ストラテジー 4Gamer.net Review
 
現代アメリカ陸軍の戦闘をリアルに再現

フルスペクトラムウォーリアー 日本語版

Text by 松本隆一
9th Nov. 2004


アメリカ陸軍とハリウッドのコラボレーションが生んだ
まったく新しいタイプのゲーム。結果はいかに?

平和維持軍として中央アジアの小国に派遣されたアメリカ陸軍の一分隊8名の活躍を描く「フルスペクトラムウォーリアー 日本語版」。プレイヤーは分隊指揮官として彼らの生命を守りつつ,ミッションをクリアしていかなくてはならない

 事の起こりは1999年,アメリカ陸軍がカリフォルニアのInstitute for Creative Technologies(以下ICT)および数社のゲーム会社と共同で,歩兵訓練用シミュレータの開発プロジェクトを始めたところにある。
 陸軍製のゲームといえば,現在無料で配布されている「America's Army」(以下AA)が有名だが,AAが新兵のリクルートを目的として作られているのに対し,このプロジェクトに4000万ドル以上の資金を投じた陸軍が望んだのは,実際に歩兵の訓練に使用できると同時に,わずかの変更でPCや(当時の)次世代コンシューマ機に向けて販売できる2種類のシミュレーションを作ることだった。一つは10人程度の小隊/分隊を主役としたもので,タイトルを「Full Spectrum Warrior」といい,もう一つは50〜100人程度の中隊を率いるもので,「Full Spectrum Command」というタイトルになっていた。

 しかし,ICTの目的は,必ずしも陸軍の望み通りのリアルな訓練用ソフトを開発することではなかったらしい。彼らは陸軍の資金とノウハウを使って,まったく新しいデジタルエンターテイメントの可能性を追究しようと試みたという話である。なにしろICTを運営する南カリフォルニア大学(USC)は,ジョージ・ルーカスなど数多くの映画人を輩出してきた娯楽のメッカ。その彼らが,これを良い機会として,既存のゲームにはない迫真性とゲーム性を求めたとしても不思議ではないところだ。
 というわけで今回紹介する「フルスペクトラムウォーリアー日本語版」は,「アメリカ陸軍とハリウッドのコラボレーション」という非常に興味深いバックグラウンドを持っており,筆者を含めそのスジ(←比較的アレなスジ)の人々にとってかなり待望のゲームだったのである。2004年のE3でXBox版が公開されたとき,PC版の予定はいつですかと聞いて「さぁ?」とブースのお兄ちゃんに答えられてがっかりしたのもつかの間,アメリカではこの2004年9月にPC版がきちんと発売され,11月18日にはメディアクエストから日本語版が登場するというわけなのだ。これはもう,やってみないわけにはいかないであろう,人として。

 ちなみに,もう一方の「Full Spectrum Command」のプレイムービーはICTの公式ページ(「こちら」)で見ることができるが,今のところ一般に発売する予定はないようである。ムービーを見る限りでは,ゲームとして販売するには今後かなりのブラッシュアップが必要,といったレベルであり,こちらはかなり"実用"シミュレータという雰囲気だ。だが,発売されたら買うんじゃないかな,と思っている自分が憎い。
 もひとつちなみに,AAのほうだが,ノースカロライナに専用のスタジオを設立し,著名なゲーム開発者を招聘するなど,アメリカ陸軍は相変わらずこちらにも力を入れているようである。それにしても,向こうのお役所はやることは面白い。よりによって軍隊でゲームですよ,軍隊で。こんなこと,たまには日本のお役所もやってくれないかね。さすがに自衛隊が,というわけにはいかないだろうが,「ジャパニーズ巡査」とか「フルスペクトラム郵便局員」とか。えーと,面白くないな。ダメかしら。

直属上官であるフィリップス中尉。上が中尉で下が軍曹なのだから,プレイヤーは少尉殿ということになるのだろう 陸軍の最小単位である分隊は2チーム編成。1チーム4人で,各自に受け持ちの火器がある。リーダーは三等軍曹 GPSを開いて現在位置および目標を確認する。航空偵察で発見された敵の位置も表示されるが,すべてではない
フラググレネードや発煙手榴弾はこのようにして投擲する。敵は,届く範囲のほんのちょっと遠くにいることが多い 丸で囲まれた範囲を警戒しながら,ゆっくり前進させることも可能。市街地では敵の場所が分からず,神経がすり減る 二人以上が被弾し,戦闘不能になるとミッションは失敗。世論を気にして戦う現代アメリカ兵に戦死は許されないのだ


陸軍歩兵マニュアルの基礎を楽しく学んで,敵を殲滅しろ!

