松本隆一の「幸せ家族計画」




なんともはや,すっかり姿形が変わってしまったマツモト。妻と二人の子供に囲まれて,幸せなおじいちゃんということろだが,いや,これで収まっていてはいけない。あと,一花も二花も咲かせなくてはならないのである

 幸せ探して45年。こないだチョコレートを食べていたら前歯が折れて,まるでコントに出てくる人みたいになってしまって困っている私がお届けする「ザ・シムズ2」のプレイレポートである。アメリカでは歯の治療代が高いので,悩みどころだ。保険もきかないし。とはいえ,このまま歯抜け状態ではますます女の子にモテなくなっちゃう恐れが十分で,なんとかしなければいけない。というか,チョコレートぐらいで折れるんじゃねえよ>前歯,という感じだ。トホホである。

 さて,私の前歯はなくなったがベロナービルに暮らすマイキャラ,マツモトは結婚した。結婚したのである。妻と一緒にベッドでリラックスさせると,大きな声では言えないようなコマンドが平気で出てくるので,ま,本人の希望もあることだし,非常に何度も何度も叶えてさしあげる。
 ううーむ,と私はモニターの前で腕を組む。なるほど,これこそ結婚の醍醐味なのだろう。既婚者に聞くと,たいてい「結婚なんて,そんなにいいもんじゃないよ」と言われるが,もしかして私は騙され続けていたのではないだろうか。マツモトがうらやましい。にしても,大人向けのゲームだなあ,これ。

 当然の帰結として,ソーシャルワーカーちゃんは妊娠した。結婚してないのに妊娠したら大変だが,結婚してればおめでたいことになるのである。彼女のお腹が急に大きくなり,苦しそうなヨチヨチ歩きになる。経験ないから分からないけど,こうした日常生活のディテールに関するこだわりには驚くばかりだ。お腹が大きくなったら,たぶんこんな歩き方になるよなあ,と思ってしまう。女の人って大変。
 ところが彼女,私が夕食の準備のためタマネギをみじん切りにしている間に出産した。何が大変って,このゲーム,次に何がいつ起きるか分からないところがライター泣かせ。子供が生まれるときはとくに病院などに行く必要はなく,ムービーシーンが挿入され空から子供が降ってくるのだ,とは知っていたが,それがいつなのかまでは分からない。普通にプレイしているなら問題ないが,私の場合,同時進行で写真を撮り記事を書かなければいけないわけなんですよー。
 しかも,生まれたのは男の子。なんだ,男か。私は娘が欲しかったのである。理由は言うまでもなく,年頃になったら楽しそうだからである。男じゃ楽しくない。
 名前を付けなければ画面が止まったままなので,ちょうどテレビでやってた大統領選挙のディベート中継を見つつ,ジョージと名付けた。マツモト・ジョージである。なんだか売れない芸人ライクな響き。まあ,妻のマツモト・ソーシャルワーカーよりは人名に近い気はするんだけど。速攻再ロードと思っていた。……が,しかし,しばらくプレイするうちに,不思議な気持ちになってしまった。……可愛いじゃん,ジョージ。
 これまた,Maxis社の「赤ん坊調査班」(推定)がたっぷり研究したのだろう,しぐさといい表情といい,実にまったくどこに出しても恥ずかしくない赤ん坊ぶりだ。しかも,現段階では具体的にどうこういえないが,夫婦の遺伝子を引き継いでいるというではないか。マツモトなんかの遺伝子を引き継いだらロクな人物になりそうもないが,それでも,そこはかとない愛着を覚えてしまう。いかん,こんな子を捨てられない。

妻というより母親の風格が出てきたソーシャルワーカー。相変わらず髪の毛のないのがヘンだが。そして,顔は怖いが,頼りになるベビーシッター。いつもお世話になってます。なーんてこと言ってたら,またぞろ泥棒が忍び込んできた。SWATのチームリーダーの家に入るとは……,って,見てないで手伝ったらいいんじゃないの,ねえ?

男の子なんか育てたくない,と思っていたが,こうして実際に生まれてくると可愛くて仕方がない。いやはや,マツモトも人間だ。シム人だが。ソーシャルワーカーは二人めを妊娠,出産。今度こそ女の子だ。でかしたぞ!


 だが,それからが大騒ぎ。なにしろ,赤ん坊というのは時間を選ばずに泣いたりおむつを汚したりする。それなりにパターン化していた夫婦の生活時間は木っ端微塵に吹き飛び,疲れの抜けない日々が続く。ソーシャルワーカーは産休をもらえるのだが,たったの3日。SWAT隊長マツモトも,便意をこらえつつ出勤する日々だ。

マツモト家の子供達は,なんだかトイレで水遊びが大好きだ。もっとおもちゃを買わないとだめなのだろうか。いつもどおり,仕事に行ったり火事を出したり日常生活は平穏に続いていくのだが,ついに来るべき日が来た

 とはいえ,頼んだベビーシッターの婆ちゃん,顔はかなり凄いものの,非常に有能でいろいろと助かった。ほかにも,ベビーベッド,おまる,おむつ交換台,おもちゃなど,いろいろと物入りだ。建て増ししたばかりなのに,もう手狭な感じである。ちなみに,手に入るベビーベッドの名前は「お子様コンテナ」。こんな変な名前あるかい! 私はしばらく気づかなくて,ジョージは何日も床で寝ることになってしまった。
 なんだか悔しいので,半ばヤケクソで二人めに挑戦し,妻はまた妊娠した。今度こそ,と願ったら,ちゃんと女の子で,名前はヒラリーに。将来,兄妹で中東問題でも語り合っていただきたいものである。だが思った通り,目の回る忙しさだ。幸せってなんだろう? 忙しすぎて,「ウフフな事」さえできやしない。

