― 連載 ―

さびれた街を発明とパテント供給で活性化させつつ,ストーリーの展開を楽しむゲーム「蒼い空のネオスフィア」
 今回の題材は「蒼い空のネオスフィア」。この連載の第2回(「こちら」)で取り上げた「蒼い海のトリスティア」の続編である。前作同様に発明を通してさびれた都市を復興させていく経営シム兼アドベンチャーだが,ストーリーのみならずゲームシステムも各所でアップグレードされている。
 前作からどこを受け継ぎ,どこが変わったのか,いつものようにキャラクター/ストーリー要素およびゲーム性という,二方面から見ていきたい。


キッチュなギミックの数々も,本作の魅力の一つ。ちなみに「ビッグE」とはUSSエンタープライズのこと。まあ,どのエンタープライズやら不明だが
 今作の舞台は,空中王国のネオスフィア,"Eテクノロジー"(一種のオーバーテクノロジー)によって空中に浮遊する都市である。海の次は空,実に順当な世界拡張だ。高度なEテクノロジーで栄えていたネオスフィアだが,10数年前の世界統一戦争で荒廃,復興が立ち遅れている。そこで,ネオスフィアの首脳部は伝説の発明家/都市プランナーのプロスペロ=フランカに復興の舵取りを依頼するが,やってきたのはその孫娘のナノカ=フランカだった。
 とまあ,ここまではほとんど前作と同じ状況なのだが,復興をめぐる人間関係はもう少し複雑になっている。ネオスフィア政府内では元老院と王族派が対立しており,復興依頼は元老院主導で行われたが,本人でなくナノカが来たことでメンツを潰された元老院勢力は激怒し,ナノカを人質にプロスペロ本人を呼ぼうとする。そのドタバタの中でナノカは女王エリンシエに会い,改めて女王から依頼を受ける。かくて対立の構図をはらんだまま,ナノカは復興事業に取りかかるのである。
 瑣末にも思えるディテールを説明したが,それは上記の対立が,ストーリー上のキーにもなるためだ。女王側にいる以上,ナノカは何かにつけて元老院側の嫌がらせと妨害に晒される。そして味方となるのは女王エリンシエのほか,王族派の宰相の娘であり,ネオスフィアのサウス・タウンの区長を務めるノキ,帝都からやって来たEテク医師のフェアリ,さらに前作同様ナノカを追ってネオスフィアにやってきた後輩ネネといったメンツだ。
 続投のネネを除く新キャラ達は,大枠でいえば前作で同じような立ち位置を占めていたキャラの互換品だが,きちんと別の個性を持ったキャラとして描かれている。これは続編モノとして誉められる点だろう。
 前作以来のサポートキャラ(メカ?)スツーカ,テンザンに加えて,本作では帝都にいる祖父プロスペロとの連絡役として,鳥型人工生物フェンサーが登場する。これで獣型・鳥型・巨人型と"三つのしもべ"が揃ったわけで,スタッフの年齢層が窺い知れようというものである。さらにテンザンには飛行形態も設定され,いわゆる「勇者ロボ」的な能力で八面六臂の活躍を見せる。
 前作のキャラも盛大に登場し,前作を踏まえた掛け合いをも展開するわけだが,派生作品「どきどきおぺれーしょん」も,しっかりシリーズの一部として扱われている。いや,面白ければそれでよいのだが,ガッチリしてますな。実に。

 突っ込みどころ満載のイベントや小ネタがちりばめられている点も前作同様であるが,今作ではそれらの合間に元老院 vs. 王族派の対立を前提にしたイベントも挟み込まれる。そして前作同様,終盤では都市の発展度合いに合わせてエンディングが変わる。
 駒都えーじ氏がキャラクターデザインを担当するグラフィックスは健在であるが,ストーリーによってはキャラクター以上にテンザンの絵柄に力が入っているような気もする。もはやロボットアニメである。
 ストーリー全体の雰囲気はほのぼのとした中にもほろ苦さを含んだ,まずまずよく出来た"お話"という感じ。全体的なボリュームは前作を大きく超えており,基本的なテイストを受け継ぎつつも,新しい物語を展開できている。

ナノカ=フランカ

主人公。大発明家プロスペロ=フランカの孫娘で引き続き14歳,1年経ったはずだが歳取ってないのはツッコミ禁止か。ネオスフィア復興を依頼された祖父の代理としてやって来るが,およそ人を疑うことを知らないピュア(?)な性格の持ち主。物事を楽観的(いい加減)に解釈するクセがあるが,納得のいかないことには断じて屈せず,世間の常識を軽々と飛び越える柔らかい思考の持ち主。漫画/アニメには欠かせない"天才"キャラである。(CV:川澄綾子)