アメリカ陸軍の歩兵訓練シミュレータが原型となっているため,リアリティは抜群。マニュアルに従わない行動を取ることがいかに危険なのか,また,たった一人の敵を排除することがいかにやっかいなのかがよく分かる

 さて,ゲームの内容はといえば,スクリーンショットを見てお分かりのように,分隊タイプの3人称シューティング……ではないのである。全然違う。これほどスクリーンショットと実際の雰囲気が違うゲームも珍しいと思うが,実はプレイヤー本人はゲームを通じてただの一発も発砲しないのだ。4人一組の分隊を二つ,A(アルファ)チームとB(ブラボー)チームを指揮するのだが,プレイヤーのやることは,彼らの進む方向を指示し,そこにいる敵を撃退させ,包囲された仲間の救出とか,敵のスティンガーミサイルの確保とか,そういったミッションを達成することだ。そんなわけで,ゲームの大半は,アルファーをゴミ箱の背後に進めたり,ブラボーを建物の裏に回したりとか,部下をあっちこっちに移動させて過ごすことになる。
 移動先はマウスで指定するのだが,地形が複雑になってくると,思った場所が一発で指せなかったり,視界は各兵士の周辺だけに限定されるので,先の状況が分からなかったりと,じれったい思いをさせられることもしばしばだ。

 さらに,移動中,敵と遭遇すると当然銃撃戦になるが,これまた従来のアクションゲームとは一線を画す。ともかく,当たらないのだ。もうほんと,弾倉を何度も空にするほど撃ち合うのだが,敵もこちら同様,遮蔽物の背後に隠れて撃ってくるから,壁だのドアだのガリガリ削るだけで,どちらも致命傷を与えることができない。  こりゃ弾が減るだけでラチがあかん,と短気を起こして隠れ場所から飛び出すと,たちまち敵弾が部下に命中し,二人以上倒されると戦闘継続不能でミッション失敗! になってしまう。そんなこんなで,ゲームに慣れない最初のうちはかなり戸惑うだろうと思う。少なくとも私は困ってしまった。

 しかし,徐々に基本的な戦術を覚え,各種火器の特徴をつかんだあたりから,俄然面白くなってくるはずだ。"戦術"というと面倒臭そうだが,基本は簡単。すなわち,一方のチームが銃撃で敵を威圧する間に,もう一つのチームがより良いポジションを確保して,そこから銃撃。その間にもう一方が前進し……とこれを繰り返して,最後は背後に回って攻撃したり手榴弾なりで片を付けるわけである。これを相互超越前進と言う。
 あれほど当たらず手こずった敵が,ちょっとした移動と,煙幕を使うことで簡単に倒せる。これは病みつき系の快感。とはいえ,必ずしも良い位置があるわけではなし,敵が常に一人であるわけでもないので,ここが頭の使いどころだ。建物の裏に回ったらあの敵を倒せるんじゃないかな。あのベンチは遮蔽物として使えるだろうか,などと考え始めると,もうやめられなくなってくるという仕掛けである。

 また,部下に与えられる命令の種類は結構細かく,ある方向に注意しながら前進させたり,伏せさせたり,曲がり角を警戒させたりしなければならないが,その割に,キー操作はさほど複雑ではなく,ミッションの半分以上はマウス一つでプレイできてしまう。このあたり,コンシューマ版との兼ね合いもあって,よく練り込んであると思う。  しかも,部下のAI兵士はかなり優秀だ。マニュアルやオープニングムービーでは,なんだか一癖も二癖もある変な奴らばかりだが,兵士としてよく訓練されており,ある程度自律的に行動できる。例えば,間違って敵の砲火の前に飛び出してしまうと,勝手に伏せたり,もよりの遮蔽物の背後に隠れたりとそれなりの行動をとる。歩兵マニュアル通り,前に味方がいる場合,ちゃんと銃口を下げたりして,挙措動作がキビキビして,指揮していて気持ちが良い。彼らの「飯はいつ食べられるんです?」とか「つまんねえなあ」とかの減らず口も愉快だ。今も昔も,二等兵の仕事はぶつぶつ文句を言うことなのである。

 それだけに,部下が撃たれるとショックが大きい。たった8人しかいないので,一人失うと戦力激減になるためでもあるだろうし,撃たれると,そのシーンが悲しげなBGMと共にスローモーションで流れるという妙にセンチメンタルな演出のせいもあるだろうが,なにより,顔も名前も知っている優秀な男が自分のせいで傷を負ったという事実がショッキングだ。分隊を指揮するのは,旅団を指揮するのとは心情的に違うのである。ああ,メンデス軍曹がまたまた撃たれてしまった!
 だが,彼らを助けることは可能だ。CASEVACと呼ばれる救護所兼補給所までなんとか運べば,メディックが彼を治して戦列に復帰させることができる。あんなにエビぞりになって出血していたのに,と思うような傷でも,軍医殿がアっちゅう間に治してしまう。このあたり,リアルというよりかなりゲームっぽいが,気は楽である。

意外にもブラッドレー歩兵戦闘車は歩兵の持つ対戦車ロケットに弱く,わが分隊,チャーリー90の保護を必要とする 歩兵の移動にはハンヴィーやブラックホーク兵員輸送ヘリコプターなどが使われる。こだわりのモデリングが嬉しい 敵戦闘車輌として旧ソ連のT72も登場。むろん,歩兵の手に負える相手ではないので,間接攻撃を要請して排除する
トラックに50口径機関銃を積んだ「テクニカル」と呼ばれる敵車輌。ソマリア派遣のアメリカ軍がこれに悩まされた どんな重傷でも,CASEVACと呼ばれるエリアまで運べば,ただちに部隊復帰が可能。アメリカ軍の医療はここまできた セーブは特定ポイントのみで可能というコンシューマライクなシステム。数も少ないので緊張感はかなりのものになる



完全無欠の歩兵となり,ジーキスタンに平和をもたらしまくろう!

