― レビュー ―
Radeon X1900を冷却する巨大チップクーラー
KD-NiATI-1000
Text by Jo_Kubota
2006年3月31日

 

 流通関係者によれば,ATI TechnologiesのRadeon X1900シリーズは,かなりの店頭価格にもかかわらず,比較的好調に売れているという。
 その理由が,優れた3D性能にあるというのは,本誌のレビューから容易に想像できると思うが,一方でRadeon X1900シリーズについては,消費電力の大きさと発熱の大きさという,看過できない問題がついて回ることになる。そして,発熱が大きければ,冷却機構を大仰にし,ファンを高回転で回して風量を確保する必要があり,結果としてRadeon X1900のリファレンスクーラーは,なかなか耳障りな騒音を立ててくれるのである。

 

 ハイエンドクラスのグラフィックスカードでは,このような消費電力やら発熱やら騒音やらの対策が行われている。3D描画負荷の低いときにはグラフィックスチップやメモリの動作クロックを落として消費電力と発熱を落とし,同時にファンの回転数を落とすといった機構が導入されているのだ。だが,ファンは,もともとが(3D描画時の)高回転をターゲットに作られているため,低回転時の騒音は,いわゆるケースファンなどと比べると,どうしても高めになってしまう。

 

 そういうわけで,ハイエンドクラスのグラフィックスカードを静かに運用するというのは,なかなか難儀だ。そもそも冷却能力が足りなければ意味がなく,それでいて,リファレンスクーラーより静かだったりといったプラスアルファが求められるのだから当然なのだが,実際に製品が投入されるまでにはどうしても時間がかかる。そして,その間ユーザーは,リファレンスクーラーの騒音に堪え続けねばならない。

 

KD-NiATI-1000
メーカー:高速電脳&長尾製作所
問い合わせ先:高速電脳
TEL:03-5297-3210

 その意味で待望の製品といえるのが,今回紹介する「KD-NiATI-1000」だ。同製品は,冷却&静音アイテムに強いと定評のある秋葉原のPCパーツショップ,高速電脳のオリジナル製品。製造は,神奈川県川崎市の長尾製作所という工場が行っている。
 見てのとおりKD-NiATI-1000は,いわゆるチップクーラーと呼ばれる製品のため,利用するためにはグラフィックスカードに取り付けられているリファレンスクーラーを取り外す必要がある。一方で,グラフィックスカード製品は,クーラーを取り外した段階でメーカーや代理店のサポートが受けられなくなる。つまり,KD-NiATI-1000の取り付け作業は,100%自己責任となるのだ。この点は,十分に注意しておいてほしい。

 

KD-NiATI-1000をRadeon X1900 XTXカードに取り付けたところ

 さて,KD-NiATI-1000ではRadeon X1900/X1800シリーズへの対応が謳われており,高速電脳によれば「ネジ穴が同じなので,GeForce 7900 GTX/GTシリーズにも対応する」とのことだ。
 構造は単純明快。グラフィックスチップの熱を受け止めて,それを2本の銅製ヒートパイプでアルミ製ヒートシンクへ伝える。そして,ヒートシンクに取り付ける仕様の80mm角ファンで排熱するという流れである。
 標準でネジ留めされているファンは25mm厚,回転数3000rpmのXINRUILIAN製。ファンはネジ2本で固定する仕様で,やろうと思えば,異なる回転数,異なる厚さのファンも取り付けられる。

 

KD-NiATI-1000の本体部(上段)。出荷時の段階で80mm角のファンが取り付けられているが,ファンはネジ2点留めなので,それを外せば簡単に換装できる。グラフィックスチップとの接触面は銅板だ(左下)。また,クーラー本体の固定は,カード裏面から4個のナットで行う(右下)。ちなみに,Radeon X1600/X1300シリーズでは,ネジ穴の位置が異なるため,取り付けられない。Radeon X1600/X1300シリーズ用には,ネジ穴の位置を調整した姉妹製品が投入される予定だ

 

 メモリチップに対しては付属するチップヒートシンクを貼りつけることになる。ただしその構造上,Radeon X1900/X1800シリーズのグラフィックスカードにおいて,ちょうどヒートパイプの“下”になってしまうメモリチップには,ヒートシンクを取り付けられない。このため,メモリチップ用ヒートシンクは,はじめから7個(カード上のメモリチップ数−1個)分しか用意されていないのだ。よくも悪くも,かなり割り切った設計といえるだろう。

 

メモリチップ用ヒートシンクは,ヒートパイプと干渉しないよう,適切な位置に貼る必要がある。なお,今回試用したサンプルでは,ヒートシンクが黒く塗装されていない。製品版は上で紹介したとおり黒いのでお間違えなく

 

ケース内に組み込んでみたところ。ヒートシンクを取り付けただけで,隣接する2スロットを確実に占有。さらに,空調を考えると,3スロットめも空けておきたい

 また,写真を見て気になっていた人もいると思うが,KD-NiATI-1000はかなり大きい。どれくらい大きいかというと「標準状態で利用する限り,グラフィックスカードを差したスロットに隣接する2スロットが確実にふさがり,風の流れを考えると3スロットめも空けておくべき」というほどだ。このため,ほとんどのマザーボードで,CrossFire動作は不可能になる。また,拡張カードによる機能追加にもマイナスといえ,この点は間違いなくユーザーを選ぶだろう。

