» シリーズ累計で2300万本という驚異のセールスを誇るCommand & Conquerシリーズの最新作,「Command & Conquer 3: Tiberium Wars」を,アメリカ在住のゲームライター,奥谷海人氏がレビューする。発売前から欧米RTSプレイヤーの話題の中心だった本作。初代「コマコン」からずっとプレイを続け,シリーズの行方を追ってき奥谷氏の目は,今回の最新作をどのように捉えたのだろうか。
あのCommand & Conquerがついに帰ってきた!
Command & Conquerといえば,リアルタイムストラテジーというジャンルを築いたことで知られる名作シリーズだ。人間にとっては有害ながら資源として有用な,「タイベリウム」の独占をめぐって長い乱世の時代に突入した近未来の世界を舞台に,国際組織としてタイベリウム駆逐を目指すGDI(Global Defense Initiative)と,タイベリウムを使った独自の技術を発展させたカルト教団NOD (Brotherhood of Nod)の終わりなき攻防を描いたシリーズである。
詳しくは,筆者の連載「奥谷海人のAccess Accepted」の第118回「Command & Conquer歴史探訪」を参照してしていただきたいが,ユニットをマウスでコントロールするといった,従来作になかったようなユニークなゲームシステムを数多く搭載し,RTSをPCゲームの主要なジャンルへ導いた,「Command & Conquer」(1995年)以降の一連のタイトルの功績は,ゲーム史上特筆すべきだろう。
Command & Conquerシリーズには,「Red Alert」や「Generals」といった外伝シリーズを含めて6タイトルと7種類の拡張パックがリリースされている。2007年3月にリリースされた「Command & Conquer 3: Tiberium Wars」は,本家タイベリアンシリーズ久々の新作である。鉱物なのに植物のように広がっていくタイベリウムは,2047年までに地表を覆い尽くし,砂漠やジャングルなど,赤道付近を中心とする幅広い地域が“レッドゾーン”と呼ばれる人間の住めない環境になってしまった。
NODのリーダーであるケイン(Kane)は死んだと思われており,NODとGDIの戦闘は小康状態にあった。ところが,NODは突然GDIのミサイル基地を占領して宇宙ステーション「フィラデルフィア」を撃墜。彼らはアフリカやヨーロッパで活動を再開し,戦争はやがて,ケインが開発した液状タイベリウムをめぐる「第3次タイベリウム戦争」に発展していく。さらに,タイベリウムを嗅ぎ付けたScrinというエイリアン種族も登場し,世界情勢はさらに複雑なものになっていくのだ。
Command & Conquer 3のシングルプレイには,GDIとNODそれぞれに10種類程度のキャンペーンが用意されている。それぞれの地域は2〜4種類程度のマップで構成され,全体としてかなりのボリュームになっている。これらのキャンペーンは,マップごとに難度調整できるので,どうしてもクリアできない場合,敵AIの難度を落としてもいいだろうし,クリア後に難度を上げてプレイし直すことも可能だ。
三者三様に個性的で,遊び込むほどに面白くなる
大きなビルが整然と建ち並ぶマップもある。いったん戦闘になると,キレイな街路樹や電灯は爆走する戦車になぎ倒され,ビルは砲弾を浴びて破壊される。簡単な操作で複雑なことを行える操作性と,こうした迫力ある演出が,Command & Conquer 3の醍醐味の一つだ |
GDI,NOD,そしてScrinの3勢力は,まさに三者三様の性能や特殊能力を持っている。
伝統的に戦車を大量生産して後半のラッシュに持ち込むGDIには,アップグレードで臼砲を搭載できるPitbullや,歩く砲台ともいえるJuggernautなどが新登場する。ジェットパックを背負ったZone Troopersもなかなか使えるユニットだ。NODには,レーザービームや火炎放射器を使う兵士や戦車が登場し,クローキング機能で基地を守りながら,自爆兵であるFanaticsなどを敵地に送り込み続ける戦闘スタイルが面白い。Scrinは初期ユニットの使いこなしがやや難しいが,後半になると空軍力やシールド効果で戦闘力が増す。
