― プレビュー ―
メカと少女にミリタリー風味をまぶしたライト系ストラテジー
ガジェット トライアル
Text by Guevarista
2006年6月16日

※実際のプレイ画面は,ウィンドウ表示時で808×648ドットです。

 

■ブラックな小ネタ満載のキャラクター作品

 

開発中の最新兵器であるメカ少女達を率いて,競争試作の模擬戦を勝ち抜いていくストラテジーゲーム「ガジェット トライアル」

 「メカ」と「少女」を,国内コンピュータゲーマーに人気のモチーフと見なし,それをそのままベースコンセプトに据えたライトなストラテジーゲーム「ガジェット トライアル」。ゲーム完成直前の状態で,ちょっとだけプレイできたので,印象をお伝えしたい。プレイバランスの最終調整が行われる前のバージョンだったため確定的なことはいえないが,純然たるストラテジーゲームとして見た場合,敵A.I.はなかなか倒しがいがある感じだ。
 本作の舞台設定は近未来の世界。そこでは「東の果ての列島連合共同体ETU」と「大陸軍」(たいりくぐん。だいりくぐんではないので,念のため)が軍事的緊張を高めており,そこでETUが画期的な新兵器として開発中なのが,陸海空の兵器と融合した人工生命体「Eシリーズ」のメカ少女達というわけだ。Eシリーズはまだ競争試作の段階で,自律行動を特徴とする「タイプ・ホワイト」と絶対服従型の「タイプ・ブラック」という2種類の調整案が存在するのだが,プレイヤーはこのうちタイプ・ホワイトを率いて,運用トライアルでの勝利と制式採用を目指す。

 

各チャプターの冒頭には,アニメ風のタイトルが入る。主人公のCVを担当する広橋 凉さんが読み上げるのも,まさにアニメの流儀 セリフの指示内容のみならず,何かのパロディだったり,やたら古めかしかったりする言い回しも,楽しみどころの一つである まるで戦争向きでないセリフを連発する,主人公のボケ味。それでいながら戦闘に入ると優秀というのも,一種のお約束といえよう

 

Eシリーズという兵器のコンセプトも,実にユーモラスに解説される。まあ確かに,こんな兵器があれば便利極まりないわけだが プレイヤーの分身ともいうべき,タイプ・ホワイトの指揮官ミハラ少佐。といっても,別にプレイヤーがセリフを選んだりはしない こちらは敵(かたき)役,タイプ・ブラックの指揮官ワカバヤシ少佐。「お花畑のフローレ」と同じ声優さんが演じていたりする

 

 兵器かつ少女という点はゲーム展開とも直結しており,ゲーム全体としては彼女達との会話を含むストーリーパートを,戦闘パートで勝利することによって進めていく形となっている。
 ストーリーのノリは,軍事の小ネタをたっぷりまぶしたスラップスティックアニメ調だ。メカ少女達はそれぞれ歩兵,戦車,自走砲,航空,海上兵科に属するわけだが,お互いに相手を大量虐殺兵器呼ばわりしあってみたり,戦車ユニットの少女がファンデーションを塗っているのを見て「ツィンメリットコーティングですか?」と聞いてみたり,海上ユニットの少女が読む「レッド・オクトーバーを追え!」(らしき小説)が,脱走モチーフゆえに没収されたりといったドタバタ具合だ。……ちなみにツィンメリットコーティングとは,吸着地雷と成形炸薬弾による攻撃から車体を守るため,戦車に塗られた古典的なセメントコーティングのことである。
 メカ少女のパーソナリティ設定も,アニメ作品的なキャラクターバリエーションに,兵器それぞれのイメージをオーバーラップさせたものとなっている。歩兵ユニットの「アイゼン」は体力バカだがときに辛辣なボケキャラ,地上戦の要たる戦車ユニット「ネイ」はお姉様+優等生,航空ユニットの「ソウカ」はエリート兵科としてプライドが高く,火力が自慢の自走砲「ユーリ」はお子様かつ考えなしの積極派,海上ユニットの「ヒソカ」はブラックな不思議ちゃんといった風情だ。最後がやや分かりづらいが,海上ユニットのバリエーションには潜水艦が含まれているため,ネーミングともどもそのイメージがメインになっているわけである。

 

演習地の下見を兼ねて,野外炊さんに出た一行。ミハラ少佐が振る舞う料理に,いささか不穏なコメントをつける「ソウカ」 出された料理がカレーライスとすき焼きというのも,微妙に軍隊っぽい。ほのかに日本陸海軍の匂いが漂うイベント設定である 実もフタもない設定をサラっと暴露する整備兵。……まあ,ロボット兵士を作るなら,男性型にするのが普通ではあるだろう

 

ミリタリーテイストに限らず,きわどいネタが本作の特徴。まあ,魅力と言い切れるかどうかは,プレイヤーの感性次第だろう ネイが戦車ユニット(を含む車両ユニット)であることを踏まえた,うがったボケなのだが,さすがにストライクゾーンが狭そうだ 実名を挙げても問題ないはずだが,ここではこの回りくどい言い方が,プレイヤーとのクローズドコミュニケーションとして重要

 

 

■展開は地味だが,工夫された戦闘システム

 

