広大なゲーム世界を,CIA諜報員として自由に冒険する
パッケージは,南米の革命家チェ・ゲバラをイメージしたような強烈なものだが,ゲームの中身は現代風のアートが満載で,しかも主人公がCIA諜報員という無難な設定に落ち着いている。ちなみに,チェ・ゲバラはCIAに訓練されたボリビア軍との戦闘で命を落としている |
「Grand Theft Auto III」の影響を受けたアクションゲームは数多くあるが,あの「広大なゲーム世界で自由に何でもできる」感覚を,Grand Theft Autoシリーズより上手く料理し得たソフトはほとんどないと思う。素材を生かせなかったり,チューンナップ不足でゲームとして機能していないなど,「自由度の高さ=中途半端」な感じになってしまうソフトが続出しているようだ。
Eidos Interactiveからリリースされたばかりの「Just Cause」も,そんな柳の下の二匹目のドジョウを狙ったゲームだと言えるかも知れない。ただ,南国の風情や,「Far Cry」ばりのジャングルを描いたかなり見栄えのするグラフィックス,そして「架空の国の革命を手助けする」という独特のテーマが個性的であり,さらにヘリコプターで大空に舞い上がってはパラシュートでダイビングするような,アドレナリン系アクションも満載だ。本作をレビューする上で注目すべきは,やはりオープンエンドな世界において,どこまでプレイヤーの興味を維持できるかではないだろうか。
Just Causeを開発しているのは,スウェーデンの首都ストックホルムをベースにするAvalanche Studiosだ。本作が処女作となり,ゲームエンジンには社内で自作したAvalanche Engineを使用。このグラフィックスエンジンを使って,すでに次回作にも着手している様子である。
Just Causeの物量作戦はかなりのもので,マップはニューヨークのマンハッタン島より広い10万ヘクタールという広大なもの。主な舞台となるSan Esperito(サン・エスペリート)の島々も,水平線の遥かかなたまで一望でき,その広さを実感させられる。サブクエストで訪れることのできる場所は300か所に及び,メインミッションだけでも20種類,ゲーム中に登場する自動車や飛行機は100種類を超えるのだ。
主人公は,CIAの諜報部員にして中南米の政権転覆のスペシャリスト(そういう仕事が本当にあるのかどうかは不明だが)であるRico Rodriguez(リコ・ロドリゲス)。独裁政権のリーダーであるメンドーサ(Mendoza)大統領を葬るため,地元のゲリラを指導しながら反政府勢力を拡大し,兵士や警察官達と激しい戦闘を繰り返すという,ハードボイルドながらもラテンの陽気なノリもほのかに漂う内容となっている。
セスナにつかまり,タイミングを見計らってフリーフォールでのスカイダイビング。高速での落下をギリギリまで楽しんだあとは,パラシュートを開いて目的地付近へと降り立つ……。炸裂するアクションがJust Causeの醍醐味だ |
パラシュートを多用した派手なアクションが満喫できる
サン・エスペリートには300に及ぶ町や集落が点在し,政府軍や麻薬カルテルに支配されている。それらを一つ一つ解放することで勢力を広げていくのだ。基本的には,まず三つのバリケードを破壊し,敵が政府軍ならゲリラ軍の旗を立て,相手が麻薬カルテルならボスを倒すことでその地域を掌握できるようになる |
Just Causeの面白さは“ハチャメチャ”と形容できるほど派手なアクションを楽しめることにある。戦闘機の翼につかまって目的地の上空からフリーフォールしたり,ハイウェイを高速で動き回る車の屋根を飛び渡るなど,現実にはあり得ないようなアクションを簡単操作で次々に繰り出せる。
ほとんどのミッションは,派手なアロハシャツに身を包んだロバート・デ・ニーロ風のCIA要員,Tom Sheldon(トム・シェルダン)から任務を受けたあと,用意された自動車やスピードボートで目的地へと向かうことになる。手持ちの車がなかったり事故で壊れたりしても大丈夫。近くの道路や村へ行けば地元民がひっきりなしに往来しており,それらを簡単にカージャックできるのだ。このへん,GTAとよく似ている。
