■少女の影が恐怖を呼ぶ新感覚のホラーFPS
ホラーとオカルト,バイオレンスとスプラッターを融合させた異色のFPS,「F.E.A.R.」。などと書くと「キワモノか?」と思う人もいるだろうが,基本となる撃ち合いの爽快感や戦術性,そしてサウンドやグラフィックスにも手を抜かないエンタティメント性の高いゲームなのだ。怖いですよお〜 |
「F.E.A.R.」の初お目見えは2004年5月のE3で,展示は"ビハインド・ザ・カーテン"スタイルで行われた。これは「アポイントのある人だけ,奥の小部屋ですごいものをお見せしましょうウフフ」という形式で,そのとき我々の眼前に登場したのが,次世代技術のグラフィックスをふんだんに使ったホラータッチのFPS,「F.E.A.R.」だったわけだ。つまり,何の偶然か,筆者は本作のマスコミ初登場の場に立ち会ったわけだが,その時のごく正直な気持ちを言えば「ふーん」だったかと。なにしろあなた,同年のE3といえば「DOOM 3」と「ハーフライフ 2」の話題で会場は持ちきり。「次世代技術のグラフィックス」というのも共通ポイントで,私の頭に本作が強く印象に残る余裕があまりなかったのだ。
だが,今年に入ってから状況は徐々に変化した。2005年3月のGDCにおけるプレイアブル展示,そして5月のE3におけるプレイイベント,さらに8月のデモ版公開と順調に推移し,マルチプレイβデモ公開(6月)のときこそ「これは,ちょっとどうかなあ?」と思わせたものの,発売直前にはしっかりブレイクしてしまったのだ。デモに対する世間の評判も高く,他人に影響されやすい私のボルテージも徐々に高まったというわけである。
私はこんな仕事をして長いが(今は学生),先を見る目に関してはこの通りだ。えへへ。
制作は,高い技術力とプロらしい演出が光る実力派デベロッパのMonolith Production社だ。私は長年,同社のファンであり,なによりも"No One Lives Forever"(以下,NOLF)シリーズの,というか主人公である美貌の女スパイ,ケイト・アーチャーその人にぞっこんラブ。NOLF"3"の登場を強く願っている者なので,最初「F.E.A.R.」を見たときに「ふーん」と思ってしまった原因は,そんなところにもあるのかもしれない。まあ,どうでもいいですか?
「F.E.A.R.」の前面に強く押し出されているのは,濃厚な"ホラーテイスト"だ。ホラーなFPSといえば,ご存じの通り「DOOM3」があるが,あちらも確かに怖かったものの,基本的にはマッチョ系で,舞台も遠く離れた惑星,敵の行動や目的も明確であった。これに対し,本作のメインイメージ「廊下の端に立つ少女」はいわゆる心霊ホラー系,もっと,なんちゅうか,静かでウエットな恐怖感だ。いってみれば,日常の隙間に入り込んだ怪異,相手が何を考えているか分からない不気味さ,次に何が起こるのか予想のつかない焦燥感,とでもいったらいいのだろうか。なにはともあれ,「心配性のリス並みに臆病」だと言われる私に,これが耐えられるのであろうか,という不安をはらんだままゲームを始めてみよう。
第一目標であるフェッテル。とりあえず,こいつを追ってゲームが進むことになるが,事件はそう単純ではない | 不意に姿を見せては消えていく謎の少女。どう考えても彼女が事件の黒幕に思えるのだが,正体は何者だろう? | 惨殺された警備員とF.E.A.R.のメンバー。本編では仲間と共に戦うシーンはなく,基本的にいつでも一人だ |
流血のおびただしさは折り紙つき。自分の血は苦手だが他人の血なら全然平気という筆者のような人なら大丈夫 | 登場人物はさほど多くないが,断片的な情報が得られるだけで,クライマックスまでストーリーはハッキリしない | 何気なく見上げたモニターに怪しい人影。この直後,さらにドッキリすることが起きるのだが,そういう演出が見事 |
■本当に怖い! 真綿で首をじわじわ絞められるような怖さ!
