善:
GeForce FXシリーズのピクセルレンダリングパイプラインの話は非常に不透明で,各方面でさまざまな憶測が飛び交っていますね。FX5600は「4パイプライン」で「6ピクセルシェーダ」という説明がされたようですが,これはどのような意味なんでしょう?
GB:
ある状況下では,GeForce FXは1クロックあたり6個のシェーダ命令が実行できます。だからそういう説明をしたのです。
これまでGPUは,
・レンダリングパイプライン数
・1クロックあたりのピクセル数
・1クロックあたりのシェーダ命令の実行数
・1クロックあたりの最大適用可能テクスチャ数
といった項目で性能を推し測ってきました。
ところが,柔軟なプログラマビリティを重視して設計された新世代GPU GeForce FXシリーズの(ピクセルエンジン部の)パフォーマンスは,非常に説明が難しいんです。だからFX5600の性能を言い表そうとすると,
・ある状況下では,1クロックあたり6シェーダ命令を実行可能
・1クロックあたり4ピクセル出力が可能
・1クロックあたり4テクスチャ適用可能
・1クロックあたり16個のテクスチャを参照可能
といった表現にならざるを得ないのです。
善:
1クロックあたりのスループットを競っても仕方ないと?
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「Morrowind」の水面のエフェクトは,NVIDIAの技術協力によって実現された |
GB:
そうです。我々が「モダンアプリケーション」と呼んでいる,これから主流となる3Dグラフィックスは,どんどん複雑になっていきます。我々がその"一例"として公開したタイムマシンシェーダ(forGamer内での情報は「こちら」)などは,一度に14枚のテクスチャ参照を使っているんです。
またこれからの3Dグラフィックスは,最終的にフレームが生成されるまでに非常に多くのパスを経由します。ボリュームシャドウならZバッファレンダリングやステンシルバッファの書き込み,シャドウマッピングの場合なら,光源の数だけシャドウバッファ生成が必要になるんですね。そのほかにも,ライトマップやバンプマッピングを同時に処理する場合もあることでしょう。
善:
何気なく見ている60fpsのシーンも,実はGPUは240回レンダリングさせられている,なんていうことも現実に起こりうるわけですね。
GB:
そうしたモダンアプリケーションを滞りなくこなすために,GPUに求められる性能とは一体なんだと思いますか?
そう,それはあらゆるレンダリングモデルに適応できる潜在能力なんですよ。
つまり上の例を受けていえば,Zバッファレンダリングやステンシルバッファを高速に処理できたり,多数のテクスチャ参照をこなせたり……ということです。
善:
そうしたアプリケーションでこそ,GeForce FXの真価が発揮できると?
GB:
「QuakeIII」のベンチマークなどは2レイヤーテクスチャ程度なので,真価は発揮されません。だから,我々はより新しい世代のゲームソフトのベンチマークモードを推奨するのです。
善:
でも,そういうソフトは今のところ見当たらないようですが……。その意味では,GeForce FXシリーズのコアアーキテクチャは時期尚早だったのでは?
GB:
従来の3Dグラフィックスを高速に処理するだけのGPUならば,我々なら簡単に作れるんですよ。でも長い目で見た場合,新しい技術進化を支援するような"革新的なもの"を提供していく必要あるのです。
善:
投資……みたいなものですか。
GB:
そうともいえるでしょう。新技術を組み込んだGPUを提供すれば,新しいビジュアルが生まれますし,そのビジュアルを実現するために,ユーザーはGPUを購入してくれることになるわけですから。
その意味で,GeForce FXシリーズは"近未来の"3Dアプリケーションを動かすためのGPUといえると思います。
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GeForce FXのデモ「タイムマシン」で使用されたシェーダプログラムは,シェーダがパラメトリックに挙動を変化させる能力をもつ |
善:
"家庭用ゲーム機とキラータイトル"と同じ関係ですね。
GB:
その法則はGPUにもいえると思います。だから我々は,開発者を全力で支援しているのです。Cgを開発したのはそのためですし,サポートや資料の提供も積極的に行っています。またSoftImage,3D Studio MAXやMayaなどのDCC(Digital Content Creation)ソフトウェアへの統合や,プラグインソフトの開発も行っています。
そして65〜70人の専門エンジニアが,実際にゲーム開発者のサポートにあたっています。ゲーム開発者の下でGPUに最適化したシェーダを書いたりもしていますよ。
善:
そうしたサポートを行ったタイトルで,具体的なものがあれば教えてください。
GB:
Greg Jamesは知っていますか?(著者注:3Dグラフィックス界では名の知れた人物である)。「GDC 2003」でもシェーダプログラム関連のセッションをいくつかもっていますけど,彼はいろんなところに協力しています。
例えばEAの「Tiger Woods PGA Tour 2003」や,Bethesda Softworks の「The Elder Scrolls III:Morrowind」など,水の表現のシェーダは彼の手によるものです。
最近のタイトルでいえば,現在開発中の「S.T.A.L.K.E.R.:OblivionLost」でしょうか。これはNVIDIAの全面支援で開発が進んでおり,ハードウェアの提供や技術支援を行っています。
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