― レビュー ―
初の“デュアルコアFX”Athlon 64 FX-60はゲーマー向け最速CPUであり続けるのか
Athlon 64 FX-60
Text by 宮崎真一
2006年1月10日

 

 AMDは2006年1月10日14時1分,Athlon 64 FXシリーズの最上位モデルとなるAthlon 64 FX-60/2.6GHz(以下FX-60)を発表した。
 FX-60の正式名称は「Athlon 64 FX-60 デュアルコア・プロセッサ」で,その名のとおり,Athlon 64 FXブランドとしては初のデュアルコアCPUとなる。CPUコアはAthlon 64 X2 4800+/2.4GHz(以下4800+)と同じToledo(トレド)。スペックは表1にまとめたとおりだが,Athlon 64 FXシリーズでこれまで最上位に置かれていたAthlon 64 FX-57/2.8GHz(以下FX-57)ではなく,4800+の上位モデルといっていい内容になっている。

 

 

CPU-Zでスペックを確認してみた。一部取得できていない情報があり,CPUロゴも異なるが,製品名はきちんと読み取れている

 FX-57をリリースするときAMDは「ゲームなどのシングルスレッドのアプリケーションにおける最高パフォーマンスを提供するため,Athlon 64 FX-57はシングルコアのまま動作クロックの向上を実現した」と説明していた。それを考えると,このFX-60はAthlon 64 FXシリーズにとって大きな方向転換である。
 しかも,FX-60はFX-57と同価格帯,つまり13万円前後での発売が予定されている。「Athlon 64 FXシリーズの最上位に,シングルコアだけでなくデュアルコアの選択肢も用意された」わけで,モデルナンバーこそFX-57の上位に当たるFX-60だが,価格的には,どちらが上位というわけでもなさそうだ。
 では,FX-57と比べて「動作クロックが200MHz下がり,コアの数は2個になった」という変更は,ゲームにおいてどう影響してくるだろうか? 依然としてシングルスレッドのアプリケーションがほとんどのゲームにおいて,2006年に登場してきた最上位のデュアルコアCPUは,どのようなパフォーマンスを見せるだろうか。

 

 

■ドライバ次第で高いパフォーマンスを発揮するFX-60

 

 今回比較対照用にしたのは前出のFX-57と4800+のほか,FX-60と同じクロックで動作するシングルコアCPUであるAthlon 64 FX-55(以下FX-55),“4800+のシングルコア版”に当たるAthlon 64 4000+(以下4000+)。また,マザーボードなどの基本構成が変わってしまうので,CPU同士の直接比較にはならないが,先日発表されたばかりのPentium Extreme Edition 955/3.46GHz(以下Pentium XE 955),そして最高クロックのPentium 4であるPentium 4 670/3.80GHzも用意している。詳細は表2を参照してほしい。また,3Dアプリケーションのテストは,垂直同期をオフにするのと,解像度を変更する以外は,いっさい標準設定のまま変更せずに行っている。

 

 

 さて,まず3DMark05 Build 1.2.0(以下3DMark05,グラフ1)を見てみると,ここでは(差の大小こそあれ)FX-60がどの解像度においても最も高い結果を残した。4800+やPentium XE 955のスコアも動作クロックを考えると良好であり,デュアルコアCPUであることが,結果に好影響を与えているのが分かる。
 もっとも,現状で3DMark05ほど負荷の高いゲームタイトルは存在せず,3DMark05の結果とゲームのパフォーマンスをイコールで考えるのは少々危険だ。

 

 

 というわけで,「Quake 4」において,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイ利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測してみた。その結果がグラフ1だが,ここではAthlon 64 FX中最高クロックのFX-57が最も良好なスコアを見せている。本誌で幾度となく指摘している「(現時点では)コアの数よりも動作クロックのほうがゲームパフォーマンスへの影響は大きい」ことを,ここでも確認できた。

 

 ただし,FX-57に劣るとはいえ,FX-60のスコアがクロック分(200MHz分)低いわけではない。NVIDIAのグラフィックスドライバは,デュアルコアCPUに最適化されているが,2006年1月上旬時点の最新版であるForceWare 81.89では,同一シリーズコアで,1クロックグレード上のCPUに迫るだけのデュアルコア最適化が,Quake 4では実現されているといっていいだろう。

 

 

 続けて,「Battlefield 2」のベンチマーク結果をグラフ3にまとめてみた。本タイトルでは,「Dragon Valley」というマップで実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」で平均フレームレートを計測している。
 Battlefield 2は,ネットワーク,あるいはサウンド周りが一部マルチスレッド化されていると思われるが,それを裏付けるように,1024×768ドットと1280×1024ドットで,FX-60がFX-57を上回った。ドライバとアプリケーション側が対応していれば,デュアルコアCPUは1クロックグレード上のCPUを凌駕できる可能性が十分にあるといえそうだ。
 興味深いのは,論理4コアCPU(デュアルコア+Hyper-Threading対応)であるPentium XE 955のスコアが高い点だ。Battlefield 2は,4スレッド(あるいはそれ以上)のマルチスレッド化が実現されているのかもしれない。
 なお,Pentium 4 670も含めて,高解像度環境でスコアが落ちない理由は断定できないが,ひょっとするとL2キャッシュ容量の多さ(いずれもコア当たり2MBで,Athlon 64の倍)が効いている可能性はある。

 

 

 2006年においては“軽すぎる”レベルのゲームに当たるTrackMania Sunriseのベンチマークスコアをまとめたのがグラフ4だ。TrackMania Sunriseでは,1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートをBattlefield 2と同様,Fraps 2.60で測定している。

 

