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Sound Blaster X-Fi

 Creative Technologyの「Sound Blaster X-Fi」シリーズは,「Xtreme Fidelity Audio Processor」というサウンドチップ(Digital Signal Processor,以下DSP)を搭載する,完全新作のサウンドカードだ。2001年に発表され,その後シリーズバージョンが2,2 ZS,4 Proと上がってきた「Sound Blaster Audigy」シリーズとは一線を画すが,それは,DSPの仕様を見ても明らかである。

Xtreme Fidelity Audio Processor

 トランジスタ数5110万個,動作クロック400MHz,キャッシュメモリ最大64MB。(WAVEやMP3などの)デジタルサウンドデータをアナログ信号に変換する「D/Aコンバータ」などのスペックが前面に出がちなサウンドカードにあって,まるでグラフィックスカードのようなXtreme Fidelity Audio Processorのスペックは非常にインパクトがある。実際,Sound Blaster Audigyと比較して,Sound Blaster X-Fiの演算能力は24倍にもなるという。

 Sound Blaster X-Fiシリーズは,非常に多くの新機能が用意されている。その詳細については2005年9月7日の記事に詳しいので,そちらを参照していただきたいが,ゲーマーからすると,最も気になるのは「EAX ADVANCED HD 5.0」ではないだろうか。
 では,そもそもEAXとは何なのか? 4Gamerではこれまでほとんど解説してこなかったので,ここで説明しておきたい。

 "空間"を扱う3Dゲームでは,MicrosoftのDirectXの一要素である「DirectSound 3D」(以下DS3D)によって,ゲーム内の効果音が立体的に表現されるよう処理されている。
 ここで,DirectXのことを少し考えてみよう。
 ゲームの必要動作環境で,グラフィックスカードなどに対して「DirectX 9.0c以上」などといった表記があるが,あれは「DirectX 9.0cをハードウェアでサポートしていなければならない」という意味では,必ずしもない。もちろん,字義どおりのゲームタイトルもあるが,例えばMMORPGのほとんどはソフトウェアでサポートしていればOKだったりする。
 要するに,その処理を行うチップ――描画ならグラフィックスチップという"ハードウェア"――が処理するのか。はたまた,ゲームプログラム本体などと同様,"ソフトウェア"としてCPUに処理してもらうのかは,“DirectX 9.0c以上”という言葉だけでは,基本的には問題にされていないのだ。もちろん,ハードウェアで処理したほうが,CPUの負荷が低くなるから,ゲームにおける体感速度は理論的に向上する。

 これは当然のことながら,DirectXの一部であるDS3Dにも当てはまる。コンシューマ向けPCやマザーボードのオンボードサウンドをはじめとして,現在販売されているサウンドカードは(音楽制作のプロをターゲットにした,いわゆるオーディオカードという製品の一部を除くと),ほぼ例外なくDS3Dをサポートするが,「どうやって」サポートしているかは,製品によって大きく異なるのだ。

 以上を踏まえて,EAXの話に戻る。EAXとはEnvironmental Audio eXtensionsの略で,簡単にいえば「ゲーム内の環境に合わせて音の立体感を再現するもの」である。

 効果音を立体的に扱うDS3Dと何が違うのかについては,一例としてカーレースゲームで説明してみたい。
 DS3Dでも,自分の車が相手の車を抜いていくときの効果音はある程度味わえる。だが,EAXなら,そういった効果は当然として,トンネルの中に入ったとき,トンネル独特の音の籠もりや反響まで再現される,といった具合だ。

 もっとも,これはベストケース。実際には,EAXのハードウェア処理を行えないPC(正確にいえばPCにインストールされているサウンドデバイス)を確認すると,ソフトウェア処理時にCPU負荷が高くなってしまうようなサウンドエフェクトについて,ゲーム側が強制的に無効の設定を行ったりする。
 また,サウンドデバイスには,同時に再生できる音の数にも違いがある。ゲームのある場面で,サウンドデバイスが再生できる数を超えた数をゲームプログラムが再生しようとすると,本来聞こえるべきはずの音が聞こえない,といった事態が生じる可能性はある。

