シベリア 日本語版Text by 松本隆一 大ヒットアドベンチャーゲームの日本語版,登場 「シベリア」は,2002年6月にアメリカで発売される前からすでに注目され,発売後は各メディアの主催するゲーム賞のアドベンチャー部門をほぼ総ナメにし,アドベンチャーゲームとしては久々のヒットになったゲームだ。
しかし,このたびメディアクエストから日本語版が発売されるというニュースを聞き,おお,まだまだイケるじゃん日本のPCゲーム界,と,根が単純なもので,結構喜んだ次第。とはいえ,個人的に好きなゲームなだけに,日本語版がどんな感じなのか大いに気になるところではありました。 シベリアを作ったのは,フランスのデベロッパMicroids,アメリカでの発売元はDreamcatcher Interactive。資料によってはパブリッシャがThe
Adventure Companyとなっているが,これは同じ会社の違うブランド名らしいので,気にすることはない。誰も気にしないか。そうか。 ちなみに,フランスのゲーム躍進の影に,政府が国策としてゲーム産業を奨励している,という記事を以前どこかで読んだことがあるが,今のところ,それ以上そのことを裏付けるような資料が見つからない。なにしろ読めないですからねえ。どなたかフランス語に堪能な方,知っていたら教えてください。 美しいグラフィックスに彩られた不思議な旅の物語 さて,ケイト・アーチャーは美貌の女スパイだが,ケイト・ウォーカーはニューヨークの物静かな弁護士。大手おもちゃ企業の代表として,ある工場を買収しに南フランスの田舎町にやって来る。町に着いた彼女が見たのは,物悲しい太鼓の響きと共にやってくる葬儀の列。だが,そこに生きた人間はおらず,喪服を着て傘をさし,黙々と歩いてくるのはすべて"からくり人形"(オートマトン=自動人形)だ。
うーむ。しょっぱなからムード抜群。哀調をおびた音楽。しのつく雨。絵に描いたような(絵なんだけど)古ぼけた田舎町。 旅ものアドベンチャーといえば,シベリアの直前に一世を風靡した「The Longest Journey」があるが,そういや,あっちはついに日本語版が出なかったなあ,ってのはどうでもいい話なんだけど,シベリアのゲームシステムは,そういった"洋ものアドベンチャーゲーム"の中では最も簡単なほうで,基本的にマウス一つで何でもできる。画面上,移動できたりオブジェクトを拾えたりするところではアイコンが光ったり形が変化して教えてくれる。そこでクリックすれば画面が変化したり,ケイトがオブジェクトを拾って懐にしまったりするわけだ。超簡単。 ストーリーとデザインを担当しているBenoit Sokalは――ここは一つ"ベノイト"などと読まずにフランス風に"ブノワ"とお呼びしたいところだが――有名なコミック作家で,ゲームに進出するのが今回が初めてらしい。独特な世界観を持っていて,登場するすべてのオブジェクトはどれも見事に統一されたタッチで精密に描かれ,各場面にはゆるみがない。出てくるからくり人形や,ロシア製の機械類など,ひと味違ったレトロ感が漂っていて個性的だ。 もっとも,本当にロシアやシベリアに在住している人には,ゲームに描かれている世界は現実とかなり違うと感じるかも。たぶんそうだろう。辺境地帯に見上げるばかりの城壁が並び,ロシア軍の士官がコサック兵を見張っているとは思えないし,ロシアの学生が,制服を着ているとも思えない。日本人がシルクロードや西域に妙な郷愁を覚えるように,ヨーロッパ人にとってシベリアはある種の感情を喚起するのだろう。 意外な展開の物語,感動シーン,これぞ新世代の正当派アドベンチャー
果たされなかった約束,失われた夢,過去の栄光,兄弟愛,といったテーマが前面に出て,しかも美しいグラフィックスと静かでもの悲しい音楽など,泣かせのゲームなのかな? と思いきや,意外にも物語はそれとはやや違う方向に進む。とくに,準主役ともいえる自動人形オスカーが出てくるあたりから,ファンタジー色が強くなってくる。 ただ,アドベンチャーゲーム特有の問題もないわけではない。フラグが立つまでは何を聞いてもみんな同じ答えしかしないし。質問の順番を間違えると,ちぐはぐな会話になってしまう場合も。なまじ操作が単純で,できることが少ないぶん,謎にハマるとニッチもサッチもいかなくなることが多い。ほとんどが簡単なパズルだが,ときどき,どうやって解決したらいいのか分からないような難問もある。 やっぱり日本語版! ストーリーが分かりすぎる! そういう点で,やはり日本語版はありがたい。細かいニュアンスも伝わるし,なにより辞書なしで読めるのがとても嬉しい。私は英語には堪能だが(←うそ)やはり日本語ラブだなあ。
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バロクシュタット大学の古生物学者ポンス教授。マンモスの専門家 |
やがてケイトの旅は終わり,最後のシーンが挿入される。
30秒ほどの無言のエンディングムービーは,ゲーム史上においてはどうなのか分からないが,オレ的には間違いなく歴代エンディングの中で堂々ベストワン。それまで,照れ笑いをする程度で,声を荒げることも感情を表に出すこともほとんどなかった冷静なケイト(たまに恋人と喧嘩する)が見せる意外な側面。すべてを捨て,桟橋を全力で駆け抜けるケイト。盛り上がる音楽。降りしきる雪。いやー,ジーンとくるなあ! 個人的には,このシーンのためだけでも,プレイする価値があると思う。
と思っていたら,ほぼ当然の展開ながら続編の制作がアナウンスされた。発売予定日はちょっと遅れ気味で,当初2003年秋だったが,最近は2004年春に訂正されている。
続編? おれの"ジーン"はどうしてくれるんだ,という気持ちもあるけど,確かに今回のストーリーは長い話の一部という雰囲気だった。なんせ,最後には間違いなくマンモスの住むシベリアに行くものだと思ってプレイしてましたからね,わたし。よって,これは嬉しい話だ。最近になってScreenshotsやストーリー,キャラクターなどが次々とメディアに公開されているが,それによると,これがシリーズの完結編で,シベリアの物語がこれ以上続くことはないとのこと。ただし,ケイト・ウォーカーが別の旅をすることはあり得るらしい,グラフィックスなどはもちろん,ゲームシステムも改良され,ケイトもちょっとだけいい女になっていたりして,非常に楽しみだ。
そんなわけで,シベリア2がいち早く日本語化されるためにも,ぜひ今回のシベリア 日本語版を世間様にプレイしていただきたい所存である。同じアドベンチャーというジャンルでも,国産ソフトとはまったく違うアプローチで作られたゲームシステムやストーリー,さらにはなぜこのゲームが世界的な評価を獲得したのかなどを直接体験する良いチャンス。しかも,それを日本語で。うらやましいこと。
元テストパイロット,ボリス・チャロフ大佐。今では見る影もないアルコール中毒。だが,星に行く夢は捨てていない | アラルバッドのホテルの受付であるフェリックス・スメタナ。サッカー好き | 世界的な評価を得たソプラノ歌手。現在,体調を崩してアラルバッドで長期静養中 |
■発売元:メディアクエスト (C) 2002, 2003 Microids- (C) 2001 Typhoon
Games (HK) Limited. All rights reserved. Author and Director:Benoit Sokal. |