ホラーもいいが,撃ち合いの迫力もすごい。Slo-Moを使えば,敵に銃弾がめり込んでいくのさえ分かるほどだ。リアルな銃声と飛び散るカートリッジが爽快感を盛り上げる。ただし敵AIは頭がよく,やつらの投げるグレネードは憎いほど狙いがいいので,ゲーム自体は簡単というわけではない |
物語の舞台となるのは,巨大軍事企業アーマカム・テクノロジー(ATC)。軍との契約で何やら不気味な実験が行われている施設だが,ある日,そこで生み出されたサイキック・コマンダーの一人,パクストン・フェッテルが突如として狂気に陥り,彼の配下のスーパーソルジャー達がATCの警備員を整然と虐殺し始める……。というオープニングは,シングル版デモをプレイした人ならとっくにご存じだろう。かくしてプレイヤーは,その事件の調査にあたる特殊部隊,F.E.A.R.(First Encounter Assault Recon)のポイントマンとなって,アーマカム社に乗り込みフェッテルを追う,というのが基本的な筋書きだ。
のっけから,鮮血ほとばしりまくりである。拷問されたと思しき警備員,血の海に横たわる作業員,骨だけになった味方の兵士。そして時折,なんの脈絡もなく挿入される血まみれのイリュージョン,と,これがウワサの「ナイトメア・シークエンス」だ。
超常現象に対応するF.E.A.R.の隊員達はそれぞれが特技を持っており,主人公の場合はどうやら「過去に起きたことをビジョンとして見られる」ことらしい。まことに迷惑な能力である。おっかないったらありゃしない。ちなみに,後述する「Slo-Mo」(スローモ)ともども,主人公がなぜこのような特殊能力を持っているか,についてもストーリーと微妙に絡んでいる。言えないけど。もう一つちなみに,主人公には名前がなく,またゲーム中は一言もしゃべらず,その姿が鏡に映ったりすることもないので,どんな顔かたちなのかはよく分からない。F.E.A.R.には先週配属されたばかりだ。
恐怖をあおる演出は,非常にお見事である。少女のシルエットが画面を駆け抜けたり,そのへんのモニターに怪しい画面が現れたり,電灯が不意にチカチカして,一瞬だけ,今までいなかった男が立っているのが見えたりと,「視野からちょっとだけはずれたところに起きる怪異」を見せるディレクションがうまく,心臓に悪いことおびただしい。地獄やよその星のクリーチャーなどではなく,ありふれた少女であるところが不気味だ。通奏低音のように響くBGMと,光と影を見事に表現するグラフィックスが,その恐怖感を増幅しているのは間違いない。
余談ながら私はこのゲーム,発売当日に購入したのだが,ゲームを始めたのは夜中すぎのことだった。もうこれが大失敗。プレイ中,何度か背後を振り返ったり電灯を全部つけたりと,笑っちゃうようなビクビクモードに陥り,下の階のバカ犬がいきなり吠え出したときには,椅子から飛び上がってしまった。
NOLFシリーズで見せたちょっとバカバカしいユーモアは,まあ当然ながら微塵もなく(お笑い担当っぽいNPCはいる),変われば変わるもんだな,という気がする。でも,そういえばNOLF2の南極基地のシーンもけっこう怖かったな。
とはいえ,ゲーム全体に狭くて暗い建物の中をひたすら移動する状況が多く,このへん,ちょっと単調かな,という印象もある。目的地に到達するのに複数のルートが用意されている場合もあるが,基本的に物語は一本道。マップは広すぎもせず狭すぎもせず,という感じだが,同じような場所が続くので,方向音痴である私のようなプレイヤーにはちょっとツラいかも。またパズル要素は少ないが,数か所ほど,次に行く場所が分からなくなったケースがあった。
ちょっと分かりにくいが,被弾によって手足が吹き飛んでいる。こうしたゴアな表現も随所に見られる | しつこいほどのパーティクル効果が施され,撃ち合いになると爆煙やオブジェクト,火花が飛び交う。敵はどこよ? | アーマカム社謹製の装甲に身を包んだ,やたらにカタい敵もいる。マガジン1本分ぐらいくれてやらないと倒せない |
パワードスーツを着込んだミサイル野郎も出てくる。携行できる兵器の種類が限られているので,工夫が必要だ | 光学迷彩によって姿を消すことのできるヤツ。倒すのは相当やっかいで,倒しても何も落とさない。大嫌いである | 武器は3種類までしか携帯できず,取捨選択せねばならない。弾薬は,もっぱら敵の落としたものを使うことになる |
