― レビュー ―
FPSのためにカスタマイズされた専用キーボード
Cyber Snipa Game Pad
Text by 米田 聡
2006年2月10日

 

Cyber Snipa Game Pad
本体カラーは今回採り上げるブラックのほか,シルバーが用意されている。パソコンショップ アークの店頭価格は,2006年2月10日現在4980円(税込)
問い合わせ先:パソコンショップ アーク
電話:03-5298-7020

 一瞬のキー操作が勝敗を決めることさえあるFPS。だが,FPSのビギナーが,いきなりW/S/A/Dを中心とした入力体系に慣れるのは難しく,「キーボード操作の慣れ」という部分がビギナーの参入障壁となっている可能性は否定できない。

 

 パソコンショップ アークの協力で,今回採り上げることになった「Cyber Snipa Game Pad」(以下Cyber Snipa)は,この問題に対処すべく,FPSでよく使うキーだけを使いやすいよう独立,再配置させたキーボードだ。製品写真を見れば分かるように,いわゆるフルキーボードではない。製品名にもあるように,FPSゲーマー向けの“ゲームパッド”という位置づけの製品なのである。

 

 

■FPSで利用するキーだけを手の届く範囲に配置

 

 製品をよく見てみよう。全体像は下に示したとおりだ。

 

主要なキーのキートップのうち,いくつかには,FPSをプレイにおける典型的な動作の割り当て例が印刷されている。[R]ならリロード,[SHIFT]なら歩く/走るの切り替えといった具合だ。主にQuakeシリーズを愛好する筆者には,[TAB]のところに書かれている「goal」という動作だけがナゾなのだが,キーアサインの変更をそれほど行わなくてもFPSをプレイできるよう配慮されているのは,ビギナーの存在を考えると評価できる

 

 キーの形状は使用頻度や配置によってかなり大きな変化が付けられている。中でも目立つのは中央の青色キー群だ。FPSで最も基本的なキーと言える移動用の[W/S/A/D]と,武器の切り替えなどによく利用される[Q/E]が,大きな面積を占めて中央に鎮座している。数字キーを利用した武器のショートカット選択時に誤って押す危険性があることで,[Q]と[E]を使わないFPSプレイヤーは少なくないが,Cyber Snipaでは,数字キーと離れているうえ,キー自体も大きくなっているから,押し間違える危険はかなり減っているといっていい。

 

 武器のリロードやアイテムの使用など,頻度の高い操作に割り当てられることの多い[R/F/T/G]キーは,フルキーボードと同じく,[W/S/A/D]の右側に配されている。一方,使用頻度は若干落ちると思われる[H/Z]が,フルキーボードの配列を無視して,[W/S/A/D]の左側に配置し直されている点は興味深い。[H]も[Z]もフルキーボードではやや押しづらいキーなので,これらに重要な動作を割り当てていた人にとっては福音になりそうである。

 

 親指で操作することになる[C]や[スペース]は,本体右手前に割り当てられている。シングルプレイ重視型のFPSでは,一般に[C]キーが対応するしゃがみ動作が重要になるが,“親指のホームポジション”次第では,左右の[X]や[B]にしゃがみ動作を割り当てるのも手だ。

 

 

■ドライバいらずで動作するシンプル仕様

 

唯一といっていい独自機能「音量調整ボタン」。ゲーム中にちょっと音量を上げたり下げたりしたいときには便利である

 これらのキーは,キートップに印字されている文字と完全に1対1の対応。「添付のアプリケーションを利用すると,キーアサインを変更できる」などといった特別な仕掛けは一切ない。FPSのほとんどはゲーム側の機能としてキーアサインの変更をサポートするから,必要ないのだろう。結果として,USB接続のCyber Snipaを利用するのにドライバのインストールなどは不要で,ただ必要なときにUSBポートへ差すだけでよくなっている。

 

 このように構造自体は非常にシンプルなため,ギミックといえるほどのギミックはない。USB接続だが,USBハブ機能も用意されていない。なんとか「機能」といえるのは,ほかのキーとは区別された,Windowsミキサー連動型の音量調整ボタンくらいだろうか。
 ちなみに,[4]キーの上に照準的な印刷とともに用意されている青色LEDは,USB接続中に常時点灯するものだ。要するにパワーインジケータである。

 

 キースイッチはゴムキャップを利用したメンブレンタイプ。耐久性はさほどないが,FPSで使用するキーしか用意されていない“ゲームパッド”だから,問題はないだろう。通常利用するフルキーボードの[W/S/A/D]などをくたびれさせてしまうことなく,思う存分FPSに打ち込めるというわけである。ある意味消耗品と割り切って使うというのも,考え方としてはアリだ。

 

側面から。高さは一番あるところでも24mm。なお,底面部に青色LEDが埋め込まれており,写真右端にある小さなボタンで,点灯/消灯を切り替えられる。もっとも,このLEDは本当に単なる飾りで,青く光る以外に意味はない

 キーストロークは実測で約3.5mmほど。キーの同時押しは,こちらも実測で7キーまで対応していた。FPSで必要になる同時押しはせいぜい4キー程度だから,まったく問題のないレベルといえる。
 一方,触れてみてやや違和感があったのは,キーボードに傾斜がほとんどないこと。しかも,キートップ(実際に指で押下する,印字のある部分)は,キーボードの傾斜以上に水平に近いので,慣れるには時間がかかるかもしれない。折りたたみ式のチルトスタンドを用意し,また,キー自体にもある程度傾斜をつけたほうが,より使いやすいように感じた。
 もっとも,このあたりは好みもあると思う。ノートPCのキーボードに親しんでいる人なら,いきなりしっくりくるかもしれない。