 実は,EAXはDS3Dから独立したものではなく,DS3Dを補完するような位置にいる。EAXには,EAX 1.0/2.0と,以前は「EAX ADVANCED HD」と呼ばれていたEAX ADVANCED HD 3.0,そしてEAX ADVANCED HD 4.0/5.0が存在するが,EAX 1.0/2.0は一部が現在のDirectXに内包されているのだ。このため,サウンドデバイスがEAX 1.0/2.0をサポートするのに,それほど大きな手間は必要ない。
 しかし,実際にサウンドエフェクトを表現する能力そのものは,各サウンドデバイスに依存する。要するに,“EAX 1.0/2.0対応”のサウンドデバイスだからといって,EAX 1.0/2.0のフル機能を享受できるわけではないのだ。

 さらに,EAX ADVANCED HD 3.0以降は,2005年秋の時点で,Creative Technologyの独自技術であり続けている。DirectXに組み込まれていないのだ。EAX ADVANCED HD 3.0以降への対応を謳うゲームのサウンド設定で,ソフトウェア/ハードウェアの選択肢のほかに,「EAX」などといった選択肢が用意されている場合,そのゲームは,EAX ADVANCED HD 3.0以降で用意された特別なサウンドエフェクトを利用しているか,EAX ADVANCED HD 3.0で拡張された「64音以上の同時再生」に対応している,あるいは,その両方である可能性が高い。
 EAXと,EAX ADVANCED HD 3.0以降を隔てる決定的な要因は,まさにこの特別なサウンドエフェクトと,64音の同時再生にあるといっていいだろう。では,特別なサウンドエフェクトにはどのようなものがあるかというと,以下に挙げるようなものになる。

Environment Morphing

 反響音の異なるフィールドへキャラクターが移動したときに,二つの環境音をミックスして自然に変化させられる。

Environment Panning

 EAXでは「音全体へのエコー」などといった3Dエフェクトこそ可能なものの,音を発している物体かから距離や,置かれている環境といったものまでは表現できなっかった。この点,EAX ADVANCED HD 3.0では,音を発生させる物体が近づいたり離れたりするとき,そのシーンの中で,物体が移動する方向に向かって音に広がりを付けて,物体の位置を表現できる。このため,同じ環境内であっても,音の発生源とキャラクターが向いている方向によって,エフェクトを変化させられるのだ。例えば人の声が壁に近ければ強くエコーがかかり,壁から遠ければ弱くなるといった表現ができる。

Environment Reflections

 音源から発生した音が,最初に何かに当たって跳ね返るときに生じる音を「初期反射音」といい,初期反射音は音源からの音と混じって人間の耳に聞こえる。Environment Reflectionsでは,この初期反射音をシミュレートし,反響する対象によって,異なった反響音を作り出せるのだ。柔らかい床と硬い壁の部屋なら,床と壁に別々の反響設定を行うことで,よりリアルになる。

Environment Filtering

 音が減衰するときのシミュレートを行うことで,環境によって音が変化する状態を再現する。例えば,開けたフィールドだと,遠くの音は空気によって高周波帯域が大きく減衰する。また屋内にいる場合には周りの壁の素材によって,高域(≒高い音)だけ聞こえにくい,などといった減衰もコントロール可能だ。

 EAX ADVANCED HD 3.0は,Sound Blaster Audigyの登場とともに,鳴り物入りで投入された。しかし,左右の音の干渉が大きかったり,垂直方向の定位が今一つで,上下の立体感に乏しいという問題があり,期待されたほどの効果を上げることはできなかった。そこで,これらの問題を解決するEAX ADVANCED HD 4.0が投入されたのだ。このEAX ADVANCED HD 4.0は,単なるバグフィクスではなく,新たに以下の2機能が追加サポートされている。

Multi-Environment

 最大四つの環境音を同時に再生できる。EAX ADVANCED HD 3.0までは一つのみなので,例えば「コンサートホール」といったような単一のパラメータしか利用できない。しかし,EAX ADVANCED HD 4.0なら,例えばプレイヤーキャラクターが屋内を歩いているとき「屋内で歩く音が響いている感じを作りつつ,屋外にいて,反響音のない環境で動いている敵の足音を重ねて表現」といった処理が行える。

