― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 '60年代のアメコミ黄金期の熱気が,アメリカで再燃している。最近では「Freedom Force vs. The Third Reich」のようなアメコミ調の作風を前面に押し出したゲームが持てはやされているなど,PCゲーマーでもこういった動向は気になるところだろう。今回は,アメコミの代名詞的な存在であるマーベルコミックスのライセンス映画の成功から,ゲーム業界への影響までを見てみたい。



スパイダーマンをはじめとするマーベルコミックスのキャラクターは,映画を通じて日本でも知名度が上昇中。PCゲーマーなら,結構このテイストにも慣れてきた!?
 最近,有名なMarvel Enterprises社(以下,マーベル社)が好調のようだ。ここ数年はずっと右肩上がりで,映画「スパイダーマン 2」の成功が利いたのか,2004年はその前年との比較だけでも50%以上の増収となっている。同社のプレスリリースを読む限りは,ゲームやオモチャ産業へのライセンスが大きな要因となっているものの,本業のパブリッシング部門でも着実に業績を伸ばしている。2003年では毎月平均50種のコミックを出していたが,2004年には65種に増やしたという。

 マーベル社の歴史は意外と古く,創業は「プリンス・ネイマー:サブマリナー」を発刊した1930年代にまで遡る。しかしその黄金期は,編集人/作家として同社を引っ張り続けたスタン・リー(Stan Lee)氏と,マンガ家のジャック・カービー(Jack Kirby)氏が手を取り合った'60年代以降のことで,この頃に「ファンタスティック・フォー」「超人ハルク」「スパイダーマン」「デアデビル」「アベンジャーズ」「X-メン」などを生み出している。
 カービー氏は1994年に他界し,スタン・リー氏はドットコムブームに乗せられたStan Lee Media社が経営失敗するなどの受難もあったが,2000年7月にリリースされた映画「X-メン」が当たってからは,マーベル社は第2の黄金期を迎えている。

 映画の成功は凄まじく,このX-メンの興行収入が約165億円。その後も「スパイダーマン」(2002年5月・約423億円),「X-メン 2」(2003年5月・約225億円),「ハルク」(2003年6月・約139億円),「スパイダーマン2」(2004年6月・約393億円)と立て続けにヒットを飛ばしており,もはやマーベルコミックの映画は"夏休みのお約束"にもなっている。
 今後の公開リストを見ても,「ファンタスティック・フォー」(2005年予定),「X-メン 3」(2006年予定),「スパイダーマン3」(2007年予定)と,定番化を目指しているのが分かるだろう。

 もちろん,コミックス界のライバル,DCコミックスも黙っているわけではない。アメリカでは公開されたばかりで,日本でもゴールデンウィークに封切られるキアヌ・リーブス主演の「コンスタンティン」は,同社の成人向けコミックスを映画化したものだし,渡辺謙が悪役として登場する「Batman Begins」も6月に公開予定である。
 そのほかにも,Dark Horse Comics社からはブルース・ウィリスが主演する「Sin City」などが控えており,今夏だけでも面白そうな映画が続く。

◆◆続々とリリースされるマーベルコミックの映画リスト◆◆
タイトルスタジオ全米公開日
The PunisherLion Gate2004年4月
Spider-Man 2Sony/Columbia2004年6月
Blade:TrinityNew Line Cinema2004年12月
ElektraNew Agency/Fox2005年1月
Fantastic FourFox2005年7月
X-Men 32006年5月
Iron ManNew Line Cinema2006年中
Ghost RiderSony
Luke CageSony/Columbia
The Punisher 2Lions Gate
DeathlokParamount
Spider-Man 3Sony/Columbia2007年5月
NamorUniversal Pictures2007年中
The Hulk 2
WolverineFox


2005年8月リリースと,大きくずれ込んでしまったが,「City of Villains」は悪役キャラクターを使用できる「City of Heroes」ファン期待の拡張パック。いずれ戦隊が組めるようになり,日本でもプレイできるようになるというのが筆者の願いだ
 このアメコミ映画の成功を,見逃したりはしないのがゲーム業界だ。2004年のE3(Electronic Entertainment Expo)では,「Spider-Man 2」や「X-Men Legends」のActivision社をはじめ,Encore社,Vivendi Universal Games社,THQ社,そしてElectronic Arts社の各ブースでマーベルブランドをライセンスしたゲームが公開されていたほどである。
 Spider-Man 2は,なぜかPC用は低年齢層向けにダウングレードされた内容になっていたのが残念だが,2002年にリリースされた前作との合計で,1000万本を超える人気作となっている。