戦闘ステージ。各ユニットおよび各施設はイニシアティブルールに従って活動の順番や頻度が決まる。下にアイコンで示されているのが直近の活動順だ

 戦闘パートでは,スクエア制のマップ,そこに用意された都市や工場,空港,港湾をめぐって,両タイプのメカ少女達がターン制の戦闘を繰り広げる。彼女達は人工生命体なので,必要なだけクローンを用意できるという設定になっており,各ユニットが複数登場するのはもちろん,プレイ中,必要に応じてユニットを生産し,各方面に投入していく。
 また,例えば歩兵ユニットのアイゼンであれば歩兵/重装歩兵/衛生兵という風にバリエーションが用意されており,このうちどのバリエーションが使用可能かはステージにより異なる。同様に,車両ユニットなら戦車/偵察車/輸送車,航空機は戦闘機/爆撃機/輸送ヘリ,自走砲は通常の自走砲/対空砲/ロケット砲,海上ユニットには戦艦/潜水艦/輸送艇が用意されている。
 兵科同士のじゃんけん関係や,ユニットの積載ルール,都市の占領による収入確保など,大まかなシステムは「大戦略II」あたりとよく似ている。ただしユニットには視界設定があり,そこに入った敵ユニットしか見えない点は大きな違いだ。また,搭載弾数の設定がないこと,損耗を受けたユニットを各施設で回復可能なこと,施設を占領することでユニット生産拠点を前進させていけることなどは,プレイしやすさを優先した部分であろう。

 

戦闘ステージの開始前に,「スーツショップ」で衣装を“購入”できる。敵を撃破するとポイントが溜まり,それを支払う形だ 購入した衣装は,「服装選択」で着用させる。ステージによって役立つ能力が異なるので,適宜着替えさせるのが合理的 ユニットが受けた損害を回復できる衛生兵。また,他ユニットのイニシアティブ値を引き上げ,活動順を繰り上げることも可能

 

対空ユニットの有効範囲を示したところ。肉薄されると射撃できないのが,ゲーム展開上のポイント。爆撃されることも多い 爆撃機は足が長いうえに,敵のA.I.がかなり巧妙に対空砲の射程を外して進入させる。ステージにもよるが,戦闘機は重要だ 戦闘解決画面。先に撃ったほうが圧倒的に有利なので,互角ならもちろん,多少劣った兵力でも積極的に攻撃をかけていきたい

 

 一般のターン制ミリタリーストラテジーと大きく異なるのは,「アクティブターン制」と呼ばれるイニシアティブルールで,ユニットの行動頻度が決まる点だ。各ユニットの行動手番は一種のチャージ制でめぐって来るようになっており,ほかのユニットが行動している間にチャージされる。そして,軽快なユニットほどチャージが溜まりやすく,頻繁に行動できるように設定されている。地味な部分ではあるが,ボードゲームの発想を引きずった交互ターン制やシフトアクション制(敵と味方が交互に1ユニットずつ動かす)よりもシームレスで同時進行性に矛盾が少なく,それでいて思考が整理しやすい。キャラクター性を前面に出すには,適した選択といえるかもしれない。
 戦闘解決は,損害を同時に適用するファイアパワー方式だが,ターン制ストラテジーとしては珍しく,攻撃側がずっと有利な判定となっている。多少劣った兵力であっても,とにかく押せ押せで攻撃をかけていくのがゲームの勧めるところであるらしく,地形効果もあるにはあるが,戦闘への影響は小さい。さまざまな要素を考え合わせるよりも,基本となる戦力の集中投入を意識すべきだろう。
 ヘリボーンによる強襲の多用や,こちらの対空火網をうまく避けて斬り込んでくる爆撃機など,敵の動きはなかなか巧妙だ。ジリ貧に追い込まれないよう,効率的かつ果敢に反撃をかけていく必要がある。

 

 プレイして気になった点といえば,マップ表示が可愛らしさと一覧性を重視して作られているせいか,ユニットや施設などのオブジェクトが小さく,少々見分けづらい点だろうか。慣れないうちは戦車と間違えて偵察車を敵に突進させてしまうようなこともあるし,小さめのマップで押し合いと消耗戦が続き,戦闘は割と淡々と進む印象がある。一方で衛星軌道上からの攻撃など,ゲームルール上のフロックが用意されているわけだし,戦っているのは女の子のキャラクターなのだから,戦闘自体,もう少し華のある展開でもよかった気はする。
 難易度設定が用意されていない点や,ストーリーパートにおけるキャラクターのはじけ方がいま一つ控えめに見える点はやや残念なものの,随所にちりばめられたブラック&ミリタリー寄りの小ネタを楽しみにしつつ,じっくり取り組むのがよいだろう。キャンペーンが20ステージ,「チャレンジモード」と呼ばれるシングルミッションのオリジナルマップが20ステージ収録されているので,あまり気負わず,時間ができたときにちょこちょこと進めるのに向いた作品になりそうだ。

 

服装選択の結果は,マップ上に配置されているユニットにも,新たに生産されるユニットにも自動的に適用される。パラメータの上下はトレードオフになっているケースが多く,しかも戦闘開始後には着替えさせられないので気をつけたい 戦闘終了後の会話でも,折に触れてディレッタントな話題が。ネタはナポレオンやらネルソン提督やら,である

 

「チャレンジモード」のオリジナルステージから,それぞれ雨のシーンと雪のシーン。今回プレイできたバージョンでは完全に実装されていなかったが,移動と戦闘の双方に影響が出,戦闘解決画面の背景も変わるようだ 戦闘結果は集計され,加算される。手に入るポイントは経験値と呼ばれているが,用途は衣装の購入である

 

タイトル ガジェット トライアル
開発元 有限会社くまさんちーむ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2006/06/23 価格 8800円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98SE/Me/2000 Professional /XPの各日本語版(+DirectX 7以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(2GHz推奨)もしくはそれと同等のCPU,メインメモリ:256MB以上,HDD空き容量:1GB以上,DirectX 7以降に正式対応したグラフィックスカード,DirectX 7と100%互換性のあるドライバを備えたサウンドカード

(C)2006 KOGADO STUDIO,INC./KUMASAN TEAM,INC.

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http://www.4gamer.net/review/gadgettrial/gadgettrial.shtml