■一人称視点で街中を歩き回れる街造りシム
緑とビル,青い空と太陽のコントラストが美しい。見ているだけで楽しめる,久しぶりの傑作箱庭ゲームだ |
久々の正統派「現代都市開発シミュレーションゲーム」が登場だ。
このジャンルは「シムシティ」が偉大すぎるためか,類作が驚くほど少ない。古代や中世が題材のものであれば「Caesar」や「Settlers」シリーズがあるし,交通機関や企業経営をテーマにしたものなら「A列車で行こう」シリーズや,「タイクーン」の名前を冠した数々の作品がある。だが,現代の都市開発,発展を中心に扱った作品となると本当に希少だ。
「シティーライフ 日本語版」は,そんな希少な現代都市開発シミュレーションの新顔。プレイヤーは市長となって都市を建設し,巨大都市に育てていく。おおまかなゲームの枠組みはシムシティシリーズと同様で,何もない土地に道路を敷くことから始まり,住宅と職場を建設して人口を増やし,市民の要求を満たしていく。決められた最終目的はとくになく,資金のやり繰りの範囲内で,自由にひたすら街を巨大にしていくのだ。
本作では,自分の街の中にいる住民の視点までカメラをズームさせて,一人称視点で街を眺められる。ズームさせた視点では住民の一人一人が描写されていて,歩道を歩いていたり,車に乗っていたり,公園でくつろいでいたりする。ときには喧嘩していたり,デモを行っている住民に出会うこともある。余暇施設で遊んでいる住民もいる。そんな中を,矢印キーやマウスを使って自由に動き回れるのだ。シムシティは最新作の4でも,まだこれは実現できていないので,この点はシティーライフの大きなポイントといえるだろう。
スクリーンショットからでも,その臨場感は多少伝わるとは思うが,「自分の作った街」を一人称視点で歩き回れることの楽しさは,ちょっと格別だ。通常の見下ろし視点ではなく実際の住民の視点に立つことで,改めて街の生き生きとした息づかいというか,臨場感を味わえる。本作は場所によって街並みに差が出やすいシステムになっているので,移動して別の地区に入ると,また新しい景観が広がっている。街の中をあちこち歩き回って写真を撮っているうちに,あっという間に時間が経ってしまうほどだ。
今,「場所によって街並みに差が出る」と書いた。本作では生活ランクや価値観の異なる6種類の住民がいて,それぞれがまとまって住み,働く場所もそれぞれ異なっている。いわば,ちょっとした階級社会を表現しているわけだが,これら6種類の住民をどうやって配置し,共生させていくかというのが本作の大きなポイントになっている。実際のゲーム進行を追いながら,その点についてみていこう。
通常のゲームモードとは別にカメラモードというのがあり,いろいろな視点からスクリーンショットを撮影できる | 景観は「夜明け」「昼間」「夕暮」「夜」の4種類の時間帯に設定できる。やはり夜景がとくに綺麗だ | マップは全22種類用意されており,どれも個性的だ。このように観光地を再現したマップもある |
建物は約200種類にも及ぶ。そのほとんどがプレイヤーの自由に建てられるので,思いのままの景観が作れる | ズームインして住民の生活を眺めるのが楽しい。住民の一人一人すべてに名前があり,住居と職場も設定されている | 整地は基本的にできないので,高低差のある土地をいかに克服するかも都市計画のポイントになる |
■階級間の対立が起きないよう,計画的な街づくりを
住民を住まわせる以外に,ホテルを建設してそこに観光客を誘致するという,リゾート建設シム風な一面もある |
マップは,あらかじめ決まったものが22種類も用意されており,その中から一つを選んでプレイする。マップによっては最初からオブジェクトが配置されていたり,観光名所があったりするものもあるが,基本的にはどこも更地の状態だ。マップはいくつかのエリアに分かれており,最初からすべてを開発することはできない。まずはどれか一つのエリアを選んで購入してゲームを始め,進めるに従って順にほかのエリアを購入していくことになる。
最初に行うのは市役所の設置だ。平地の広いところを選んで建設したら,そこを基点として道路を延ばし,街を作っていく。次に住宅と職場を建設して住民を住まわせるのだが,ここで本作の住民の種類について述べておかねばならない。
本作では「ロークラス」「フリンジ」「ブルーカラー」「ラジカル」「ホワイトカラー」「エリート」という6種類の住民が存在している。これらの住民の性格は,おおよそ次のようになっている。
- 「ロークラス」・・・・・・最下層の住民,貧しい
