― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 "世界観"というのは微妙な言葉で,どういうものかを説明するのは意外と難しい。ゲームに関係して使う場合は,「そのゲームに用意された世界設定,もしくはそれを理解するための観点」という感じだろうか。
 MMORPGは,そのジャンル名を聞いただけで"エルフ"や"オーク"を想像してしまうくらいで,その世界観はいわゆる"ハイファンタジー"に偏りがちだ。今回は,欧米のMMORPGにおける世界観の傾向を探りつつ,新しい可能性に挑戦するソフトをピックアップした。



 これまでMMORPG市場には,既存の人気シリーズに頼った作品が多かった。人気の「World of Warcraft」と「EverQuest II」,そして大御所「Ultima Online」はどれもシリーズものか続編だし,「The Sims Online」「ファイナルファンタジーXI」「信長の野望 Online」「大航海時代 Online」も同じである。
 こういった傾向が見られるのは,人気シリーズの延長であるために一定の利用者が見込めるという理由以外にも,利用者の中核をなすであろうシリーズファンに,すでにゲームの世界観が理解されているという要因も大きいはずだ。
 映画を題材にしたMMORPGにも,同じ意図があるに違いない。すでにリリースされている「Star Wars Galaxies」はもちろん,「The Matrix Online」や「Star Trek Online」なども,世界観を知っている"プレイヤー予備軍"が世界中に大勢いる。映画でなくても小説やアニメ,ボードゲームをベースとした「Dungeons & Dragons Online」「Middle-Earth Online」「Lejendary Adventure Online」「Warhammer Online」,そして日本の「UniversalCentury.net GUNDAM ONLINE」などの期待作がある。さらには「遊戯王オンライン」がβ段階に入っているかと思えば,世界的なブランドとなったサンリオさえも「Hallo Kitty Online World」を香港で試作中というから驚きだ。

 これら多くのMMORPGに共通する課題は,「いかにして大作感を出すか」ではないだろうか。MMORPGは,用意すべきプレイ空間が巨大であることから,それにつり合うだけの壮大な"世界観"が必要になってくる。それゆえに,ゲーム,映画,小説,ボードゲームといったすでに確立した世界観のあるIP(知的財産)を活用することになるのだろう。
 初代EverQuestだって,もともとはMUD(マルチ・ユーザー・ダンジョン/グラフィックスに頼らない,MMORPGの前身)「Diku」の世界観を借りていたと言われており,MUDコミュニティから問題視されていたこともあったほど。
 実際,一から独自の世界観を構築するのは困難なことだ。「Anarchy Online」や「Dark Age of Camelot」「City of Heroes」などは,評価の高さに見合ったプレイヤー数を獲得できているとは言えず,名作としてうまく脱皮しきれていない様子である。
 活用できるIPがなければ,Dark Age of Camlotのように史実や神話に頼るのも悪くないはずだが,第二次世界大戦ものの「WW2 Online」は失敗しているし,北欧神話を題材にしたFuncom社の「Midgard」やMicrosoft社の「Mythica」は開発が途中で中止になってしまった。歴史的なテーマでもMMORPGに採用できる素材は案外少ないと見え,今年から来年にかけて「Imperator」「Gods & Heroes」「Rome Victor」と,ローマ帝国を題材にしたものばかり,3作がリリースされる予定である。

 MMORPGのコアゲーマー層以外にもアピールでき,それだけ成功する確率も高いことを考えると,既存のIPの世界観を利用することは決して悪いことではない。ほとんどのMMORPGにエルフやドワーフなどの空想上の種族,そしてドラゴンやスケルトンといったモンスターが登場するのも,ファンタジー世界のステレオタイプを利用しているだけで,ある意味記号論的である。
 誰でも知っている世界観を提供することは,プレイヤーがマニュアルを熟読することもなく短期間のうちにゲーム世界へ没頭できる点で,大きなメリットを持つ。プレイヤー達の頭の中で,すでに世界観が出来上がっていれば,それはゲーム内のサブカルチャーなりルールなりに応用しやすいわけだ。

 とはいえ,MMORPG開発者の中には,あえてコンテンツを一から作成して,自分達自身のIPを保有しようというチャレンジャーもいないわけではない。今回は最後に,2005年以降にリリース予定の作品の中から,そんな例をいくつか挙げておこう。


