名作映画「ゴッドファーザー」を,Electronic ArtsがGTA風にゲーム化
大型ライセンスを取得して,Electronic Artsが「The Godfather The Game」でクライムアクション・ジャンルに参戦。同社としてはMレーティングのゲームも初めてのことらしいが,GTAの牙城を切り崩すことは可能だろうか? |
マリオ・プーゾ原作,フランシス・コッポラ監督による映画「ゴッドファーザー」3部作は,マフィアを描いた映画作品の金字塔として知られる作品である。1972年に第1作が公開され,ニューヨークの裏舞台で暗躍するイタリアンマフィアの家族や仲間との愛情,そしてそれとは対照的な非情な暴力が克明に描き出された。♪チャララー,ラーラララー,ラララララーンと心に響く旋律とともに,その計算され尽くした映像美,卓越したストーリーなど,映画史上に残る傑作だ。また,アル・パチーノやロバート・デニーロら当時の若手俳優たちをスターダムに押し上げた作品としても知られている。
Electronic Artsが,この30年以上前にスタートしたゴッドファーザーシリーズをライセンスした新作アクション,「The Godfather The Game」(以下,The Godfather)の制作を発表したとき,正直,多くのファンはその出来に対して懐疑的だった。この作品が,ギャング系のアクションゲームとしてシリーズ通算2000万本のリリースを果たしたRockstar Gamesの「Grand Theft Auto」(以下,GTA)を意識したゲームであるのは明らかだったからだ。プレイヤーが自由に動き回ることが可能な世界で,決まったストーリーで魅せる映画の持ち味をどのように表現するのか? これが,The Godfatherの評価ポイントのすべてといっても過言ではないはずだ。本稿ではそれがどう実現しているかを中心に,The Godfatherの内容を紹介していく。
さて,The Godfatherでは,コルレオーネ一家に雇われたばかりの新人としてゲームを開始する。ゲーム内には,1945年から1950年代にかけてのニューヨークが細かく再現されており,コルレオーネファミリーの本拠地であるリトルイタリーから,ミッドタウン,ヘルズキッチンに至るマンハッタン島と,ハドソン川対岸のニュー・ジャージー,そして東のブルックリンという五つの地区が用意されている。
ここで,プレイヤーはそれぞれの地区を牛耳るライバルギャングと戦い,市内のオペレーション(縄張り)を拡大していく。また,仕事をこなすことで“respectポイント”を獲得し,仲間や市民達からの敬意を勝ち取る。そうやって,自分のスキルを伸ばしていくことで,やがては一家を率いる首領,さらには“ニューヨークの首領”へと成り上がっていくのである。
映画俳優達が参加し,mobface機能で独自のキャラクターを作成する楽しさ
コルレオーネ家の長男ソニー(左)と,政財界との駆け引きを行う顧問ヘイゲン(中央)。それぞれ,ジェームズ・カーンとロバート・デュヴァルが見事にデジタル化されている |
The Godfatherには,コルレオーネ一家を率いた“ドン”ことヴィトー・コルレオーネ役だったマーロン・ブランドをはじめ,長男ソニーを演じたジェームズ・カーン,顧問であるトム・ヘイゲン役のロバート・デュヴァル,ドン直属の殺し屋だったルカ・ベルーシ役のレニー・モンタナ,そして重臣ピート・クレメンザを演じたリチャード・S・カステラーノといった錚々たる映画俳優達がデジタル化され,ゲームに再登場してくる。
それぞれが自身の声を演じており,映画にはなかったナレーションを提供するなど,ゲーム制作にはおおむね協力的だったようだ。マーロン・ブランドはゲームの開発初期に逝去しているものの,いくつかの音声は収録済みだったらしく,残りの部分は物真似でカバーされているとのこと。これらのキャラクター達が,ゲームのストーリーにさらなる重みを与えているのは間違いなく,とくに彼らとプレイヤーが深く絡み合うゲームの前半に,GTAにはない深みを出すのに一役買っている。