淡く光る空,凝った意匠の壁面,作り込まれた建物など,非常に良い雰囲気のグラフィックス。描画エンジンは独自のものが使われているらしい。マップはかなり広く,空港や宮殿,ビル街など,さまざまな場所で戦うことになる

 戦場となる中央アジアの架空の小国ジーキスタンは,来歴といい雰囲気といい憎いほどアフガニスタンに似ているが,戦闘はすべて市街地で行われる。野戦は戦闘ヘリコプターや戦車などの機械がやってくれるので,なんの変哲もない街角が現代アメリカ歩兵の戦場なのである。とはいえ,マップはかなり広く,また街路が入り組んでいるため,第一級の方向音痴として定評のある筆者は大変だ。GPSを開いて現在位置を確認することや,偵察ヘリを依頼して敵の位置(すべてではないが)を知ることもできるが,いちいちライフルを肩にかけ直してGPSを開かなければならないのがリアルといえば非常にリアルであり,同時に個人的にやっかいだ。ここはどこであろうか?

 グラフィックスは非常に良い。子細に見るとテクスチャも,あるいは今流行の「光と影」さばきもごく普通レベルなのだが,作り込まれた建築物や,輪郭が淡く光る軟調の画面,高地らしいコントラストの強い日射しなど全体的な雰囲気が抜群なのだ。シェーダ機能を全部使い切っていれば良い,ってわけじゃないのだよ,諸君。
 兵士のモデリングもなかなかで,遠目からでも顔の見分けがつくし,装具や背負っている無線機のディテールなども細かい。ただ,顔と名前が一致しないのはモデリングのせいではなく,私のせいであることは間違いないだろう。「デルタボーイ,M203をお見舞いしてやれ!」「自分はノバです,サー!」。死んだらショックとか言いながら,名前も覚えちゃいない指揮官なのである。

 最後にマルチプレイについてちょっと。マルチプレイの場合,プレイヤーは2チームではなく,1チームだけを率いて戦場に参加し,もう一つのチームのリーダーとチャットを使って協力しながら作戦を進めていくことになる。マップもミッションもシングルのものがそのまま使われるわけで,ゲームモードしてはCOOPしかないわけだ。
 試したわけではないが,ボイスチャットにも対応しているので,そのへん面白いかもしれないが,基本的にシングルプレイに軸足をおいたゲームと言えるだろう。個人的には,人間対人間で戦いたいので,そこは今後に期待といったところだ。

 というわけで,もしかしたら新ジャンルの誕生? というムードさえ漂ってくるこの「フルスペクトラムウォーリアー 日本語版」。たまに「ここがこうだったら,もっといいのに」という部分もないわけではないが,リアリティとゲームらしさを絶妙にバランスして中毒性の高い斬新なシステムのゲームに仕上がっていると思う。評価もおいおいに上がっているようだし,現代陸戦ものがお好きならプレイする価値は高いだろう。ぜひ,右に左に前に後ろに部下を走らせ,真のフルスペクトラムウォーリアー(あらゆる任務に対応できる兵士)を目指してほしい。Hoo-ahh!

離陸するヘリコプターの砂塵に思わず目を覆う兵士達。何でもない仕草もごく自然で,よく作り込まれていると思う マニュアル通りの背負い方で負傷者を運ぶ。傷ついた兵士を救護所に運ぶか,戦闘を継続するかはケースバイケース 出会い頭の撃ち合いでは,悲しいことにたいてい負けてしまう。超至近距離の撃ち合いはあまり得意ではないようだ
グレネードランチャーでバルコニー上のRPG射手を狙う。グレネードは効果絶大だが,数発しか持ち歩けないのは玉に瑕 見ての通り,残弾は数でなくパーセント表示。青い三角形は目的地の方向を示している。表示される情報は豊富だ うっかり飛び出してきた敵をバン! 後半になるにつれ登場する敵の数も増え,難度はどんどん上がっていく


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■メーカー名:メディアクエスト
■問い合せ先:ユーザーサポート TEL 0570-040-401(祝祭日を除く月〜金 10時〜17時30分)
■価格:6980円(税込)
■発売日:2004年11月18日
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/1GHz以上(Pentium4/2GHz以上推奨),メモリ 256MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量 1.5GB以上,GeForce3以上もしくはRadeon 8500以上を搭載したビデオカード(GeForce4 Ti以上もしくはRadeon 9500以上推奨),DirectX 9.0c以降
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