新作紹介 : ヨーロッパ・ユニバーサリスIII【完全日本語版】

年表から脱却した(?)イベント生成型近世世界史ゲーム

ヨーロッパ・ユニバーサリスIII
【完全日本語版】

Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2007年6月28日

 

「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」(以下,EU3)は,1453年(東ローマ帝国の滅亡)から1789年(フランス革命勃発)までの世界を舞台に,さまざまな国の統治者となって国家を経営していく歴史ストラテジーゲームである。ゲーム進行はリアルタイムだが,操作は随時ポーズをかけて行う形なので,アクション性のない,純然たるストラテジーゲームと考えてよいだろう。
 世界中の国をほぼ同一のモデルで抽象化し,多数の歴史イベントでそれっぽく動かす作品だった「ヨーロッパ・ユニバーサリスII」(以下,EU2)に対し,続編たる本作は異なるアプローチをとる。ゲームシステム面では「EU2」から多くの要素を継承しつつも,独自のイベント生成コンセプトをラディカルに推し進めた,個性的な作品となっているのだ。

 

重要なメッセージでは従来作品どおりダイアログがポップアップする。ただし大量に開いて困惑するケースはぐっと減った 国家予算を各技術の発展に向けて割り振るところ。この仕組み自体は,前作EU2からほとんど変わっていない

 

 

マップ画面が3D表示に

 

マップは3Dでシームレスに拡大/縮小可能。世界は全部で1700を超えるプロヴィンス(エリア)に分割されている

 EU2とEU3において,見た目で最も大きく変わったのはマップが3D化したことだ。これに伴ってPCの必要スペックが大幅に上昇しているが,昨今のゲーム用PCで考えた場合,さほど高い水準が要求されているわけではない。Pentium 4/1.9GHz以上が必要とされるCPUスペックは確かに重要で,高ければ高いに越したことはないだが,Pixel Shader 2.0をサポートしたグラフィックスカードという条件は,一種の目安であるようだし,画面エフェクトは比較的細かくオン/オフできる。プレイヤーの環境と好みに合わせた選択をすれば,プレイ自体に支障はないだろう。

 

画面の設定は細かく調整可能。グラフィックスなんて気にしないという人は,全部オフにして軽くしてもよい 国家選択画面。150を超える国から担当国を選択可能。開始年代はなんと1日単位(!)で調整できる

 

 

インタフェースは大幅に改善

 

他国のプロヴィンスを見たところ。その国との外交画面が同時に表示される。情報の一覧性と見通しのよさは大幅に改善された部分

 マップ描画の3D化以上に大きく変化しているのがインタフェースである。こちらは従来のParadox Interactive作品に比べ,格段の進歩を遂げており,親切なチュートリアルと相まってプレイのハードルを大きく引き下げてくれている。同社作品としては画期的なことに,画面のボタンやアイコンを見れば,ほぼ操作方法が推測できるようになったのである。ゲーム進行に際して必要不可欠な情報へのアクセスも良好になっており,高く評価できる。

 

チュートリアルはかなり親切。画面を見ただけで,ゲームの概要はだいたい理解できる 自国プロヴィンスを見てみる。ボタンや各種データの配置は,ぐっと分かりやすくなった

 

街を発展させるウィンドウを開いたところ。施設を建てるために何が必要かがすぐ分かる。この全体的な見通しのよさは前作にはなかったもの 資金にマウスカーソルを合わせると,1年の収入予測が表示される。年初の人頭税で1年をやりくりするのが基本のゲームだけに,非常に便利だ

 

 

中部ヨーロッパが展開の核に

 

宮廷管理画面。偉人は国家の発展効率を高めてくれる。しかしこの画面は音楽家多すぎ

 プレイ内容面に目を向けると,EU3ではローマ教皇の選出/神聖ローマ皇帝の選出が重要なルールとして追加され,ゲームプレイに多大な影響を与えるようになった。つまり中部ヨーロッパの情勢を,ゲーム展開の要に据えたということだろう。また,宮廷顧問として歴史的著名人を雇用できるようになっており,彼らは国家の文化発展や安定度上昇などに直接的なメリットをもたらしてくれる。