残念なのは,コルレオーネ家の三男で,後々台頭していくマイケル役のアル・パチーノの肖像権を獲得できておらず,まったく別人のキャラクターモデルが用意されていることだ。このあたりの事情は知る由もないが,パチーノは,Vivendi Universalからリリース予定のGTA風アクションゲーム「Scarface: The World is Yours」では協力しているだけにもったいない。そのほか,ダイアン・キートンが演じたケイ・アダムスほか数人のキーパーソンがゲームに登場する機会を与えられていない。ゲームは,物語の陰でさまざまなイベントに絡んでいた,という設定のプレイヤーキャラクターに,より焦点を当てているのだ。
プレイヤーはキャラクターの作成からゲームを始めることになる。顔の輪郭から髪形,目,鼻,口,体型などさまざまなパラメータを使い,細かく自分用のキャラクターを作れるのだ。これは,「Tiger Wood's PGA Golf Tour」シリーズでフィーチャーされて以来,多くのEA Sports系タイトルで使用されているもので,このThe Godfatherでは“mobface機能”と名付けられている。
このmobface,ゲーム起動前のセーブデータのオプションで設定を変更することができるというユニークなもので,同じキャラクターでも時間が経つにつれてルックスを変える事が可能。ゲームが進行するにつれ,集めた金で新しい衣装を買ったりして,キャラクターをアレンジできるのだ。チンピラのときは白シャツにサスペンダーという身なりでも,やがては高級そうなダブルのジャケットと洒落た色のベストや革靴を着用させ,太らせたり髭を生やしたりして身分相応の風格に仕立て上げるのである。
ファイティングとガンバトルの巧みな絡み合いが見せ場
The Godfatherでは,拳を使ったファイティングと銃撃戦の二つで戦う。武器/人数の多い敵の隠れ家や倉庫の襲撃では,どのように攻めるかも重要な要素の一つとなる |
The Godfatherは,GTAのようなオープンデザインのマップになっていて,先に挙げたニューヨーク5地域の間を自由に往来できる。街には多くの人々が歩き,車が信号に従って行き交う,といった具合だ。5つの地域にはホテルや肉屋など,合計で100種類に及ぶビジネスがあり,これらをゆする(extortion)ことでコルレオーネ一家の庇護の下におき,週ごとの資金を得るのである。
ゲームのコントロールは,アナログスティックのついたゲームパッドを基本に制作されており,こちらはElectronic Artsのボクシングゲーム「Fight Night」シリーズに見られる腕の振りを模した肉弾戦をベースに,自動的に照準が合うガンファイトの2段構えになっている。しかし,キーボードとマウスでの操作方法も非常に良く考えられており,比較的早い段階で一通り使いこなせるようになった。肉弾戦では,壁に相手を打ちつけたり,屋上から突き落としたりといった複雑な動きもできるし,パンチと同時にマウスを動かすことによって,力の入れ方も細かく調節可能だ。
ガンファイトでは,自動照準機能を解除することもでき,マウスルックを利用してプレイヤーが狙った場所に銃弾を撃ち込むことも可能だ。マニュアルには書かれていないが,敵キャラクターは撃たれた部位によって異なる反応を見せ,腕を撃たれて銃を落としたり,膝を撃ち抜かれて歩行不能になったりするし,それが頭であれば一撃で仕留められる。一撃必殺でより多くのrespectポイントを獲得できるなど,さまざまな戦い方が楽しめ,プレイヤーのモチベーションもおのずと上がるだろう。
ゲームで使用できる武器は10種類で,警棒やバットなどの打撃系,ギャロットという背後から首を絞めるための鉄線のほか,複数のピストルやショットガン,サブマシンガン,ダイナマイト,火炎ビンなど多士済々。武器を使用するにはHキー(デフォルト)を押す必要があるが,背後から攻撃してきた敵に応戦しようと武器を取り出したところギャロットだった,というようなこともあり,注意してないと,体力を大きく削がれてしまうことになる。敵弾の命中率を下げるためにしゃがみ込んだり,あらかじめ相応の武器を取り出せるようにいちいち確認しておかなければならないのが,少々面倒臭く感じる部分だ。また,相手だってプレイヤーを一撃必殺できるので,通路から部屋に入った瞬間に殺されてしまうような場面にも遭遇した。
