵入や怪異の発生に対処して統治者としての能力を見せつけ,個々の領主に恩義を抱かせる……。そして,相手がどうしても意のままにならないなら,配下の騎士に一騎討ちを挑ませてねじ伏せるもよし,さっくり暗殺してしまうもよしだ。
 などと書くと,ドロドロの陰謀劇のように思えてしまうが,本作がれっきとした女性向けのゲームであることをお忘れなく。王女と騎士達とのロマンスや“お姫様だっこ”など女性にはぐっとくる(らしい)イベント,ドレスやアクセサリーなどの着せ替え要素,各キャラクターの“秘密”を握るなどという要素もちりばめられている。操作こそいささかちまちましているが,基本的な発想は,昼メロのように華麗なる宮廷劇なのである。

 

王女殿下の華麗なる(?)着こなしの数々。開発途上版では初期状態でそれなりに衣装が充実していた。まあその,王者としてどうかと思うパーツもままあるが

 

王女の「コレクション」の一つ。中身を見る限り,厳然たる中世よりはもう少しあとの時代がモチーフかもしれない 歯の浮くようなセリフ,素面じゃできない振る舞いのイベントが,ふんだんに用意されている。女性向け“萌え”タイトルであるからして,重要なのは常識的尺度でなく,いかに純度の高い妄想をプレイヤーにぶつけられるかである

 

 

遍歴の騎士達を,王女の名代として動かす

 

執政官お勧めの,腕の立つ騎士の紹介画面。色男,武骨者,利発なお子様,アウトローなど,いろいろタマが揃っている

 いささか尺の長い,プロローグ的なイベント(2度め以降のプレイではスキップも可能)を見たあと,このゲームで為すべきは,会話仕立ての難易度選択である。あとで詳しく触れるが,本記事で主に扱うのは「高難度」でなく「通常」設定である。
 執政官によるシステム説明に続いて,プレイヤーは初期配備の騎士数人を選ぶ。1ターンは1週間,4ターンで1か月,そして1か月に一度やってくる税率変更と事業投資については,2006年9月20日の記事で触れたとおりだ。
 事業投資と聞くと何らかの利殖要素のように思えてしまうが,要は公共事業の予算配分である。「栄華」「社会」「経済」「協会」「情報」という5分野に税収を割り振って,それぞれの成長具合をコントロールする。
 「栄華」とは自領の華やかさ度合いを示し,これが上がると王家の私的財産が増え,商人から購入できるアイテムのグレードが上がっていく。また「協会」はこのゲームにおける宗教組織。高度なテクノロジーを保持しており,時計や水道などのインフラストラクチャーを通して領民の生活を担うあたりは,中世っぽい設定である。自領を円滑に統治して見せる領地運営ゲームとしての顔を持つ本作ではあるが,予算の極端な傾斜配分はむしろ危険な様子。初期設定のままでもプレイは順調に進むし,むしろ変なことをすると民衆反乱などの不幸を招く場合もある。ここは繰り返しプレイのためのバリエーションないし,味付けと思ったほうがよさそうだ。

 

 プレイヤーは各ターンの戦略フェイズで,騎士の移動と,移動先で実行させるコマンドを予約する。「工作」で王女の評判を高め,「会話」でほかの騎士を自陣営に誘い,「探索」で役に立つ事物を探し,「鎮圧」で民衆の反乱を鎮め,「挑戦」で領主に一騎討ちを申し込むといった具合だ。このうち鎮圧は,ほかの領主の封土でも実行できるのがポイントで,人心収攬(しゅうらん)の手段を兼ねる。
 騎士達は「名誉」「体力」「武力」「知力」という四つのパラメータを持ち,それぞれが任務の成功率に影響する。また成功率以前に,騎士は命令を遂行することで「体力」パラメータを減らしていき,残りゼロの状態で働かせると過労で倒れてしまう。体力が減ったら適宜「待機」命令を与え,回復させる必要があるのだ。
 注意しておくべきは騎士の雇用期間である。戦略フェイズで他領主配下の騎士の名を見ると,その右上に黄色い数字がある。これはあと何ターンで騎士とその雇用主との契約が切れるかを示すものなので,誘いをかけるときの目安になる。ちなみに難易度「通常」において,王女配下の騎士に契約期間のルールは適用されず,いわば“終身雇用”状態。とにかく自領に立ち寄ってくれた有能な騎士をすかさず雇用することが,プレイ上重要なコツとなりそうだ。
 なお王女自身の行動もこのフェイズで予約する。先ほど述べた騎士との契約のほか,他領主や騎士にプレゼントを贈る「贈物」,他領主に対する「暗殺」の試みも,騎士達が介在しない王女のコマンドだ。とくに贈物は,手っ取り早い関係改善手段として,多用することになるだろう。