 

 

■冷却能力はリファレンスより優秀

 

 では,実際のところ,どのくらいの冷却能力があるのだろうか。今回は,Radeon X1900 XTX搭載グラフィックスカードを用意して,カードにあらかじめ取り付けられているリファレンスクーラーと比較してみることにした。

 

 テスト環境はのとおり。PCケースはごく標準的なミドルタワースチールケース(TQ-700 MkII)で,電源ユニットは140mm角/回転数1600rpmの吸気ファンを搭載する「PeterPower PP-500」,排気ファンには80mm角/回転数2000rpmの「RDL8025B」を利用している。また,温度はすべてCatalyst 6.2のCatalyst Control Centerで確認できる温度表示機能を利用した。

 

 

 テストに当たっては,Windows XPの起動後,何もせず放置し,30分経過したときの温度を「アイドル時」として,これをリファレンスとした。高負荷テストを行ったあとは,この温度に下がるまで放置してから,次のテストに移っている。
 また,以後本稿では,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)で,解像度を含めて完全にデフォルト設定のまま1度だけ全Game Testを行った直後を「3DMark05 低負荷時」,解像度を1600×1200ドットに設定し,6倍(6x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態で,全Game Testを3回連続で繰り返した直後を「3DMark05 高負荷時」とした。さらに,デスクトップ解像度を1600×1200ドットに設定しつつ,1280×1024ドットのウィンドモードでQuake 4を起動。描画設定を「UltraHigh」にした状態から,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイデータを3回連続で実行し,最も温度が高くなったときを「Quake 4 Timedemo実行時」とする。

 

 テスト結果はグラフ1にまとめたとおりだ。Radeon X1900 XTXのリファレンスクーラーは,熱をケース外に直接排出する仕様で,一方KD-NiATI-1000はケース内に熱を“まき散らす”仕様。明らかに不利なのだが,それでもKD-NiATI-1000利用時のほうがグラフィックスチップの温度が低くなっている点に注目したい。

 

 実は,この結果を迎えた要因は二つある。まず,リファレンスクーラーは80℃近くならないとファンの回転数が最大にはならないということだ。70℃くらいまでは低回転のままで,75℃付近になって,やっと少し回転数が上がるといった案配。最高回転数になると,とんでもない騒音を出すので,これはこれでアリなのかもしれないが。
 もう一つは形状だ。リファレンスクーラーのヒートシンクはカバーで覆われており,熱の排出はファンに100%頼っている。このため,“排熱力”は,ファン回転数の影響を露骨に受けるのである。KD-NiATI-1000はまさにこの逆の仕様で,チップクーラーのファンだけでなく,ケース内の空気の流れも冷却に利用する。そして,それがうまくいっているといえるだろう。だから,熱がケース外に直接排出されなくても,冷却能力で上回るのである。

 

 

 これは,3Dアプリケーション終了後の,いわゆるアフタークーリングの能力にも差を生んでいる。
 グラフィックスチップの温度というのは,ゲーム終了と同時にいきなり下がるわけではなく,チップクーラーを利用して下げる必要があるわけだが,そのときの温度の変化を時間経過とともに追ったのがグラフ2だ。ここでは,3DMark05 高負荷時の温度がアイドル時の温度に戻るまでを3分ごとに計測したものだが,KD-NiATI-1000が3分後にはアイドル時の温度へ戻っているのに対して,リファレンスクーラーではその3倍の時間がかかっても戻りきれていないのが分かる。

 

 

 また,気になる騒音も,KD-NiATI-1000のほうが低い印象だ。リファレンスクーラーでは,低回転でもうなるような音が耳に付き,しかも温度によって音の傾向が変わるのだが,KD-NiATI-1000はそうした低音がないうえ,回転数は一定だから温度変化による音の変化もない。ヒートシンク部にあるフィンの間隔が広く,ムダな風切り音や,こもった音が発生しないとというのも,試聴印象にいい影響を与えていると思われる。
 もちろん,回転数が3000rpmもあるため,決して静音ではないが,Radeon X1900 XTXを冷却しきってこの音なら,満足いくのではなかろうか。

 

 

 以上のテスト結果から,性能面でKD-NiATI-1000には価値があるといえる。
 あとは,KD-NiATI-1000が抱える,明らかなデメリット――4980円という高めの価格や,取り替えるとメーカー保証外になること,そして何より,そのかさばる大きさ――を許容できるかどうか。こういったデメリットがあるため,Radeon X1900の騒音に困っているすべての人に勧められるとは言いきれないが,これらを許容できる人にとっては,十分に納得できる品質であるのも,また確かである。

 

タイトル GPU/CPUクーラー
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


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http://www.4gamer.net/review/kd-niati-1000/kd-niati-1000.shtml