Vanguard:Saga of Heroes

開発元:Sigil Games Online

発売元:Microsoft

インスタンシング(プライベートエリアが存在するゲームシステム)を否定し,すべてのマップや建物を誰でも楽しめるよう設計されている
 いきなり"ファンタジーもの"で恐縮だが,少なくともシリーズものでない完全新作ではあるし,避けては通れない超大作なので,この「Vanguard:Saga of Heroes」から紹介していこう(ちなみに当サイトで過去にお伝えしてきた情報は,紹介ページ「こちら」で確認してほしい)。本作は,あの「EverQuest」を開発したブラッド・マッケイド(Brad McQuaid)氏らが創立したSigil Games Online社の処女作だ。
 EverQuestに流れるハイファンタジーの血を受け継いだMMORPGで,EQシリーズのパッケージアートで有名な画家キース・パーキンソン(Keith Perkinson)氏や,「エイリアン」コミック版のカバーアーティストのデン・ ボーヴェ(Den Beauvois)氏らをアート部門に抱えている。
 「Unreal Technology」ミドルウェアを使用することになっており,広大なマップが途切れることなく地平線へと続くようだ。今年のE3で,大々的に公開されることだろう。


Republic Dawn:Chronicles of the Seven

開発元:Nicely Crafted Entertainment社/Elixir Studios社

発売元:未定

まだ発表されたばかりで情報は皆無。ファクションに分かれて政治や軍事,宗教,ビジネス,アングラ活動を行うのだろうか
 タイトル名と開発元で,ピンと来た人もいるかもしれない。これは,なんとデミス・ハサビス(Demis Hassabis)氏の「Republic:The Revolution」の続編とされる,"MMO"ゲームである。
 2007年のリリースを予定しており,さすがにまだ詳しい情報は何も出ていないものの,プレスリリースには「Republic 2では,素晴らしいゲームプレイとビジュアル体験を提供できるはずです。現在のMMOG市場にはない自由度と柔軟性をプレイヤーに提供できるでしょう」という,実質的に開発を行うNicely Crafted Entertainment社幹部のコメントが寄せられている。MMORPGではなく"MMOG"となっているところがポイントだ。


Fallen Earth

開発元:Icarus Studios社

発売元:未定

手に持つ兵器は緻密に描かれており,ちょっとマニアックな作品になりそうなFallen Earth。さまざまな乗物も用意されそうだ
 資本力のない新興の開発元なので,リリースにまでこぎ着けるかは不安だが,「Fallen Earth」は映画「マッドマックス」のような近未来のアメリカ南西部を舞台にしたMMORPGである。
 ミュータント系のモンスターが徘徊する殺伐とした世界が舞台で,プレイヤーvs.プレイヤーのアクションモードが充実しているようだ。しかしそればかりに頼っているわけではなく,ゾーンレスなマップをバギーで走り回って探索を楽しんでもいいし,ミッションに励んでロールプレイに専念してもいいという。
 退廃した150年後の世界で,少しずつ文明の利器を再発見していく。武器となる銃器も,より性能の良いものを探しては身につけるようだ。
 ゲーム内には,デスマッチやキャプチャー・ザ・フラッグで遊べる専用アリーナも用意される予定。


Tatsumaki:Land at War

開発元:Eyes Out Entertainment社

発売元:未定

天候や地形のシミュレーションは素晴らしいデキだが,まだ会社としても機能していないのか,公式ページ(「こちら」)で寄付金を募っている……
 「ハイファンタジーやSFばかりがMMORPGじゃない」という心意気を持つ(であろう)アメリカ人有志が開発する,「Tatsumaki:Land at War」も紹介しよう。なぜ"竜巻"なのかは分からないが,なんと日本の戦国時代をモチーフにした作品で,プレイヤーはサムライやニンジャになって活動するのである。
 Tatsumakiのユニークなところは,キャラクタークラスや種族がないばかりか,モンスターさえ登場しないこと。プレイヤーvs.プレイヤーで技を磨くか,さもなくば魚釣りをしたり農業に勤しんだり,工芸品を作ったりという"生産"に従事する。また家や城を建てたり,道場を持って自慢の剣技をほかのプレイヤーキャラクターに伝授することも可能だという。
 日本人としては,なんだか温かく見守りたくなる一本である。



次回は,PCゲームの未来を変える新ハードについて。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。丸1週間に及んだGDCの取材&執筆も一息。このようなイベントでは,不眠不休で執筆にいそしむのが我々Web系ニュースライターの仕事だが,家に帰った途端に「食材がないから外食しよう」だとか「オモチャが家具の向こうに落ちたから拾ってくれ」だとか,やたらと生活臭のする要求に,もう地元(サンフランシスコ)でのイベントは"こりごり"だと奥谷氏は話す。しかし今回,奥谷氏はお湯を溜めたバケツに足を浸しながら作業すると効率が良いのに気づいたらしい。それが真実かどうかはともかく,5月のE3取材では,ロサンゼルスのホテルにバケツを持ち込むつもりのようだ。



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