エリンシエ=ヤースロップ

仮即位したばかりのネオスフィアの女王。元老院と王族派の二派に分かれて争うネオスフィア貴族のうち,王族派が担ぎ上げて即位させたという経緯を持つ。まだ11歳ながら年齢に見合わぬ知識を持ち,冷静かつ胆力もある"聡明な年少の君主"である。ただしご多分に漏れず体が弱く,ときどき寝込んでしまう。元老院から逃げてきたナノカと出会い,その能力を見込んでネオスフィアの復興を依頼する。(CV:釘宮理恵)

ノキ=ウェルキン

若干16歳にしてネオスフィアのサウス・タウン地区の区長を務める少女。寂れているネオスフィアを少しでもよくしようと頑張っているという,前作のフォーリィに近い役回りであるが,頑張り屋で正直者,バカがつくほどの"いいひと"という,フォーリィとはかなり違う人間類型を背負っており,ストーリー上でもだいぶ異なる役目を果たしている。(CV:高橋美佳子)

フェアリ=ハイヤフライ

帝都からやってきた若きEテク医師。長身でスタイル抜群,道ゆく人は誰もが振りかえるという,超絶美貌の持ち主ではあるが、もう一歩のところで完璧に振舞えない,アクの強いユーモリスト。一応新キャラではあるのだが,マニュアルの説明を読む限り「どきどきおぺれーしょん」をプレイした人にはバレバレであろう。(CV:皆川純子)

ネネ=ハンプデン

前作に続いて登場し,レギュラーキャラの位置を確保したらしいナノカの後輩。大富豪のお嬢様で,実家の経営する高級ホテルの支店をネオスフィアに出店するなど,前作と同じようにナノカを経済的な面でサポートしている。過剰なまでにナノカを慕うさまは,さらにグレードアップした感がある。まあ,賑やかでたいへんけっこうなことだが。(CV:野川さくら)

テンザン フェンサー
ナノカの祖父が作ったゴーレム。今作では飛行形態への変形に加え,ロボットアニメでおなじみの「ある機能」が装備されており,それを駆使して大活躍する。実は今作の主役かもしれない ナノカの新しいお目付役である,鳥型人工生物フェンサー。帝都にいる祖父との連絡役を務めるため,常にいるわけではないが,ときどき登場してナノカをサポートしてくれる

化学ネタから宇宙開発,ミステリー小説,軍事ネタまで,前作同様さまざまなガジェットをちりばめた会話イベントがてんこ盛り。会話の元ネタを探しながら見るのが,正しい楽しみ方だろう

前作のキャラもわんさか登場する。性格設定や,続編であることをうまく利用したイベントが展開する やたら力が入っている,テンザンがらみのイベントグラフィックス。「勇者ロボ」のような雰囲気のテンザンが活躍する様子からは,クリエイターが楽しんで作っているのが伝わってくる


ゲームのメイン画面であるナノカの工房。アイテムの研究や作成などをここで行う。アイテム作成に利用する炉が三つ並んでおり,これらを使い分けてアイテム作成を行う。また,食品アイテムを使ってナノカの体調管理を行うのもこの画面だ
 都市復興ゲームのシステムには,前作から多くのアレンジが加わっている。発明したアイテムをパテント売りすることで店を繁盛させ,街を栄えさせるという流れは変わっていないが,本作では店ごとに売り込むのでなく,地区でまとめて売り込む形になった。本シリーズにおけるパテント売りは,儲かる/儲けさせるだけでなく,その地区でどんな産業を重視するかという都市計画が重要なわけだが,売り込みそのものが都市計画的発想に合わせられた形だ。その地区に共通した需要を掘り起こす必要がある。

 各地区への売り込みは,一定の条件(イベントが起きる,時期が来る,所定のアイテムを発明するなど)を満たさないと可能にならない。いつどこの地区に介入可能になるかは明示されないので,こまめに外出して各地区を回る必要がある。
 さらにアイテムの製造方法(レシピ)は,前作のように材料を研究して"発明"するだけでなく,外出した先でほかのキャラと会話して,得たヒントから思いつくものも多くなっている。できる限り外出したほうがよいのだ。また,従来どおりの"発明"でも,一つのアイテムを研究して開発するだけでなく,「組み合わせ研究」が導入され,バリエーションが広がっている。
 アイテム作成も同様で,今作では手作り・太陽炉・高速炉・増殖炉という4種類の方法を選べる。どれを使うかで作成にかかる期間が変わったり,出来るアイテム数が変わったりするほか,手作りできないアイテムがある,手作り以外では燃料が必要になることもあり,最適な方法を模索することになる。

