― レビュー ―
今度のテーマは貨物輸送と高密度トラフィック
ぼくは航空管制官2
セントレア・中部国際空港
Text by 虹川 瞬
2006年10月20日

 

ロングセラーシリーズの最新作は
最新の国際空港が舞台

 

舞台となる中部国際空港・セントレアには,アジアを中心とした世界各国の航空機が登場する

 国産PCゲームのロングセラーシリーズというと,始まりがMS-DOS時代にまで遡れるようなものが多い。逆に言えば,Windows時代になってからシリーズとして定着したタイトルが少ないわけで,これはちょっと寂しい話かもしれない。そんななか,Windows時代にデビューし,20本近いシリーズ作品を誇るのが,テクノブレインの「ぼくは航空管制官」および「ぼくは航空管制官2」のシリーズだ。「2」の最新作「セントレア・中部国際空港」を紹介しよう。

 「ぼくは航空管制官2」は,名前のとおり空港の管制業務をテーマにした,シミュレーション風アクションパズルだ。舞台となるのは国内各地の空港で,原則的に作品1本で1空港が取り上げられる。本作で登場するのは,タイトルがそのまま示すとおり,国内で最新の国際空港であるセントレア=中部国際空港,というわけだ。
 プレイの概要は,当サイトで以前取り上げた「新千歳Snowscape」の記事を参照してほしい。プレイの手順や操作方法はほぼシリーズ共通だ。となるとシリーズ各作品は,マップ違いの単純なバリエーションのように思われがちなわけだが,実際には作品ごとにかなり違ったプレイ感覚が楽しめる。
 これはまず,舞台となる空港の現実の特徴が,ゲーム性や雰囲気の差となって現れるからだ。もう一つ,そうした現実の特徴を生かして,空港ごとに独自性のある,ゲーム的なイベントを盛り込んだシナリオが作られている点も見逃せない。
 以前取り上げた「新千歳」の場合,前者は例えば「自衛隊・民間共用」という要素,後者は「冬季の除雪作業」が発生するシナリオとして,それぞれ実現されていた。では,本作「セントレア」の特徴とは何だろうか? ゲームプレイそのものに関わる部分から見ていこう。

 このシリーズでは当然ながら,空港のレイアウトがプレイに大きな影響を与える。例えば成田空港は用地買収事情もあって,地上誘導経路が長く,手順もほかの空港に比べて複雑だ。本シリーズの「成田」では,それが特徴となっている。ではセントレアは,と見ると,人工島に作られた最新の空港であるため,レイアウトは非常に合理的かつコンパクトで,滑走路も1本しかない。ある意味では面白みには欠ける空港といえる。だがそうであるがゆえに,運用も冷静かつ合理的に行われる必要がある。そう,どんなに忙しくても,沈着冷静に合理性を保って,である。

 

標準設定では一体化したウィンドウでゲームが実行される(デモやステージ選択メニューは,設定を問わずこの形状になる)。解像度は800×600ドット程度だ。この画面で上から3分の1ほどのところにあるボタン部分を操作して,ゲームを進めていく ディスプレイが1024×768ドット以上の解像度に対応していれば,飛行機や空港が描画されるビューウィンドウを,分離/最大化して表示できる。描画性能が十分なら,800×600ドットのプレイ環境に比べて,3D画面をより楽しめる設定といえる 1280×1024ドットが表示可能なら,レーダーウィンドウも分離することで,駐機スポットや進入経路指示の情報が見やすくなる。最近ノートPCでよくあるWXGA(1280×768ドット)でも,ビューウィンドウが少し隠れるものの,利用可能のようだ

 

航空機のモデリングは独特のデフォルメで可愛らしく描画されるが,ゲーム内容はコミカルなものではない。リアルタイム要素が多少あるものの,ゲームとしてはむしろ大人向けのタイトルだ 進行の概要を示すチュートリアルは用意されているが,まずは練習ステージをプレイしておいたほうがよいだろう。テクノブレインのサイトには,羽田空港を舞台にした無料体験版が用意されている ゲームは全6ステージで構成されている。各ステージの内容をよく見ると,空港の朝から宵の口までを,時間進行とともに追っていく構成になっているのが分かるだろう。6ステージでもやり応えは十分