走行中の自動車でも,鉤縄(grappling hook)を使うとパラセイルモードになり,ロープの長さを調節して近くまで寄ってから車の屋根に着地できる。その後は別の車に飛び移ろうが,その車の運転手を外に蹴り出して自分のものにしようが自由自在だ。再びパラシュートを開いて空中に舞い上がることもできる。パラシュートや鉤縄はかなり使用頻度が高く,慣れれば崖っぷちから車ごと飛び降り,すかさずパラシュートで対岸の島まで飛んで行くとか,パラセイルを繰り返しながら進んでいくというような面白いこともできる。
アクションは派手だが,ミッション内容は要人暗殺とか物資の運搬みたいなものばかりで,単調な印象を受ける。寄り道せずにメインストーリーだけ追うと,5時間から7時間程度で終わってしまうだろう。サブクエストが300種もあるとはいえ,ゲリラ軍か麻薬カルテルに加担して町や空港,軍事拠点といった施設を一つずつ乗っ取っていくか,その施設にいる人物から,おつかい系の仕事をもらうといった内容が多い。
サブミッションをこなせば車や武器をもらえ,Safehouseというセーブ可能なアジトへアクセスできる。また,プレステージポイントが加算されて麻薬カルテルでの地位が向上し,新しい車やヘリが使用可能になったり,武器がアップグレードされたりしていく。
しかし,あまり内容に新味のないミッションは,ゲームを続けていくうえでかなりのマイナス点であると言わざるを得ない。車やヘリでのアクションを楽しみながら敵地に乗り込み,向かってくる相手を次々と撃破していくのは確かに楽しいが,単純な作業の繰り返しはやや辛い。
全体的に内容の薄さが目立ち,どこか物足りなさが残る
視界範囲25kmを誇り,晴れた日の上空からなら遥か遠くまで見渡せるAvalancheエンジンの描画力は素晴らしい。上空から地上に向かう途中,建物や道路を行き交う車が少しずつ大きくなっていく表現もなかなかのもので,空間の広がりを十分に感じさせてくれる。ゾーン間もシームレスに移動できる |
Just Causeで利用されているAvalancheエンジンは開発元が制作したオリジナルであるだけに,ゲーム世界の雰囲気には,ほかとは異なる独特の味がある。上空からフリーフォールすれば,晴れた日ならかなり遠くまで見渡すことが可能。一昔前に話題になっていたFar Cryでは1.2kmほどの視界範囲だったのに対し,このJust Causeは25kmと,ダントツのDraw Distance(描画距離)を達成しているのである。
昇ったばかりの朝日がまぶしかったり,ボリューム感のある雲の中をセスナで突き抜けて進んでいったりと,グラフィックスはなかなかのレベルだ。ジャングルや真っ青な海だけでなく,高層ビルもある市街地や洗濯物のかかった家々の建ち並ぶ農村など,カリブ風の世界観もよく表現されている。
Just Causeに登場するのは,ハンドガン(ピストル),サブマシンガン,ショットガン,ロケットランチャー,アサルトライフル,そしてエクスプローシブ(爆発物)の7タイプで,それぞれのタイプごとに3種類の武器が用意されている。一度に所持できる武器は各タイプ1種類ずつのみとなるが,そもそもXboxやプレイステーション2でのリリースが念頭にあったためだろう,銃撃戦の難度は非常に低く設定されている。倒した相手は必ずヘルスパックや武器を落としてくれるので,ハンドガンと手榴弾だけでも十分にゲームを進めていけるのだ。
残念なのが敵のAI(思考ルーチン)だ。敵は直線的に進んでくる以外に能がなく,ごくたまに手榴弾を投げ込まれてダメージを受けたりすると,逆に感心してしまうほどである。プレイヤーの目の前に割り込んできた仲間のゲリラ兵を誤射すると,怒って銃口を向けてくるなんてこともしばしばで,優秀といえるかどうかは微妙。倒れるときのアニメーションや流血シーンのリアリティも薄く,人と戦っているよりは「シリアスサム」風のワラワラと出てくるモンスター達を撃ちまくっている印象だ。
音楽やセリフも使い回しが多く,ミッション内容も単調と,全体的に幅の狭さが目立ち,美しいサン・エスペリートの広がりと反比例している。
空いた時間にサクッと遊べるアクションゲームとしては申し分のないクオリティではあり,領地を一つずつ占領していくのも陣取り合戦感覚で楽しめるだろう。しかし,シングルプレイヤー専用のアクションゲームとしてはシンプルに過ぎ,日常的にゲームで遊ぶようなコアゲーマー層には,少し物足りないというのが率直な感想である。