■Slo-Moを使った戦闘シーンはかつてない大迫力
前触れもなく突然挿入される不気味なイリュージョン。これが「ナイトメア・シークエンス」であり,どうしても単調になりがちなFPSのゲーム展開に,必要以上の緊張感を与えてくれるのだ。悪夢のくせに,出てきたモンスターによってダメージを受けてしまう場合があるが,これも物語の伏線 |
さて,戦闘だ。もちろん戦闘だってある,というかFPSなんだから戦闘がメインだ。この件に関する話題の中心は,なんといっても"Slo-Mo"だろう。これは時間経過をスローにする機能で,要するにバレットタイム。ただし,バレットタイムが使えるとプレイヤーが圧倒的に有利になってしまうので,バランスを取る必要があり,この「F.E.A.R.」では「Slo-Moの発動時間が短い」のと「敵のダメージを食いやすい」という2点でゲームバランスを調整しているようだ。
Slo-Mo用のゲージは何もしなくても勝手に溜まるが,使用すると急激に減り,発動時間が比較的短い。おまけにこちらの動きまで遅くなるので,タイミングを取るのがちょっと難しい。あんまり手前で始めると,敵の姿が視野に入る前に終わったりしてカッコ悪いので,気をつけなければいけないのだ。また,被弾のダメージはFPSにしてはちょっと驚くほど大きく(ノーマルモードの場合),1回の戦闘でごっそり削られる。
防御力はヘルスとアーマーの2本立てで,ヘルス回復の救急箱は比較的多く落ちているうえ,10個まで持ち歩き可能で,必要なときに使えるので助かる。とはいえ,Slo-Moを適宜使っていかなければ,なかなか戦闘には勝てないようにできている。
しかも,敵のAIはかなり優秀だ。NOLF2のAIも出来が良くて評判だったが,今回,ステルス要素が取り除かれた分だけ戦闘に特化したらしく,遮蔽物の陰に隠れる(机を蹴り倒したりして遮蔽物を作り出す),こちらの背後に回ってくる,一人が制圧射撃を加えている間にもう一人が接近してくる,といったようなことを平気でやってくるから始末が悪い。登場はスクリプトによるが,出現してからは独自の行動をするので,同じ場所でも戦闘パターンはそのつど変化する。物音を聞き取るなど認識力も高く,手ごわい。ただし,敵の種類はそれほど多くなく,その点はちょっと残念。
というわけで,全体として戦闘はかなり緊張感の高い,楽しめる作りとなっている。ゲームに慣れてくれば,Slo-Moを駆使してカッコよく敵兵士を倒していけるだろうが,私はまだまだですな。また,最近のFPSとしては珍しくゴアな表現もオッケーで,近距離で散弾銃を撃つと首や手足が吹き飛んだり,グレネードで木っ端微塵になったりと,かなり過激だ。
グラフィックスは明らかにトップレベルであり,リアルな画面の中で行われるスローモーションの血まみれの撃ち合いは,ある種の凄絶な美しさを湛えている。ちょっと病みつきになりそうだ。
またウワサどおり,マルチプレイにもSlo-Moが取り入れられている。ゲームタイプとしては,デスマッチ(チーム戦と個人戦),エリミネーション(リスポーンなしのデスマッチ),キャプチャー・ザ・フラッグ(チーム戦と個人戦)の3種類があるが,それぞれSlo-Moを使えるモードが用意されている。これは,マップ上にある特殊アイテムを所持したプレイヤーがSlo-Moを使えるようになるというもので,チーム戦の場合はチーム全員が相手の倍速で動けるようになる。個人的には,ゲームバランス的にどうなのかな? という疑問は残るものの,面白い試みであることは確かだろう。
アーマカムのビルに向かうヘリ。グラフィックスは明らかにトップレベルだが,暗いシーンばかりなのでちと疲れる | ノートPC,留守番電話の記録,本部からの無線連絡などを聞いて,だんだんと話の内容が分かってくる仕掛け | 本社ビルで生存者発見。ただしこの人,何やら挙動不審。実は,こいつのためにひどい目に遭うことになるのだ |
ほとんど一人で戦い抜くのだが,このように,リモートカメラ機銃を操作し,一方的に敵を殲滅するシーンもある | この10mmHVペネトレーターは,金属の杭を打ち込んで相手を壁に貼り付けられる。マルチプレイでも人気の一品 | 遠距離用の兵器は,このBaksha ASP 7.62mmライフルしかないが,近接戦闘が多いので,それほど役に立たない |