 

 

■意外にも(?)悪くない操作感

 

 さて,ここからはゲームアプリケーションを利用した評価に移っていこう。今回はFPSタイトルの中から,「Battlefield 2」「Quake 4」「Serious Sam 2」を用いてみる。なお,テスト環境は以下ののとおりだ。

 

 

 まず,一般的なフルキーボードと比較した場合の使い勝手だが,結論からいうと「悪くない」。正直なところ「フルキーボードに慣れているFPSプレイヤーであればあるほど使いづらさを感じるだろう」と思っていたのだが,使いづらいのは最初だけ。慣れてくるに従って,手に馴染んでくる。フルキーボードを利用したFPSの操作体系にあまり慣れていないビギナーであれば,むしろいきなりCyber Snipaを選ぶほうが,プレイしやすいのではなかろうか。

 

 その理由は単純明快。すべてのボタンが,押し間違えない程度に距離を保ちながら,押しやすい近さの場所にまとめられているからである。とくにリロードの[R]や,アイテムを取るときに使う[F]などは,方向キー(とあえて呼ぶ)との適度な距離が使いやすさを生んでいる。手を大きく動かすことなく,それでいて押し間違えることなく,頻繁に使うキーの操作が可能なのはありがたい。

 

 また,試用した3本のタイトルとも,標準のキーアサイン(=割り当て)をほとんど変えることなくプレイできた。これは,ビギナーにはポイントが高いはずだ。
 もちろん,好みに応じていくらでもキーアサインは変更できるから,Cyber Snipaをさらにチューニングして使い込めば,より高度な操作が可能になるだろう。

 

 底面積が153(W)×235(D)mmと,小型なのもいい。フルキーボードを利用する場合,マウス操作のためのスペースと合わせて,それなりに広い場所が必要になるが,Cyber Snipaは占有スペースが小さいため,マウスと併用しやすいのだ。キーボードが小さくなる分だけ,マウス設置場所の融通が利くようになるわけで,プレイ環境が改善される人も少なくないのではなかろうか。

 

 ……と,ここまで絶賛してきたから,「どこが『悪くない』なのか」と思った人もいるだろう。
 評価を下げた唯一最大の要因は,打鍵感だ。とくに指摘したいのは,[スペース]や[Ctrl]といった大型のキーの感触である。
 これらは構造上の問題で,端を押下しようとすると,引っかかってしまって押し込めないことがある。つまり,「ジャンプしようとしたとき,キーが引っかかって押せず,即死」という可能性があるのだ。これが,FPSをプレイするキーボードとして,限りなく致命的ということに,異論はないと思う。

 

[スペース]キーは,そのどちらの端でも,押下しようとすると引っかかってしまう。常に中央を押すほかないのだ

 

これが支柱。こうなってしまう前に,別の方法を考えつかなかったのだろうかと思うと,実に残念

 メンブレンスイッチなので,どうしてもキーの安定感は一段落ちる。それでも,小型のキーなら問題ないのだが,[スペース]や[Ctrl]は大きいので,そのままではキーの端を押したとき,キーが極端に傾いてしまう。そこで,キーに支柱を入れて補強しているのだが,今度はそれがキーの押しづらさを生んでしまっている,というわけ。

 

 例えば,ノートPCでよく用いられているパンタグラフ支持構造を採用したり,あるいは思い切ってメカニカルスイッチを採用したりすれば,こんな問題は発生しなかったはず。キーの品質さえ致命的でなければ,「FPSプレーヤーのすべてに勧められる最高のアイテム」と断言できたことを考えると,実に惜しい。

 

 

■課題は明白。次世代品に期待したい

 

パームレストは取り外すこともできる

 FPSはアクションゲームなので,そう多くのキーを使わないが,特定のキーだけは酷使する。その意味で,Cyber Snipaのような専用キーボードというのは非常にいいアイデアだ。それだけに,一部のキーの品質が返す返すも残念である。
 それほど大量のニーズがあるわけではない製品に,莫大な製造コストはかけられないから,メンブレンスイッチを採用するというメーカー側の事情は分からなくもない。しかし,それは「明らかな問題を放置してもいい」という意味では決してないのだ。メーカーであるFlexiglow Hong Kongには,次世代品でぜひ対応してほしいと願ってやまない。

 

 ただ,キーの問題は,慣れが解決してくれるかもしれない。また,ある程度使い込んで,適度に支柱がヘタってくると,押しやすくなる可能性はある。(販売代理店であるアスクの)保証外になるのを覚悟で,半分くらいの長さになるよう,支柱を折ってしまうという手段だって,選択肢としてはありそうだ。
 手にしっかりと馴染んだ良質なキーボードをすでに所持しているFPSプレイヤーにまで勧める気はないが,これからFPSを始めてみたい人や,FPSを始めてみたはいいものの,うまく操作できなくて悩んでいる人が,一度試してみるだけの価値はある。幸いにして,流通量は比較的多いから,一度店頭で触ってみることを勧めたい。そこで「これなら何とかなる」と感じたなら,使ってみてはどうだろうか。

タイトル キーボード
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


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http://www.4gamer.net/review/cyber_snipa/cyber_snipa.shtml