Command & Conquer 3の特殊能力にはアビリティ,アップグレード,そしてサポートパワーの3種類があり,それぞれ施設を建てていくことで発揮される。敵地に落下傘部隊を送るとか,歩兵に回復能力を持たせるとか,エネルギーを放って相手の施設を一定時間停止させるといった機能を利用できるので,それぞれの勢力で特殊能力をうまく使えば,劣勢の挽回も十分に可能だ。
筆者の場合,キャンペーンをGDI勢力のシルバー(難易度:中)で開始したが,最初の頃のミッション目標は「敵の施設を破壊する」というようなシンプルなものばかりで,実際のところ,遊び始めた当初はそれほど好印象ではなかった。
しかし,利用可能なユニットが増えるヨーロッパ戦線へと移る頃にはグイグイと惹きつけられ,やがてScrinが登場するようになると,ゲームの印象が大きく変わっていった。NODの誇るロボット兵器,Avatarを回収して自分の部隊に加え,しかも敵の戦車の部品を奪って火炎放射やステルスといった機能を付け加えたとき,あるいはScrinのハーベスターを破壊してイオンストームを発生させたとき,さらにはコマンドが数十人を瞬殺するようなレベルに達したときなど,かなり気分が高揚するのを感じたのだ。
Command & Conquer 3に用意された資源はタイベリウムのみだが,事はそう単純ではない。ゲームが始まると,このタイベリウムを精製するための施設を各勢力が築き,それから発電所や人材養成所,軍事工場,研究所などを次々に建設していく。
中でも「電力」はトリッキーで,消費量の多い施設やタレットなどの防御施設を建てすぎるとすぐに停電を起こしてしまう。停電するとミニマップ(Tactical Computer)が使用不可能になるので,やっかいなことになる。新たな発電所を建てるまでは,あまり利用していない施設への電力供給を止めて調整するなどの処置が必要となり,タイベリウムの収集とはまた異なる管理スキルが要求されるところも,ゲームの面白さを増している。
使いやすいインタフェースとオンライン対戦が
本作の魅力
ゲームの操作は非常に簡単で,あまりRTSに慣れていないプレイヤーでも無理なく遊べるだろう。もちろん,上級者向けにホットキーの設定やカスタマイズなども可能。右サイドにあるメニューやタブも使いやすく,カーソルを合わせるだけで説明文が表示される。カメラ位置もホットキーに登録しておくことができ,さらに敵の来襲もミニマップ上に表示されるなど,インタフェースやコマンドは全体的にシンプルで使いやすく,洗練されたレイアウトになっている。
Command & Conquer 3で忘れてならないのが,シリーズの伝統であるFMV(役者を使ったフルモーションビデオ)だろう。「Command & Conquer: Generals」では外されたフィーチャーであり,またカメラが動かない,いわゆる「1シーン1カット」の技法にハリウッドのB級映画っぽさを感じるが,やはりFMVがないとCommand & Conquerらしくない。
出演するのは映画「スター・ウォーズ」のランド将軍役でおなじみのビリー・ディ・ウィリアムス(Billy Dee Williams)や,「スターシップ・トゥルーパーズ」のラスチャック軍曹を演じたマイケル・アイアンサイド(Michael Ironside),そしてアメリカのSFファンに人気のTVシリーズ「Battleship Galactica」に出演するグレース・パーク(Grace Park)やトリシア・ヘルファー(Tricia Helfer)。もちろん,Command & Conquer第一作以来ケイン役を務めるジョー・クーカン(Joe Kucan)も登場し,彼らの熱演が同作の大作らしいイメージ作りに貢献している。
ゲーム開発当初からオンライン対戦ゲームシーンへの復活をかけて練り上げられていただけに,マルチプレイモードはCommand & Conquer 3の華と言っていいだろう。プレイヤーは,友達やランキングに合わせた相手を自動検出して対戦できる。必ずしもランキングシステム(ランク・ラダー)に加わる必要はないのだが,プレイヤーのランキングポイントは勝ち負けに以外にスキルやスポーツマンシップなどを勘案して自動算出され,何千という世界中のプレイヤーの加わるランク・ラダーを上下することになるのである。