 

 続く「報告」フェイズでは,戦略フェイズにおける予約結果が適用される。また,パラメータに基づいてさまざまなイベントが起こるのもこのフェイズだ。事実上の選挙王政に後退したターブルロンド王国の衰運ゆえか,各領主の封土では蛮族の来襲やら怪異の出現やらが相次ぐ。それらに適宜介入することで,自身の政治的実力を示すのが,支持の獲得に向けたステップとなる。もちろん,自領で暴動を起こされないこと,起こされたら速やかに鎮圧することも重要である。

 

王位継承を妨害した張本人たる宰相。単に簒奪を狙っているというより,もう少し暗い情熱を秘めている様子だ ほかの領主達も続々と反対に回る。領主達は人外も含めて個性派揃い。最終的に彼ら一人一人の支持を集めて,王女派になってもらうのがプレイ目標だ。プレゼントで気を引くもよし,困難につけ込むもよし,腕っ節にモノを言わすのもよし

 

王女派筆頭シルヴェストル将軍が語る,ターブルロンド建国の故事。「騎士王」の本名はやはりアーサーなのだろうか? 先王の親衛隊長ヴァルターは,騎士王の故事を引き,王女に手腕を示す機会を与えるべきと主張,その場を収める。“王の試煉”の開幕だ 会話のなかで,難易度選択をする仕組みになっている。ちなみにここで間違えて「高難度」を選んでも,次の画面で取り消せる

 

 

パラメータ操作でなく,すべてがイベントとして処理される

 

配下の騎士を動員して,腕の立つ騎士をスカウトしたり,自陣営に有利な噂を流したり,紛争に介入したりする

 ざっとシステムだけを見ると,領地経営シム的側面が強いように思えるが,むしろ本作はパラメータアドベンチャーと見たほうが分かりやすい。贈物なり騎士の行動なりで各領主に働きかけると,それに対する返事のような形で,さまざまなイベントが起きる。蛮族撃退に協力したら領主が礼状を送ってきたとか,贈り物をしたらお茶会に呼ばれたとか,そういう具合である。
 システムの基底にあるのは間違いなくパラメータなのだが,その効果が目に見える形,世界観とストーリーに沿って自然な形で示されることは,とくにゲーム初心者を意識した場合,よく考えられた仕組みといえよう。
 同様に,執政官による“提案”も,有効にした場合比較的うまく機能するようだ。これはゲーム全編にわたるプロット代行なのだが,マップ/ユニット依存のストラテジータイトルなどと異なり,その時点その時点での選択肢が絞り込まれた本作では,適切な手の示される確率が十分に高い印象を受けた。

 