“リスペクト・ポイント”を得てキャラクターのスキルを上昇させる
左上のヘルスバーの下にある数字がrespectポイントで,これを10段階に成長する五のスキルに振り分けていくことで,より強力なマイキャラに仕立て上げられるのだ |
The Godfatherでは,マフィアの先輩から,あるいはドン直々のミッションを受け,それをこなしていくことで当初のOutsider(ヨソモノ)から,Associate(構成員),Soldier(兵隊),Capo(主任),Underboss(若頭),Don(首領)へと昇格するのだ。この過程で,respectメータが上昇し,貯まったポイントを自分のキャラクターのスキルへ振り分けていく。
スキルには以下のようなものがあり,それぞれ10段階に分かれている。
Fighting | 攻撃のダメージや,敵をつかむ時間,ゆすり・恐喝の効果が上昇 |
Shooting | 銃撃における命中精度や照準速度,狙撃で相手が武器を落とす確率が上昇 |
Health | ヘルスポイントの上限値,リカバリー速度や防御力が上昇 |
Speed | 移動速度が上昇し,リロードの時間が短縮 |
Street Smart | Heat率の低下,交渉破綻の見積もり能力の上昇,爆破系武器の所持枠の拡大など |
Street Smartの中にあるHeatというのは,警察やFBIなどの司法組織が,プレイヤーキャラクターに目をつけている程度を指す。他人から車を奪ったり,街中で派手な銃撃戦を展開したりすることでHeat率が上昇し,画面右下にあるマップの横に警官バッジの模様が増えていく。五つ溜まればお尋ね者として警察の追撃を受けることになり,そうなれば,巧みなカーチェイスで警察の銃撃と猛追を阻止しつつ,別の地域へと逃げ出さなければならない。
また,ほかの四つのマフィア組織でこのHeatと同じような効果を持っているのがvendettaというパラメータで,こちらは,同じマフィアの抱える店舗や倉庫を襲い続けることで上昇する。vendettaの値が高まると市中で車を走らせているだけでも銃撃を受けるし,あるレベルに達すると,Mob War(マフィア戦争)に発展し,45分間以内に敵のアジトか本拠地を乗っ取らないと,コルレオーネ家傘下の店舗がランダムに爆破され,復旧するまで一定時間の収入を奪われることになるのだ。
ストーリーの展開とミッション内容の薄さのすれ違い
表裏のさまざまな商売を手掛けるオーナー達を脅迫し,用心棒代をせしめるのがゲームの重要な要素である。それぞれのオーナーには,Breaking Pointというのが設定されており,脅しすぎるとパニックになって素手で襲いかかってきたりもする |
The Godfatherは,メインミッションだけなら15時間ほど,最終的にすべてのビジネスを傘下に収め“Don of NY (ニューヨークの首領)”と呼ばれるためには,50時間ほどの時間を要することになるだろう。とくに前半でプレイヤーがUnderbossに昇格する頃までは,ゲーム展開は映画のストーリーと複雑に絡み合っており,なかなか良くできている。暴れん坊ソニーやマイケルの片棒を担ぎ,ルカやクレメンザのミッションを請け負い,トム・ヘイゲンからは組織を大きくするための秘策を耳打ちされ,仕事がうまくいけばゴッドファーザーからの祝福を受ける……。
結婚式のシーンやシチリア島の生活など,映画で印象深かったシーンがいくつかないとは言うものの,ハリウッドのプロデューサーに馬の首を置き土産にする場面や,マイケルの洗礼日に次々と相手マフィアのボスを暗殺していくシーンなど,見事に再現されているものも多い。このあたりまでは,「ゴッドファーザー」という名作映画のストーリー要素を上手く利用し,再現しているように思えた。
ところが中盤以降,やはり自由度が高いゲームシステムのため,ストーリーの中だるみが始まり,ゲームが映画とは離れていくのを強く感じざるを得なかった。なぜプレイヤーがコルレオーネ一家の首領になるのかなど,十分には説明されていない部分も多く,できることなら,例えば映画にいなかった登場人物を出すなりして,ゲームとして説得力のあるストーリー展開にしてほしかった。
さらに,ミッション内容にも幅がなく,同じことを何度も繰り返している印象も受ける。「100店舗にも及ぶ商店をゆすって自分の勢力下に置く」という目標は高いが,やることと言えば店の周辺や内部にたむろしている敵のチンピラを銃殺し,店主を脅して金を奪い取ること。店の裏で,非合法のカジノや密輸業者,売春宿や地下ボクシング場といったさまざまな裏家業が展開されていることがあるが,これらも結局はチンピラをすべて蹴散らし,オーナーを脅迫して自分の配下にするしか方法はない。
せっかく自由度の高いゲームシステムなのだから,実際に密輸トラックを乗り回してルートを開拓したり,カジノで金を賭けて楽しんだりといったミニゲーム仕立てになっていても良かったのではないだろうか。全体に,このあたりの“薄さ”が,The GodfatherがGTAを超えられない主な要因になっていると思う。敵勢力との凌ぎ合いがあっても,ライバル組織は失った勢力を挽回させようと自主的に行動を起こしてこない。メインミッションも同じことであり,誰からミッションを受けるのかが違うだけで,結局やることは一緒。つまり,何百という敵マフィアのメンバーを殺していくだけなのである。
The Godfatherをプレイして気になったのは,この「良くできているが厚みがない」点だ。ゆすりやミッションの遂行,週ごとに得る資金は,ブラックマーケットで武器をアップグレードさせたり衣装購入に使ったりもできるが,そのほかの使途といえばセーブポイントを買い取ることぐらいと,やや物足りない。どんなに組織内での身分を上げたとしても手下を使えず,相変わらず自らパン屋や理髪店の主人を脅し回っているという姿もどこか寂しい。
とまあ,いろいろ不満はあるものの,The Godfatherは,序盤はGTAにはない重厚なストーリー展開でプレイヤーを魅せてくれる。後半になって弛みが見えてくるのは残念だが,それでもマフィアという組織がよく描かれており,クライム系アクションゲームに一つの方向性を提示できているといえよう。
(※2006年8月3日追記)
■日本人マフィアも安心の日本語版発売
Text by 松本隆一
ニーノ・ロータの美しいメロディに乗って本日(8月3日),エレクトロニック・アーツから発売されるのが「ゴッドファーザー」日本語版だ。
プレイヤーはマフィアの下っ端として暗黒街にデビューし,恐喝だの強盗だの殴り込みだのといった大きな声では言えないミッションをこなしつつ,やがてはコルレオーネ・ファミリーのドンになっていくのだ。ゲームシステムとしては,いわゆる「Grand Theft Auto」スタイルで,ゲーム内にかなり詳細に作りこまれたマンハッタン島とその周辺を舞台にミッションをこなしていく。メインミッションのほかに数多くのサブミッションも用意され,なんだったらゲームとは無関係にあちらこちらをほっつき歩いてニューヨーク散策としゃれ込むことも可能なのだ。
今回の日本語版は,故マーロン・ブランドが生前に収録したという味わい深い生ボイスはそのままに,映画に登場した多くの俳優達が当てた英語音声に日本語字幕が付くというスタイル。そのほか,画面に表示される文字はほとんどすべて日本語になっているので,キーボードを使うと結構やっかいな操作法などがたいへん分かりやすい。むろん,マニュアルも添付のマップもすべて日本語化されている。
これでもう,顔が怖いからたぶんターゲットだろうという理由で無関係な人を暗殺しちゃったりしていたうっかりマフィアでも安心だ。ぜひ,がんばって悪事に励んでいただきたい。
きちんと肖像権に基づく許諾を得て作られたキャラクターは,かなり本物そっくりで,まるで映画の中にいるような気持ちになれるかも。日本語版については「こちら」にスクリーンショット集を掲載したので,併せて確認していただきたい |