 

ローマ教皇庁と神聖ローマ帝国の様子。神聖ローマ帝国は,傘下の国が多ければ多いほど皇帝の力が強いという仕組み。これはつまり,統一的な中央集権国家に近づけば近づくほど弱体化するというわけで,未来は非常に暗い

 

 

世界情勢に応じてイベントが生起する

 

「政治体制」はEU3の新要素。これによって国家にさまざまなアドバンテージを与えていける

 またEU3では,決まったタイミングで発生する「歴史イベント」が大幅に排除され,システム側がその段階での世界情勢を判断して,イベントを自動生成する形となった。国家ごとに異なる個別AIもまとめて排除されており,細かな歴史再現性は下がったものの,イベントフラグやAIの行動パターンを見越した,歴史っぽいけど本来奇妙なプレイングは,難しくなった。ここが,EU2と比べたときの根本的な違いである。

 

統治レベルが上がるにつれて,同時に採用できる国策も増えていく。国策の効果は非常に大きいので,できるだけ後れを取りたくないところだ 停戦交渉画面。領土割譲要求でどの地域を要求するか,地図で見られるのは大きな進歩。もっとも,これでもまだまだ使い勝手はよくないが

 

軍隊において指揮官は大きな役割を果たすが,登用にはお金がかかる。基本的には君主自ら戦場に出ることもできるのだが,女帝の場合は不可能だ 戦闘では軍隊の規模も大事だが,質と指揮値が極めて重要という,従来どおりのパラドックス・バランス。グラフィックスのあっさりさ加減も従来どおり

 

 

新コンセプトの本領は,パッチに期待

 

カスティリアで開始して2か月後にこの仕打ち。ゲーム開始直後にポルトガル/アラゴンと姻戚関係を結んだり同盟を組んだりすれば防げるが,せめてそう促してほしい気も

 そうしたわけでEU3のキーポイントは,EU2でゲーム進行の核となっていた歴史イベントの,実質的な排除である。EU3はEU2のデータやAIを増強した分かりやすい続編ではなく,ゲームコンセプト自体にメスを入れた作品なのだ。
 結果としてEU3は,従来のファンが思い描く「ヨーロッパ・ユニバーサリス」ではないのだが,歴史に対する切り口という点では,Paradox Interactive作品らしい,ままならなさとシニカルさをたっぷり備えたゲームに仕上がっている。
 ただ,少なくとも日本語版の現バージョン(Ver.1.21)では,プレイを通して歴史そのものが自動生成されるというアイデアが,完全に機能しているとは言い難い局面も見受けられる。この点については,パッチでの改良と,速やかな日本語版パッチのリリースを,大いに期待したいところだ。

 

攻城戦に勝つとプロヴィンスの支配権を一時的に獲得する。権利を完全に奪うためには,停戦交渉で割譲要求を通す必要あり。とはいえ,大きな国ともなれば一度に割譲要求を通せる数に限度が出てくるし,小国を完全占領して併合すると,国際世論の反感を買う。そもそも戦争を始めるなら,「正統」な宣戦理由がないと国内が動揺する。なんとも難しい

 

斜線部が一時的に占領したプロヴィンス。最初のころは若干違和感があるかもしれないが,ぱっと見の分かりやすさは重要 ゲームを終了すると,その国の歴史が君主の業績を中心に表示される。プレイとAAR(After Action Report)をセットにした試みだ

 

タイトル ヨーロッパ・ユニバーサリスIII【完全日本語版】
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2007/07/06 価格 9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c),CPU:Pentium 4/1.9GHz以上もしくは同等のAMD製CPU,メインメモリ:512MB[1GB推奨],グラフィックスチップ:ハードウェアT&LとPixel Shader 2.0をサポートした製品,グラフィックスメモリ:128MB以上,DirectX 7に対応したサウンドカード,HDD空き容量:1GB以上

(C)2007 Paradox Interactive. All rights reserved. Europa Universalis is a trademark of Paradox Interactive.

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http://www.4gamer.net/preview/eu3/eu3.shtml