― 連載 ―


 光の神ルー誕生 

Illustration by つるみとしゆき
 古代ケルト人によって紡ぎ出され,キリスト教などの影響を受けながら今日(こんにち)まで伝えられているケルト神話。日本でもメジャーなギリシャ神話や北欧神話と比較すると知名度は低いものの,エピソードはどれも非常に興味深く,ファンタジーファンであれば心を躍らせるような話が多い。
 もともとは独自の体系を備えていたのかもしれないが,今日伝わっているものは個々のエピソードだけである。ダーナ神話,アルスター神話,フィアナ神話といったあたりが中心となる話で,ちょっとした神話ツウ(?)であれば,その名前くらいは知っていることだろう。
 さて,今回スポットを当てるのはダーナ神話。これはアイルランドを追われたダーナ神族の栄枯盛衰を描いた伝説だ。

 あるところにキアンという青年がいた。彼の仕事は,職人カヴァジ・ゴーの所有する"一度に二百樽分の乳が搾れる"という魔法の牛の番をすることだった。キアンは牛の番人として生活を続けていくうちに,はるか北のフォモール族の地にガラスの塔があり,そこにエフネという女性が幽閉されているということを知る。やがてエフネを夢にまで見るようになったある日,キアンは魔法の牛がいなくなっていることに気がつき,途方にくれてしまう。なんとしてでも牛を捜し出すと心に誓ったキアンは,追跡の旅を始めた。
 魔法の牛の足跡は北へと続いており,海岸線で途切れていた。実は魔法の牛は,もともとフォモールの王バロールの持ち物で,そのもとへと帰ってしまったのである。海岸線でキアンが困っていると,そこに一艘の船が現れる。キアンは,船に乗っていたマナナン・マクリルという男に北へと連れていってくれるように頼むが,マナナンは代価を要求してきた。代価となるようなものを何も持っていないキアンは,北の島で手に入れたものの半分を渡すと約束して船に乗せてもらい,フォモールへとたどり着いた。
 フォモールには火を使う習慣がなく,火の扱いを知っていたキアンは,バロールに料理人として雇われる。そのまま牛を取り返す機会をうかがいつつ年月が過ぎていくうちに,ガラスの塔に幽閉されているエフネに会いたいという気持ちが募っていった。そしてある日,キアンはガラスの塔へ向かい,エフネと出会う。二人は恋に落ち,やがて子供をもうけた。
 実はエフネはバロールの娘で,"彼女の息子はバロールを倒す"との予言があったため幽閉されていたのだ。エフネに子供が生まれたことはバロールの知るところとなり,激しい怒りを買ってしまった。逃げることを決意したキアンとエフネだったが,そう簡単に逃がしてくれる相手ではない。追いつめられた二人を救い出したのは,キアンをフォモールへと送り出したマナナンであった。マナナンは実は海の神であり,魔術に長けていたため,二人は逃げ延びることに成功する。
 ところでキアンは,以前に島で得たものの半分をマナナンに贈ると約束していたが,手に入れたものといえばエフネと子供くらい。そこでキアンは泣く泣く子供をマナナンに預けることにした。マナナンは,その子を魔術/剣術に精通した戦士として育てることを約束すると,姿を消した。預けられた子供はやがて,光の神ルーとして世に名を知らしめることになる。

 光の神ルーの装備 

 ルーが成人すると,養父であるマナナンは多くの贈り物を与えた。一度騎乗すれば決して落馬せず,海の上でも駆けられるという魔法の白馬アンヴァル(Aonbarr),海も陸も帆走できる魔法の船,炎をまとい戦場では火の玉と化して敵を打ち破る魔法の猟犬,ルーの言葉を運ぶカラス,食べても生き返る魔法の豚,さらに従者としてマナナンの9人の息子が従ったという。
 ちなみにマナナンからは十字剣フラガラッハ(英語圏では"アンサラー")という魔剣も授かっているが,これはいつかマナナン本人と共に紹介したいと思う。
 さて,ルーは数々の魔法の品を持っていたが,その中でも最も強力なのが,魔槍ブリューナクである。
 ブリューナクは,魔法の石"リアファル",魔剣"クラウ・ソラス",魔法の釜"尽きざるもの"と共に,神々の四つの至宝とされている。意思を持つ魔法の槍とされているが,興味深いのは投擲用の武器であったことだろう。神話伝承に登場する英雄達の武器はその手によって振られることが多いが,ブリューナクは投擲専用。ひとたびルーの手を離れると稲妻のような光を放ちながら敵を貫いたという。
 また,ブリューナクは槍ではなくスリングの弾であったとする説もある。これはスリングによって打ち出されたブリューナクが光の軌跡を残して飛ぶことから,それが光の槍のように見え,"槍"と表現されたというのだ。どちらにせよ,ルーの手から光の帯が伸びて敵を刺し貫くことから,ルーには"長腕のルー"という別名もついている。

 バロールとの対決 

 エフネの子供(ルー)とフォモールの王バロールの対決が語られるのは,"モイトゥラの戦い"だ。このエピソードは多数の兵を動員した戦術や一騎討ちなど,心踊る要素が多いが,ここですべてを語ることはできないので簡単に紹介しよう。
 モイトゥラの戦いは,ダーナ神族とフィルボルグ族の戦いに端を発し,最終的にはダーナ神族とフォモール族の戦いへと発展していく。とくにルーが活躍するのは後半の対フォモール族とのエピソードで,戦いのさなかで神々の王ヌァザが倒れ,その息子のカスムエールも戦死。これに心を動かされたルーは,妖精騎士団を率いて突撃していく……。
 魔王バロールの左目は邪悪なる目で,その視線にさらされたものは死んでしまうという能力があった。そのためバロールは銀のまぶたを作り,普段は左目を隠していた(あまりにも重く,まぶたを開くには4人の男の力が必要らしい)。戦場でルーがバロールに対したとき,この左目は開かれていなかったが,バロールがルーの存在に気づくと,徐々に開かれていった。次々と倒れるルーの兵士達。だがすんでのところでルーがブリューナクを放つと,邪眼の魔力とブリューナクが衝突,ブリューナクは邪眼を貫きバロールを倒した。
 こうして戦いは終結し,この功績によってルーは王の座について,以後数十年間にわたって統治したという。
 これでもかなりの駆け足で紹介したが,ファンタジーファンにとっては実に魅力的な物語なので,興味があれば関連書籍などを読み漁ってもらいたい。

 最後にこれは蛇足だが,実はケルト神話はアーサー王伝説に大きく影響を与えているらしい。ケルトの神々の四つの至宝である石,剣,釜,槍は,それぞれアーサー王伝説に登場する剣の刺さっていた台座,エクスカリバー,聖杯,キリストを刺し貫いたロンギヌスの槍に対応していて,ケルトの至宝が姿を変えたものであるというのだ。真偽のほどはともかく,地域的にあってもおかしくはない話だし,実に興味深い説といえるだろう。
 なお,ルーの息子であるク・フ−リンが活躍するアルスター神話なども,機会があれば掘り下げて紹介したいと思う。



■■Murayama(ライター)■■
ファンタジー世界の伝道師兼ゲームライター。今回は2月14日掲載なので,彼のバレンタインデーにまつわるエピソードでも書こうと思ったのだが,微妙に掲載しにくいネタばかりなので,却下。4Gamer関係者の中では,最も"モテる"と思われる氏だが(ほかの人々すみません),それだけに,女性関係は書くとシャレにならないネタが多そうである。