「ヴィクトリア レボリューション」は,1836年から1935年までの全世界を舞台とした戦略級ストラテジーである。進行そのものはリアルタイムだが,いわゆるRTSと違ってアクション要素はない。随時進行を止めてコマンドを実行しては,また動かすという繰り返しでプレイが進む。
プレイヤーは当時世界に存在した,いずれかの国や地域の指導者となって,政治・文化・軍事・経済・外交のすべてを取り仕切り,帝国主義全盛期における自国の繁栄を目指す。
究極の目標は列強8国の仲間入りをして首席を占めることだが,明らかにそれが無理な国もプレイ可能で(ハワイ王国など),そういった国では,いかに列強の干渉をはねのけ,自国を近代化させていくかが問われる。もちろん,そうした努力の末に列強に植民地化されるのも一つの結末であり,プレイヤーはそういった歴史のうねりそのものを楽しめるわけだ。
「ヴィクトリア」の拡張パックたる本作では,バランス調整とプレイ年限の延長が行われている(本体のみでは1920年終了)。また,「ヴィクトリア」本体とのセットも発売される。
プレイ手順は習うより慣れろ
ほぼ世界中の国を選択可能。チベットで何ができるかは分からないが,プレイ目標がなくなることはないだろう |
国家の収支をチェックし,輸入品と輸出品を調整,国内に工場を建てて産業を興し,それを前提に国民の階級構成をデザイン,やがては植民地獲得に乗り出す……。
手を入れられる要素の膨大さに,最初は若干とまどうかもしれないが,習うより慣れろで遊んでいるうちに,為すべきことが次第に飲み込めるのはParadox Interactive作品らしいところだ。
「レボリューション」になったからといって,操作やプレイ感覚が大きく変わったわけではない。前作のプレイヤーであれば違和感なくプレイできるし,Web上にあるさまざまな資料はそのまま参考になる。
1900年ごろのアメリカの国力。軍隊をまったくといっていいほど拡張していないが,資産的,人口的余裕は十分である | スウェーデンで工業化を推進して,列強8国に入る。アメリカとスウェーデンが初心者向け国家として調整されているようだ |
国家運営の中間項となる「政党」と「資本家」
オーストリアには政党が六つあって,君主制なのでプレイヤーが自由に与党を選択できる。できれば選挙で自分の望む政党を勝たせたいところだが,そのためには世論の誘導と選挙前の大減税といった対策が必須だ |
前作からの改良点で最も注目すべきは,「政体」の影響が強くなったことだろう。プレイヤーの取れる行動が政体で制限されるため,政体が決定される「選挙」イベントの意義も非常に大きい。さまざまな政治イベントを通じて,自分の望む政党が勝つような世論を醸成しておく意義も深まった。
また,資本家に関する変更も面白い。その国の政体にもよるものの,本作では資本家が独自の経済活動として,自腹で鉄道や工場を建設してくれる。これはつまり,資本家個人の資産が重要になったということでもある。資本家の数が多いと利潤が細分化され,施設建設が遅れる。時代背景とモチーフにふさわしく,少数の大資本家が多数の労働者から搾取するのが,このゲームで最も効率の良い形なのだ。
そのほか,植民地経営に関するルールなどについても,歴史性を重視した若干の改良が加えられている。
初心者に嬉しい(?)自由放任主義
自由放任主義だと資本家が自分の資産で工場を建設。工場の種類は選べないが,それなりに合理的な選択が |
プレイに対する影響が大きく,かつ興味深い変化が「自由放任主義」に関するルールである。
自国の経済システムが自由放任主義になっている場合,なんと国内の鉄道整備や工場建設がプレイヤーの意思で行えなくなった。その国に住んでいる資本家が,彼らの資産を使って勝手に各種建設を行う。施設建設が自動化したようなものだ。
数十種類にのぼる生産品を管理する本作で,勝手に工場が建つのを待つしかないのでは,極限まで効率を追い求めるプレイは難しい。しかし,この作品ではもともとプレイヤーが管理すべき項目が極めて多く,もともと必ずしも十分にコントロールできなかったのも事実だ。そこを資本家という中間項にある程度任せられることで,プレイしやすくなったともいえる。
多分本作でしか遊べない歴史モチーフ
第一次世界大戦時のロシア。軍隊はそこそこだが,事実上崩壊した国家財政,低い識字率,技術的な遅れのうえに社会不安も…… |
思えば前作も,普仏戦争や普墺戦争を扱えるPCゲームとして十分に貴重な存在だったが,「レボリューション」になって,ここに第一次世界大戦と第二次世界大戦の間,いわゆる戦間期が加わった。ゲームデザイン上の限界か,どちらかといえば第一次世界大戦前の延長に見え,この時期らしいフィーチャーはあまり生きていない気もするが,行き詰まるロシア帝国,清末民初の軍閥中国など,なかなか興味深い題材も見受けられる。イデオロギーとしての「ファシズム」も,そうした要素の一つだ。
清帝国の人口は呆れるほど多いが,技術水準は低く識字率も一ケタ。阿片貿易に関係した外交問題もある。国力と人口が強く連関した本作で「眠れる獅子」なのは間違いないが,かなりの頻度で寝たきりに |
セーブデータをドゥームズデイにエクスポート
スウェーデンのデータをドゥームズデイで読み込むと,IC66の国家に。事前になるべく多く軍隊を作っておくとよいかも |
本作では,セーブデータを「ハーツ オブ アイアンII」および「ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ」でプレイ可能な形式にコンバートして“続き”を楽しめる。「ヴィクトリア レボリューション」でオランダやベルギーを選び,大活躍したセーブデータを持ち込めば,超大国となったベルギーやオランダが,それ以降の欧州情勢を動かしていくという展開も可能だ。
ただし,コンバートにはかなり技術的な問題が見られるうえ,ゲームバランス上の配慮も加味されない。アイデアとしては実に興味深いのだが,現段階ではそういうことも可能という程度に捉えておくのが無難だ。
全世界の情勢を再現する歴史ゲームというより,もともと「近代国家建設シム」として興味深く作られた「ヴィクトリア」の続編は,近代国家の中身をより適切に再現することで,コンストラクション(建設)ゲームとしての遊びやすさと魅力が増している。この作品でトータルな歴史の再現を追求するのは難しいが,パックスブリタニカ期に加えて戦間期を舞台に,国民国家の形成と変容を追体験できるのは,このゲームならではの楽しみといえるだろう。
戦争画面はいたってあっさりしたもの。プレイヤーにできることは退却の指示くらいである | 日本のビッグイベント,明治維新。ここから数年で日本は世界の工業国ベスト8にあっさり入る |