 

 

高密度のトラフィックをどう冷静に捌くか

 

空港サイズに比較して発着機の数が非常に多い。賑やかな雰囲気を「楽しめる」までには,けっこうプレイしがいがあるはずだ

 「ぼく管2」シリーズの楽しさというのは,仕事が猛烈に詰まった「修羅場」を切り抜ける快感にある。致命的なミスを犯すと一発ゲームオーバー,ときには30分近くなるそれまでのプレイがパーという,ルールとしてはシビアなものだ。そのなかで,「こんなのこなせるのか」と思った状況を,見事切り抜けてみせる満足感がプレイのモチベーションである。こうした点で言えば,「セントレア」はシリーズ歴代作品のなかでも,かなり「楽しめる」作品だ。

 プレイヤーには,細かい指示をしっかり行うことが要求される。例えば地上や進入時の経路指示を行うときには,「プッシュバック方向の選択」や「進入経路の選択」が手順に入ってくる。これは,紹介済みの「新千歳」や,同じ国際空港を扱った「成田完全版」にはなかったものだ。また,待機スポットから乗降スポットへの移動も,移動先スポットとして指示する形になった。これには,誤って駐機済みスポットを指示してしまう危険がつきまとう。
 また(これは「関空」からだが),管制対象になる航空機の便数も,発着便各5から各7へと増えている。時には着側が7枠全部,発側が5枠くらい埋まるという状況になり「滑走路1本でこれだけこなすの!?」と思うくらい,忙しい思いをすることになる。
 さらに,一部は従来作とも共通するが,事故/トラブル系のイベント/シナリオも用意されている。落下物による誘導路閉鎖や,濃霧による空港全体の閉鎖のあと,たまった発着便を消化していくシナリオなど,バリエーションに富んだ状況に遭遇する。
 そうしたなか,プレイヤーは努めて冷静に業務を消化していくのだ。本作では,その醍醐味がたっぷりと,本当にたーっぷりと味わえる。ステージ1-3に限りなく再チャレンジを繰り返した筆者が保証しよう。シナリオ完遂後には,今度はノーストレスでのクリアという目標がある(「ストレス」は,致命的でない指示遅れに対して課せられるペナルティ)。6本のシナリオは,決して少なくはないのだ。

 

セントレアの全景。長い滑走路に隣接する形で,駐機スポットが配置されている。滑走路が1本であるのに比べると,駐機スポットの数はたいへん多く,発着する便数もかなり多めである 到着機が空港に接近する方向によっては,進入経路を指示しなければならない。足の遅い貨物機の場合,後から来る旅客機に追いつかれたりしないよう,素早く的確な判断が必要 滑走路は3500mと長大なため,着陸機にはどこで誘導路に入るか指定する(これがグラウンド管制への移管を兼ねる)。発着機が混んでいるときなど,遠いほうの出口をうまく使うとよい場合も

 

一瞬の判断ミスがゲームオーバーに直結するのが「ぼく管2」のプレイ。空中でニアミスを起こしたり,地上誘導時に飛行機同士が互いに進路をふさいでしまったりすると,一発でゲームオーバーだ 最終ステージでは,一度に10以上の航空機を管制下に置く状況も生ずる。多少ストレスが発生してもステージクリアは見込めるが,パニックに陥って致命的な命令ミスをしてしまうことも 飛行機を長時間指示待ちさせると「ストレス」が発生し,ストレスボーナス点が1000点から減点されていく。ストレスを一切与えずにステージをクリアすると,逆に1000点が加算される

 

 

華やかな国際便と
輸送機を含む多彩な機体が登場

 