 ただ,ゲーム作品としていささか気になる点もある。各領主の封土に関して参照可能な情報が,自勢力の「情報」パラメータの高低によって制約されるなどといったゲーム的工夫は,確かによい。しかしながら基本的な情報表示に,いま一つ親切とは言いづらい部分があるように思える。
 戦略フェイズの画面には王国全土のマップがあり,各領主の封土で起きている事件や,騎士達の所在などが把握できる。だが例えば未雇用の騎士については,いちいちマップ上の各封土をクリックしていかないと見られないし,配下の騎士達についても,個別に名前で選択しないと現在位置や予定されている移動先が分からない。どのみち,かなりの頻度で全封土を見る必要があり,またマップにはわずか12の封土しかないのであるから,これらは直接マップ上に表示してしまってもよいように思われる。
 同様に戦略フェイズで,各地の領主の性格や特徴を参照できないのも少々不便だった。せっかくグラフィックスやキャラクターボイスに力を入れているにもかかわらず,コマンドの適用対象を選ぶときの選択肢がテキストで,ポイントして初めてグラフィックスが表示されるというのも,なんというか,実に惜しい気がする。顔グラフィックスのアイコンなどを多用して,インタフェースもぜひグラフィカルにしてくれたらと思う。ゲームの展開が初心者をよく意識して作られているだけに,少々不思議に感じた部分だ。

 

 ちなみに「高難度」も少しだけ触ってみたが,少なくとも開発途上版ではまだお勧めしづらいバランスであった。スパンが短く,配下の騎士達を頻繁に呼び戻す必要のある契約ルール,ほとんどの騎士を1ターンおきに休ませねばならず,王女が過労で倒れては再契約に失敗し,騎士が減っていく体力設定,少ない収入および厳しい政治情勢と,テストプレイの時点では「挑戦しがいがある」と評しづらい状況。これについては,ぜひ適度なバランス調整が入ることを期待しよう。

 

 やや厳しめの話が続いてしまったが,領地経営や外交をアドベンチャー風にラッピングするアプローチのユニークさは,本作で高く評価したい部分である。
 欧米の作品で多々あるような,パラメータを直接意識してバランスの妙で切り抜けるスリルがなく,展開の幅が限られている代わりに,どこまでも物語としてフォローされるという意味で,本作は実に国産タイトルらしい魅力を備えている。プレイに歯応えのみを求めるのでなく,かつ,ちょっと背中がむず痒くなる系統の少女漫画的テイストが許容できるならば,男性にも十分に楽しめる作品となりそうだ。

 

戦略フェイズでは,このマップ画面上で各騎士の移動先とそこでの行動内容をプロットする。王女は基本的に自領から動けないものの,「贈物」や「暗殺」「契約」といった特有のコマンドを持ち,それがゲーム内で大きな役割を果たす イベント内の会話テキストでは,プレイヤーがとるべき行動が,実に分かりやすい形で“暗示”される

 

蛮族の侵入した封土に,配下の騎士を派遣することで介入,蛮族を蹴散らしたことでそこの領主に感謝される。まことに型どおりに進んだ王権の誇示である

 

宿敵たる宰相が何らかの悪巧みをめぐらしていたり,領主/騎士間に意外な関係があったり。登場人物同士には,さまざまなドラマが設定されているようだ。各キャラクターの「秘密」を直接握るだけでなく,これらを一つ一つ読み取っていくのも,プレイの大きな楽しみである 上級ルールでは,騎士の契約期間が大きな制約要素。貴重な王女のコマンドが「契約」で騎士の人数分だけ使われ,経費も痛手だ

 

タイトル パレドゥレーヌ
開発元 工画堂スタジオ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2006/11/10 価格 通常版:6980円,初回限定版:8980円(ともに税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP,CPU:Pentium III/800MHz以上もしくは,Pentium 4・Pentium D・Pentium M・Celeron/1GHz以上もしくは,Celeron D・CoreSolo・CoreDuo・Core 2 Duo以上,もしくは,Athlon/800MHz以上もしくは,Athlon XP・Athlon64・Athlon64 X2・Duron/1GHz以上もしくは,Sempron・Turion64以上,メインメモリ:128MB以上,HDD空き容量:2GB以上

(C)2006 KOGADO STUDIO,INC. All rights reserved.

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http://www.4gamer.net/review/pdr/pdr_pre.shtml