― 連載 ―

誰もがRPGを愛していた

Illustration by よりと

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 筆者がPCゲームで遊ぶようになって,今年(2005年)で24年目となる。PCゲームに触れる前は,ファンタジーというと小説,映画,ボードゲーム,テーブルトークRPG,ゲームブックで楽しんでいたわけだが,その頃はどれも「ゴシックファンタジー」の世界観のもとにストーリー/シナリオが展開されていた。そして,黎明期のPCゲームにおいても,ゴシックファンタジーが中心となっていたことは言うまでもない。
 昔を振り返ると,RPGの世界観はずいぶん変わったように思える。昔はUltima,Wizardry,Might & Magicシリーズなどのゴシックファンタジーが主流であったのに対し,現在は和製のライトなファンタジーが主流だ。おそらく,この20年の間に,日本のPCゲームファン層とアニメファン層が大きくかぶるようになったことも理由にあるだろう。
 時代の流れについてとやかく言うつもりもないが,ゴシックファンタジージャンルのシナリオで,プレイヤーを楽しませるタイトルが年々少なくなっていくのは,残念でならない。
 もちろん,ゴシックファンタジーならなんでもいい,というわけではない。やはりそのシナリオのデキは,重要だ。またシナリオそのものだけでなく,それを面白くする翻訳のセンス,モンスターの出現頻度,宝箱の上手な配置など,全体としての「シナリオの楽しませ方」が重要だと思っている。そうしたことに気を使っているタイトルは,“生命”が吹き込まれた良いRPGだと思うのだ。

 今回記事を書くにあたって本気でオススメできるタイトルを探していたところ,これに合致するタイトルを思い出した。2000年1月にエレクトロニック・アーツからリリースされたアクションRPG,「NOX」(ノックス)である。ゴシックファンタジーがベースとなったシナリオは,それ自体も素晴らしく,ぐいぐいと引き込まれていく。
 当時それほど話題にはならなかったものの,筆者の評価は非常に高く,当時某出版社を退職してフリーライターになったばかりだというのに,NOXを購入して夢中で遊んでしまったがために,生活資金が底をつきかけたという曰わく付きのシロモノだ。
 当連載の担当編集者から,「今でも購入できるモノじゃないとダメ!」と釘を刺されたが,幸運なことに,本作は今でも廉価版が発売されているじゃないか! これはチャンス,日本のゴシックファンタジーファンのためにも,この面白さを伝えなければ!!

 

NOX(ノックス) EA BEST

メーカー:エレクトロニック・アーツ
価格:1980円(税別)

ゲーム概要:筆者が夢中になったノックスとは

ヘキュバーの魔力によってノックスに召喚されてしまったジャック。果たして現世に帰れるのか?

 我々が住む世界とは異なる,ノックスと呼ばれる世界での話。英雄ジャンドアは,強大な力を秘めた忘却の杖を駆使し,邪悪なネクロマンサーをオーブに封印した。そして忘却の杖を三つに分解し,それぞれウォリアー,コンジュラー,ウィザードに与え,オーブは異世界へと転送した。こうしてノックスに平和が訪れたのだった。しかしネクロマンサーにはヘキュバーという子供がいて,大きくなるとともに力を蓄えていった。ある日のこと,ヘキュバーは強大な魔力を駆使して異世界へと転送されたオーブを探し出し,オーブを自分のもとへと転送しようとしたのだった。
 そして舞台は,現代の地球へと移る。リビングでテレビを見ていたジャックは,突然の電波障害に悩まされていた。何かおかしいと思いジャックがテレビに近づくと,テレビの上に置いてあった丸い置物(オーブ)と共に見知らぬ世界へ……。果たしてジャックの運命やいかに?

 

 ノックスは,Westwood Studiosが2000年にリリースした,俯瞰視点のアクションRPG。主人公は肉弾戦を得意とするウォリアー,ペットを使役するコンジュラー,強力な攻撃魔法が使えるウィザードのどれかに属し,実世界へ帰るために奔走する。物語は12章立てで進行し,選んだクラスによってエンディングや展開が変化する。
 操作はマウスの左クリックで攻撃,右クリックで地面を指定して移動し,より離れた位置をクリックすれば走って移動するようになっている。また,ウォリアーには5種類の近接戦闘スキル,コンジュラーには24種類の魔法,ウィザードには51種類の魔法が用意されていて,これらを駆使することで爽快な戦闘が楽しめるのだ。

