プレビュー : GeForce 8800 Ultraリファレンスカード

“モンスター”の高クロック版に意味はあるか?

GeForce 8800 Ultraリファレンスカード

Text by 宮崎真一
2007年5月2日

 

»  「GeForce 8800」シリーズの登場から早5か月弱。従来のウルトラハイエンド「GeForce 8800 GTX」の上位モデルとして,「GeForce 8800 Ultra」が発表された。GeForce 8800 GTXには,カードメーカーレベルのクロックアップモデル品が存在するが,そういったカードに対して,新製品は有意な差を見せつけることができるだろうか? 数日という,限られた時間のなかではあったが,できる限り取得したデータから宮崎真一氏がひとまずのジャッジを下す。

 

GeForce 8800 Ultraリファレンスカード。カードの想定売価は829ドルで,日本円では10万円前後になると目されている

 日本時間2007年5月2日10:00PM,NVIDIAは「GeForce 8」ファミリー最上位モデルとなるGPU(グラフィックスチップ),「GeForce 8800 Ultra」を発表した。2006年11月9日に発表された「GeForce 8800 GTX」の上位モデルとなる。
 AMD(旧ATI Technologies)の次世代GPU「R600」(開発コードネーム)が未だ正式発表されていないため,“ATIへのカウンター”というわけでもなく,やや突発的な印象も受ける今回の発表だが,果たしてその存在意義はどこにあるだろうか。今回4Gamerでは,NVIDIAとサードウェーブから短期間ながらリファレンスカードを借用できたので,従来モデルとの違いを中心に,まずは最新GPUの持つポテンシャルをチェックしていこう。

 

 

基本仕様はGeForce 8800 GTXと同じ
高クロック&低消費電力化がトピックに

 

リファレンスカードのコア&メモリクロックを「nTune」から確認してみた。なお,シェーダユニットのクロックがコアクロックと比べて大きく引き上げられているが,これもプロセス改善のたまものとのこと(※画像をクリックすると別ウインドウで全体を表示します)

 GeForce 8800 Ultraの特徴を一言でまとめるなら,GeForce 8800 GTXの高クロック版ということになる。128基のストリーミングプロセッサを搭載し,384bit接続で合計768MBのグラフィックスメモリを搭載するのはまったく同じ。そして,動作クロックはコアが575MHzから612MHzへ,メモリが1.8GHz相当(実クロック900MHz)から2.16GHz相当(実クロック1.08GHz)へと上がっている。また,シェーダユニットのクロックも,従来の1.35GHzから1.5GHzへと引き上げられた。

 

 製造プロセスは90nmで,これもGeForce 8800 GTXと同じだが,興味深いのは,カードの消費電力が最大177Wから175Wへと下がった点。NVIDIAによれば,新たに設計し直した,90nm世代ながら若干シュリンクしたシリコンウェハを用いることで,動作クロックの向上にもかかわらず,消費電力を低減できたという。
 ちなみにGeForce 8800 UltraのリファレンスカードデザインはGeForce 8800 GTXと同じもののようで,少なくとも267mmというカード長,そして6ピンのPCI Express用外部電源コネクタを2系統用意する点は変わっていない。ただし,搭載するGPUクーラーはGeForce 8800 GTXリファレンスカードのそれとはまったく異なる,より大型のものへと変更されている。これにより,ファンの動作音が――筆者の主観で恐縮だが――かなり静かに感じられたのは救いといえそうだ。

 

リファレンスカードを別の角度から。GPUクーラーは,PCI Expressスロットの反対側に向かって,約25mmほどはみ出している。もっとも,このクラスのカードを搭載するようなPCケースであれば,問題はないだろう。なお,シングルカード動作時に必要とされる電源ユニットの定格出力は500W(+12V出力が35A)以上

 

GPUクーラーを外したところ

 大型クーラーを外すと,既視感のあるデザインのカードが姿を見せる。GPUを取り囲むように配置された12枚のメモリチップと,外部インタフェース近くに配されたコンパニオンチップのレイアウトは,GeForce 8800 GTXとまったく同じだ。
 試用した個体にあったGPUの刻印は「G80-450-A3」。編集部で所持している,市販のASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)製GeForce 8800 GTXカード「EN8800GTX/HTDP/768M」のそれは「G80-300-A2」なので,たしかにGeForce 8800 Ultraは,リビジョンアップしているようである。

 

 メモリチップはSamsung ElectronicsのGDDR3/0.8ns品。チップのスペック的には最高2.5GHz相当(実クロック1.25GHz)までサポートしているので,2.16GHz相当のGeForce 8800 Ultraの場合,動作クロックにはかなりの余裕があることになる。

 

G80-450-A3と刻印されたGeForce 8800 Ultraチップ(左)と,試用した個体が搭載していたSamnsung Electronics製GDDR3メモリチップ「K4J52324QE-BJ08」(右)

