» ズーから発売された「創世紀1701 日本語版」は,シリーズ伝統のゲームシステムを継承しつつ,グラフィックス面などで順当な進化を遂げた開拓シムだ。しかしながら本作は,これまで以上に“最適解”が見えやすい作品となっている。攻略連載を担当した大陸新秩序氏は,そこをどう評価するのか? 満を持してレビューをお届けする。
シリーズ最新作は3Dグラフィックスとマルチプレイで
パワーアップ
欧米を中心とした世界中で高い評価を受けている箱庭シムの傑作「ANNO」シリーズ。最新作となる「ANNO 1701」の日本語版がついに登場した |
1998年の「ANNO 1602」登場以来,全世界で累計500万本のセールスを誇るANNOシリーズは,ドイツのSunflowersによってリリースされた,16〜18世紀のヨーロッパを舞台とする箱庭系ストラテジーである。そのシリーズ最新作「ANNO 1701」の日本語版として,ズーから2007年3月30日に発売されたのが「創世紀1701 日本語版」だ。
なお,前作にあたる「創世紀1503」で話題となった完全日本語化だが,今回はメッセージのローカライズのみにとどまっており,残念ながら音声は英語のままである。まあ,これはこれで洋画の字幕版のようなもので,逆に趣があってよしとする意見もあることだろう。
もともと本シリーズは,中世の建造物を緻密に再現したグラフィックスに定評があったが,今回フル3D化されたことによってさらに美しさに磨きがかかった。バロック調の建造物が立ち並ぶ街並みや,大小各種の帆船が行き交う港は,まさに美麗の一語に尽きる。そうした美しい光景をズームイン/アウトはもちろん,画面を回転させることによりさまざまな角度から堪能できるほか,スクリーンショットモードでは最適な角度を自動的に設定してくれるなど,親切な機能も用意されている。
また,本作ではマルチプレイにも対応しており,最大4人でプレイできる。あらかじめ用意されたマルチプレイ専用マップで対戦できるほか,プレイヤー間で協力しあって互いに繁栄を目指すことも可能だ。
定評のあるグラフィックスは,緻密さをそのままにフル3D化された。美しい街並みや風景を眺めているだけで十分満足できるという人もいることだろう |
スクリーンショットモードでは,画面中央にズームインして自動的に最適な角度へと設定。もちろん,気に入らなければプレイヤーがズームや角度を自由に調整できる | マルチプレイでは,参加プレイヤー数や勝利条件が異なる10のマップが用意されている |
充実したチュートリアルと分かりやすいインタフェース
オープニングでは,プレイヤーらしき人物が航海について女王に解説するという,いかにも大航海時代的なムービーが流れる |
タイトルに1701と冠されている通り,本作の背景となるのはヨーロッパ各国がアメリカやインド,アジアに進出し,その利権をめぐって競合していた17〜18世紀初頭である。したがって,本作におけるプレイヤーおよびゲーム中に登場するAIプレイヤーは,多かれ少なかれそうした利権争いに加わることとなる。本作には実際の世界史上/ヨーロッパ史上の事件は一切登場しないが,そうした時代背景があると知っていればゲーム自体への理解も深まるだろう。
本作のゲームモードは「シングルプレイ」と「マルチプレイ」に大別され,シングルプレイには以下の4種類が用意されている。
●継続プレイ
勝利条件や,対戦するAIプレイヤーを任意に設定してプレイする,いわゆるフリープレイモード。初級/中級/上級と,あらかじめ難易度が用意されているほか,細かくカスタマイズもできる
●チュートリアル
プレイするための基本的な操作と手順を学べるモード。「トレーニング」で繰り返し復習も可能
●シナリオプレイ
火山島から脱出する,戦争勃発を回避するために四つの書簡を回収するなど,与えられた目的をクリアしていくモード。初級/中級/上級に分かれた全10シナリオが用意されている
●プレイグラウンド
最初からさまざまな施設が建設可能な,簡易プレイモード
チュートリアルでは,入植や街づくりの手順など基本的な事項から逐一解説してくれるので,初心者でも安心してプレイできるだろう |
いずれも基本的なゲーム進行は同じで,未開拓の島に入植したのち,必要な施設を設置して資源を生産(採取/加工)しながら,人口と資産を増やし,さらに街を大きくしていくというもの。この中で大きなポイントとなるのが,「資源の生産」および人口の増加に伴う「住民のアップグレード」である。
資源の生産は,最初のうちは「粘土製作場」を設置して「粘土」を採掘し,「レンガ工場」で「レンガ」に加工するといったように単純で分かりやすいものが多いが,ゲームが進行するにつれてその工程は複雑多岐になっていく。資源では,「道具」「武器」といった複数のアイテムの加工に必要となる「鉄鉱石」,製品では,「ハチミツ」と「カカオ」といったように産地の異なる複数の資源を必要とする「チョコレート」などが登場し,その把握も困難になる。また,必要な資源を自分の島で供給できないようなら,新たな島への入植や他プレイヤーとの交易,あるいは戦争で他プレイヤーの支配下にある島を奪うことを考えなければならない。
もちろん人口が増加するのに比例して,そうした資源や加工品の需要も増えるため,施設の増設も必要となる。先を見越してあらかじめ施設を多めに設置してしまうのも手だが,建設費や維持費を計算に入れておかないと,あっという間に過剰投資でパンクしてしまうし,設置が遅れれば需要に対して供給が追いつかず,住民のデモや暴動が発生した結果,人口の大幅減という事態を招いてしまう。
一方の住民のアップグレードは,人口が一定以上に増加し,かつ物質/文化の両面で満足させると,住民のランクが上がっていくというもの。最初は開拓民だが,さまざまな条件を満たすごとに移民,市民,商人,貴族とアップグレードしていく。また,住民のランクが高いほど一人あたりの税収が増加するだけでなく,家一軒あたりの人口も増加するため,同じ面積の居住区域でも,より高い税収が得られるようになる。
しかし,資源や加工品の不足,または災害などによる文化施設の破壊によって実に簡単にデモや暴動が起き,人口の減少,ひいては住民のダウングレードという結果につながる。
したがって,常に各種の生産/交易ラインが正常に機能しているか,住民が不満を抱いていないかをチェックし,何か問題が発生する傾向が見られたら先手を打つ必要がある。その手助けをしてくれるのが,優秀なインタフェースだ。施設をクリックすれば,生産ラインや住民の状況を直感的に把握できるようになっている。また,現在の住民ランクと人口でどんな施設を設置できるか,設置に必要な資源の種類と数量はどうかといったことも簡単にチェックできるため,プレイ中にストレスがたまることはほとんどない。
……しかし理屈では分かっていても,またどれだけインタフェースが優秀であろうとも,理想的なプレイを実現するのはなかなか難しい。シリーズの初心者であれば,チュートリアルで最低限必要な操作と手順を学んだのち,その実践と応用を兼ねてシナリオプレイに挑戦するといいだろう。シナリオは難易度に応じて初級/中級/上級に分けられているが,上級シナリオといっても決して難解なものではなく,チュートリアルから中級シナリオをクリアする中で身につけてきた手順とテクニックを応用すれば,十分に対応できるはずだ。また,シナリオはいずれも凝った演出の施されたドラマチックなもので,とくに上級のものなどは苦労してクリアした後にはかなりの達成感が得られる。
本作では,これをこうしたらああいう結果が出る,というように需要と供給の因果関係が非常に明確である。人口が増え,住民のランクが上がり,さまざまな施設が設置できるようになると,その因果関係は複雑に入り組んでいくが,ああでもないこうでもないと試行錯誤したり,じっくりと考えたりすることによって,必ず答えは見つかる。人口に対する供給量や交易による収支のバランス,文化施設の配置など,効率のよい街づくりが意図してできるようになっていく過程で,本作の面白みが理解できるだろう。
初心者には若干とっつきにくい交易の手順についても分かりやすく解説されている。一度で理解できなければ,何度でも復習できる | シナリオは難度の違う10本が用意されている。とくに初級シナリオ4本と中級シナリオ3本は,チュートリアルを終えた後の実践にもってこいだ | 各シナリオにはヒントが用意されており,ゲームの進行に応じて追加されていく。何をすればいいのか分からなくなったときは確認するといいだろう |
継続プレイでは各種条件がプリセットされた初級/中級/上級のマップに挑戦できるほか,プレイヤーが自由にルールとマップを設定できる | 優秀なインタフェースによって,住民や施設の状態がどうなっているのか,今どんな施設を設置可能で,そのために必要な資源は何かなどがいたって簡単に分かるようになっている。ただし,その因果関係を把握して上手に対応できるかどうかはプレイヤーの腕次第 |
より現実に即した結果,ゲームというよりも優秀な教材に近くなった?
本作における戦争の比重はあまり高くないだけでなく,すぐに消耗戦に陥ってしまうためデメリットが大きい。戦争をするよりも,交易を通じてほかのプレイヤー(AI含む)と共存するほうがいいようだ |
本作では,戦艦や歩兵など軍事ユニットも数多く用意されており,AIを含むほかのプレイヤーに戦争を仕掛けることも可能となっている。しかし,これまでのシリーズと同様,戦争の比重は極めて低くなっており,好戦的なのは継続プレイの上級モードに登場する一部のAIプレイヤーおよび海賊だけとなっている。また中途半端な軍事力で戦争を仕掛けると,すぐに報復を受け,その防衛のためにまた戦力を投下,それに対してさらに報復……というループに陥ってしまい,いずれかが破産するまで消耗戦を続けるような状況になってしまうことが多い。
さらには,これがシングルプレイ時なら自分からは仕掛けず,極力防衛に徹することで戦争を回避することもできるのだが,対戦マルチプレイともなると困りものである。資産や植民地の割合を一定以上にする,ベニスの商人の依頼を一定数以上達成するといった勝利条件を設定することも可能だが,やはりプレイヤー同士の対戦は戦争によって白黒つけないとモヤモヤするというか醍醐味に欠ける,というのが筆者の率直な感想だ。
またプレイしていて,全般に「飽きが早い」というのも本作の特徴である。これは先述の需要と供給の因果関係が明確であり,その答え以外にほぼ選択肢がないゆえに,一度その関係を把握してしまうと,以降はただ繰り返すだけであまりプレイに幅が出ないことに起因している。例えば,パン屋一軒の生産効率を最大にするにはどうしたらよいのか試行錯誤して,製粉小屋二軒と小麦畑四つを割り当てれば最大で750人の食をまかなえると答えを出すまでの過程は楽しいのだが,以降は人口と資産を比較しながら作業的に繰り返すだけになってしまいがちだ。
さらには本作の場合,資金源の中心が税収となっており,交易はAIプレイヤーやNPCとの関係を良好に保ち,彼らの輸出品目と供給量を増加させるための外交手段という意味合いが強い。そのため前作「創世紀1503」のように,前半は自給自足を目指し,後半は安定した税収を活かして原材料を輸入し,それを加工して輸出する交易中心の経済を目指すといった,はっきりとした転換期が存在しなくなっているのも,プレイしていて単調さを感じる一因だろう。
上述の通り,シナリオはなかなか凝っているのは確かなのだが,決して難解ではないのも飽きやすい原因だ。シナリオ中に隠された攻略のキモとなるポイントを見つける過程は試行錯誤の連続で非常に楽しいのだが,これまた一度把握してしまうとそれっきりになってしまいがちだ。こちらは幸いにも,すでに欧米でキャンペーンシナリオやマップエディタなどをセットにした拡張パックが,2007年の第3四半期にリリースされると発表されているので,日本語版の登場にも期待したいところだ。
とはいえ,メリットとデメリットを比較した場合に果たして戦争をする必要があるのか,あるいは有効な手段を見つけたら,それを上回る手段が見つかるまで同じことを繰り返すのが当たり前ではないか? また,リアルタイムで継続している経済に明確な転換期など存在し得ないのではないか,といったように現実に照らし合わせて考えてみると非常に理に適っており,これらは本作が提示する明確な因果関係の現れと納得できなくもない。
そう考えると,本作は単なるエンターテイメントというよりは,そうした生産と流通の仕組み,内政と外交とのバランスの取り方を簡潔かつ綺麗に近世ヨーロッパの世界観の中に落とし込んだ知育ゲームと捉えればいいのかもしれない。そうであるならば,マルチプレイも見知らぬプレイヤー同士が対戦するためのものというよりは,経済や国家外交を疑似体験させるためのものと見ることもできるだろう。
と,筆者の憶測がかなり入ってしまい大変恐縮だが,最後に余談を一つ。本作のパブリッシャであるSunflowers傘下の,Black Sea StudiosがリリースしたRTS「Knights of Honor」は,外交や文化的遺産の創造を強調していること,そして戦争の表現が控えめになっていることなどを理由として,イギリスで行われ,2006年に調査結果が報告された実験的教育プロジェクト「Teaching with Games」において教材として採用された実績があるのだ。Knights of Honorと本作の根底にある理念が似通っているのではないかと考えても,あながち不自然ではないだろう。本作は,プレイの幅という面ではやや物足りないが,試行錯誤をしながら,問題解決までのプロセスを楽しめる人にお勧めしたいタイトルだ。
上級の継続プレイに登場するイゴール・イェゴフ。好戦的なAIプレイヤーで,ゲーム開始から10分前後で軍事ユニットを作り始める場合もある | ベニスの商人と異民族は,プレイヤーとの交易によって裕福になり,輸出入の品目も変化する。貴族が必要とする翡翠などの特産物は,異民族と友好条約を結ぶか,ベニスの商人経由でしか入手できないため,彼らとの交易は早い段階で確立しておきたい |
プレイにアクシデントの要素を持ち込む疫病の流行や火事,火山の噴火やハリケーンといった災害。とくに災害は一度発生すると住民に与えるダメージが大きく,またグラフィックス的な迫力もあるため,初めて遭遇したときはかなりビックリする |