 

キャラクターは3種類。選んだクラスによってストーリーもエンディングも異なる

お勧めポイント:すべてはシナリオを楽しませるために

ゲームの進行に応じて経験値が入るシステムなので,レベルアップも比較的楽だ

 思い出は美化されるので少々不安だったが,やはり今遊んでも面白い! 当然ながら,グラフィックスは今となっては古めかしく感じるものの,ゴシックファンタジーの世界をベースに,PCならではのアクション性をミックスした戦闘は心地良く,スキルや魔法を使って敵を倒すのは爽快だ。
 コンジュラーなどは魔法を組み合わせてトラップを仕掛けるなど,本作ならではの戦略もある。とはいっても,本作ではモンスターは復活しない(いつか倒し尽くしてしまう)ので,あくまでも戦闘は,シナリオを盛り上げるためのエッセンスでしかない。配置された敵の数/強さも程良く,このあたりのバランス取りは絶妙だと思う。またアイテムの入手においてもランダム性がないので,やり込むというよりも,ストーリー展開をメインに楽しむことになるだろう。

 

曲がり角の先やドアの向こうはブラックアウトしていて見えないようになっている

 とにかくWestwood Studiosという会社は,演出について群を抜いている。インストール中はCGイメージと共に世界観が語られ(Command & Conquerシリーズなどもそうだが,同社は他社に先駆けて,インストーラーさえもエンターテイメントさせていた),ゲームが始まると,プレイヤーはジャックの転送シーンを目にすることになる。
 ノックスにたどり着いたジャックは,飛行艇の船長であるオヤジと遭遇し,一通りのやりとりの後,次にキャラクターメイキングとなる。このときも,オヤジに「さあ冒険に出発と言いたいところじゃが,その前にやってもらいたいことがある」と言われて,その流れのままキャラクターメイキングに切り替わっていく。実にうまい。
 このように,インストールやキャラメイクなどの一連の“作業”をも使って,プレイヤーを世界にぐいぐい引き込んでいく手法は,今見ても大したものだ。
 ちなみにやり込み要素はないと記述したが,三つのクラスを終わりまで遊べば,それぞれの思惑などが楽しめたりするので,最低でも3回はプレイできると付け加えておこう。

 

登場するNPCはフルボイス。声優の演技や翻訳も違和感がない

ダンジョンには,鍵のかかった扉やさまざまなトラップも。それほど意地悪なモノはない

 

 ストーリーに関わる部分としては,ローカライズも見事だ。章と章の間のナレーションも映画のようで心地良いし,登場するキャラクターはフルボイス(日本語)で,声優の演技力も十分。さらに何よりも,翻訳に違和感がないのが嬉しい。このあたりは,エレクトロニック・アーツの手腕に敬意を表したい。ローカライズはほぼ満点といっていいだろう。

 

章がスタートする前にはプレイヤーは何をすべきかがナレーションによって語られる

 本作は,戦闘も,ナレーションも,アイテムも,マップの構成も,モンスターの配置も,それぞれ独立の要素ではなく,すべてはシナリオを面白くさせるためだけに計算されているように思う。よってマゾいレベリングもなければ,意地悪なマップ構造もない。ゲームはサクサクと進み,それによってどんどんシナリオに引き込まれていくことこそが,ノックスの最大の魅力のように思える。
 過去の経験から面白さは保証済みだったので,記事を書くにあたって廉価版を購入したのだが,見た目はともかく,面白さは健在だった。グラフィックスに抵抗がなければ,ぜひとも体験してもらいたい。ゲームというエッセンスという部分であれば,今でも通じる面白さを持っている本作は,自信を持ってオススメできる。

■■Murayama(ライター)■■
ライターが持ち回りで担当していくこの連載で,記念すべき第1回を書いたのは,「剣と魔法の博物館」などでお馴染みのMurayamaだ。なぜ,ほかに連載をもつ彼に白羽の矢が立ったかというと,実は大した理由はない。担当編集者が「次の連載はどうしようかなぁ」と考えていたところに,うっかり電話しちゃったのが,彼なのである。そのため彼は,「なんかMMO以外のRPGの連載をしたいなぁ」という漠然とした要求に,わずか5日で応えるハメになってしまった。ちなみに彼が(自腹で)「NOX」を購入したのは,この第1回掲載の4日前。本当,仕事を選ばない男である(褒め言葉)。