 

 

通常クロック&クロックアップ版の“GTX”と比較
参考までにSLIのスコアも取得

 

 以上を踏まえて,テストのセットアップに入っていきたい。
 比較対象として用意するのはもちろんGeForce 8800 GTXだが,今回は通常クロック版とは別に,カードメーカーレベルのクロックアップ品のなかで,現時点において最もクロックの高い,ASUSTeK製の「EN8800GTX AquaTank/HTDP/768M」を用意した。3製品の主なスペックは表1にまとめたとおりである。

 

※2007年5月2日現在。GeForce 8800 UltraはNVIDIAによる想定売価。GeForce 8800 GTXの2モデルは実勢価格となる

 

 テスト環境は表2のとおり。グラフィックスドライバは「ForceWare 158.19」で,これはNVIDIAの公式サイトで配布されているのと同じバージョンだが,実際には,GeForce 8800 Ultraに対応した報道関係者向けのものとなる。バージョンの数字が変わらない以上,GPU情報ファイル「nv4_disp.inf」が異なるだけと思われるが,念のためお断りしておきたい。

 

 テストは4Gamerのベンチマークレギュレーション3.1準拠。時間の都合で比較対象を用意できず“とりあえず動かしてスコアを取ってみた”レベルに過ぎないが,NVIDIA SLI(以下SLI)でもテストを行ってみた。表2で示しているとおり,SLI構成時は(当然ながら)マザーボードすら異なるので,横並びの比較はできない。あくまで参考程度に留めてほしい。
 なお,以下とくに断りのない限り,カード名ではなくGPU名で製品を表記し,メーカーレベルのクロックアップが行われたGeForce 8800 GTXカードに関しては,「GeForce 8800 GTX(OC)」と書いて区別する。またグラフ中は「GeForce」の表記を省略した。

 

 

EN8800GTX AquaTank/HTDP/768M
水冷ユニットを用意した最速モデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:10万円前後
Striker Extreme
オーバークロック機能充実のゲーマー向けボード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:4万8000円前後

 

 

ベンチマークスコアは“Ultra”≒“クロックアップ版GTX”
最速クラスなのは間違いないが,ダントツでもない

 

 グラフ1,2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)の結果である。「標準設定」でも「高負荷設定」でも,GeForce 8800 UltraはGeForce 8800 GTXからクロック上昇分のスコア向上が見られるが,GeForce 8800 GTX(OC)との差はほとんどない。
 一方,参考値ではあるものの,高負荷設定の1920×1200ドットでもスコアが1万以上を維持するなど,GeForce 8800 UltaのSLI構成がかなり高いスコアを見せ付けている点は注目しておきたい。

 

 

 

 この傾向は,「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)でも同じだ(グラフ3,4)。ベンチマークソフトの結果を見る限り,GeForce 8800 UltraとGeForce 8800 GTX(OC)はほぼ同じ性能といえる。

 

 

 

 果たして,この傾向は実際のゲームタイトルでも変わらないのだろうか。グラフ5,6はFPS「Quake 4」(Version 1.2)の平均フレームレートをまとめたものだ。Quake 4の標準設定は,GeForce 8800シリーズにとってもはや負荷が軽いテストとなるため,CPUがボトルネックになってしまって,GPUの違いはスコアに表れにくくなっている。それに対して高負荷設定時は,高解像度でSLI構成のみがスコアを維持するなど,再びグラフィックスパフォーマンスの勝負になっているが,そこでGeForce 8800 UltraとGeForce 8800 GTX(OC)の間には,誤差程度の差しか生まれていない。

 

 

 

 同じくFPSの「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2EP1)の結果がグラフ7,8となるが,状況に変化はない。解像度が高くなるにつれて,通常クロック版GeForce 8800 GTXに対する優位性が出てくるが,GeForce 8800 GTX(OC)との違いはないままである。

 

 

 

 FPSの3タイトルめ,「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果をまとめたのがグラフ9,10だが,ここではコアクロックが効いているのか,標準設定ではGeForce 8800 GTX(OC)のスコアがGeForce 8800 Ultraを上回っている。まあ,このクラスのグラフィックスカードを使うときの現実的なグラフィックス設定を踏まえたスコアはグラフ10のほうなので,問題ないといえばないのだが,純粋な3Dパフォーマンスという意味において,GeForce 8800 GTX(OC)がリファレンスクロックのGeForce 8800 Ultraを上回る可能性があることは押さえておきたい。

 

 

 

 次に,RTS「Company of Heroes」(Version 1.4)の結果を見てみよう(グラフ11,12)。ここでは,大きくても3fps程度なので体感できないレベルではあるものの,シェーダユニットのクロックが高いGeForce 8800 UltraがGeForce 8800 GTXに差をつけている。F.E.A.R.の結果とここでの結果を踏まえるに,極めて描画負荷の高い局面では,1.5GHz動作のシェーダユニットが威力を発揮すると見てよさそうだ。