- 「ブルーカラー」・・・・・・保守的な価値観,まあまあの収入
- 「フリンジ」・・・・・・進歩的な価値観,まあまあの収入
- 「ホワイトカラー」・・・・・・保守的な価値観,高い収入
- 「ラジカル」・・・・・・進歩的な価値観,高い収入
- 「エリート」・・・・・・最上層の住民,最も裕福
つまり,住民の生活ランクが「ロークラス」「ブルーカラー / フリンジ」「ホワイトカラー / ラジカル」「エリート」の4階層に分かれており,中間の2階層は思想によって二つに分かれている,といった構造だ。思想はいわゆる「右翼」「左翼」的な傾向を表しているようで,これを日本に当てはめて考えてみると……と述べ始めると,多分に政治的な話題になってしまうので遠慮しよう。ともかく,要するにこの作品で描かれているのは,ちょっぴり生々しい階級社会の構造なのだ。
これら6階級は,下の画像のように円状の友好関係を持っていて,隣り合っているクラスの住民は仲良くできるが,対角にある住民同士は仲が悪く対立している。対立する住民同士は,職場は近くてもいいのだが,住居が近いとトラブルを起こす原因になる。
一人称視点で眺めていると面白いのだが,対立の第一段階では互いの住民の悪口を言い合ったり,対立する住民が通りかかると因縁をつけたりしている。それが激化してくると殴り合いの喧嘩や,抗議デモが始まる。最悪の状態は焼き討ちで,建物に火がついて火災になる。このあたりはさすが階級問題の存在する国,フランスのデベロッパの作品であると感じる部分だ。
よって,対立する住民同士が近隣に住まないよう,きちんと都市計画を立てて住宅地区を設置するのがプレイヤーの一大関心事となる。住宅を設置するときは「一戸建て」「小型住宅」「大型住宅」の3種類の中から選択するのだが,どの階級の住民を住まわせるかは選択できない。
実際にどの階級の住民が入居するかは,近くに職場があるか,公共サービスが近くにあるか,遊ぶ場所が近くにあるか,近隣に対立する住民が住んでいないかなど,さまざまな要素が複合されて自動的に決まる。そこであらかじめ「市役所のこっち側にはブルーカラーを」「反対側にはフリンジを」というように見通しを立て,計画的にほかの施設を建設して,うまく住民を区分けして入居させるようにするのだ。
住居と違い,職場は階級ごとに人員が決まっている。だから基本的には対立する階級の職場を離して建てて,その職場の近辺にそれぞれ住宅を建設すればいい。そうすれば,ブルーカラーの職場の近くにある住宅にはブルーカラーが入居し,フリンジの職場の近くにある住宅にはフリンジが入居するだろう。だがそう単純には済まない。
なぜかというと,多くの公共施設は,違った階級の住民を必要とするからだ。例えば一番基本的な医療施設である「診療所」では一人のブルーカラーが働いている。診療所はフリンジの住む地区にも設置しなければならない。すると診療所で働くブルーカラーはどこに住むのか,という問題になる。
もっと大きな施設を見てみよう。広大な効果範囲を持っている,大型の買い物施設「ショッピングセンター」を設置するとする。ここではラジカル1人,フリンジ4人,ブルーカラー2人,ロークラス2人,ホワイトカラー1人が働く。これら5種類の住民が,ショッピングセンターから通勤できる範囲に住めなければならない。住めるところがない場合はその施設は人員が確保できず,その施設の効果,効率は大きく低下してしまう。
ここで,本作において「ブルーカラーはどんな職業の人達なのか」などと,細かいことを考え出すと大変だ。例えば工場で働く人がブルーカラーなのは分かるが,本作では診療所の医者もブルーカラーである。一方,教師はフリンジのようだ。また,レストランではフリンジが1人,ブルーカラーが2人が働くらしいが,これは具体的にはどういう構成なのか(接客と調理?),などと考え出すと妄想が膨らみ興味は尽きない。まあ,実際はゲーム性の関係上,便宜的に6種類を振り分けているものと思われるわけだが。
このように考えていくと,よほどうまく都市計画を考えない限り,対立する階級同士が近隣に住まざるを得ない。だが,対立する住民同士が近くに住んでいても,それぞれの住民が今の生活に満足していれば,抗争は起こりにくいのである。
そこで市長の,公共サービスの腕の見せどころとなるわけである。もう一つの方法として,警察を利用して強制的に封じ込めるという策もあるが,このあたりの一連のシステムはPopTop Softwareの「トロピコ」にかなり近いものがある。
