― プレビュー ―
ファンタジーの礎「D&D」のルールを貪欲に取り入れたMMORPGが登場!
Dungeons & Dragons Online: Stormreach
Text by 川崎 政一郎
2006年2月16日

※以下の記事は,2006年2月5日時点(クローズドβテスト)でのゲーム内容をもとに制作されています。予めご了承ください。

 

■D&Dの新世界「Eberron」を舞台にした,テーブルトークRPGライクなMMORPG

 

DDOはファンタジーの源流ともいうべき,「Dungeons & Dragons」を題材にしたMMORPG。ファンタジーの定義が揺らぎつつある今こそ,プレイする価値のあるタイトルだ

 「Dungeons & Dragons Online: Stormreach」(以下,DDO)は,米Turbine Entertainmentが開発したMMORPGだ。現在は北米とヨーロッパを対象にβテストを行っている段階で,2006年2月28日の発売が予定されている。βテスト初期のころは「なんだこれは」と言わざるを得ない作品だったが,その後巨大なアップデートがいくつも当てられ,見違える出来になった。今回プレイした範囲内での完成度はすでに高く,正式サービス開始後のバージョンとほとんど変わりはないはずだ。

 「Dungeons & Dragons」(D&D)系のコンピュータRPGは数多くがリリースされているので,まずは混乱を避けるため基礎的なところから説明していこう。DDOの基本ルールに関しては,テーブルトークRPG「Dungeons & Dragons 第3.5版」が,そして舞台となる世界には「Eberron」が採用されている。このEberronとは2004年に誕生した世界で,コンピュータRPGに採用されるのは今回が初。またEberronは,関連書籍も含め公式には翻訳されておらず,我々日本人にとって知名度は低い。かなりコアなTRPGファンでなければ,その存在を知らないだろう。ちなみに,ほかのD&D系タイトルとして有名な「Neverwinter Nights」や「Baldur's Gate」シリーズは,「Forgotten Realm」という別のD&D世界を舞台としている。

 従来のD&D世界とEberronとの相違点を簡潔に説明すると,伝統的なファンタジーをベースとしながらも,工業的な要素を随所に取り入れていることが挙げられる。ほかのPC系のタイトルでは「Lionheart Saga」や「Arcanum」あたりをイメージしてもらえば(古い作品で恐縮だが)比較的分かりやすいだろう。Eberronならではの種族やクラスもあるが,それらの独自要素は,実は現時点ではそれほど多くゲーム内には導入されていない。つまり従来のD&D経験者がDDOをプレイしても,さほど違和感を感じることはないだろう。さらに,各項目には丁寧なヘルプが入っているので,本作が初めてのD&Dという人でも大丈夫だ。

 TRPGであるD&Dでは,ゲームプレイに与える影響のうち,登場キャラクターの設定が大きなウェイトを占める。DDOもそれらの例に漏れず,キャラクターの作成時のカスタマイズ項目は,ほかのRPGと比べてかなり多い。もっとも基本的なのは五つの種族と九つのクラスで,これらの組み合わせは自由だ。例えば「Dwarf / Wizard」や「Elf / Barbarian」といった,一見ミスマッチな構成でも一向に構わない(役に立つかどうかは別だが)。キャラクターの外見面については,種族によって違うが8〜10の設定項目がある。これらのキャラクターの全体的な雰囲気は,「EverQuest2」ほど目立ったものはないが,正統派ファンタジーとしての重厚さは十分に感じられるものだ。

 ほかには各種ステータスやスキル,そして「Feat」(特殊技能)なども細かく設定できるが,D&Dのルールをほとんどそのままの形で持ってきているため,膨大な量がある。あらかじめオーソドックスな構成例のテンプレートが用意されているので,最初はそれを利用するのが得策だ。もちろんその気になれば,これらを事細かくカスタマイズすることも可能である。プレイ経験を積んでD&Dのルールを把握したころには,これらの膨大なカスタマイズ作業は逆に至福のひとときとなることだろう。TRPGをベースとした本作では,キャラクター作成時の面白さは折り紙付きなのだ。

 作成し終えたキャラクターは,まず「Smuggler's Rest」というチュートリアル用のエリアに降り立つ。ここで基本的な操作方法を学んだあと,大陸本土へと移り,いよいよ本格的な冒険が始まる。DDOでは,職業やクラスに関係なくスタート地点は同一なので,知人と一緒にプレイしよういう人でも問題ない。ただし,沢山のキャラクターが密集することへの対策として,複製エリアが自動的にインスタンス生成される点には注意しよう。

 

DDOの戦闘はプライベートエリアの導入により,アクション性を高めているのが大きな特徴。後方視点のMMORPGとしては,比較的珍しいシステムといえる これはキャラクターの選択画面だが,上部に蒸気船らしきものが飛んでいる。舞台となるEberronは,魔法と工業が入り交じった世界観なのだ 今となっては定番である,これらの種族やクラスも,もとはといえばD&Dがゲームに定着させたものだ。登場する種族とクラスの詳細は画面内を参照してほしい

 

