6月1日,ウクライナのGSC Game Worldが開発したFPS,「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」(以下,S.T.A.L.K.E.R.)が,ズーから日本語マニュアル付きの英語版として発売される。
2001年の制作発表から実に6年という歳月をかけて完成した作品で,一時は中止という噂まで流れたものの,北米ではこの3月に発売。現在までに各メディアやプレイヤーからの高い評価を獲得した話題作だ。S.T.A.L.K.E.R.は,チェルノブイリ原発の爆発事故後に出現した異世界,「ZONE」を舞台とした本格的サバイバルホラーアクションである。
ZONEの奥深くから死体を乗せてやってくる,通称「死のトラック」。ある晩,その一台が事故を起こし,一人だけ生き残る。記憶を失った彼の腕には“S.T.A.L.K.E.R.”の入れ墨。そしてPDAには「STRELOKを殺せ」の文字が。物語はここから始まる |
チェルノブイリ原発跡に現れた謎の空間,ZONE
与えられたミッションをクリアするためにZONEを駆けめぐれ
与えられたミッションをクリアするためにZONEを駆けめぐれ
S.T.A.L.K.E.R.はFPSとしては珍しいミッションオリエンテッドなゲームシステムを持っている。つまり,プレイヤーにあらかじめ大きなフィールドが与えられ,そこを自由に(ゲームの進行につれ,行ける場所は変化するものの)歩き回ってゲームを進めていくというシステム。与えられたミッションをクリアすることによってストーリーが進行するが,メインストーリーに関するもの以外,数多くのサブミッションが用意されている。サブミッションの目的は,武器やアイテム,またそれらを購入するための資金などを得ることだ。
そんなゲームの舞台となるのはウクライナの旧チェルノブイリ原子力発電所周辺。1986年の爆発事故のあと付近一帯は閉鎖されていたが,2006年,再び起きた謎の大爆発によって周辺一帯が突然変異で発生したクリーチャーのはびこる“ZONE”と化してしまう。プレイヤーは,危険任務を遂行し報酬を得る“ストーカー”となり,襲い来る敵を倒しつつZONEに秘められた謎を解き明かしていく。
Traderのほか,さまざまな人からミッションを依頼されるが,それを受けるか受けないかはプレイヤー次第。さまざまな情報は所持するPDAに表示されるが,マップの表示など,微妙に使い勝手が悪い。まあ,ロシア製ですからね |
ZONEの内部に形作られた異様な生態系,A-Life
S.T.A.L.K.E.Rを特徴づけるものの一つが「A-Life」だ。これはゲーム中の名称ではなく,デベロッパのGSC Game Worldによるものだが,ZONE内部に生息するすべてのモンスターやほかのストーカー,軍や科学者などのキャラクターすべてが独自のAIによって行動し,一つの大きな世界を形成しているのである。
もっとも,開発陣の「ゲームにストーリーはなく,プレイヤーはA-Lifeで偶然に起きる出来事を楽しむ」という当初のアイデアは,実現するには膨大なPCパワーが必要になるという理由で開発途中で破棄され,S.T.A.L.K.E.R.は物語を核とした普通のシステムに変更された。こうしてA-Lifeの規模は縮小してしまったが,それでもゲームの寂寥感を高め,リアリティを増し,ほかのFPSとの違いを打ち出すという点では大いに役立っている。ミッションの合間,足を止めてZONEを見て回れば意外な発見に次々と出会うことになるだろう。
ZONEをめぐる人々
軍によって閉鎖されたZONEの周辺には,さまざまな人間が暮らしている。ZONEの中には“Artifact”(アーティファクト)と呼ばれる未知の物質が存在しており,現代科学では解明できない数多くの効果を発揮するのだ。このアーティファクトを回収して売り,生計を立てるのがStalkerと呼ばれる孤独な男達だ。さらに,アーティファクトを研究する(それだけではないのだが)科学者や軍,盗賊やモンスターなどなど,ゲームには無数のキャラクターが登場し,それぞれに謎を秘めているのだ。
高難度の戦闘が緊張感を高める
ミッションのキモとなる戦闘の難度は高い。とくに序盤,武器らしい武器が揃わない状態のときは苦労するはずだ。死体をあさったり購入したりして装備を整えるのだが,あまり荷物が多いと移動できなくなるという制限もある。ピストルはアイアンサイトを使って撃ってもなかなか当たらないし,機関銃類は集弾率が悪いなどリアル系の設定になっている。ランボースタイルで切り抜けるというゲームではなく,戦闘に爽快感を強く求める向きにはややつらいかもしれない。
各種のアーマー類も用意されているが,使い捨てで,またかなり重量もあるため複数持ち歩くことはできないなど,それなりの戦略を使った戦い方が求められるのだ。
憂いさえ感じさせるグラフィックスが謎を深める
「石棺」と呼ばれるコンクリートで封鎖された4号炉にはさすがに近づけなかったそうだが,GSC Game Worldのスタッフは現地取材を重ね,ゲームの中にリアルな町や建築物,集落などを再現している。自社開発のゲームエンジン,X-Rayによって描き出されるグラフィックスは,荒れ果てたZONEの雰囲気をよく伝えており,社会からはみ出し異形の世界に生きる道を求める男達の心象風景を映し出しているようにも見える。チェルノブイリ原発跡や,ゴーストタウンになったプリピャチ市のビル群の存在感も圧倒的だ。人員と時間を惜しげもなく使ったスラブ的重厚さが感じられるだろう。
ZONEやオブジェクトの作り込みがリアリティを増す,オリジナリティの高いタイトル
「人間の驕慢が生み出した極端な自然破壊」のイコンとなった感さえあるチェルノブイリ原発跡を舞台とし,薄汚れた男達とモンスターばかりが登場する,一見非常に地味なタイトルだが,架空の異世界であるはずのZONEのリアリティや,あとから加えられたストーリーの意外なほどの面白さなど,FPS好きに限らずにプレイしてほしいタイトルだ。
マルチエンディングであることや,何度訪れても意外な発見があるZONEの作り込みなどからリプレイ性も高く,海外での高い評価もうなずける。
何か骨のあるゲームを遊んでみたい,という人にはオススメだ。