 もう一つ,ナノカのパラメータが追加されたのも重要な変更点だ。パラメータには「ひらめき」と「体力」があり,前者は研究の進捗ペース,後者はアイテム作成の成功率に関わる。これらは寝ないで作業を続けると下がり,寝ることである程度(通常状態)まで回復する。したがって,時間のかかるアイテムを連続で作成していると,効率が落ちるわけだ。適度に休みを入れてもよいが,基本的に体調管理にはアイテムを利用することになるだろう。
 ひらめき・体調ともにある程度上げてくれる「ハバネイロカレー」や「カレーパン」「ナノカブレンド珈琲」を多用することになると思うが,コーヒーをガブ飲みしつつカレーパンをかじるナノカは,プログラマや技術者のアナロジーだろうか。そういえば昔の有名コンピュータエンジニアって,インド料理好きが多かったような気がするなぁ……筆者もその人種の末席を汚す一人なわけだが。

 前作同様に,中盤以降ではアイテムの売り込みだけでなく,公共施設で発展を加速する必要が出てくる。建設提案時は地区を指定するようになっているが,それなりの面積の更地が必要だ。
 地区に残っている廃墟をテンザンに「造成」させて確保すればよいのだが,造成を行う地区に関しては,発売当初の仕様ではランダムだった。そのため,意図せず出来た更地にすかさず店が建ち並び,造成した意味がなくなることもしばしば。この問題は4月1日に公開されたパッチで解消したので必ず適用しておこう。

 アイテムの開発と作成,都市復興のそれぞれに新機軸が盛り込まれており,前作とはまた違った都市開発テクニックが要求される。総じてゲーム性は向上したと考えてよいだろう。ただし,依頼イベントの数が増え,着実にクリアしていけない場面が増えたこと,アイテムの発明手法が複雑になって,どんな発明ができるか見渡しにくくなったことは,やり込み要素を増した半面,フラストレーションも増やしている。こまめにセーブして,依頼イベントが発生したらそのアイテムの材料を確認,その材料を遡って発明するなどといった対策が必要かもしれない。また,マルチエンディングでやり込み要素が多いだけに,メッセージスキップ機能はぜひとも搭載してほしかったところだ。
 ともあれ,ゲームシステムは正常進化を遂げており,前作プレイヤーはもちろん,今作からプレイしても十分楽しめる。ほんわかしたストーリーと,そこにスパイスとして入るブラックな小ネタが気に入ったなら,かなり長く楽しめる作品になるだろう。

アイテムの基礎研究。あるアイテムを研究することで新たなアイテムのレシピを発明できる。そうしてできたアイテムをさらに研究する……という連鎖でゲームが進む ネオスフィアの全景。前作と同じようにここで移動先エリアを指定する。復興が進むと移動できるエリアが増える。ネオスフィアは移動しているのか,季節によって見える景色が変わる アイテム作成。右下に作成方法の選択がある。手作り・太陽炉・高速炉・増殖炉という4種類の作成方法のどれを使うかで,完成までにかかる時間や出来上がる個数が変わる

前作と異なり、発明したアイテムの売り込みは各区の区役所に対して行う。区役所が,その区内の店にそのアイテムを販売させるようになっている 公共施設の建設提案。施設を建てたくても,そのための用地がないと建てられない。このようなときはゴーレムのテンザンを使って,まず造成作業をしよう 条件を満たした後,その地区に移動すると役人が話しかけてきて,アイテムの売り込みが可能になる。こまめに移動して,可能になり次第売り込みを開始したい

■■柿島真治(フリーライター)■■
スキル面でも精神面でも,1980年代後半の"ハッカー"(≠クラッカー)文化の影響を色濃く持つ,ハードウェア&ゲームライター。担当編集はつい先日ほかの人と「コンピュータ系の大きな発表会が午前中にあると,出席者はみんな近くのカレー屋に再集合する怪」について話したばかりだったのだが,こんな近くに最適なサンプルがいたとは。あ,でもけっこういっぱいいる気もしてきた。
タイトル 蒼い空のネオスフィア
開発元 工画堂スタジオ くまさんちーむ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2005/03/25 価格 9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上,メインメモリ:128MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 8.1以上に対応,HDD空き容量:600MB以上

(C)2005 KOGADO STUDIO,INC./KUMASAN TEAM,INC.