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旅の始まり,ロマンスバーグ。ここから先は果てしない雪原が広がるだけ。町のはずれには古い教会がある |
「ケイト・ウォーカー あなたは家に帰らないと思います。そうするには手遅れです」
――XZ2000 オスカー
傑作の続編を作るのは難しい。ましてやアドベンチャーゲームとなればなおさらだ。これがRTSやFPSなら「量的拡大」という方法もあり得るだろう。つまり「登場ユニットが前作の5万倍!」とか「使える兵器が前作の5万倍!」とかね。それはそれで面白かったり納得がいったりする場合もあるが,ストーリー展開を主体としたピュアなアドベンチャーではそうはいかない。物語の世界観や面白さをピュアに期待されちゃうわけで,前作が傑作であればあるほど,プレイヤーの期待も高まってしまう。
「Syberia」は2002年に発売され,その年の専門誌やゲーム関連サイトにおけるアドベンチャー関係の賞を独占した,どう考えても間違いのない傑作タイトル(日本では「シベリア
日本語版」のタイトルでメディアクエストから2003年に発売。レビュー記事は「こちら」)。本作の登場後,アドベンチャーゲームの発売本数も確実に増え,「すでに終わったと思われていたジャンルを復活させた傑作」などなど,現在でもかなりの賞賛を得ている。
筆者も前作をプレイし,思わず感動してしまったクチなのだが,その続編「SyberiaII」が欧米で2004年3月に発売され,でもって「シベリアII 日本語版」が8月12日に前作と同じくメディアクエストから発売されることになったのである。
それはそれで嬉しいが,すなわち,このシベリアIIは,傑作の続編でしかもアドベンチャーというとても難しいポジションのゲームなのだ。なにしろ,前作のエンディングムービーは,個人的に歴代エンディングの堂々ベストワン。思わず「じーん」(歳のせいで涙腺が緩くトイレも近い)の感動作。はたしてその期待にどのくらい応えているのか,前作の熱烈ファンである私でなくても気になるだろう。
ちなみに,今回のシベリアIIは前作のストレートな続編となっており,メインメニューで前作のあらすじを知ることはできるものの,細かいニュアンスを知りたいのなら,ぜひ前作をプレイすることをお勧めする。ネタバレとかもありますし。なおこのレビューも,前作未クリアの人は,これ以上読まないべきだ。前作プレイ後に続きを読んでほしい。
ハンス・ボラルバーグとケイト。元気そうに見えるが,彼は重い病気で,いつ倒れてもおかしくないらしい | いい味を出してる,カラクリ人形オスカー(電話内蔵)。だが,ただの脇役ではない。隠された秘密があるのだ | アザラシと犬の混血種,ユーキ。途中からケイトにくっついてくる。食いしん坊だが,役に立つこともあるのだ |
本人も言っているが,駅の責任者兼雑貨屋の責任者,エミリオフ退役陸軍大佐。いろいろと役に立つ物をお持ちだ | 前回では入れなかった客車のバスルーム(←細かい)。でもケイト,シャワーぐらいは浴びたほうがいいんじゃない | ムービーシーンには,ケイトの元の職場であるニューヨークの弁護士事務所が出てくる。顔はよく見えない |
グラフィックスはより精細かつ美しくなっている。屋外シーンでは,常に雪がしんしんと降り続けている |
「ミス・ウォーカー,あなたのような人は,二度と普通の生活に戻れない」
――エミリオフ・ゴーパチョフ退役陸軍大佐
主人公は前作同様,ニューヨークの女弁護士,ケイト・ウォーカー。天才的な発明家であり,また子供時代の事故により精神的に成長することなく老人になってしまったハンス・ボラルバーグと共に,マンモスの住む伝説の島,シベリアを目指して旅を続けているという,典型的なロードストーリーだ。おっと,もう一人重要なキャラクターとして「カラクリ人形」のオスカーも引き続き登場する。口は達者だが融通が利かず,機関車の運転以外ほとんど役に立たない割には,どうも憎めないロボット(と呼ぶと「私はカラクリ人形(オートマトン)です」と怒られる)だったが,物語が進むにつれ,彼にも重要な役割があった,ということが分かって驚いたりして。
それ以外にも,意外な人物がかなり突然に現われたりもするので,お楽しみに。
さて,前作が四つの風変わりな町を順に巡り,それぞれでミッションを解決するという比較的かっちりした構成だったのに対し,今回は最果ての町,ロマンスバーグを抜けると,そこはもう荒涼とした雪原であり,次に何が待ち受けているか分からない,という状況だ。
ムービーシーンも増え,堅物の司教,象牙を狙った悪人兄弟,ニューヨークから送られてきた探偵など,登場人物や起きるイベントも多彩になった。ただ一部の話はちょっと消化不足のような感じを受けるし,とある生物に関しては"狙いすぎ"な感じがしなくもない。
一つありがたいのが,突然かかってくる電話の数が激減したことだろうか。ケイトは携帯電話を持っていて(ゲームの時代設定はたぶん2002年),前作ではニューヨークの事務所や母親や彼氏からしょっちゅう電話がかかっていたのだが,それがほとんどなくなったのが助かる。前作のファンに「ゲームの流れを止める」とやや評判が悪かったため,そう変更したのだろう。その代わり,といっては変だが,オスカーが携帯電話機能を内蔵し(!),ケイトがオスカーに電話をかけることが可能になった。ふむ。