昼だろうと夜だろうと,赤ん坊は泣くし,お腹が空くし,歩きたがるし,可愛いし,で,さすがのソーシャルワーカーも疲労のあまりひっくり返ってしまった。二人の時間帯はめちゃくちゃで,マウスを動かす私も大変だ



マツモトの願望は相変わらずウフフ関係が多いのが救いだ。下の子が学校へ行くようになって時間ができたら……。まずはメイドさんを雇って,何かを起こしてみよう。というわけで,来た来た。トラックのロゴがステキ
 さて,来るべきものが近づいてきた。そう,マツモトの老齢が明日に迫ったのである。「歳月,人を待たず」と言うではないか。私も,メガネの度が合わなくなり,眼鏡屋で検査してもらったところ,「遠視を入れなきゃいけませんね」と言われてガーン,となった。そういえば,近くのものが見えづらくなっていたのだ。遠視と言えば聞こえは良いが,それって老眼のことでしょ。老眼だって。うう。それに,夜中にトイレに何度も起きたりするし,老齢の接近は他人事じゃない。父ちゃん母ちゃん,孫の顔も見せられなくてごめんね。

 シム人の老齢化は,放っておいてもそうなるが,やはりここは誕生パーティを開きたいものだ。結婚パーティの次は老齢パーティか。うーむ。電話をかけて人を集め,料理だのシャンパンだのを用意する。そして,いよいよバースデーケーキの炎を吹き消す。はやし立てる仲間達。流れるムービーシーン……うそ! マツモトは凄い年寄りになってしまった。頭は真っ白。それまでのイカレたTシャツとバーミューダ姿が,カーディガンに蝶ネクタイといった老齢ファッションに変わり,歩き方も心なしかヨボヨボしている。こ,こんなに変わっちゃって良いものだろうか?
 私はしばし唖然とした。もう少し中間的な段階があるものだと思っていたのに,階段を一気に駆け上がってしまったような気持ちだ。ほかのみんなが若いままなのが,さらに哀愁を際立たせる。ちっちゃい子が二人もいるのになあ。

最初に雇ったメイドさんが彼。こんなこまわり君みたいなやつイヤ,絶対にヤ,というわけでお引き取り願った
 こんなんでSWAT隊長は無理だろうから,マツモトは職場に電話をかけ,引退を申し出た。満期除隊で年金がもらえるらしい。年金だってさ,みなさん。妻であるソーシャルワーカーちゃんは意外と若く,まだ成人になったばかりと言えるほどだ。今,気づいたけど,若妻だったのね,彼女。というわけで,幸いなことに妻の稼ぎが多いので,マツモトには家で子供の面倒を見させることにした。ジョージは赤ん坊から幼児になり,いろいろ手がかかる。乳児のヒラリーはさらにだ。マツモトはおしめの交換,家の掃除,料理など,遊びにも行けない忙しさで,おじいちゃんてば,ますます哀愁が漂って来るじゃない。マニュアルに,「老齢ならでは」の仕事もある,と書いてあったので楽しみにしていたのだが,新聞を読むと「新薬の実験台」とか「研究所の試験管磨き」とか,ろくなものがない。元SWAT隊長も形無しだ。

新たに雇った彼女こそ希望の星。「口説く」の願望は即右クリックで固定した。叶うまで絶対に諦めない 赤ん坊のことを気にしつつも,バージニアちゃんに電話。なんとか彼女を成人させる方法はないのかしらね?

 二人の子供と家の面倒を同時に見るのは大変なので,マツモトはメイドさんを雇うことにした。メイドさん,である。なんとなくいい響きだ。どう考えても黒タイツに半乳であろう。昼間二人っきり(ちっちゃいのが二人いるが)になるはずだ。そうです,このままヨボヨボしていちゃいけないと思うんです。まだまだいけるところを世間に見せなければ,連載にならないんです。
 ところが,やってきたメイドさんは男。それも刺繍入りの絹のシャツを着てピチピチのパンツをはき,ガバッと開いた胸元からは濃い胸毛(はウソだけど)が。こんなのメイドさんじゃない! やだやだ。絶対やだ! 次号に続く。

マツモトの誕生パーティが始まった。バースデーケーキのろうそくを吹き消したとき,新しい段階の人生が始まるのである。さあ,いけ。ありゃ? これが新しいマツモト? こんなにいきなり年を取ることないじゃない!

すっかり老齢者のマツモト。仕事も辞め,今や年金生活者だ。一人で過ごす姿にも,なにか言いようのない哀愁が漂う。はっきり言って人ごとではないだけに,マツモトがこのまま衰えるのだけはなんとしても阻止したい

■■松本隆一(ライター/学生)■■
アメリカ在住の大学生兼ゲームライター。前回のこの欄で「秋葉原に行きたい」という氏の願望をお伝えしたが,アメリカにも"濃い"人がいるのか,なんでも最近友人が「じゃあ私の半導体をあげよう」と,PICとかTTLとか7セグメントLEDとかダイオードとかを譲ってもらったとか。アメリカの自室で,45歳の松本氏が一人はんだごてで電卓を作っている様子を思い浮かべると……これはこれで案外幸せそうだから不思議である。


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