 グラフ4で顕著なのは,FX-60と4800+のスコアが非常に高い点だ。同一動作クロックのシングルコアCPUと比べて,10fps前後高いというのは大きなインパクトだ。ゲームアプリケーションが最適化されていなくても,ForceWareで行われているデュアルコア最適化がうまく作用したケースでは,これだけのパフォーマンス向上が図れるというわけである。

 

 

 とはいえ,FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3のように,デュアルコアCPUのメリットがまったくなく,純粋にシングルスレッド性能がスコアに直結するものもあることは覚えておいたほうがいいだろう(グラフ5)。こういったゲームだと,FX-60のパフォーマンスは同じ2.6GHzで動作するFX-55と変わらなくなる。

 

 

 

■デュアルコア採用で高負荷時の消費電力が上昇

 

Cool’n’Quietが有効になったところ。最低1.2GHzまで動作クロックは落とされる

 ゲームにおけるポテンシャルに続いて,CPUの消費電力を比較するために,各CPUを利用した場合におけるシステム全体の消費電力を,ワットチェッカーで計測してみた。OSを起動してから30分間放置した状態を「アイドル時」,午後ベンチを30分間実行した状態を「高負荷時」とし,アイドル時はAMDとIntelそれぞれの低消費電力化技術であるCool’n’Quiet(以下CnQ)と拡張版Intel SpeedStepテクノロジ(以下EIST)の有効/無効それぞれでテストを実施。ただし,Pentium XE 955はEISTに対応していないので,同製品の「CnQ&EIST有効」時のデータは無効時のデータを流用している。

 

 結果はグラフ6にまとめたとおり。アイドル時こそ,ほかのAthlon 64シリーズとあまり変わらないFX-60だが,高負荷時には190Wと,シングルコアCPUと比べて消費電力はかなり高くなる。Pentium XE 955やPentium 4 670よりは50W以上低いものの,それは比較対象が悪すぎるだけ。FX-57とは24W,4000+とは49Wものの開きがあるFX-60の消費電力は,かなり大きい印象を受けた。

 

 

 消費電力が高いとCPU温度が高いことも容易に想像がつく。そこで,Athlon 64シリーズではマザーボード付属のユーティリティである「ASUS PC Probe」で,Pentium XE 955とPentium 4 670については同じくマザーボード付属の「Intel Desktop Utilities」で,CPU温度を計測してみた。CPUクーラーとして,Athlon 64シリーズは4000+リテールパッケージ付属のもの,Pentium XE/4シリーズはPentium XE 955付属のものを利用している。
 結果はグラフ7にまとめたが,結論からいうと,突出して高いわけではなかった。今回テストしているAthlon 64シリーズの中で最も発熱が多いのは確かだが,FX-57との差はわずかに2℃であり,消費電力ほどの開きはない。FX-60の冷却に当たって,特別な配慮が必要ということはなさそうだ。

 

 

 最後に,ゲーム以外の一般的なWindows操作におけるパフォーマンスを,PCMark05で計測してみた結果がグラフ8だ。マルチスレッド対応アプリケーションや,Windows上で同時に複数の作業を行う場合におけるデュアルコアCPUのメリットは「PCMark」のスコアから明らかである。具体的に,どういったテストでシングルコアCPUに対してメリットがあるかは,別途グラフ9〜11にまとめてみたので――ゲームとは直接関係ないから言及しないが――興味のある人は下のリンクからグラフを開いてみてほしい。

 

 

 

■微妙な存在だが“伸びしろ”はあるFX-60

 

 FX-60では,グラフィックスドライバのデュアルコアCPU最適化(=マルチスレッド化)により,現時点でもゲームによってはデュアルコアCPUの恩恵が受けられる。また,マルチスレッド対応ゲームであれば,プラスαのパフォーマンス的なメリットがある。

 

 しかし,シングルスレッド対応で,グラフィックスドライバのデュアルコアCPU最適化の恩恵を受けられないゲームが,依然として存在するのは確か。そういったゲームでは,FX-57のように,動作クロックの高いCPUを利用したほうが快適にプレイできる。また,今回は試していないが,ATI TechnologiesのグラフィックスドライバであるCatalystのデュアルコア最適化度合いは,当然ForceWareとは異なるはず。今回のテスト結果と同じ結果がRadeonシリーズを利用したときにも得られるかは未知数だ。

 

 さらに述べるなら,AMDのロードマップ上,Socket939対応のCPUはこのFX-60で“打ち止め”になる可能性が高い。AMDはすでに次世代CPUソケット「Socket M2」の導入を決定していると言われており,これは早ければ2006年第2四半期にも登場する予定だ。Socket AM2世代では,メインメモリがDDR2 SDRAM対応になるなどのスペック拡張が行われ,現行のSocket939マザーボードだと次世代Athlon 64は利用できなくなる。

 

 そういう意味で,ゲーマーにとってのFX-60は,パフォーマンスメリットが不確実で,時期的にも微妙な立場の製品だ。確実に最速を狙いたいのであれば,手持ちのFX-57やFX-55でSocket M2まで待って,一気にシステム全体を買い換えるほうがいい。
 もっとも,ゲームタイトルによってはFX-57よりパフォーマンスが高い場合があり,ドライバやゲームアプリケーションによって今後少しずつもたらされる“伸びしろ”が魅力的なのは事実。AMDの次世代プラットフォームが安定するまでに時間がかかることを見越して,長期的に最速レベルのPCを使っていきたいのであれば,(最終的には13万円という価格との相談になるが)それほど悪い選択肢ではないのも,また確かだ。

 

タイトル Athlon 64
開発元 AMD 発売元 日本AMD
発売日 2003/09/24 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

Copyright 2006 Advanced Micro Devices, Inc.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/athlon_64_fx-60/athlon_64_fx-60.shtml