基本的にはオーソドックスなアドベンチャーなので,タイムアタックやアクションを求められることはなく,適切なアイテムを拾い,適切な順番で人に話を聞いていけば,すべての問題は解決する。会話の重要性もほかのアドベンチャーに比べてさほどではなく,必要なトピックだけを聞いてもゲームクリアに問題はない。
ただしパズルに関しては,これも前作プレイヤーの「簡単すぎる」という反応からか,数も増え,かなり難解になった印象が強い。個人的には,前のパズルでさえさほど簡単とは思えなかっただけに,かなり難しく,ここでハマってしまう人も多いかと。とくに,墜落した全翼機のコックピットとレーダーの関係などなかなか分かりっこなく,ほとんど半日考えこんでしまった。なんちゃって,思,わ,せ,ぶ,り。
何もしないで放っておくと,ケイトはくしゃみをしたり,足の位置を変えたりする。ちょっとカワイイかも | ちょっとした変化。会話の途中,映画みたいに画面のアングルが変わることがある。ま,それだけなんですけど | 幻の少数民族,ユコール族の村。地下にあり,あたりはマンモスの骨と氷ばかり。氷の透明感が素晴らしい |
デモ版でもお馴染みの場所。熊に襲われるんですよね。携帯電話の着信は数回しかなく,前作に比べ激減した | ケイトのアクションシーンも増え,アクティブな主人公になった。とはいえ,本人はあまり乗り気じゃないみたい | 今回,ハンスの残していったカラクリ人形はあまり多くない。酒場にあるこの馬は,その数少ない一つ |
全般的にパズルは結構難しいが,これは片っ端からからコインを入れていくだけだから,簡単な部類 |
数あるアドベンチャーゲーム中でも屈指の簡単ユーザーインタフェースはほとんど前作のままで,マウス一つで何でもできる。必要ない行動は「必要なさそうね」とケイトが言ってくれるし,入り用なアイテムの上ではアイコンの形が変わるため,操作関係に悩むことはないだろう。基本的に,美しいグラフィックスの上を動き回る2Dベースのゲームなので,進行方向にはちょっと迷うかもしれないが,すぐに慣れる。
評判のグラフィックスには,さらに磨きがかかっている。ストーリーとアートワークを担当するのは前作に引き続きBenoit Socalで,レトロフィーチャーなガジェットや,マンモスの骨で作り上げられたユコール族の村,古いロシアの教会など,それぞれに個性的で美麗であると同時に統一された世界観もあり,前回のレビューでも言ったような気がするが「一見の価値あり」だ。メイド・イン・アメリカとはまた違う,ヨーロッパのセンスみたいなものが好きな人にはたまらないんじゃないスかね。
ケイト・ウォーカーその人もちょっとだけいい女になっているし(顔の好みはあるが),氷の透明感など,レンダリングにも前作以上の時間がかかっているのは確実で,それがゲームを通して数百枚用意されているのだから,それだけでも贅沢というもの。
というわけで,"期待の新作にして傑作の続編"であるシベリアIIだが,さすがに前作を知っているだけに,現実とファンタジーの狭間にあるストーリーの新鮮さに驚くことも少なくなり,グラフィックスも前作だってかなり良かったから価値としては微妙なところ。
だが,それでもやはりゲーム好きの大人の人にはぜひ遊んでほしいタイトルであるのは間違いない。出会いと別れ,老いと死,夢を追い続けることの難しさと喜びといった,ほかのアドベンチャーでは語られることの少ないテーマを扱いながら,ゲームとして楽しませる作品を作り上げているのは,さすがの一言。
萌え萌えラブもなく,銃撃戦もなく,モンスターも出てこないが,たまには奥行きのあるゲームをプレイしてみたいという人には文句なしにお勧めだ。
最後に個人的希望。「またお会いしたいですね,ケイト・ウォーカー」。ではでは。
正しい場所のろうそくに火を灯さなければならないパズル。ヒントはとんでもないところにあったりする | 懐かしいバラディレーンの町並み。だが,なんとなく感じが変だ。ケイトの冒険は現実世界だけとは限らない | サングラスをかけ,整備用車に乗って雪原を疾走する元ニューヨークの女弁護士。ムービーシーンは大幅増量 |
人と会ったら話をし,落ちてる物はなんでも拾うのがアドベンチャーのお約束。会話中にはヒントもたくさん | ついに倒れてしまったハンス。いくらマンモスに情熱を持っていても,つい弱音を吐いてしまう。人間だからね | 筆者は頭のいい女の人に弱いので,ケイト・ウォーカーはかなりタイプ。ぜひ新しい作品にも登場してほしい |
■メーカー名:メディアクエスト (C) 2004 MC2-Microids. (C) 2004 Typhoon Games (HK) Limited. All Rights Reserved. Produced and Published by MC2- Microids. All other trademarks and logos are property of their respective owners. Uses Bink Video. (C) 1997-2004 by RAD Game Tools, Inc. |