― レビュー ―
CatalystのデュアルコアCPU最適化状況報告
Catalyst 6.1
Text by Jo_Kubota
2006年2月13日

 

 つい先日Radeon X1800が登場したかと思えば,間髪入れずにRadeon X1900が登場し,OEM先となるカードメーカーからの製品ラッシュが続くRadeonシリーズ。その屋台骨を支えるグラフィックスドライバ「Catalyst」も,(一部例外はあったが)毎月順調に更新を重ねている。

 

 グラフィックスドライバは,導入して「はい,終わり」というものではない。主な目的は確かに――本誌がアップデートのたびに記事としてお伝えしているように――ゲームにおけるさまざまな不具合が解決するなどといったバグフィックス。だがその一方で,デュアルグラフィックスカードソリューション「CrossFire」に対応したり,それこそ新しいグラフィックスチップを利用可能になったりといった,“新しいもの”への対応が盛り込まれることもあるからだ。

 

 そして,Catalyst 5.12で加わったのが,デュアルコアCPUへの最適化である。既報のとおり,NVIDIAのグラフィックスドライバであるForceWareは,Release 80世代でデュアルコアCPUへの最適化を実現しているが,これを追っての対応,ということになる。

 

 「デュアルコアCPUへの最適化」とは何だろうか。ATI TechnologiesはこのデュアルコアCPUへの最適化について,詳細をまったく語っていないが,日本法人であるATIテクノロジーズジャパンは本誌の取材に対し「Direct 3D周りの処理系がマルチスレッド化されている」と回答する。
 要するに,Athlon 64 X2やCore Duo,Pentium Dだけでなく,マルチスレッド処理が可能なHyper-Threadingテクノロジ対応のPentium 4でも,恩恵を受けられるというわけである。また,Direct 3D周りが最適化されている以上は,Direct 3D対応ゲームなら,基本的にすべてのタイトルにおいて,メリットがあるはずだ。

 

 では,グラフィックスドライバレベルのマルチスレッド対応は,ゲームの体感速度向上に,どれくらい効果があるのだろうか? 今回は,この点を調べてみたいと思う。

 

 

■デュアルコア/シングルコアAthlon 64で比較

 

 というわけで,まず最初にお断りを。2006年2月13日現在の最新版はCatalyst 6.2だが,テストタイミングと機材調達の都合上,今回はCatalst 6.1を利用しているので,この点はご了承いただきたい。

 

 CPUは今回,デュアルコアCPUとシングルコアCPUの違いを見るため,以下のとおり,4製品用意した。

  • Athlon 64 X2 4800+/2.4GHz(Toledoコア)
  • Athlon 64 4000+/2.4GHz(San Diegoコア)
  • Athlon 64 FX-55/2.6GHz(San Diegoコア)
  • Athlon 64 FX-57/2.8GHz(San Diegoコア)

 Toledoコアのスペックは“San Diegoコア×2”とほぼイコール。このため,動作クロックが同じAthlon 64 X2 4800+とAthlon 64 4000+をまず比較すれば,デュアルコアCPU利用時におけるゲームパフォーマンスの違いは分かるはずだ。続いて,Athlon 64 FX-55,あるいはFX-57とAthlon 64 X2 4800+を比較することで,デュアルコアCPUが,シングルコアCPU換算でどのあたりまでスコアを伸ばすかが分かる,というわけである。

 

Extreme AX1800XL/2HDTV
実勢価格:5万2000円前後
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 今回用意したグラフィックスカードはASUSTeK Computer製のRadeon X1800 XL搭載製品「Extreme AX1800XL/2HDTV」。このほか,上で挙げたCPUを除くテスト環境はのとおりだ。
 なお本稿では以下,Catalyst Control Centerから垂直同期のみオフに設定した状態を「標準設定」,強制的に4倍(4x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを提供した状態を「4x AA&16x AF」と呼ぶ。
 テストには本誌定番の「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)「Quake 4」「Battlefield 2」「TrackMania Sunrise」と,Catalyst 5.12で「特定シーンにおいて最大25%のパフォーマンス向上」と謳われている「Far Cry」を用いることにした。また,あくまで参考程度となるが,「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)でもスコアを計測している。

 

 

 

■Direct3Dタイトルでは恩恵が

 

 では,さっそくベンチマークテストに入っていこう。まず,3DMark06のテスト結果をグラフ1にまとめてみた。4Gamerではまだ3DMark06のスコアについて,十全な判定基準をまだ持っていないので,多くを語ることはしない。「3DMark06はデュアルコアCPUへの最適化が行われているので,Catalystのバージョンがどうあれ,デュアルコアCPUではいいスコアが出るようだ」ということを,参考程度に見ておいていただけるとありがたい。

 

 

 というわけで3DMark05である。スコアはグラフ2〜5にまとめたが,ここで重要なのは,スコアがほぼ100%グラフィックスチップに依存するフィルレートやピクセルシェーダ(Pixel Shader)性能が(当たり前といえば当たり前だが)まったく向上していないこと。グラフ2で読み取れるように,Athlon 64 X2 4800+のスコアは,同じ動作クロックのAthlon 64 4000+よりも高いが,これは,グラフィックスカード側の性能以外によってもたらされているというわけだ。

 

 

 実ゲームベンチマークに移ろう。一つめはQuake 4だが,ここでは,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイ利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測している。
 なお,Quake 4に対しては,デュアルコアCPUに最適化された公式βパッチが提供されているが,今回はあくまで,CatalystのデュアルコアCPU最適化を見るため,このパッチは適用していない。

 

 結果はグラフ6にまとめたとおり。デュアルコアCPUへの最適化効果は,まったくないといっていい結果が出た。
 よくよく考えてみると,Quake 4はOpenGLベースのタイトルである。そして,先ほど説明したように,ATIテクノロジーズジャパンによれば,Catalystの最適化はDirect3Dに対して行われている。断定まではできないが,少なくともCatalyst 6.1では,OpenGLへの最適化が行われていない可能性が高い。

 

 

 そこで,純然たるDirectX対応タイトルとなるBattlefield 2のスコアを見てみることにしよう。Battlefield 2では,「Dragon Valley」というマップで実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」で平均フレームレートを計測。スコアはグラフ7にまとめた。
 すぐに分かるのは,負荷の軽い1024×768ドットの標準設定だと,Athlon 64 X2 4800+は,実クロックで400MHz高いAthlon 64 FX-57に迫るスコアを出していること。また,高解像度になると,グラフィックスチップ側がボトルネックとなり,デュアルコアCPUを利用することのメリットが感じられなくなることだ。ドライバレベルにおけるマルチスレッド対応の限界が,ここに見て取れる。
 また,1024×768ドットであっても,4x AA&16x AFだとスコアを落としており,ドライバ側の完成度がまだ十全ではないという印象も受けた。ちなみに,このスコアは初回計測時のものだが,おかしいと思われたスコアに関しては何度か計測し直して,再現性を確認している。

 

 

 TrackMania Sunriseにおいては,1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートをBattlefield 2と同様,Fraps 2.60で測定している。
 結果はグラフ8のとおりだが,描画負荷の軽いゲームだけあって,高解像度かつ高レベルのフィルタリングを適用しても,デュアルコアCPUの恩恵を十分に受けられている。差の大小はあるものの,すべてのテスト条件下でAthlon 64 X2 4800+がAthlon 64 FX-57を上回っているのが,非常に興味深い。今後,グラフィックスチップの性能が向上し,相対的に描画負荷が下がっていけば,デュアルコアCPUのメリットが高まっていくことが期待できる結果だ。

 

 

 最後に“デュアルコアCPUによるパフォーマンス向上のお墨付き”があるFar Cryである。同タイトルにおいては,HardwareOCの非公式ベンチマークソフト「Far Cry Benchmark v1.4.1」を利用し,平均フレームレートを計測した。
 結果はちょうど,Battlefield 2とTrackMania Sunriseの中間,といったところだろうか。1600×1200/1280×1024ドットの4x AA&16x AF適用時には,さすがにグラフィックスチップがボトルネックになっているようだが,それ以外ではAthlon 64 4000+に対して,安定的に6〜7%のスコアアップを果たしているのが分かる(グラフ9)。

 

 

 

■デュアルコアCPUは“まだ早い”が,可能性はある

 

 2006年2月中旬時点で,実勢価格はAthlon 64 X2 4800+が8万円前後,Athlon 64 4000+が4万円前後。2.4GHzで動作するCPUコア1個当たり4万円というわけで,価格差は妥当といえば妥当だが,Catalystによるパフォーマンス向上は2倍には遠く及ばない。
 ただ,デュアルコアCPUのユーザーなら,Catalyst 5.12以降で「何の追加投資もなく,フレームレートが向上する」点も,テスト結果からは明らかになっている。もちろん,特定のゲームではスコアが上がらなかったり,むしろ下がっている例も見られるが,デバイスドライバに実装される新機能など,グラフィックスに限らず,最初はたいてい穴だらけ。使いながら,できればメーカーに問題を報告しつつ,気長に待つのが正解だ。

 

 先に紹介したQuake 4だけでなく,今後はマルチスレッド(≒デュアルコアCPU)最適化パッチが提供されたり,あるいははじめから最適化されたりしたゲームが少なからず登場するだろう。それに賭けてデュアルコアCPUを購入する,というのはいささかギャンブルが過ぎるかもしれないが,これからPCを購入するときには,「少なくもグラフィックスドライバレベルでのマルチスレッド最適化は,ATIもNVIDIAも済んでいる」ことを,頭の片隅に入れておくことを勧めたい。

 

タイトル ATI Catalyst
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 - 価格 無料
 
動作環境 N/A

(C)2007 Advanced Micro Devices Inc.