 

 

 

 レースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」の結果がグラフ13,14だが,GeForce 8800シリーズにとっては十分に負荷の軽い同タイトルの場合,コアクロックで勝るGeForce 8800 GTX(OC)がスコアを伸ばす。ここまでの結果からある程度想像できるスコアといえそうだ。
 なお,SLIではスコアを大きく落とした。SFRで動作してしまい,同時に負荷が軽すぎてウエイトが発生してしまっているようにも見えるが,さすがにこれだけでは断定できない。時間のあるときに改めて検証したいところだ。

 

 

 

 最後にMMORPG「Lineage II」の結果をグラフ15に示す。ここでは,3DMarkやQuake 4と同じ傾向と断じて問題なさそうだ。

 

 

 

“低減”は言い過ぎだが
消費電力の大幅な増加はない

 

GeForce 8800 GTXリファレンスカードと比べて(2Wだが)消費電力が下がっていると謳うNVIDIAのスライド

 さて,NVIDIAが主張するとおり,本当にリビジョンアップで消費電力の低減が実現されているかを検証してみた。いつものように,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間で最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれにおけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をまとめたのがグラフ16である。

 

 グラフを見ると,アイドル時高負荷時とも,GeForce 8800 Ultraの消費電力は,GeForce 8800 GTXとほとんど変わっていないのが分かる。ワットチェッカーによる計測にはどうしてもいくらかの測定誤差が生じることを考えると,「同じ」とすら言えそうだ。消費電力が下がった,というのはいくら何でも言いすぎだが,大幅な動作クロック向上にもかかわらず,消費電力が同じレベルに留まっているのは,相応に評価していいのではないかと思う。まあ,その「同じレベル」を,筆者は2006年11月に「モンスター」と評したわけだが。

 

 

 さらに,グラフ16のアイドル時および高負荷時のそれぞれにおけるGPUの温度を,ATI Radeon向けながらGeForceのGPU温度も計測できる多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」を利用して計測したものがグラフ17である。
 テスト環境はPCケースに組み込んでいない,バラック状態のものだが,GPU温度も,消費電力と同じく,妥当なところに収まっている。GeForce 8800 GTXから温度が上昇していない点は,クーラーの強化が施されたためと思われる。なお,GeForce 8800 GTX(OC)のGPU温度が非常に低いのは,水冷仕様になっている同製品の冷却ファンを高回転に設定して計測しているためだ。

 

 

 

「GeForce 8800 GTXの高クロックモデルに
新たな選択肢が加わった」が正しい理解

 

 以上の結果を踏まえると,「GeForce 8800 Ultra=GeForce 8800 GTXのオーバークロックモデル」と断じてしまっていい。2007年5月時点で,それまで最速のGPUだったGeForce 8800 GTXから間違いのない性能向上を見込めることは確かに魅力的といえよう。だが,メーカーレベルのクロックアップが施されたGeForce 8800 GTXがカードが存在し,リファレンスクロックモデルとそう変わらない価格で入手できてしまう現実もあるため,「GeForce 8800 Ultraならでは」という“説得力”は,残念ながら希薄と言わざるを得ない。

 

Prime Galleria XG Ultra
Core 2 Duo E6700,PC2-5300 1GB×2に,容量500GBのHDDを搭載し,「Windows XP Home Edition」プリインストールでBTO標準構成価格が25万9980円(税込)となるゲーマー向けモデル。SLI対応モデルなどもいずれ用意される予定という。3日0:00AM受注開始予定

 ただ,今回は時間の関係で,オーバークロックテストまで踏み込めていないが,少なくともメモリはもっと高いクロックでも動作できるはずなので,A3リビジョンのコアの“デキ”次第では,GeForce 8800 GTXでは到達できなかった地平に辿り着けるかもしれない。その意味において,「最速のGPUを手にするためなら,コストは度外視できる」というユーザーにとっては,“高クロック版GeForce 8800 GTXカード”に有力な選択肢が一つ加わることになるだろう。

 

 なお,最近のNVIDIAにしては珍しく,「発表→翌日発売」にはならないので,この点は要注意。カードは2007年5月15日前後の発売予定とされている。

 

■■宮崎真一(ライター)■■
某有名PC専門誌の主力編集者として活躍した長いキャリアを持ち,「いかにして公正なデータを取得するか」のノウハウに長けているテクニカルライター。4Gamerでは主に,GPUやCPUの新製品をゲーマー視点で評価している。ゲーマーとしては「Diablo」以来のオンラインRPG好きで,ここ数年,「ファイナルファンタジーXI」をひたすらプレイし続けていることは,デバイスメーカーやパーツメーカーの間でも有名な話だ。
タイトル GeForce 8800
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/11/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation