― レビュー ―
“真のSLI”を実現するnForce4 SLI X16マザーボードは買いなのか?
A8N32-SLI Deluxe
Text by 宮崎真一
2005年11月9日

 

■nForce4 SLIのボトルネックを解消したnForce4 SLI X16

 

A8N32-SLI Deluxe
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション news@unitycorp.co.jp

 2枚のグラフィックスカードを同時に用いて描画性能を向上させるNVIDIA SLI(以下SLI)。このSLIには,一つだけ弱点となりえる仕様があった。それは,対応チップセットであるnForce4 SLIだ。nForce4 SLIの制約により,SLI動作時は,2本のPCI Express x16スロットを,それぞれPCI Express x8として利用する必要がある。x8なので,グラフィックスカード1枚当たりのバス帯域幅は片方向2GB/s,双方向4GB/sで,PCI Express x16のちょうど半分。これが,ボトルネックとなる可能性があったのだ。

 

 この対策として登場したのがnForce4 SLI X16チップセットである。
 nForce4 SLI X16は,nForce4 SLIの上位に位置づけられ,これまで最大20だったPCI Expressのレーン数が,最大38へと拡張されている。どうやって実現しているかというと,従来のnForce4 SLIに対して,PCI Expressを最大18レーンサポートするノースブリッジ「nForce SPP」(SPP:System Platform Processor)が追加されたのだ。基本的な仕様はnForce4 SLIとまったく同じまま,機能を拡張しているというわけである。
 nForce4 SLI X16においては,ノースブリッジとサウスブリッジ「nForce MCP」(MCP:Media Communication Processor)はHyperTransportバスでつながっている。両ブリッジチップがそれぞれPCI Express x16スロットと接続する格好だ。

 

 今回は,そんなnForce4 SLI X16を搭載するマザーボードのうち,いち早く店頭市場に登場したASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)の「A8N32-SLI Deluxe」を見ていくことにしたい。

 

 

■最上位モデルらしい配慮と,2チップ構成らしい制限が同居

 

 A8N32-SLI Deluxeは,以前4Gamerでレビューした「A8N-SLI Premium」の上位に位置づけられるマザーボードだ。チップセットの発熱を,CPUへの電源供給を行うVRM(Voltage Reguator Module)部までヒートパイプで送り,CPUクーラーのエアフローで冷却しようとしている点は,いかにもA8N-SLI Premiumの上位モデルらしい。ちなみにこのヒートパイプには,A8N32-SLI Premiumと同じく,「AI Cool-Pipe」という名前が付けられている。

 

任意に取り付けられるVRM用クーラー。ヒートシンクに凹みが用意されており,そこへ引っかけるようにして固定する

 ユニークなのは,A8N32-SLI Deluxeのパッケージに,専用のVRM用クーラーが付属している点だ。AI Cool-Pipeの“終点”となるVRM部のヒートシンクに直接取り付けて用いるこのクーラーにより,冷却効率をさらに高めようというわけである。ちなみにこのクーラーは,水冷CPUクーラーなど,CPUの周囲にエアフローが発生しない場合に利用するものだと,クーラーのパッケージに書かれている。基本的には使わずとも問題はないようだ。

 

OS-CON(赤い印の入った背の低いコンデンサ)が,VRM周りに用いられている。ちなみに,AI Cool-Pipeを挟んでOS-CONの反対側にいくつか置かれている電解コンデンサは日本ケミコンのKZG

 また,VRMが8フェーズPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)を採用している点も見逃せない。フェーズ数と聞いても,ピンと来ない人は少なくないだろうが,簡単にいえば,コストが上がる一方,電源供給電圧の整流度が増すので,電源周りの安定性が理論的には向上する。
 AMD64対応マザーボードのハイエンドモデルは6フェーズPWMの製品が多く,A8N-SLI DeluxeやA8N-SLI Premiumも6フェーズ。A8N32-SLI Deluxeは,これらよりもさらに安定性が高いことを期待できるというわけである。
 さらに,VRM周りのコンデンサに三洋電子部品製の「OS-CON」を採用している点も大きな特徴だ。OS-CONは高周波特性に優れるほか,従来の電解コンデンサとは違い,温度による製品劣化が起きないという特長を持つ。電源部が熱に対して強いというのは,マザーボードの品質を語るうえで見逃せないポイントであり,電源周りの品質は非常に高い。マザーボード全体を見渡しても,国内メーカー製以外のコンデンサはまったくなく,コンデンサを基準に判断するなら,申し分のない品質といえる。

 

それほどクリティカルでない部分には,日本ケミコンのKMGが置かれている

 

 また,電源といえば,ASUSTeKが「EZ Plug」と呼ぶ,SLI構築時のグラフィックスカード用4ピン補助電源コネクタの場所が,従来製品から改善されている。従来製品ではPCI Express x16スロットのすぐ近くにあったため,ケースに組み込んだ状態から結線しようとすると,引き回しに苦労させられたが,A8N32-SLI Deluxeでは,メモリスロット付近の,周囲に余裕のある場所へ移された。この使い勝手の向上は評価したいところだ。

 

 電源周り以外では,スロット構成が大きく変わったことが特徴として挙げられる。1チップ構成だったnForce4 SLIとは異なり,ノースブリッジが追加されるnForce4 SLI X16を採用する以上,A8N32-SLI Deluxeでは,ノースブリッジ用の物理的な空間がマザーボード上に必要となる。このため,長いPCI Express x16スロットの配置は従来から変更せざるを得ない。また,多くの他社製品と異なり,ASUSTeKは2本のPCI Express x16スロット間を2スロット空けてSLI対応マザーボードを設計するため,結果としてPCIスロットの構成はずいぶんと変則的になった。

 

 GeForce 7800シリーズ搭載グラフィックスカードは,1スロット仕様のものが多いため,それほど問題にはならないかもしれない。しかし,冷却能力を重視して,PCI Express x16スロットの直下を空けたり,あるいは静音性を重視して2スロット仕様のグラフィックスカードを用意したり,2スロット仕様のチップクーラーを別途取り付けようとしたりすれば,あっという間に拡張性はなくなってしまう。

 

 この問題に対処するため,SLI動作のために用意されているアダプタは,従来の基板ではなく,セロハン状になっている。ノースブリッジから遠いPCI Express x16スロットのすぐ上のPCIスロットを,拡張カード用として利用できるようにという配慮だろう。ただし,それでも冷却能力や静音性を重視すると,ASUSTeKの従来製品と比べて拡張性が犠牲になってしまうことは意識しておくべきだ。

 

 細かな点だが,I/Oパネル部に,3Gbpsの帯域幅を持つSerial ATAコネクタが用意されているのも,A8N32-SLI Deluxeの特徴といえる。もっとも,現時点における実用性については,正直疑問を感じるが。

 

I/Oパネル部に,Serial ATAコネクタが1ポート用意されている。コントローラはSilicon ImageのSiI3132だった

 

 

■消費電力は上昇,冷却能力は十分

 

Centurion 530
ケース側板には,CPUクーラー用のパッシブダクト(ファンなしのダクト)と,グラフィックスカード冷却用の空気孔が設けられている。電源ユニットは別売り。サイズは235(W)×495(D)×460(H)mmで,ドライブベイは5インチ×5,3.5インチオープン×1,3.5インチシャドウ×5。実勢価格は1万2000円前後
問い合わせ先:高速電脳 TEL:03-5297-3210

 さて,ここからはテストに入っていきたい。まず気になるのは,2チップ構成になったことで,消費電力や発熱がどうなっているかだ。A8N-SLI Premiumのヒートパイプは優秀だったが,ノースブリッジの冷却も必要な今回はどうだろうか。
 そこで,Cooler Master製のスチール製ミドルタワーケース「Centurion 530」に組み込んでPCとして動作させ,ワットチェッカーで消費電力を,そしてマザーボード上の何か所かを横河M&Cのデジタル放射温度計「53005」でそれぞれ測定してみることにした。

 

 テストに当たっては,側板を閉じた状態でテスト直前まで放置し,直前に側板を取り外して対象を測定するという方法を選択している。また,温度測定に当たってはOSが起動して30分後を「アイドル時」,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のリピート実行30分後を「グラフィックス高負荷時」,さらに「午後べんち」のリピート実行30分後を「CPU高負荷時」とする。また,テストはCool’n’Quiet(以下CnQ)の有効/無効を切り替えても行った。このほかテスト環境はのとおり。

 

 

 まずは消費電力の測定結果(グラフ1)を見てみよう。A8N32-DeluxeとA8N32-Deluxeではオンボードデバイスや構成部品が異なるので,必ずしも同条件の比較ではない。しかし,20W近い差というのは,チップセットが二つに分かれたことと,回路変更が原因による増加と考えられそうだ。

 

 

 消費電力が増大すれば,発熱量の増加も懸念される。そこで,次に各部の温度を比較してみた。その構造上,最も熱くなると思われるVRM部(正確には,VRMチップの上に置かれたヒートシンク部)の温度をまとめたのがグラフ2である。
 結果を一言でいえば,ヒートパイプは有効に働いている,ということになろう。
 今回のテストでは,Athlon 64 4000+/2.4GHzのリテールクーラーを用いているが,VRM部へ向かうエアフローが発生するようなCPUクーラーなら,VRM部のクーラーは不要といっていい。ASUSTeKのいうとおり,あくまでこれは,水冷CPUクーラーなど,エアフローの発生しないCPUクーラーを利用している人のためのものであるようだ。
 もっとも,取り付けていないときより,今回のテスト環境で3℃弱下がっているのは確か。静音性が多少犠牲になるのを覚悟して,冷却力を重視したいのなら,空冷CPUクーラーと付属のクーラーを組み合わせるのもアリだろう。

 

 

 続いて,チップセットの温度と,SLI構成時におけるグラフィックスカード間の温度をグラフ3,4にまとめた。ここでは付属のクーラーを組み合わせた状態でテストしているので,利用しない場合,チップセットの温度はわずかながら上がる可能性があることを踏まえて見てほしいが,アイドル時にはA8N32-SLI Deluxeのほうが確実に“冷えて”いる。負荷が高まってきたときは,互角といっていい。

 

 

 

 

■パフォーマンスは確実に向上

 

 では,2本のPCI Express x16スロットがフルスペックで動作することで,どの程度のパフォーマンス向上が見込めるのだろうか?
 先の表で示したテスト環境を用いて,3DMark05のほか,「DOOM 3」と「TrackMania Sunrise」を用いてベンチマークを実施した。DOOM 3ではTimedemoで平均フレームレートを計測。TrackMania Sunriseでは,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,それを「Fraps 2.60」から,やはり平均フレームレートを計測している。なお,ForceWareから垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくForceWareから8倍(8x)および16倍(16x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を,順に8x AA&16x Anisotropic,16x AA&16x Anisotropicとして,以後は話を進める。

 

 まずは3DMark05の結果(グラフ5〜7)だが,シングルグラフィックスカード(以下シングルカード)時には,いずれもPCI Express x16として動作するので,両者に大きな差は見られない。しかし,SLI動作させると,16レーン×2と8レーン×2の間に違いが出てきている。
 1024×768ドットの標準設定や,8x AA&16x AnisotropicではA8N32-SLI Deluxeのほうがスコアで200前後高い数値を示した。これは,2本のPCI Express x16スロットが16レーンで利用できることによる,帯域幅の優位性がそのまま結果につながったと考えられる。しかし,1600×1200ドットの16x AA+16x AnisotropicではA8N-SLI Deluxeのほうがスコアは上だ。

 

 

 この理由についての判断はひとまず保留して,DOOM 3のスコア(グラフ8〜10)に移ろう。すると,SLI構成時には,負荷が軽ければ軽いほど,A8N32-SLI Deluxeのスコアが大きく伸びている。また,グラフィックスチップに高負荷がかかれば,それに応じてスコアの伸びが少なくなっていくのも見て取れる。

 

 

 TrackMania SunriseもDOOM 3と似た傾向だ(グラフ11〜13)。注目したいのは,SLI動作時における1024×768ドット,標準設定のスコアで,A8N32-SLI Deluxeは,A8N-SLI Deluxeより15%弱もスコアが高い。これはもちろん,PCI Expressのレーン数の違いによるものだが,ここまで大きな違いになって表れるとは驚きである。

 

 

 全体的な傾向として,描画負荷が低いほど,A8N32-SLI Deluxe,つまりnForce4 SLI X16の「2本のPCI Express x16スロットをいずれも16レーンで利用できる」というメリットが生きてくる。2枚めのグラフィックスカードで処理した画像データが最終出力のために1枚めへ送られるとき,PCI Express x8 ×2よりもPCI Express x16 ×2のほうが,パフォーマンス面で優れるというわけだ。
 一方,高解像度で,高レベルのフィルタリングを適用すると,nForce4 SLIとの差が小さくなり,場合によっては逆転される。
 高解像度で高レベルのフィルタリングを適用すると,カード間でやりとりされる描画データは標準設定よりもかなり多くなる。このとき,カード上のグラフィックスメモリだけだとバッファを処理しきれず,システムメモリの一部を利用することになるが,2枚めのカードはサウスブリッジ,ノースブリッジ,そしてCPUを経由してメインメモリへアクセスしなければならない。一方,当然ながら,1枚めのグラフィックスカードは,サウスブリッジを経由せずにメインメモリへアクセス可能。この違いを吸収するタイミング調整が必要となり,それが高い描画負荷時におけるボトルネックになっているのではないだろうか。
 こう考えると,三つのテスト中,最も負荷の高い3DMark05でスコアの逆転が起きている理由が説明できる。

 

 最後にPCMark05を実行し,ゲーム以外のパフォーマンスを比較してみたが,この点はA8N-SLI Deluxeと大差ない(グラフ14)。nForce4 SLI X16とnForce4 SLIの間には,PCI Express x16周りの仕様以外に劇的な差はなく,ほぼ同じであると考えていいだろう。

 

 

 

■人を選ぶが,パフォーマンスは間違いなく高い

 

 2005年11月上旬現在の実勢価格は3万1000円前後。A8N32-SLI Deluxeの登場で下位モデルとなったA8N-SLI Premiumが2万円前後なので,A8N-SLI Premiumを購入して,差額はCPUなり,SLI用のグラフィックスカードなりの購入資金に回したほうが,コストパフォーマンスという面では有利だろう。
 また,SLIを常用しようとすると,まず消費電力が気になるが,ここでもA8N32-SLI Deluxeは不利だ。静音性を重視して,2スロット仕様のグラフィックスカードを使おうとすると,途端に拡張性の低さが弱点として露呈する。

 

 ただし,“現実的な”描画設定時に,下位モデルと比べてSLI構成時に高いパフォーマンスを見せるのは事実。また,マザーボードとしての品質は非常に高い。万人向けでないのは残念だが,これからSLI構成のPCを組む自作派ゲーマーで,予算に余裕がある人にとって,有力な選択肢なのは間違いない。

 

 

タイトル nForce4
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2004/10/19 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/a8n32-sli_deluxe/a8n32-sli_deluxe.shtml