Eberronで新たに登場する「Warforged」は,魔法によって生み出された生物という設定。愛着が湧くには少し時間がかかりそう? 頭部に関する設定項目だけでも,これだけの数がある。例えばエルフは少々吊り目になっていたりと,D&Dらしく細かい部分もしっかりしている D&Dでは,ターゲットしたオブジェクトが画面右下に拡大表示される。ほかのMMORPGタイトルよりも,外見面の設定では気合を入れたくなるかも

 

キャラクターの能力に関する詳細設定は非常に細かい。D&Dのルールをある程度理解するまでは,デフォルトのまま作成するのがいいだろう チュートリアルの範囲内だけでも結構なボリュームがある。写真は,スキルでシークレットドアを見つけて開けた瞬間だ 全キャラクターが地点からゲームを始めるため,拠点エリアはかなり混雑している。画面左上のミニマップからインスタンスを切り替えられる

 

 

■プライベートエリアを徹底することで,アクション性を取り入れた戦闘システム

 

拠点エリアはMMO,冒険エリアはMOという形式のオンラインRPGは,続々と登場しつつある。多数の人との交流と,快適な冒険とを両立したシステムだ

 ゲームの主な流れは,拠点エリアで住民からのクエストを受け,それを遂行するために冒険用エリアへ赴くというもの。そして人数規模については,拠点エリアではMMO形式,冒険用エリアではプライベートエリアによるMO形式と,近年のネットワークRPGにおけるトレンドを採用している。DDOのプライベートエリアは,クエストごとに専用のものが用意されており,ほかのタイトルよりもより徹底した印象だ。具体的なエリアの規模としては,序盤から中盤にかけてのクエストの対象数は1〜4人前後。終盤になると10名近くに達するエリアもあるが,Raid規模のものは,筆者が確認できた限りでは実装されていない。

 お約束ではあるが,プライベートエリアの導入によるメリットを簡単に説明すると,出現するキャラクター数を抑えることで,MMO形式よりも快適なパフォーマンスを実現できることにある。そしてDDOの場合はこのメリットを生かし,戦闘時にアクション要素を取り入れているのが大きな特徴だ。例えばすべてのキャラクターはShiftキーによるブロッキングや,Spaceバーによるジャンプといった動作を行える。これを利用して,敵からの攻撃を目で見て回避することが可能だ。

 もちろん,これらのアクションは敵も同様に行える。実際にずる賢いAIのモンスターは,自分の横や後ろに回り込んで攻撃を繰り出してくるので,なかなか気が抜けない。そのため戦闘中は,方向切り替えを忙しなく行いつつ,マウスクリックをカチカチと行うイメージだ。これは,最初に敵をターゲットロックしたあとは半自動で戦闘が進行するようなMMORPGとは,大分違うプレイスタイルである。

 しかしながら,例えば「Guild Wars」ほど純然たるアクションゲームというわけではなく,「EverQuest2」や「World of Warcraft」と比較すると,“多少アクション性を要する”くらいの認識がちょうどいい。武器をオートで振り続ける設定も行えるので,アクションゲームが苦手という人でもプレイ上は差し支えがないレベルだ。

 冒険時の難度は全般的にシビアである。まずプレイして驚くのは,冒険の最中はヒットポイントやマジックポイントの自然回復が行われないということ。一応,クレリックの魔法やポーション,そしてダンジョン内の一部で設置された祭壇などで回復は行えるものの,これらは緊急用としての意味合いが強い。必然的にパワープレイは行なえず,冒険はまるで石橋を叩いて渡るかのように慎重に進行することになる。

 だが,これはゲームのテンポが悪いという意味ではなく,プレイヤーの思考部分にウェイトを置くことで面白さに結びついている。例えば罠の掛かった宝箱を前に,皆で「どうする?」と頭を悩ませるたりするのは,TRPGさながらの展開といえよう。先述したように,DDOはクエストごとに個別のプライベートエリアが用意されており,さらにダンジョンなどの構造が凝っているので,毎回新鮮なプレイを実現しているのだ。

 冒険中における戦闘のウェイトが低いことを端的に示しているのが,事実上,モンスターを倒しても経験値を得られないというシステム。DDOでは,主にクエストを達成したときに経験値を獲得し,成長していくのだ。しかもレベルアップの速度も非常に緩やかで,普通の人であれば最初の数日間はレベル1のままである。同じMMORPGでありながら,ポーションをがぶ飲みしてレベルアップに明け暮れる韓国系のタイトルとは,まったく正反対に位置するスタイルといえよう。

 

拠点エリアはMMO形式なので,たくさんの人と交流できる。現在のオンラインRPGは,このMO/MMOの切り替えがトレンドとなっている 大半のクエストは,拠点エリアにいるNPCから依頼を受ける。すると,目的地となるプライベートエリアへ侵入できるようになるわけだ 画面の井戸のようなオブジェクトが,今回のクエスト用エリアへの入口だ。難度を3段階から選べるので,人数に合わせて調整するとよい

 