Command & Conquer 3にはVoIPによるボイスチャット機能も備わっているが,これは本作のオンライン競技モード「Battlecast」の大きな武器となっている。Battlecastは,対戦モードの生中継を可能にしたブロードキャストシステムだ。どのプレイヤーの視点にも切り替えられるのはもちろん,観客が自由にカメラを動かしたり,コメンテーターの解説をオンにしたりもできる。観客がゲームに悪影響を及ぼさないよう観戦者枠の設定があり,10〜120分ほどの「時差」が設けられているが, LANイベントの醍醐味であった要素をインターネットで実現しているわけだ。
ゲーム発売直後には,オンラインに接続できないなど,とくにマルチプレイモードでさまざまな問題が報告された。しかし,発売から1か月ほどで3種類のパッチが矢継ぎ早にリリースされるなどの処置が施され,問題はかなり減っている。パブリッシャのElectronic Artsが本作にかける意気込みが伝わってくるようだ。また,すでにWorld Cyber Games 2007の公式種目にも選定されており,競技としてのCommand & Conquer 3の飛躍にも期待できそうだ。
斬新さは少ないが,エンターテイメントとしての完成度は高い
映画「インディペンデンス・デイ」を思わせるScrinのマザーシップは,Scrinでプレイするときには必ず利用したいユニットだ。非常に高価なうえに,ゆっくり移動するため,敵地に近づくと大反撃を受けてしまうが,うまくビームを撃てれば,目標周囲の敵施設やユニットまで連鎖的に爆発して迫力満点。また,敵がマザーシップを出動させるとアナウンスが流れるので,早めに対処しよう |
オンラインプレイが中心だとすると,ハードルが高いと思う人もいるだろうが,Skirmishモードでも十分に長い間楽しめる。これは,2〜8人分のマルチプレイ用のマップを使い,敵勢力をコンピュータに任せるBOTマッチのようなものだ。キャンペーンと同じように難度の設定が可能で,3勢力の好きな組み合わせを選べるうえ,敵勢力の戦略を攻撃的や守備的といった感じで調整できる。マップの数は20種類と少なくないし,Kane Editionではさらに五つが追加されるなど,Skirmishのボリュームも満点だ。
フルオーケストラの重厚な響きで戦場らしさを演出するサウンドは出色。それぞれのユニットのセリフ数は多くないが,「なんだ? あの巨大な建物は!」といった,状況に合わせた兵士の叫び声がところどころで使用され,戦闘の臨場感は十分だ。
SAGEエンジンによるゲームのグラフィックスは素晴らしく,破壊できるオブジェクトも多い。爆破のエフェクトは見た目も派手だし,ヘリコプターが起こす気流に舞う砂埃や,ハーベスターによって運ばれてきたタイベリウムが処理される精製所のアニメーションなど,細かな仕事にもぬかりはない。
確かに本作は,最近のRTSにとって必須といえる「ほかと違う斬新な要素やゲームプレイ」には欠けるかもしれない。Command & Conquerシリーズの設定やゲームの基本システムは従来のままで,グラフィックスやエフェクト,そして演出を強化しているだけ,と言ってしまうこともできるかも知れない。
ただ,そうであったとしてもなおCommand & Conquer 3が輝いているのは,Electronic Artsの追求するエンターテイメント性の高さゆえではないだろうか。それぞれの勢力に用意された特殊能力を駆使し,プレイヤーがその時々の状況に合わせた戦略を考えるという,RTSの基本中の基本に沿ったゲームシステムを徹底的に練り込んでいるのだ。ユニットには個性があり,ゲームの進行はアップダウンを繰り返して飽きることがない。
リアルタイムストラテジーのジャンルをまた一歩推し上げるような革命的ゲームではないにせよ,プレイアビリティやグラフィックス,サウンドやマルチプレイなど,一つ一つの点を確実かつ完璧にこなしているのである。Command & Conquer 3: Tiberium Warsが今年の傑作の一つに数えられることは間違いないだろう。