 もっともPCゲームでは,アメコミ作品と直接的に関係のない部分でも,時を同じくしてアメコミブームは始まっていた。記憶に残るところでは,アメコミ風のカットシーンを入れた「Max Payne」がリリースされたのが2001年7月。そして,ストラテジーにアクションゲームやRPGの要素を積め込んだ「Freedom Force」は2002年3月,アメコミ風のコマ割りや効果音の文字表現が登場するFPS「XIII」(原作はアメコミではなくフランスのコミックだが)は2003年11月に発売されている。
 また今月(2005年3月)中には,Irrational Games社から「Freedom Force vs. The Third Reich」が発売される予定だ。開発チームをリードするケン・レヴァイン(Ken Levine)氏は,「Ultima Underworld」「Thief」などの名作を手がけてきており,ゲームデザイナーとしてもそろそろ重鎮入りを果たしそうな人物である。この新作は,ナチスと戦うというストーリーがマーベルの「キャプテン・アメリカ」を思わせる設定で,レヴァイン氏もアメコミの第1黄金期の影響を認めている。

 2004年3月に北米でサービスが開始されたNC Soft社の「City of Heroes」は,自由自在に自分好みのヒーローキャラクターを制作してプレイできるのがウリで,MMORPGの中でもニッチなゲームながら,15万人程度のプレイヤーを獲得している。2004年末には音楽批評で有名なビルボード誌のゲーム部門賞を獲得するなどメディアの評判も良く,8月には悪役でもプレイできる拡張パック「City of Villains」が投入される予定になっている。
 またNC Soft社は,X-メンの作家だった経験もあるマーク・ウェイド(Mark Waid)氏とアーティストのデイビッド・ナカヤマ(David Nakayama)氏を起用し,City of Heroesのコミック本をリリースする予定もあるという。
 ところがマーベル社は,2004年11月にNC Softと開発元のCryptic Software社を訴えてしまった。前衛タイプにはハルクのような緑色の巨人,変身系ではウルヴァリンのようなコスチュームのキャラクターを簡単に作成でき,同社の商標であるキャラクターデザインが侵害されているという訴訟内容だ。
 もっとも,ゲーム開発者側にとってはプレイヤーに創作の機会を与えているだけであり,例えば教科書だろうが新聞記事だろうがなんでも自由に複写できるコピー機の使用範囲と同じという主張も,十分に納得できる。MMORPGでなくても,ステレオタイプとして出来上がってしまっているキャラクター像というのは各プラットフォームのゲームソフトで多用されており,この訴訟の今後の展開は気になるところだ。

 ところでこの話には伏線があり,同じ頃にマーベル社とVivendi Universal Games社が,MMORPGの制作協力で合意している。こちらは5000種類近いマーベル社のキャラクターを選んでプレイできるようなニュアンスの発表が行われており,誰もがスパイダーマンやハルクになりたい状況で,ほかの数千種類のキャラクターにどのような魅力が加えられるのかは見モノだ。
 NC Soft社もNC Soft社で,「Battle Chasers」などの作品を手がけたコミックアーティストのジョー・マドュレイラ(Joe Madureira)氏をアート・ディレクターに迎えている。アメリカ市場向けのソフトには,よりアメリカの風土に合ったアートを投入しようという狙いがあるらしい。
 逆にゲーム開発者がコミック作家に転身したなんて話も耳にするが,そのような業界間での活発な交流の背景には,'60年代のアメコミ黄金期を体験した世代が,今やゲーム産業の制作側/消費者側両方で中核として活躍しているという実情があるのだろう。彼らは子供を連れて映画を観に行くことで,第2のアメコミ黄金期の担い手となっているともいえる。
 Electronic Arts社では次期公開映画「Batman Begins」のゲーム化も進められているように,今後もゲームとアメコミのコラボレーションは盛んに行われていくはずだ。



次回は,あるオンラインゲームに浮かび上がる"国民性"を調査する研究者について。お楽しみに!
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■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。あるゲームイベントで,一般入場者に混じってスタン・リー氏と握手したことがあると白状する奥谷氏。御年80歳を越えて,今なお精力的に活動を続けるリー氏には素直に感銘を受けたそうだ。そんな奥谷氏が最近注目したのが,先日のアカデミー賞で見事4冠に輝いたクリント・イーストウッド氏の活躍。「世界的に老人パワー炸裂! まだ俺達は蒙古斑が眩しい赤子同然!」と息巻く奥谷氏だが,腰痛が持病になりつつある彼に説得力はない。

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