DDOのプライベートエリアは,アクション要素を取り入れているのが特徴。例えば弓の発射時も,狙いを定めるのに慣れを要する 敵の攻撃をブロックしたり,避けたりといったアクションがとても豊富。チャットする余裕がないことも多いので,ボイスチャット機能が標準搭載されている 画面はシーフが鍵の掛かった扉をこじ開けている最中。鍵やトラップが仕掛けられていることも多々あり,シーフのような特殊クラスも存分に働ける

 

モンスターを倒しても経験値を得られないのは大胆だ。よってキャラクターのレベルアップは,クエスト達成時に得られる経験値がメインとなる ダンジョン内部には回復用の祭壇が設置されていることもあるが,一度しか利用できない。回復手段が少なく,おのずと冒険は慎重になる 拠点エリア内の酒場にいる間に限り,HPとMPの自然回復が行われる。画面右上にある赤十字のアイコンがそれを示している

 

 

■TRPGのプレイ感覚をオンラインRPGで実現しようとしている点を評価

 

DDOのポイントは,TRPGらしさを色濃く残しているところ。このテイストが,今のコンピュータRPG世代にどのように受け入れられるのかは興味深い

 上記のように,DDOはクエストを中心にゲームが進行していく。クエストが中心なのはグループの編成面についても同じで,戦闘そのものが目的というよりは,クエストのために必要なメンバーを集めるといった傾向が強い。クエスト用プライベートエリアへの入口の前には,同じ目的のプレイヤーがたむろしていることも多く,グループ編成に苦労することはそんなにないだろう。冒険がクエスト単位で区切られているため,一度のプレイに必ずしも長時間を必要としないのは嬉しいところだ。

 今回DDOをプレイしてみて最もユニークだと感じたのは,コンピュータRPGでありながら,TRPGらしさを随所に残しているところである。例えば攻撃やセービングスローといった各判定においては,画面の隅で毎回20面ダイスが振られ,そのログも表示される。ほかにもクエストなどが進展したときは,ゲームマスターによる雰囲気たっぷりのナレーションが入る。こういった細かい演出の積み重ねによって,DDOのプレイ中は,あたかもゲームマスターのもとでTRPGをプレイしているかのような実感を得られるのだ。

 これらのTPRG的な演出は,実はゲーム的には必須というわけではなく,仮になくても別段問題はない。だが,現在数多のMMOタイトルが存在する中で,しっかりとした個性を発揮したことは,それだけでも大いに評価できる。そして,それがコンピュータRPGの原点ともいえる,TRPGを立脚点としている点が素晴らしい。

 「Wizardry」「Ultima」から発祥し,20数年を経て進化してきた現在のコンピュータRPGは,“ロールプレイングすなわち役割を演じる”という本来の意味合いが,かなり薄まってきている。また,日本を含むアジア系のファンタジージャンルは,例えば「萌えっ娘のドワーフ」や「セーラー服」など,曲解というか,半ばなんでもアリといった感がある。そういった状況の中,DDOのような骨太のMMORPGに触れることは,ファンタジーRPGの定義を再確認するという意味で,大きな意義があると筆者は感じた。

 最後にまとめると,DDOに向いていると思われるプレイヤー層は,正統派ファンタジーおよびMMORPGに関心を持つすべての人達である。中でも,欧米系のMMORPGではロールプレイを専門に行うための特殊サーバーが設置されていることも多いが,こういった場所でのプレイを好む人には,無条件でお勧めしたい。逆に,戦闘に主眼が置かれた大半の韓国系RPGとは正反対に位置するタイトルなので,その点には注意してほしい。

 

宝箱から得られるアイテムの数は,グループの人数に比例する。また取得権も設定されるので,取り合いといった揉めごとは起こらない ゲームの序盤は港町を中心に繰り広げられる。今後ゲームが進展するにつれ,次第に大陸内部へと移っていくのだろうか サーチ機能が非常に強力。自分から積極的に動けば,クエストなどの目的に応じたメンバーをすぐに見つけられるだろう

 

中盤以降では「マルチクラス」を習得できるようにもなる。ただしクラスごとに経験値が分散してしまうため,一本に絞るかどうか悩ましい クエストジャーナル機能もある。これを見ながらプライベートエリアの入口まで行けば,同じ目的のキャラクターが待っているという寸法だ 開発元のTurbineは,Asheron's Callシリーズなどで有名。DDOも,息の長いタイトルになることを大いに期待できる作品だ

 

画面設定はすべて「Medium」で撮影している。これ以上は重くてゲームプレイが困難であった。ちなみにAthlon XP 3200+,Radeon 9500 Pro,メインメモリ1GB TRPGをベースにしているためか,ほかのMMORPGより“ロールプレイ”寄りのプレイヤーが多いのも特徴の一つ。いろいろな意味でRPGのありかたを考えさせる たとえ辞書を引いてでもプレイするような,ガッツのある人にとって,DDOは今年最大の注目タイトルの一つとなるだろう

 

タイトル ダンジョンズ&ドラゴンズオンライン:ストームリーチ
開発元 Turbine 発売元 さくらインターネット
発売日 2006/08/10 価格 ダウンロード版 1500円(税込) 利用料金:1500円/1か月(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.60GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上,グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:3GB以上

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http://www.4gamer.net/review/ddo_2/ddo_2.shtml