一人称視点で住民の生活を眺めていると,あっという間に時間が過ぎていく。これはロークラスの余暇施設「バスケットボールコート」 | ゲームの初期段階では上流階級は存在しない。そこで,大企業を使って中流階級をランクアップさせることが中盤のポイントになる | チュートリアルはあっさりしすぎていて,ちょっと不親切かも。だがゲーム自体それほど複雑ではないので,さほど問題ないだろう |
「おいちょっと待て」と言わんばかりに,フリンジの3人組に因縁をつけられるブルーカラー。階級対立の初期段階だ | 階級対立を放っておくと,やがて殴り合いの喧嘩に発展する。あのサッカー選手も真っ青の頭突きだ | 何に対して「No」かはともかく,要するに出て行けということらしい。このあたりで手を打たないと大惨事になるかも |
■無闇に奥が深すぎず,手ごろな中毒感が好印象
住民は満足度に応じて引っ越したり,転職したりする。お気に入りの住民は登録して,生活している様子を追いかけよう |
ややもすると,本作は「階級対立」が中心的要素と捉えられがちだが,筆者の感じた印象はまったく逆だった。
つまり,一つの社会を構成するには,さまざまな種類の人々が必要で,彼らがうまく共生することで,便利で住みやすい社会が実現できるのだということだ。例えばエリート層のみでは社会はまったく成り立たない。エリート層が住み着く街を維持するためには,ホワイトカラー,ブルーカラー,ラジカル,フリンジ,ロークラス,あらゆる階級を必要とする仕事(施設)が欠かせないのだ。
ただし「ロークラスに生まれたらずっとロークラス」といったふうに階級は固定化されたものではなく,どの階級も上流の階級になりたいという動機を持っていて,条件さえ揃えばそれが可能だ。より上流の階級のほうが,より多くの税金を納めてくれるので,住民の階級が上がっていくように積極的に支援していきたい。
プレイを始めてしばらくは,階級間の対立問題に頭を悩ませることになるかもしれない。だが本作の難度はそんなに高くないので,対立が起きないような都市開発のコツが分かってくれば,街を平穏に保つことはそう難しくない。むしろ,それぞれの階級の地区がはっきり区分けされることでメリハリの利いた都市景観ができ,純粋な箱庭ゲームとして楽しめるようになる。エリート層が住み始めると莫大な収入が入ってくるため,資金繰りにも苦労することはないだろう。
ところで,本作はいい意味でも悪い意味でもシムシティに似た作品なので,どうしても比較せざるをえない。正直なところ,本作は奥深さや細かさ,要素の多さではシムシティ4には到底及ばないと思う。というより,本作はかなり大胆にシンプル化を図っている。税率をいじったり,条例を決めたり,何かを取引したりといった行政の要素は本作にはほとんどない。電気や水道,消防や警察などは自動化されているし,火災以外の災害を起こしてみたりとかいった要素もない。交通問題も極めて簡略化されている。「自由に道路を敷き,好きな建物を建てる」ことがすべてだ。
反応も素早く,次の発展に必要な施設があれば,住宅地はただちに成長するし,その建物がなくなればあっという間にランクが落ちる。シムシティ4というのは,プレイ時間が経過して都市が発展していくと,それにつれて街並みがどんどん変化していくのが魅力の一つであるが,本作はじっくり成長を見守るような遊び方はなく,反応がいちいちアクティブである。複雑でウンザリすることはほとんどなく,簡単に箱庭シムの快感と中毒性が味わえる半面,物足りない部分でもあるといえる。
シティーライフは,自分の思いどおりの景観を作れる箱庭ゲームとしては,かなりいい出来だと思う。何よりも景色が美しくて,一市民の視点で自由に歩きまわれるというだけで大満足のクオリティだ。シムシティとは一味違った方向性を打ち出した都市開発シムとして,ぜひプレイしてみてほしい。
思いがけず救急車で運ばれる住民を目撃。喧嘩で負傷したのか,それとも病気にかかったのだろうか | 集団でダンスを楽しむ,ロークラスの住民達。六つの階級には,それぞれ異なった余暇の方法が用意されている | 観光スポットにリゾートホテルを建てれば大きな収入が期待できる。ちなみに右奥の船は,クルーズ船ではなく空母 |
なぜかスーツ姿でソフトボールを楽しむ,ホワイトカラーの住民達。仕事の合間にスポーツをしているのだろうか | 階級ごとに居住地区を分けるのが望ましいが,福祉と警察がしっかりあれば,異なった階級が混在していても大丈夫 | 日本ではあまりポピュラーではない,車内で映画を楽しめるドライブインシアター。これはブルーカラーの余暇施設だ |