ウクライナ発のゲームエンジン「X-RAY」 「GDC 2003」スペシャルレポート #22 - 03/12 20:58

Text & Photo by トライゼット西川善司

■GeForce FXユーザーはこれを待て!
   ウクライナ発のゲームエンジン「X-RAY」

 NVIDIA GeForce FX 5200/5600シリーズの発表会でも紹介され,NVIDIAブースで多くの来場者の注目を集めていたのが,現在ウクライナのゲームスタジオGSC Game Worldが鋭利開発中のFPS「S.T.A.L.K.E.R.:Obivion lost」(以下,STALKER)だ。ただゲームの開発段階はまだα版程度といったところで,現在はゲームエンジン「X-RAY」の作り込みに力を入れている。

 この「X-RAY」エンジンは,初めからゲームエンジンのライセンシングを前提としているようで,汎用性とスケーラビリティを意識して開発されている。対応GPUはRIVA TNTクラスの世代から最新世代までで,パフォーマンスに応じて,シェーダのフォールバックが実現される(まぁ古い世代のGPUで動作するとはいっても,一応ターゲットのGPUはGeForce 3,RADEON 8500などのDirectX 8世代以上のGPUとなっているのだが)。
 「X-RAY」エンジンの特徴は,3Dキャラクターを500〜1万ポリゴンで表現でき,仕込めるボーン数の制限がないという点だ。スキニング処理は,搭載GPUがDirectX 7世代であれば,ハードウェアT&LやCPU側のSSE/3DNow!を活用したハイブリッド処理で行い,またDirectX 8世代以降のGPUであれば,頂点シェーダを使ったシェーダプログラムで行う。

 またボーン処理は,最近流行の"双方向キネマティックス処理"を導入している。キネマティックスとは日本語でいうところの"運動学"だ。
 人体の関節には,可動範囲と可動方向範囲があり,物理的な力がかかったり,アクションを行ったときにはこうした要素に制限されてリアルな挙動を示す。たとえば,最近のゲームでもよく見かける「変な挙動」として,"階段の昇降"がある。階段の各段に足がない状態で階段を昇降するキャラクターを一度や二度は見たことがあるはず。だがX-RAYエンジンでは,足の位置から関節の曲げ角を算出し,人間の関節の挙動範囲を吟味した上でキャラクターのアクションポーズを算出してくれるのだ。映画のようなオフライン3Dグラフィックスでは当たり前の処理だが,リアルタイムゲーム向け3Dエンジンとして採用され始めたのは最近のことである。
 またX-RAYエンジンは,もちろん動的LODもサポートする。ポリゴンの増減処理はオブジェクトの形状を吟味した非線形処理を適用して行われるという。たとえば頭にトゲのあるキャラクターは,視点から遠く離れてポリゴンの削減が行われたとしても,そのトゲが見えていたほうが自然なはずだ。X-RAYのLODエンジンには,こうした適応型のLOD処理系が組み込まれている。

X-RAYエンジンは,車輌制御用の物理エンジンも内包する 動的LODを組み合わせた,"描画境界のない"エピックスケール表示に対応 セルフシャドウへの対応に期待したい


 ところでX-RAYエンジンで最も注目したいのが"シャドウ生成"である。"エッジが柔らかく,ナチュラルにバックグラウンドに溶け込む影"を動的に生成できるのだ。3Dキャラクターのシャドウは形状が結構しっかりしているので,ボリュームシャドウだと思われるが,その一方,背景や小道具,大道具などの影はモヤっとしている。ただし,それでもジオメトリのしっかりした影が出ているので,シャドウマッピングによる影だと思われる。
 一般にシャドウマッピングは,こうしたオープンフィールド型のゲーム用エンジンには向かないとされている。それは広いシーンにリアルタイムに影を投影するためには,そのシャドウバッファの解像度を大きく取らないと精度の高い影が表現できないからだ。X-RAYでは,このジャギーをプログラマブルシェーダを活用することでソフトシャドウに昇華させていると思われる。なお来場者の多くが,ソフトシャドウが動的生成されていることを知って驚いていた。ただ現時点では,自己遮蔽やセルフシャドウの処理は行われておらず,このあたりは今後の課題といったところか。

こうしたシーンのシャドウが,ライトマップかリアルタイムシャドウか区別がつかない。X-RAYエンジンのシャドウ表現の強力なところだ


 地形エンジンは,パラメトリックに草木を配置できる機能を持つ。デモでは,木と雑草で埋め尽くされた中を進んでいくシーンを見せていたが,こうしたシーンでは1フレーム当たりのポリゴン数は200万に達しているという。草木は,数十ポリゴン程度のジオメトリベースモデルを組み合わせたものにテクスチャを組み合わせて表現しており,カメラアップになってもそれなりに見栄えが良いのが印象的だった。
 また,X-RAYエンジンはオリジナルのサウンドエンジンをもっているのもウリ。頭部伝達関数(HRTF)ベースの仮想音源技術で,サウンドカードの種別に関係なく,ステレオ2ch再生環境で立体音響を実現する。

 ゲームそのものに関しての詳しい紹介は,5月に開催予定のE3で行うとのことだが,ここでも簡単に紹介しておこう。
 近未来,チェルノブイリで謎の爆発が起こり,地域一帯が放射能に汚染される。だが調査の結果,爆発は原発とは無関係という真相が判明。放射能汚染の影響により生態系が異常な発展を遂げて異形のモンスターが出現するようになる……,というバックストーリー。一人称/三人称切り替え可能な"3Dシューティングアドベンチャー"スタイルで,ゲームは進行する。2003年内発売予定とのことだが,ブースにいたGSCのスタッフはあまり自信がない様子だった。


草木などの植物の表現のリアリティが高いのも,X-RAYエンジンの特徴

X-RAYエンジンのリアルタイムシャドウは,このようなソフトシャドウで出力される。プリレンダーのライトマップの影と違和感なく溶け込んでいる

銃声に驚いて飛び上がる鳥達。こうした小動物などの小道具キャラのマネージメントもシステマティックに行える ハイダイナミックレンジ,レンダリングかと見まごうほどの明と暗のコントラスト表現が美しい



友達にメールで教えよう!
←Back to Daily News
←Back to News Archive