専用の港を持つ中部国際空港にとって,輸送機は陰の主役といえる存在。本作でもテーマの一つとして取り上げられている

 さて話を変えて,空港ごとのもう一つの特徴である,雰囲気について。本作は,登場する機体や航空会社が多彩である点も大きな特徴になっている。新鋭の国際空港だけあって,数多くの外国航空会社の機体が登場し,全体に華やかだ。国内に関しても,本作でしか見られない,全日空機のボーイング737-700型・1番機「Gold Jet」が姿を見せてくれる(この機は実際に,セントレア−台北便に就航している機体だ)。土地柄,トヨタ自動車のチャーター機であるビジネスジェットが出てきたり,JAL系列のJ-Airに所属する小型ジェット機がタッチ・アンド・ゴー訓練をしたりと,イベントのバリエーションも豊富だ。
 また,本作では貨物便が重要なテーマとして取り上げられている。本作では,荷物を搭載した貨物便は「Heavy」という特徴つきで扱われる。これらはたいてい,同時に(従来はプロペラ機にだけついていた)「Slow」という特徴がつき,移動速度が異なる。進入経路をうまく指示しないと,先行した貨物便が後から来る旅客便に追いつかれてニアミス発生ということにもなる。
 さらに,「特殊な貨物機」も2種登場する。一つはターン制ストラテジーなどでおなじみの超大型輸送機,「アントノフ(An)124」。この機は発進時,滑走路内でアイドリングを行う必要があり,発着スケジュールをうまく読む必要がある。もう一つは,ジャンボ機の特殊輸送型である「B-747LCF」(Large Cargo Freighter)。新鋭機B-787のパーツを輸送する機体で,非常に特徴的な外見を持っている。これら機体の多彩さでは,シリーズ随一といっても差し支えないだろう。民間空港だけあって自衛隊機はほとんど登場しないが,“ミリタリー成分”を望んでやまないファンのためか,E-767早期警戒機が管制域内に顔を出してくれる。
 システムもシリーズ開始当時(第1作「東京ビッグウィングA」は2001年登場)からは微妙に改良されており,本作では「微細」テクスチャモードをサポート,対応データも収録されている。充実した3D描画環境を持つPCならば,ハイクオリティな画面でのプレイが楽しめるわけだ。もちろん,3D描画の負荷を減らすモードも従来どおり利用できるため,3D描画性能が低いノートPCなどでも楽しめる。これも本作が幅広い人気を勝ち得ている一つの理由だろう。

 総じて言えば,航空ファンならお勧めという結論は,前作と変わらない。ただ,このシリーズをまだプレイしたことのない人のなかには,どういうゲームかいま一つ掴めない,という人もいるだろう。その場合は,ぜひ体験版をプレイしてみてほしい。また,難度の点で不安を覚えるなら,本作に先立って,「東京ビッグウイングC(コンプリート)」や「成田・完全版」など大空港の統合版から挑戦するとよいだろう。

 

全日空はブルーという固定観念を覆すのが,この「Gold Jet」機だ。この機体,名古屋にちなんで「金シャチ号」と呼ぶ航空ファンもいるらしい 旧ソ連時代に開発され,「量産輸送機としては世界最大」といわれるAn124。このゲームではアントノフ設計所の所有機体として登場する これまた大型機のB747LCF。ボーイング社ニュースリリースによれば,初飛行がなんと今年の9月というホットな機種だ。いち早くゲームに登場

 

「新千歳」と比べると,微細テクスチャも含めて,全体にディテールが上がっている。初期作品で多少感じられた,見かけのオモチャっぽさは解消され,グラフィックスのうえでも大人向けゲームとして完成度が高まっている 霧や薄暮のステージでは,誘導灯がともされ,見た目にも楽しさが増す。テクノブレインの公式サイトでは,ビューウィンドウの表示内容をキャプチャできる専用ツールが提供されているので,これはというシーンを気軽に保存できる ステージクリア時のデモでは,ゲーム中では見られないアングルから,空港やその周辺の景色を見せてくれる。例えばこの画面のように,島であるセントレアにつながる道路と名鉄線を見せてくれるものも,含まれている

 

タイトル ぼくは航空管制官2 セントレア・中部国際空港
開発元 N/A 発売元 テクノブレイン
発売日 2006/09/30 価格 特別版7875円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP,CPU:動作クロック1.2GHz以上のCPU推奨,メインメモリ:256MB以上推奨[Windows XP環境では512MB以上推奨],グラフィックスカード:3D対応のグラフィックスカード推奨,グラフィックスメモリ:32MB以上推奨,HDD空き容量:400MB以上

(C) 2006 Copyright TechnoBrain CO.,LTD.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/atc2_centrair/atc2_centrair.shtml