Extended Fx

 一般には音楽制作などで使用される,フランジャー(≒うねり)やリングモジュレーション(≒金属的なうねり),エコー,ディストーション(≒歪み),といったエフェクトをゲームオーディオに対してリアルタイムに掛けられる。例えば,異星人の唸り声やロボットボイスなどをリアルタイムに作成できる,といった具合だ。

 ここまでがSound Blaster Audigy世代の話だ。そして,Sound Blaster X-FiでサポートされたEAX ADVANCED HD 5.0では,EAX ADVANCED HDモードで128音の同時再生に対応。また,以下の5機能が新たに追加された。

EAX Voice

 ゲーム内の環境に合わせて,ボイスチャットの音声にエフェクトをかける。

EAX MacroFX

 EAX ADVANCED HD 4.0までにあった「プレイヤーのすぐ近くにある音に対するエフェクトがうまくかからない」という問題を解消。プレイヤーキャラクターのすぐそばをかすめる敵弾の音の表現が自然になった。

EAX PurePath

 スピーカー環境に合わせて音をコントロールする技術。映画と同じように,5.1ch/7.1chのスピーカーを制御しようというものだ。例えばDVD-Videoなどで用いられるDolby DigitalやDTSでは,低域を強調させたい場面で「サブウーファ」と呼ばれる低域専用スピーカーに対して,低域に音を割り振るといったことが行える。EAX ADVANCED HD 4.0では,こういったことはできなかったが,EAX PurePathを利用すると,サブウーファ用の信号を128音声の一つとして扱うことができ,爆発音など,より低域を意識した音を作れるようになる。なお,今回は低域の話を例示したが,実際には低域以外の音も,任意にコントロールできる。

Environment FlexiFx

 EAX ADVANCED HD 4.0では,同時に四つのエフェクトを利用できたが,このうち二つはリバーブ(残響エフェクト)およびコーラス(音の厚みを増すエフェクト)と決まっていた。開発者が自由に利用できるエフェクトは二つだけだったのだ。だが,EAX ADVANCED HD 5.0では,この決め打ちがなくなり,開発者は四つのエフェクトを自由に指定できるようになっている。ちなみに,EAX ADVANCED HD 4.0のMulti-EnvironmentとExtended Fx は,このEnvironment FlexiFx に統合された。

Environment Occlusion

 閉鎖された環境に置かれたキャラクターそのものが発する音やそのリバーブにエフェクトをかけて,音が遮られる状態をシミュレートできる。例えば,部屋の外側(や内側)にいるキャラクターが発生する音を,壁を通して聞いたとき,壁の素材によって音が変化する様子を再現可能になる。

 ただし,これらEAX ADVANCED HD 3.0/4.0/5.0の各機能や64/128音同時再生は,「対応カードを購入すれば即利用できる」というものではない。サウンドカード側の設定でどうにかなるものではなく,ゲーム側に対応してもらわなければ,絵に描いた餅なのである。2005年秋の時点では,「バトルフィールド2」がEAX ADVANCED HD 5.0に対応し,128音の同時再生に対応しているが,上で挙げた機能が使われているかどうかについて,特別な言及は行われていない。「EAX ADVANCED HD 5.0対応ゲーム=そのゲームで五つの機能すべてを利用」では,必ずしもない点に注意が必要である。
 現時点でバトルフィールド2が標準で対応していることは評価すべきといえよう。また,Sound Blaster X-Fiを購入して,ドライバをインストールしようとすると気づくが,「DOOM 3」のサウンドをEAX ADVANCED HD 5.0対応にするパッチが,ドライバCDには入っている。
 しかし,これらを除く既存のタイトルをプレイする限り,Sound Blaster X-Fiが,Sound Blaster Audigy 4 ProやSound Blaster Audigy 2 ZS,Sound Blaster Audigy 2と比べて,EAX/EAX ADVANCED HDというサウンドエフェクト機能において,明確なアドバンテージを持てない可能性があることは理解しておくべきだ。

 ゲーマーにとって,EAX ADVANCED HD 5.0に対応したSound Blaster X-Fiがどういう位置にある製品かを明らかにするのに,思いのほか時間がかかってしまった。ここからは第1講のメインテーマ「Sound Blaster X-Fiはゲームの体感速度向上に寄与するのか」について,評価に入っていこう。